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レポート

2007/7/31

患者団体アメリカ訪問記2007(第2回)--- 米国から学ぶ「患者中心の医療」

年100万人の悩み解消する巨大コールセンター

 日本のがん患者団体6人がこのほど米国を視察した。狙いは、米国の先進事例から学ぶこと。そのツアーに密着取材した。今回のリポートは、米国がん協会(American Cancer Society、ACS)が運営する巨大コールセンター(電話相談センター)から。アメリカン・フットボール競技場2面の広さの同センターには約300人の係員がおり、365日24時間体制で年間100万件の電話に応答する。マニュアルにそって長時間のトレーニングを受けた相談員は、コンピューターのデータベースの支援を受けて的確な答えをしていく。全国からの電話に、中央データベースを使って治療法や経済的対処法などに関する情報を提供するだけではない。各地の地元データベースによって、病院への送迎ボランティアをあっせんするなど、きめ細やかなサービスも実施していた。




多くの相談員が整然と電話に応答する(右前の仕切りの中は指導員の席)
多くの相談員が整然と電話に応答する(右前の仕切りの中は指導員の席)

 テキサス州オースチン市の空港から車で約30分、市街地から10分ぐらいの工業団地風の地区の中に、米国がん協会(以下、ACS)が運営する「全米がん情報センター」と呼ばれるコールセンターはあった。

 ACS職員がその中を一回り案内してくれる。まず、圧倒されるのはその広さだ。学校の体育館ぐらいの広さのスペースが、いくつもつながっている。合計すると、実にアメリカン・フットボール競技場2面の広さがあるという。以前、製造業の倉庫であったスペースを転用して使っている。2006年12月に、全国2カ所にあったコールセンターを統合し、ここに引っ越してきた。だから、設備や内装は真新しくみえる。電話応対員の座席が整然と並んでいる。

 ここでは、年間100万件の電話に応対している。開設10年目の今年1月には、1000万件目の電話を記録した。また、電子メールによる問い合わせにも答えており、その数は年間4万8000件にのぼる。


●表1 全米がん情報センター(コールセンター)の人員
・がん情報専門員(一般相談員)175人
・電子メール担当14人
・スペイン語応答担当11人
・医療保険担当14人
・臨床試験担当9人
・がん専門看護師13人
・寄付・募金担当18人
・顧客窓口5人
・指導員22人
・管理職6人
・部長1人
 合計288人

 こうした電話や電子メールなどによる問い合わせに応答する相談員の陣容は右の表1の通りだ。合計288人のうち、まず175人のがん情報専門員(Cancer Information Specialist、CIS)とよばれる全般をカバーする相談員。その他に、医療保険担当14人、臨床試験担当9人、ACSへの募金担当18人など、分野別の相談員がいる。通常の相談員では対処しにくい治療や副作用対策などに関する問い合わせに関しては、がん専門看護師資格を持った13人が対応する。その数は年間1万7000件になる。電子メール担当者も14人配置している。

 問い合わせのニーズに応え、質の高い回答を行うため、様々な運用上の工夫がなされていた。まず、重要なのが、相談員259人に対し、22人の指導員など29人の管理職がいること。応答本数を増やすために相談員だけを増やすと、相談の内容の質が不安定になる。コールセンター内を歩くと、相談員が10数人程度並んだ列ごとに、低い仕切りで区切られた指導員の席がある。指導員が相談員の実際の電話応答を随時、傍聴し、相談員が妥当な応答や情報提供をしているかをチェックする。もちろん、必要に応じて指導や教育を行う。

相談員はコンピューターのデータベースの画面を見ながら応答する
相談員はコンピューターのデータベースの画面を見ながら応答する

 また、ところどころにハドルルーム(作戦部屋)というごく小さな会議室が配置されている。他がオープンスペースであるのに、ここだけは“個室”となっている。難度が高い質問があったり、トラブルが発生したときは、少人数がここに集まって知恵を出し合って解決策を見出す。

 どんな人が相談員になっているのだろうか。専門看護師など一部の人員を除き、特に何らかの資格や経験が求められているわけではないという。基本的に新卒の大学生を雇うことが多い。コールセンターの立地にオースチンを選んだのは、ここにテキサス大学という学生数の大きな大学のキャンパスがあるからだ。ここからフレッシュな人材を確保し、充実した初期研修と、それに続くOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=業務をしながら訓練をすること)によって一人前に育てていく。相談員が回答をしやすいように、回答集や参考資料集がデータベースとしてコンピューターに入っており、相談員はそれを検索し、参照しながら、応答することができる。

 米国では、政府機関である米国がん研究所(National Cancer Institute、NCI)が1976年にコールセンターを開始し、現在、年間50万件程度の電話相談を実施している。ところが、NCIとACSではその内容が大きく異なる。NCIは問い合わせ者の履歴を取らないが、ACSはそれを記録する。だから、ACSのやり方では問い合わせ者が再度、電話を掛けてきた際に、以前の応答を踏まえて対応できる。そして、ACSでは誰が次の電話を受けても、以前の電話を踏まえ、同じような質の応対ができることを重視している。

