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レポート

2007/8/7

日本列島がん対策・現地レポート(2) 〔大阪府〕

「患者の声」と「成績開示」をテコに、「大阪流がん対策」模索

 「国に言われたことだけをやるのではアカン。大阪らしさを出そう」。大阪府のがん対策の検討が熱を帯びてきた。大阪の患者団体は、府のがん対策推進計画協議会の委員になって積極的に発言し、拠点病院の見学会を実施するなどして、がん対策を練り上げるための勉強にも力を入れる。行政側や病院側も「医療提供者が発言しても世の中動かないが、患者さんが声をあげたら一気に変わる」と患者パワーに期待をかける。元気な大阪の様子をレポートする。




7月30日、大阪府の「がん対策推進計画協議会」の「がん医療部会」が開催され、患者代表委員が積極的に発言した(冒頭のあいさつをするのは、府の担当課長である松下彰宏氏)
写真1●7月30日、大阪府の「がん対策推進計画協議会」の「がん医療部会」が開催され、患者代表委員が積極的に発言した(冒頭のあいさつをするのは、府の担当課長である松下彰宏氏)

 7月30日、大阪府中央区で、「大阪府がん対策推進計画協議会(以下、府協議会)」の「がん医療部会(以下、医療部会)」(写真1)が開催された。府協議会は、国が6月15日に閣議決定した「がん対策推進基本計画」を踏まえて、「大阪府がん対策推進計画」を策定する任務がある。医療部会は府協議会にある3つの部会の一つだ。会議では、「大阪がん医療の向上をめざす会(以下、めざす会)」の片山環氏と西村愼太郎氏が積極的に意見を述べて、議論の流れに大きな影響を与えていた。

 一方、医療部会の親会議である府協議会は、第1回が7月2日に開かれた。ここでも、めざす会の河野一子氏と濱本満紀氏が委員となっている。両氏もまた、協議会に意見書を提出するなど、積極的にかかわっている。

 めざす会(写真2)は、2006年11月29日に設立された。「大阪のがん患者団体のゆるやかな連合」と自らを位置づけている。7つの患者団体が運営委員となり、加えて4つの団体が参加している。11団体がいっしょに共通の関心事に関して行動を共にするが、互いの活動の自律性は互いに尊重する。みんなが対等ということを尊重し、代表などは置いていない。連絡役は、2005年5月28日に大阪で開催された「第1回がん患者大集会」の事務局を務め、イベント当日の司会をした濱本氏が引き受けている。

「大阪がん医療の向上をめざす会」のメンバーたち。めざす会が自分たちで大阪府の協議会に出る委員4人を選んだ
写真2●「大阪がん医療の向上をめざす会」のメンバーたち。めざす会が自分たちで大阪府の協議会に出る委員4人を選んだ

 めざす会に参加するのは、大阪肝臓友の会、癌と共に生きる会、乳がんサポートグループVOICE、のぞみの会、フラウエン・グレーブス、ひまわりの会大阪支部、リンパ浮腫患者グループあすなろ会(以上が運営委員会)、いいなステーション、「がん患者サロンなにわ」をつくる会、ぎんなん、グループ・ネクサスの11団体。府協議会の濱本氏は癌と共に生きる会に、河野氏は乳がんサポートグループVOICEに所属する。医療部会の片山氏はグループ・ネクサスの、西村氏は大阪肝臓友の会の幹部である。

 実は、府協議会2人、医療部会2人の計4人の委員の人選は大阪府の打診を受けてめざす会が自ら行った。大阪では、めざす会ががん患者会をたばね、府がめざす会を患者会の窓口のように扱う仕組みが成立している。患者会にとっては、自分たちの意見が効率よく行政に届けられる。行政側にとっては、患者側の意見聴取をする際に、どこを選んで話をすればいいのか分からないという悩みが大きく軽減される。相互にメリットがあるやり方となっている。

患者会と行政、拠点病院が対話ルートを形成 めざす会ができたきっかけは、2006年10月30日に東京で開催された「全国がん患者ロビイングデー」。これに大阪から参加したメンバーが、大阪でもがん政策に声を上げていこうと設立した。その少し前の2006年8月2日には、参議院議員の山本たかし氏が呼びかけ人となり、大阪でがん対策に関する意見交換会が行われていた

 ここには、16のがん患者団体から30人が参加、大阪府からも健康福祉部地域保健福祉室健康づくり感染症課がん・生活習慣病グループの佐藤敏彦課長補佐が出席。これが大阪府と患者団体の間のいわば「お見合い席」となっていた。こうして現在、大阪府とめざす会は円滑なコミュニケーションができる状態となっている。

