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レポート

2007/9/18

日本列島がん対策・現地レポート(4) 〔富山県〕

「当県のがん対策は、日本のトップレベル」。その自負を生む実践と作戦

 「全国のがん医療推進のモデルにしてください」。富山県はそう宣言する。がん拠点病院を一体的につなぐ「富山型がん診療体制」のビジョンを打ち出し、病院の疾病別5年生存率を公開し、院内がん患者会を育成する。同時に、がん検診では、全国平均より高い検診率を誇る。ユニークなのは、数千人のがん対策推進員というボランティアを育成し、個別訪問や普及啓発活動をすることで、地域密着型で地道に検診率を高めてきたこと。18年前に「がん対策推進本部」を作ってがん対策に取り組んできた、がん対策先進県を自負する富山県の活動をリポートする。

 「全国のがん医療推進のモデルにしていただきたい」。富山県は自らのがん対策に大きな自信を示す。9月2日、富山市にある富山県立中央病院で開催された「がん情報サービスに向けた地域懇話会」には、がん患者など約150人の県民が参加していた。この席上で、富山県厚生部理事の椎葉茂樹氏は、「富山県のがん診療レベルは全国でも高い方だ。トップレベルを目指して推進していきたい」と述べた。

 富山県は「富山型がん診療体制」(図1)というコンセプトを打ち出している。先の地域懇話会では、富山県のがん対策の概論を述べた富山県厚生部健康課課長の河村幹治氏も、この図を使って説明した。その特色は、(1)多数の地域がん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)を持つこと(2)がん拠点病院間で明確な役割分担が示されていること――の2点だ。

図1●新しい病院ネットワークのあり方を示した「富山型がん診療体制

 まず、数の面から見てみよう。富山県内には8つのがん拠点病院がある。1つが都道府県がん診療連携拠点病院(以下、県拠点病院)である富山県立中央病院だ。他に7つのがん拠点病院がある。がん拠点病院は原則、2次医療圏にひとつだが、2次医療圏が4つしかない富山県で合計8つが認められている。富山県の人口は約110万人だから人口14万人に一カ所の密度だ。東京都に同じ密度を当てはめれば約90カ所の配置となる(実際は10カ所)。
 次に、病院の間の役割分担だ。図1にあるように、7つの病院が「得意な分野」を決めている。砺波総合病院は肝がん、厚生連高岡病院は化学療法、高岡市民病院は女性のがんと放射線治療、富山市民病院は胃がん・大腸がん、黒部市民病院は血液がんといった具合だ。また、県拠点病院の富山県立中央病院、大学病院である富山大学病院は、膵臓がん、頭頚部がん、小児がんなど、比較的数が少ないがんを対象に全県をカバーする。

 富山県の7つのがん拠点病院は2006年12月27日に開催された、厚生労働省の「がん診療連携拠点病院の指定に関する検討会」で審議されて認められた。その際、この「富山型がん診療体制」は高い評価を受けた。富山県の申請書には、「県内は、約1時間で移動が可能というコンパクトな地理的要件を生かし、それぞれの病院が専門とする臓器や手法を基にがん治療の機能分担を明確にしたがん拠点病院のネットワーク化により、県内の各病院の機能は"点"から"面"として機能させ、県全体のがん医療水準の向上を図ります」とあった。

 この日は36道府県の多数の病院が審議され、指定が認められなかった県や病院もあったが、検討会委員の関原健夫氏は、富山県の申請について「これが一番いい話だと思った」とし、「地域の中で各病院が連携をして特色を出して、全体として質が上がるということが現実的で、県民の信頼が高まる」と述べた。座長の垣添忠生氏は、「富山県に関しては県のがん行政のいわば先進県として、今後のモデルになるんじゃないかというご意見も踏まえて、この申請された7つの病院を承認してよろしいでしょうか」とまとめ、富山県の申請した病院はすべて承認された。

 「富山型がん診療体制」のビジョンがいわば絶賛されたわけだ。富山県の資料を一読した感じでは、がん拠点病院が全体でひとつの「総合病院付きの一大がんセンター」を形成するかのようにも読める。すべてのがん拠点病院の申請が認められた結果、国からの補助金も増えた。県拠点病院には最大1700万円、がん拠点病院には最大900万円の補助金が出る。もし県拠点病院1カ所、がん拠点病院3カ所の合計4カ所なら合計最大補助金は4400万円だ。ところが県拠点病院1カ所、がん拠点病院7カ所では合計8000万円と、3600万円増える。もちろん国が50%の補助で県が残り50%の補助金を用意しなければならない部分もあるが、国の税金をたくさん地域に誘導することができたという側面もある。