全国共通情報と地域密着情報の2本立て
 実際に現場を訪問したことで、問い合わせ者の情報ニーズに合わせて適切な担当者に電話が振り分けられる工夫がされていることが理解できた。着信電話は、まず、がん情報サービス、寄付、スペイン語対応の3つに振り分けられる。がん情報サービスの一般相談員が応対して、必要であれば医療保険担当、臨床試験担当、がん専門看護師へと回す。がん情報サービスでは、がんの治療法、副作用への対処、闘病上の問題解決などのために、様々な情報や情報源を提供する。

 医療保険支援サービスは、国民皆保険ではない米国ではニーズが高い。無保険者や十分な保険に入っていない人に、さまざまな補助制度などの活用法を紹介する。また、ACSは医療保険の状態によって困っている人々の様子を記録・蓄積することも目的としている。それを、医療保険改革や医療制度改革などのための提言にまとめるのだ。一方、臨床試験マッチングサービスは、2002年8月に開始した。患者が選ぶ候補となりそうな臨床試験を、データベースから検索して伝える。

米国がん協会のコールセンターは巨大だった
米国がん協会のコールセンターは巨大だった

 上記のようなサービスは中央センターで行われている。そして、相談員は必要に応じて電話を地域センターに回す。例えば、2006年1月にオープンした、テキサス州などをカバーするハイ・プレーンズ地区事務局の患者サービスセンターには相談窓口があり、相談員が15人と4人のスペイン語担当者が配置されている。

 地区事務局の患者サービスセンターが患者ニーズに答えられるかどうかは、地元に密着した情報をいかに持っているかだ。ハイ・プレーンズ地区事務局では、情報収集のためだけに1.5人に該当する人員を充当し、地域情報5900件のデータベースを構築している。地元の経済的支援制度、物的支援制度、交通支援、がん検診補助などの制度を紹介する。交通支援では、例えば「次の外来通院の際に自家用車で送迎してくれるボランティアをあっせんする」といった、きめ細やかなサービスができる。

 この地区センターでは、掛かってきた電話に受身で応答するだけでない。電話してきた問い合わせ者に折り返し電話をかける「コールバック・プロジェクト」を進めている。今年4月の実績を見ると、掛かってきた電話が約1400本であるのに対し、掛けた電話が約3600本だ。そして、サービスあっせん件数が約400件となっている。すなわち、掛かってくる電話の2.5倍の電話を掛け、掛けた電話の10%あまりで何らかのサービスを提供できている。この地区事務局では、「地区内の新たにがんと診断される患者の半分とコンタクトをとる」を目標としている。患者支援サービスを実施しているだけで貢献できていると考えるのは自己満足で、サービスは使われてこそ患者の生活の質(QOL)向上につながる。だから、ACSは、患者全数の何%にサービスを提供できたかで、自分たちの使命が果たせているかを計測しようと考えているのだ。

 ACSは、患者の悩みは、「医療」に関する情報、経済的な問題など「生活上の問題の解決策」、「こころのケア」――の3つの要素の“三角形”になっていると考える。また、中央センターによる一般情報と地域センターが提供する個別情報の両方があいまってこそ、患者にとっての本当の問題解決につながる三角形の情報が提供できると捉えている。

できるか、日本のコールセンター
 日本では、6月15日に「がん対策推進基本計画」が閣議決定され、「すべてのがん患者・家族の苦痛の軽減・療養生活の質の向上」が全体目標のひとつに掲げられた。また、そのために、「がん医療に関する相談支援・情報提供」を強化することになっている。しかし、米国など多数の国で有効性が高く評価されている大規模コールセンターに関しては、実現の動きが見られない。がん患者団体からコールセンター設置を望む声も強い。「がん患者団体支援機構」や「血液疾患広場つばさ」などが、厚生労働省や国立がんセンターにコールセンターを要望している。

 厚生労働省は、がん拠点病院に設置された相談支援センターによって、患者や家族の悩みを受け止めることを主眼としており、コールセンターの設置に関しては冷淡だ。ところが、全国の相談支援センターの多くが形だけは開設しているが、実際上は十分に機能しないままであるのが現状。行われている回答の内容や質もばらばらの状態だ。予想以上に相談支援センターの整備は難航しているといえるだろう。面談サービスもできる相談支援センターが、患者相談のために必要性が高いことには疑いの余地がないが、コールセンターが必須であることもまた間違いがなさそうだ。

 コールセンターを求める声が強いものの、全国的なコールセンターがなかなか立ち上がらない現状のなか、都道府県が現在策定している「都道府県がん対策推進計画」の中に地域コールセンターの設置を盛り込むところが出てくる可能性もある。今後とも、海外事例を参考にしつつ、日本のコールセンターのあり方を検討していくことが大切だ。

(埴岡 健一)

●表2 米国がん協会(ACS) 全米がん情報センター(コールセンター)の歴史
・1997年1月 開設
・1998年3月 365日24時間サービス開始
・1999年10月 月間10万コールを記録
・1999年9月 スタッフ数370人
・1999年 年間電話数100万件突破
・2000年5月 禁煙電話サービス開始
・2002年8月 臨床試験マッチングサービス開始
・2003年9月 電話応答支援新コンピューターシステム導入
・2005年3月8日 1日電話本数8962本の新記録
・2006年12月 新施設に引越し

〔参考サイト〕
米国がん協会(American Cancer Society)
(ツアーに参加した患者団体)
女性特有のガンのサポートグループ オレンジティ
癌と共に生きる会
声を聴き合う患者達&ネットワーク「VOL-Net」

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