このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2007/9/4

患者団体アメリカ訪問記2007(第3回)--- 米国から学ぶ「患者中心の医療」

「“先輩患者”紹介」から「お化粧教室」まで、安心と自信を提供

 日本のがん患者団体6人がこのほど米国を視察した。狙いは、米国の先進事例から学ぶこと。そのツアーに密着取材した。今回のリポートは、米国がん協会(American Cancer Society、ACS)が提供する数々の患者向けサービスを紹介する。「“先輩患者”紹介」、「お化粧教室」、「通院送迎」など、患者に喜ばれているものばかりだ。



 米国がん協会(American Cancer Society。以下ACS)の大規模コールセンターを見学した後、同じオースチン市内にある地区事務局を訪問した。ACSは電話相談だけでなく、多様な患者サービスを提供している。どのようなサービスが、実際にどのように提供されているのかを知りたかった。

地区事務局でカレン・カンデラス氏の説明を受ける患者団体ツアー一行
写真1:地区事務局でカレン・カンデラス氏の説明を受ける患者団体ツアー一行

 ACSの患者・家族向けサービスを利用したい人は、ACSのウェブサイトのトップページから、自分が住んでいる場所の郵便番号を使って簡単にその内容を検索することができる。たとえば、今回訪問した地区事務局のそばに住む人がどんなサービスを受けることができるのかを知るために、地区事務局の所在地の郵便番号を入力すると、19のサービスがリストアップされる。患者教室、宿泊施設提供、家庭用医療機器提供、乳がん患者向けプレゼント、カツラ提供、小児がん患者向けキャンプ旅行、お化粧教室、乳がん患者向け“先輩患者”紹介、通院送迎――など、そのメニューはとても充実している。

 中央テキサス地区担当のカレン・カンデラス氏が、事務所内を案内して説明してくれた(写真1)。ACSでは、各地区事務局がその地域の住民に多彩なサービスを提供している。カンデラス氏は、「患者に密着した“実際に役に立つ”支援が、患者さんやご家族の生活を楽にすることができる」と語る。

地区事務局に備えられた多数のカツラ
写真2:地区事務局に備えられた多数のカツラ

 事務所内には抗がん剤治療を受けた後に髪が抜けた患者のためのカツラが多数置いてある(写真2)。ボランティアが作ったアクセサリーなども用意されている。「ごく簡単なものでも、手作りのものが患者さんには大変喜ばれる」とカンデラス氏。

 この事務所では多くの患者教室が開催される。疼痛管理手法、リラックス法、がん治療に関する講演会など、そのメニューも幅広い。また、患者本人だけでなく、家族や介護者向けのものもある。

 患者から好評を得ているサービスから、3つを少し詳しく紹介しよう。

“先輩患者”が“新人患者”をお世話
 リーチ・ツー・リカバリー(Reach to Recovery)」という乳がん経験者紹介サービスがある。キャッチフレーズは、「あなたを1人で乳がんと闘わせはしない」。これは乳がんと診断されたばかりの患者に“先輩患者”を紹介するものだ。まず、ボランティアの乳がん経験者を募集する。応募者は講習を受け認定証を受け取る。先輩患者の役割は、積極的にがんと闘う実例モデルを示す、不安や心配の上手な訴え方を教える、さまざまな情報提供をする、役立つ情報源を紹介する、経済的問題など現実的な課題の対処法を知らせる、患者に自信を与える、がんと向き合う力をつけさせる――などとされている。

「リーチ・ツー・リカバリー」と呼ばれる先輩患者紹介プログラムに参加した患者に配布される患者キット
写真3:「リーチ・ツー・リカバリー」と呼ばれる先輩患者紹介プログラムに参加した患者に配布される患者キット

 ACSはこのリーチ・ツー・リカバリーを利用したい患者がいれば、登録したボランティアのリストから、がんの進展度、年代、家族の状況などから似た環境にある人を選んで患者に紹介する。その二人はお互いに連絡を取り合い、面談したり、電話で話をしたりして付き合いが進展していく。“先輩患者”は手術の直前や直後に“新人患者”を訪問して悩みを聞くといった細やかな対応ができる。実際の経験者ならではの対話ができ、患者に大きな安心を与えることができる。この認定ボランティアは2年ごとに講習を受けて再認定を受ける仕組みになっている。

 リーチ・ツー・リカバリーに参加した患者すべてには、患者キット(写真3)がプレゼントされる。「乳がん治療の基礎」「抗がん剤治療」「放射線治療」「乳がん治療の副作用」「リンパ浮腫」「医師とのコミュニケーション法」「乳がん手術後の自己訓練」などに関する冊子のほか、「乳がん関係用語辞書」やACSの患者サービスに関するチラシも入っている。乳がん患者必携の情報源だ。乳がんの知識を十分に得て、賢い患者になって、自分の治療選択を自己決定したり、自分の治療に積極的に参加したりできるようにすることが奨励されている。キットには休息用のクッションや、乳がん術後用のパッドとブラジャーも含まれている。

病院への通院は、ボランティアが自家用車で送迎
 「ロード・ツー・リカバリー(Road to Recovery、回復への道)」は、ボランティアが自家用車を使い、がんの治療で通院する際などにがん患者の送り迎えをするものだ。これも、送迎ボランティアをあらかじめ募っておく。このボランティアも事前に講習を受ける。まず、がん患者のことを知るプログラム。どんな治療を受けており、どんな副作用が生じることがあるのか――などだ。ボランティアが患者の心身の状態を把握し、配慮できるための知識を与えているわけだ。また、交通安全講習員による安全運転教室も受講する。