写真1●富山県のがん拠点病院がどのように発展していくかの見通しを語る、富山県立中央病院副院長の能登啓文氏

窮余の策で、多数の病院を拠点化
 先の意見交換会の席上で富山県立中央病院副院長の能登啓文氏(写真1)は、富山県が特別に多数のがん拠点病院の承認を受けて、全国でも注目されることになったことに関し、「富山型をしっかり進めていく責任がある」と語った。能登氏は、富山県のがん診療体制が過渡期にあると見ている。「以前は、どの病院もフルに診療科を揃えようと、うちにもこの手術ができる医師を一人くれといった感じだった。しかし、中核となる医師一人で診療科を回すことが大変と分かってきて、そうした方向を改めなければという意識も出てきた。もっとメリハリをつけた医師や診療科の配置が必要と思い始めているところではないか」。

 病院別の診療実績(表1)を見ると、確かに役割分担を再編する必要性が垣間見える。この数字は、それぞれの病院が2006年12月の審査に申請したときの書類に記載されているもので、国立がんセンターがん情報センターのがん拠点病院情報のコーナーに掲示されている。なお、富山県立中央病院に関しては、それ以前にがん拠点病院となっていたため、ここにデータが掲載されていない。診療件数を読むと、同じ2次医療圏内で2つの病院が同じがんに関してほぼ同数の患者を扱っているような場合、一つに集約することも一案と考えられる。また、子宮がん、肺がん、肝胆膵がんなどは、一つの病院では症例数が多くはなく、県内の一カ所か二カ所の病院に集約した方がよさそうにもみえる。

表1●富山県のがん拠点病院の治療実績

 それでは、図1に示されたように、富山県内の肝がんは砺波総合病院に、化学療法は厚生連高岡病院にといった具合に症例が集約されていくのかというと、ことはそう簡単でもない。県内のある病院長は、「それぞれの病院の思惑があって、総論賛成、各論反対で一筋縄ではいかない。やはり患者が急に減るのは座視できない」と苦笑する。分担病院に患者を紹介して渡し、診療科を再編し、医師の配置も見直すといった姿は、まだまだ先の話だ。

 「富山型がん診療体制」でそれぞれの病院の分担とされた分野と、各病院の診療実績(表1)やスタッフ配置数(表2)を比較すると、奇異な点に気づく。富山市民病院は胃・大腸が分担だが、胃・大腸の手術件数は少ない方だ。一方、胃と大腸の抗がん剤療法には熱心なことがうかがえる。厚生連高岡病院は化学療法が分担だが、化学療法にかなりの実績を持っているものの、富山市民病院や市立砺波総合病院ほどではない。高岡市民病院は女性のがんと放射線療法を分担するが、乳がんの手術件数は2位、乳がんの抗がん剤療法では3位、子宮がんに関しては実績がほとんどない。また、乳腺専門医はゼロで、産婦人科専門医は2人いるが、婦人科腫瘍学会暫定指導医はいない。黒部市民病院は血液がんを分担するが、血液がんの重要な治療選択肢の一つである非血縁者間骨髄移植に関して骨髄バンクの認定病院にもなっていない。

表2●富山県のがん拠点病院の専門スタッフなどの配置

 役割分担と実績との関連がいまひとつはっきりしないのは、それもそのはず。実は、県内で一番の件数や成績の病院に、その役割を与えたのではなく、それぞれの病院自身が一番得意と申告する分野を尊重し、分担するようにしたからだ。富山県厚生部健康課主幹の加納紅代氏がこの辺りの事情を説明する。「がん拠点病院を推薦するに当たって、公的病院すべてに声をかけた。たくさん手が挙がって、県でヒアリングを実施して候補を絞っていった」。加納氏は、「良くも悪くも突出したところがなく一つを選べない。同時に、どこかが抜けると、地域医療に穴があく心配があるという状況だった」と語る。そこで、各病院の得意分野を分担範囲として調整していった。だから、実績が多い、成績がいいということとは必ずしも一致しないのも当然だ。