 めざす会は、大阪府内にある11の地域がん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)を順次、訪問するプロジェクトを実施している。大阪府は、めざす会の希望を受け止め拠点病院への口添えを行い、めざす会は拠点病院に依頼書を出し、各病院が順次見学を受け入れている。すでに11病院中8病院への訪問が終わった。めざす会は訪問の後には、詳細なレポートを作成している。めざす会は、がん拠点病院の実情を急速に把握しつつあるといえるだろう。また、患者会と各病院の対話ルートが形成されつつあることも意義が大きい。

熱心に議論する「大阪がん医療の向上をめざす会」。拠点病院訪問プロジェクトも進めている
写真3●熱心に議論する「大阪がん医療の向上をめざす会」。拠点病院訪問プロジェクトも進めている

 めざす会のメンバーは、病院訪問の前後などに随時集まっては、情報交換をし、意見を述べ合う(写真3)。飲食をしながら深夜まで和気あいあいと語り合うこともしばしばだ。今後、めざす会のメンバーが府の会議で意見を述べ、提案書を出すことも多くなるだろう。その際、こうして培ったメンバー間の情報交換や結束力、さらには拠点病院訪問で得た情報や人脈などが、患者会の政策提言力アップにつながることが期待される。

 大阪では、行政や病院側にも患者団体への期待が強い。7月29日、大阪市東成区で開催された「大阪府におけるがん情報サービス向上に向けた地域懇話会」で、挨拶に立った大阪府立成人病センター総長の今岡真義氏は、「がん治療の充実を何とかしてくれと医者がずっと言っていてもだめだった。ところが、患者さんが声をあげたらあっという間に法律ができて、ここまで変わろうとしている。どうかみなさん、もっと声をあげてください」と語った。大阪府健康づくり感染症課長の松下彰宏氏は、「患者さんの意見を受け止めることが大切」と繰り返す。

がん死亡最下位から脱出し、汚名返上へ
 大阪府はがんの死亡率が高い。長期にわたり47都道府県の最下位だった。このほど、ようやく46位となった。だから、大阪ではとりわけがん対策の実効性が求められる。府協議会委員の大島明氏(大阪府立成人病センターがん相談支援センター長)は、「協議会の場では、国に言われたことだけをやるのではアカンと、大阪らしさを出そうという気概が強い」と語る。今後、それをどう具体化していくか課題となってくる。

 府の協議会は、次回は9月中旬、次々回は10月下旬に開催される。この間に医療部会、予防部会、がん検診部会から具体的なアイデアやプランの提案をもらう。また、7月には府民からの意見募集を行った。府は「これまでにない試みで、たたき台ができてから意見を聞くだけでなく、早くから広く一般の声を聞くこととした」と、その意義を語る。こうした意見を合わせて年内には素案を作り、年明けにパブリックコメントを実施して来年3月には成案とする。

 2007年7月6日には、「大阪府がん診療連携協議会(以下、連携協議会)」が設置された。事務局は大阪府立成人病センター。11の国が指定する拠点病院だけでなく、5つの大学病院も参加している。これは2004年から同様のメンバーで開催されていた大阪府が事務局をしていた同様の連携協議会を、都道府県がん診療連携拠点病院に指定され域内の拠点病院のとりまとめ役を果たすべき府立成人病センターが引き継ぐもの。以前から、府内の大学病院も含めて議論をする場が成立していたことは有利だ。

 現在、他の都道府県に比べて大阪が先んじているのは、地域がん登録と呼ばれる病院が集計・提出するデータによって、大阪府内のがん治療成績の実態が病院別、地区別に明らかにされていることだ。こうしたデータが大阪府のホームページで開示されたことで、成績不振の病院も浮き彫りになった。この結果、東大阪総合病院が成績の低さに奮起して、医療スタッフを充実させるなどして成績を大幅に改善させるという効果も生んだ。ただ、府全体としてのがん死亡率が最下位レベルであるということは、こうした貴重なデータがこれまでは対策や戦略の立案に十分に活かされていなかったともいえる。