 米国では日本に比べて大幅にがん治療の「外来化」が進んでいる。だから、手術や抗がん剤治療の入院期間は短く、通院が長い。また、日本では入院を必要とするような抗がん剤治療も外来だけでどんどん行われている。患者にとっては、毎日あるいは週に1回という風に定期的に病院に通うことが、大きな負担になっている。

 米国は車社会で公共交通機関が発達していないから、自家用車を持たない人には通院はとても不便だ。また、自家用車があっても抗がん剤治療中は気分がすぐれないため、自分で運転したくないという人も多い。家族や知人が助けてくれる場合もあるが、そうでないときも少なくない。タクシーなどを利用すると交通費がかさむし、交通費が自分で払えないほど経済状態が悪い人もいる。とくに郊外や過疎地に住んでいる人には、このロード・ツー・リカバリーはとても喜ばれる。

 ボランティアにはいろんなやり方がある。寄付をする、プレゼントを作るなど、間接的に患者をサポートするタイプを好む人もあれば、直接患者と接して手助けをするのが性に合っているという人もいる。送迎サービスは、後者のボランティアにとって特に満足度が高いという。ボランティアには、わずかながらガソリン代として政府規定により1キロ当たり10円程度が支給されることになっているが、ボランティアの半分はそれを請求することはしない。

「がんになっても、お化粧して気分よくしよう」
 「ルック・グッド・フィール・ベター(Look Good…Feel Better、きれいになって、気分よくしましょう)」は、お化粧教室だ。がん治療をすると抗がん剤の影響で肌が荒れたり、放射線治療によって肌の色が黒ずんだりすることがある。また、手術の後が気になることもある。さらに、がんになった影響で気分がふさぎこみ、お化粧やおしゃれに気が回らなくなることにもなりがちだ。

 ルック・グッド・フィール・ベターは、文字通り、「お化粧をすることできれいに見えるようにして、気分をよくして、前向きに生活をしましょう」というのが趣旨。化粧品業界から化粧品が寄付される。化粧指導員業界からは指導員がボランティアで参加する。これに参加する指導員は、シカゴで行われる2泊3日の「がん患者向け化粧講習会」を事前に受け、ここで、がん患者の体と心の状態や、がん患者の肌が治療の結果とても敏感になっていることなどを学ぶ。この講習にかかる交通費と宿泊費はACSが負担している。ACSは各地でこのお化粧教室のことを広報し開催している。

 お化粧教室は6人から10人ぐらいの少人数グループ単位で行われ、参加者ひとり一人への個別指導も行われる。内容は、化粧の基礎テクニック、スキンケアの仕方、爪の手入れ法、治療の副作用で髪が抜けたときのカツラやスカーフの上手な使い方など。そして、帰りには約2万5000円相当の化粧品詰め合わせのプレゼントがもらえる。配布される化粧品セットの数は実に年間5万点という。ACSは、患者が見栄えをきれいにして自己イメージを守り尊厳を保つことが、患者の心のケアにとても重要だと考えている。

 ACSはこれまでみてきたようなたくさんのサービスを用意している。重要なのは、サービスメニューを作るだけでなく、実際に多くの患者に使ってもらうことだ。そのためには、こうしたサービスが存在することを知ってもらい、気軽に参加してもらうことが大切となる。

 ACSでは、ウェブサイトなどで患者サービスの周知に努めると同時に、地区事務局が地道な普及活動をしている。患者との接点を確保することが重要なので、地元の病院を訪問するなどして、実際に患者相談の窓口となることが多いメディカル・ソーシャル・ワーカー(MSW)にACSのサービスを十分に理解してもらう。MSWが患者に「ACSがこんなサービスをやっている。試してみたら?」と言ってくれるようにするわけだ。

巨大な資金力と組織力で患者サービス浸透に努めるACS

ACSの多様なサービスとその提供体制について、スライドを使ったレクチャーも受けた
写真4:ACSの多様なサービスとその提供体制について、スライドを使ったレクチャーも受けた

 こうしたサービスを提供しているACSの組織体制についても説明を受けた(写真4)。ACS中央テキサス地区事務局は、244万人の人口があるエリアを担当し、33人の職員がいる。収入は560万ドル(約6億5000万円)ある。中央テキサス地区事務局が属するハイ・プレーン地域事務局はテキサス州、カンサス州、オクラホマ州、ミズーリー州、ネブラスカ州、ハワイ州の6州を管轄範囲とし、約3600万人の人口をカバーする。ここには4カ所の中央事務局と52カ所の地区事務局が配され、収入は6800万ドル(約80億円)、職員は約460人にのぼる。

 ACSはこの巨大パワーで、がん経験者やボランティアの力を活用しつつ、がん患者と家族が、がんになっても前向きに生きられるようバックアップしている。こうしたサービスからは、「がんになっただけで大変なのだから、それ以上の苦労はできるだけしなくてもすむように」、「社会ががん患者を大切にすることで、がん患者が前向きに生きられるように」といったメッセージを感じ取ることができる。

 日本のがん対策推進基本計画では、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会の実現を目指すこととする」としている。そのためには、ACSが提供しているような種々の患者サービスが発達していくことも欠かせないだろう。

(埴岡 健一)

※「がんナビ通信」(週刊:購読無料)を配信中。購読申込はこちらです。

この記事を友達に伝える印刷用ページ