 能登氏は次のように説明する。「病院ごとに決めた得意分野の実力をつけるべく、がんばりはじめているところ。その分野の診療が県内で最高水準ということを意味するのではなく、自覚をもって情報収集や情報発信をリードして行こうということ。これからそれぞれの病院が実力を伸ばす努力をしていくことが大切」。一朝一夕にビジョンにある姿が実現できるのではなく、かなり時間がかかるとの見方だ。当面は第1ステップとして、分担病院はその分野についての情報発信と研修に関して県内の幹事のような役割を果たす。将来、第2ステップとして、高い診療技術と症例集約をしていく。そんな二段構えだ。

5年生存率開示で、病院の淘汰が始まる
 それでは、富山県は県内のがん診療体制の再構築に本気ではないのだろうか。そう考えるのは、早計だ。富山県の本気度を示しているのが、がん拠点病院の治療成績開示だ。その準備が着々と進んでいる。結果的には、これが診療体制の再編への弾みをつける。

 富山県は8つのがん拠点病院の3種類のがん(胃がん、大腸がん、乳がん)に関して病期別5年生存率を統一基準で開示する。がん拠点病院の集まりである「富山県がん診療連携協議会」の「がん登録部会」において、ここ数カ月間、その開示ルールを検討してきた。「これまでトップシークレットであった治療成績情報を持ち寄り、同じテーブルでガラス張りの状態で議論するようになったのは画期的」と富山県庁の加納氏は語る。それぞれの病院のデータの正確性や質を検討。すべての病院が守れる範囲で最高レベルのバーを設定することとした。データの定義は、初回手術を対象とし、手術日を起点として日数を数え、一定以上の症例追跡率を確保し、カプラン・マイヤー法と呼ばれる計算方法で出したものと決めた。近日中に公開が実現する。

 それぞれの病院のホームページでの掲示となるが、同じ定義のデータを同じ様式で示すので、患者は病院を比較することができるようになる。「患者さんの命を掛けた戦いの結果得られた貴重なデータを、県民のために活かすこと」と富山県庁の加納氏はその意義を強調する。患者の重症度、余病の有無、年齢などで調整した数字とはなっていないので、比較のための完璧なデータではない。しかし、「完璧を期して出さないよりは、可能な範囲での最善データを出すのが良い」との判断だ。

 この治療成績開示が病院の役割分担再編の幕開けとなる。富山県立中央病院の能登氏は、「上から役割分担を押し付けるのではうまくいかない。患者に選ばれることで、役割が自ずと決まっていくのではないか」と指摘する。富山県庁の加納氏は、「病院の実績が見えるようになれば、病院も総花的でなく、生き残りをかけて得意分野を作ろうとするだろう」と展望する。能登氏は、「富山では、これまで病院選びという発想は少なかった。セカンドオピニオンもあまり普及していなかった。そうしたことは言い出しにくい雰囲気もあった。それが一気に変わっていくだろう」と付け加える。

 病院の治療成績が開示されるようになると、がん拠点病院を数多く指定したことが効いてくる。富山県では8つのがん拠点病院で全県のがん患者の8割程度をカバーしている。8つの病院のデータを把握すれば、「地元のがんの動態と現況がほぼ掌握できることになる」(加納氏)のだ。これはがん対策を今後進めるうえで、大きな武器となる。小さな県だからことできた作戦ともいえる。

県が院内患者会の育成を支援
 「富山型がん診療体制」には、病院間連携や治療成績開示だけではなく、その他にも多数の施策が含まれている。患者支援としては(1)院内がん患者会の育成強化(2)専門医が患者の相談に応じる「がんホットライン(無料電話相談)」の実施(3)がん医学講座の放映――などがある。

 県の協力で今年4月、富山県立中央病院内の乳がん患者会「スマイルリボン」と、高岡市民病院内の乳がん患者会「ハッピーリボン」が立ち上がった。高岡市民病院は役割分担図で婦人科がんを責任範囲としているので、乳がんの患者会があることが重要であると考えられた。10月には、富山市民病院内の乳がん患者会「ひまわりの会」、富山市にある女性クリニックWe!Toyama内の乳がん患者会「We!すずらんの会」、そして、全国組織である乳がん患者団体「あけぼの会」の富山支部と一緒に、5つの乳がん患者会が集まって交流会が開催される。主催は富山県で、その費用は2007年度の予算に計上されている。富山県では、県のホームページにもがん患者会の連絡先などの情報を掲載している。