 大阪府のがん治療成績は、大阪府立成人病センター調査部のホームページにある「大阪府がん診療連携拠点病院 患者数・手術数・生存率の状況」に詳しい。11の拠点病院と同時に5大学病院の成績も開示されている。ここから分かることは、(1)がん拠点病院は府内のがん患者の15%程度しかカバーしておらず、大学病院も含めても20%程度のカバー率(2)病院ごとの治療成績格差がかなりある(3)2次医療圏ごとの治療成績格差がかなりある(4)格差が解消されるとさらに多くの患者が救命される――といったことだ(参考資料:「世界一の均てん化大国を目指して 4〜11ページ」)。

 対策として考えられるのは、(1)がん拠点病院もしくはその連携病院への患者集中(2)病院別治療成績のモニターによる、成績が低い病院の向上(3)2次医療圏ごとの治療成績モニターと、成績が低い医療圏の向上――などだ。

大都会で進行する医師の不足と偏在
 7月30日に開催された医療部会では、今後のがん診療体制の姿と対策について活発な意見が交わされた。まず、「がん拠点病院のシャッフル」という意見が出た。これは追加指定あるいは指定取り消しを含めて、府内の拠点病院の配置や体制を再構築するという考えだ。拠点病院のがん患者カバー率が低い状況では、特に中心部で拠点病院が不足しているのではないかの検討が必要だ。

 一方で、既存拠点病院においても診療力が弱体化しているのではないかという懸念が患者代表委員の片山氏から出た。「病院を見学して回ってみると、拠点病院であっても診療科が停止されていたり、扱えなくなったがんがあったり、できなくなった検査があったりする。拠点病院に十分な医師がいるようにしてほしいし、そのために患者会が手伝えることがあればやりたい」。大阪府内の拠点病院が医師不足に陥っている懸念が表明された。

 7月2日の府協議会では、委員の市立岸和田市民病院副院長の小切匡史氏が、大阪南部の公立病院で内科医が減っている窮状を訴えた。和泉市立病院は、消化器内科、血液内科、糖尿病内科を2006年6月に閉鎖、市立貝塚病院は2007年3月に消化器内科医が全員退職、阪南市立病院は6月に内科医5人が全員退職、市立泉佐野病院でも消化器内科は外来のみで入院ができなくなっている。府内ではこのように医師の不足感が特に南部で高まっている。それだけに、がん診療においては、拠点病院間での役割分担の明確化や、患者の集約などで、医師を有効活用することも大切だ。また、医師などの医療資源の配分が偏らないようにすることも重要だ。

 7月30日の医療部会では、がん戦略を立てるための判断材料とする情報不足を訴える声が相次いだ。患者代表委員の西村氏は、「拠点病院の現状がどうなっているか共通認識がないままに議論が進むのは危険。まず、データを示してほしい」と、島根県が県庁ホームページで公開しているような情報(「県内のがん拠点病院の医療機能は? がん医療機能に関する公表項目」)を求めた。確かに、施設別の医療スタッフ数などの機能情報がなければ、地域がん登録による治療成績データだけでは戦略は立てられない。医療部会の部会長となった成人病センター脳神経科部長兼緩和ケア室長の柏木雄次郎氏は、事務局にこうしたデータを用意するよう指示を出した。

大阪府立成人病センターのがん相談支援センターがん情報サービスのスタッフたち
写真4●大阪府立成人病センターのがん相談支援センターがん情報サービスのスタッフたち

 成人病センターのホームページの「がん情報提供コーナー」は、国立がんセンターの「がん情報サービス」が提供している情報とは一味違う情報を掲載していく考え。病院の医師数、症例数、実施治療方法、検査方法などの詳細データを一般開示していく予定で、現在、拠点病院からの情報を収集、整理中だ。どんな項目が開示されるかは、「がん診療拠点病院に関する府民向け情報提供のための調査票」を読めば分かる。こうしたデータは、患者が病院を選ぶ際だけでなく、がん対策の立案にも役に立つことだろう。

 これまで多くの医療政策が根拠データなしに、発言力の大きな人の影響で決まりがちだったが、地域がん登録データと病院機能調査データがそろえば、大阪府では「データと事実に基づいた戦略策定」が相当できるようになってくる可能性もある。

 医療部会では、患者相談支援と情報提供のあり方も重要な議題だった。片山氏は、「各病院に相談支援センターを配置するだけでなく、大阪全体の相談を受け止める大阪コールセンター(電話相談窓口)があってもいい。そうしたセンターは利点があるならば、公費を投じてもやるべきではないか」と提言した。西村氏は、「がんと診断された患者全員に“相談支援カード”のようなものを渡し、最低一度はどこかの相談支援センターを訪問することを勧めるようにすればどうか」とのアイデアを出した。座長の柏木氏は、「患者関係者が患者を支援することも大切。患者サロンのようなものができないか」と述べた。府立成人病センターがん相談支援センターの大島氏は、府内全体への患者支援サービス、拠点病院の相談機能に対する支援をどう進めていくか、考えをめぐらせているところだ(写真4)。

都市型の在宅緩和ケアの姿を模索
 医療部会では、大阪府内でどのように都会型の在宅緩和ケアを広めていくかも議題となった。医療部会の副部会長になった市立豊中病院肝胆膵外科・緩和ケアチームの林昇甫氏は、大阪北部の豊中市での取り組みを紹介した。まず、地域の診療所にアンケートを実施した上で、緩和ケアに関心があるとした診療所を訪問調査した。

 豊中市の年間がん死亡者900人あまりのうち在宅での看取り数は約200人で、その比率は約22%。このうち1つの診療所が200人のうち半分程度を看取っている。残りの数十診療所程度は年間0〜20件程度の実績。年間数件程度以下の実績のところが数件ずつ実施するようになれば、年間看取り数を現在の200人から280人に4割ぐらい増やせる計算になる。

 林氏に部会終了後に、今後の方向に関する意見を聞いた。診療所訪問ヒアリングでは1軒1時間程度の時間をかけ、診療所医師の本音を聞くことができたという。その結果、病院からの紹介が遅すぎて患者や家族との信頼関係を築く時間が足りない、在宅医療について主治医からの説明が不十分、紹介状一つで紹介されて前の医師からの連絡や説明がない、急変時の受け入れ病院を確保したい、医療用麻薬などの使い方が分からないときすぐ聞ける相手がほしい――などの意見が浮き彫りになった。そこで、林氏はこうした点に対処するため、緩和医療ネットワーク協議会の設置、患者や家族が患者の家族を理解するための「わたしのがん手帳(仮称)」の作成(豊中市発行)、退院前ケアカンファレンスの実施、緩和ケアホットラインの設置――などを進めている。

 大阪府内でもう一カ所、在宅緩和ケアの先進地とされるのが南部にある大阪府岸和田市だ。7月2日の府協議会で、市立岸和田市民病院の小切氏が、大阪府のがん在宅死亡率が5.7%であるのに、岸和田市では12.2%と高くなっていることを紹介した。しかも、1995年の4.1%から比率が3倍になっている。これは、在宅医療を行う24時間対応の診療所が4軒連携し「岸和田在宅ケア24」を形成しているからだ。医師が休暇を取ったり学会に行く際に、互いにカバーしあう仕組みを作っている。また、急変患者を岸和田市民病院が積極的に受け入れる協力体制もとっている。診療所間と、診療所と病院の間の連携があってこそ、こうした対応ができているわけだ。

 豊中市や岸和田市を見ると、在宅緩和ケアの浸透には、その地域に非常に熱心な数人のキーパーソンがいるかどうかがカギであることが分かる。往診可能な距離圏ごとに在宅ケアのキーパーソンを育てていくことが大切となる。

 林氏の頭の中には、在宅緩和ケア浸透のための、さまざまな対策の案がある。拠点病院や主要病院の緩和ケアチームの合同勉強会、在宅緩和ケアと看取りを行う診療所や訪問看護ステーションなどが集まった協議会の定期開催、大阪府による緩和ケアに関する講習会実施――などだ。こうした対策を複合的に進めれば、地域ごとに在宅ケアの火種を植え付け、数年で、大阪府のがん在宅看取り率をかなり高めることができるのではないかというイメージを抱きつつある。今後、医療部会の席上で意見を述べるつもりだ。部会でさまざまな検討が行われることだろう。

 医療部会では、医療者や患者・家族への緩和ケア支援のモデルとされる「広島緩和ケア支援センター」を育てた阿部まゆみ氏を、部会に招いてヒアリングも実施する予定。いわゆる“がん難民”問題の解決を唱えてきたがん患者団体も、緩和ケアの充実には関心が高い。緩和ケアが大阪府がん対策推進計画の目玉のひとつになりそうだ。

 大阪のがん計画がどのようなものになるかはまだまだ未知数。だが、「大阪独自のものを盛り込みたい」という意欲は多くの委員に共通している。「がん対策後進地域」の汚名返上に大阪のがん対策関係者は熱く燃えている。

(埴岡 健一)

※「日本列島がん対策・現地レポート」は、随時、掲載する予定です。


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