 「がんホットライン」は9月1日に3本の電話線を確保して実施され、3人の医師と3病院の相談支援センター相談員が、25件の相談を受け付けた。がん医学講座は、胃がん、肺がん、乳がんの専門医によるレクチャーを、9月に県内9局のケーブルテレビで、それぞれ30回程度放映している。

 富山県が、がん対策先進県の自信と誇りを持っているのは、がん対策については国より先行しているとの自負があるからだ。富山県は18年前の1989年に県の「がん対策推進本部」を設置した。前知事の中沖豊氏が88年の再選時に選挙公約として「がん対策の強化」を掲げたからだ。この本部設置は、国のがん対策推進本部ができる16年前のことだ。その後、これまでに3期のがん対策基本計画を進めてきた。89年には「がん攻略県民プラン」を策定し、2000年までの目標として「胃がんの死亡率の30%以上減少、その他のがんの死亡率を低下させ、全国の低位とする」を掲げた。1996年には計画の見直しを行い「新がん攻略県民プラン」を策定、壮年期層のがん死亡の減少と患者の生活の質の向上を強化することを加えた。2002年には、「がん攻略新世紀プラン」を策定、2010年までに1999年に比べて胃がんの死亡率を30%減少、全がんの死亡率を10%減少する」を基本目標に据えた。

 富山県のがん対策はどちらかといえばトップダウン型、知事がリーダーシップをもってがん対策に取り組み、がん対策推進本部を設置し、がん対策基本計画を作り、予算もしっかりとつけてきた。1980年から2004年まで知事を務めた中沖豊氏のスタイルが、現知事の石井隆一氏に引き継がれている。「トップが引っ張るのは予算の裏づけを得る点からも大切だ」と、ある県職員は語る。

8000人のボランティアが、がん検診をPR
 富山県はがんの検診率が全国でも比較的高い県として知られる。老人保健事業報告の集団がん検診実績データによると、2005年度の胃がん検診率は全国平均の12.4%に比べて富山県は20.6%、肺がんでは全国22.3%に対して富山県42.2%、大腸がんは全国18.1%に比して富山県22.9%と、いずれも高い。対策本部を作った1989年以前は全国並みかそれ以下だったが、その後の5年間で大きく伸ばした。そのまま全国平均より高い水準を維持してきた。

 富山県は、1期の「がん攻略県民プラン」において1995年までの検診受診率を胃がん35%、その他30%とすることを目標としていた。2期の「新がん攻略県民プラン」では、目標が2000年までの受診率を胃がん40%、肺がん50%、その他30%へと上げられた。この目標は3期の「がん攻略新世紀プラン」にそのまま引き継がれ、2004年までの達成が目標とされた。こうした数値は達成されることこそなかったが、目標を設定して総合的に取り組むことが比較的高い検診率をもたらしたのは間違いない。富山県はがん検診に対する予算措置も手厚く行っており、2005年度は検診事業費に約6億円、節目検診(45歳など年齢の節目に受ける検診)への助成金約3000万円を出費した。

 富山県のがん検診は、県の関連団体である富山県健康スポーツ財団・富山県健康増進センターを抜きには語れない。健康増進センターは、県内の市町村の集団検診の多くの部分を担う。2005年度実績では、県内全数のうち大腸がん検診25.4%、胃がん検診50.4%、子宮がん検診69.1%、乳がん検診86.4%を実施した。また、職域検診や人間ドックのがん検診も多数行っており、例えば2005年には胃がん検診について職域で7288件、ドックで1万0203件を行った。2006年度の検診車のべ稼動回数は胃がん検診1181回、子宮がん検診644回、乳がん検診807回。「県内津々浦々に検診車がやってきて、公民館など身近なところで検診ができる体制ができている」(県庁の加納氏)。

 だが、いくら検診車が巡回しても地域住民が受診しなければ意味がない。健康増進センター所長の前田昭治氏(写真2)は、「富山県でがん検診が普及した最大の要因は、がん対策推進員の活躍があったから」と指摘する。

写真2●がん検診普及のため、年に40回もの講演をこなしたこともある前田昭治氏

 富山県は、がん対策推進本部を設置してがん検診の受診率向上に取り組むにあたって地域住民挙げての取り組みが必要であると、全市町村でボランティアの「がん対策推進員(以下、推進員)」を育成した。これまでに約8000人が推進員の委嘱を受けた。小さな町でも100人程度の推進員がいる。その地区に検診車がやってくる日が近づくと、推進員は近隣の人に受診を呼びかける。当日になると、地域住民を個別訪問して検診会場に行くことを誘う、さらには検診会場の受け付けや雑務の手伝いもする。検診会場に行く必要がない大腸がん検診ならば、検診容器を地域住民に配って回収するといったことも行う。

 推進員は、市町村が募集する。希望者は、がん対策推進員養成講座を4時間程度受講して、市町村から委嘱を受ける。これだけたくさん推進員を確保できたのは、新しくネットワークを作るのではなく、既存の仕組みを上手に活用したからだ。富山県食生活改善推進連絡協議会の食生活改善推進員、富山県母子保健推進連絡協議会の母子保健推進員、富山県保険衛生組織連合会の保健衛生委員など、すでに健康に関する取り組みで実績がある組織に、がん対策の推進員にもなってもらうよう依頼した。

 前田氏は、現在80歳。富山県立中央病院の院長などを歴任したが、70歳になってからこれまでの10年間、検診の重要性と説いて県内を回ってきた。2001年に富山県が全国に先がけて全県に乳がんマンモグラフィー検診を取り入れた際には、35市町村すべてで合計40回の講演を行った。89年から94年ぐらいまで検診率が向上した富山県だが、その後は、徐々に下がる傾向にあったが、2001年、02年、03年は、乳がん検診率が向上したばかりでなく、他の検診率も向上した。マンモグラフィーの新規導入を材料に、推進員が活性化して普及啓発に熱が入ったからだ。前田氏は、「マンネリにならないように、何らかのきっかけを使っては、がん検診全般の普及啓発を図ることが大切」と語る。

4億7000万円のがん対策基金を活用
 富山県ではがん検診を広報するラジオスポット放送が毎日のように流れる。このため、「富山県がん対策基金(以下、基金)」から年間300万円余りの費用が出されている。また、新聞広告でがん予防に関するクイズによる普及啓発も行っているが、これにも基金が100万円程度を出費している。基金は1986年、官民協力で設立。県、市町村、民間が資金を出し合って設立した。民間では、地元財界の主要企業が参加した。現在の基金残高は約4億7000万円。県債で運用し、年間600万円程度になる運用収入を普及啓発などの事業に充てているのだ。医療技術者(放射線技師、検査技師、看護師など)の研修育成などにも使われてきた。

 これまで、がん検診の先進県であった富山県だが、国のがん対策推進基本計画で「がん検診率50%」という高い目標が掲げられた今、全国のモデルであり続けられるのだろうか。ここ10年間、がん検診の伝道師として身を粉にして取り組んできた前田氏の答えは意外だった。

 「考えられるありとあらゆることに県民が熱心に取り組んで達成できる検診率がここまで。これより上げるためには、国が抜本的な制度改革を打ち出すことが欠かせない」。検診費用の国費負担、開業医ががん検診を勧めた際の報奨金導入など、欧米で効果を上げている策を大胆に導入しない限り、達成は困難との見方だ。がん検診に関しては富山型以上のモデルの開発が必要なのかも知れない。

 富山県は自ら「富山型がん診療体制」というビジョンを打ち上げ、日本をリードしていきたいと宣言した。全国から注目されていることも自覚している。そのプレッシャーも糧にしてがん対策に取り組んでいくことだろう。すべての都道府県が自分の地域のがん対策の進捗を評価する際、富山県がよいモノサシになるのは間違いない。(埴岡 健一)

〔参考サイト〕
富山県がん診療体制(解説)
富山県がん診療体制(図)
富山県のがん患者会・患者支援団体(富山県庁サイト)
富山県の2次医療圏と拠点病院の配置図
がん診療連携拠点病院の指定に関する検討会 第2回議事録(2006年12月27日)
富山県健康スポーツ財団富山県健康増進センター

〔参考記事〕
日本列島がん対策
・現地レポート(1) 〔島根県〕 患者の意気込み日本一 -- 「患者サロン」で悩みを受け止め

日本列島がん対策・現地レポート(2) 〔大阪府〕 「患者の声」と「成績開示」をテコに、「大阪流がん対策」模索
日本列島がん対策・現地レポート(3) 〔高知県〕 患者による患者のための「がん患者サロン」オープン
※「日本列島がん対策
・現地レポート」は、随時、掲載する予定です。

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