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レポート

2007/7/17

乳がん診療ガイドライン

乳がんガイドライン改訂版を読み解く

 この6月、乳がん診療ガイドライン(薬物療法)が3年ぶりに改訂された。今回の改訂では、大幅に内容が変わり分量も増加した。改定のポイントを読み解きたい。




 今回の改訂で最初に目につくのは、「治療の基本原則」という項目が新しく加わったことだ。この基本原則では、最初の薬物療法を選択する際に、ホルモン受容体やHER2の発現状況、再発リスクなどを科学的に評価した上で、治療法を選択すべきとの原則を示している。乳がんはがん細胞の種類で分類すると、1種類の病気ではなく、ホルモン感受性やHER2発現の異なる複数種類のがんの総称であるとの考えが、欧米では定着してきている。今回の日本のガイドラインにおいても、基本原則として、乳がんの種類を確定した上で治療選択を行うことが示されたといえる。

 加えて「治療の基本原則」には、転移・再発後の薬物療法においては、患者の価値観を重視して、生活の質(QOL)を落とさない配慮が必要とされた。新規乳がん治療薬の実用化により、転移・再発後の予後は確実に伸びている。この基本原則では、ただ単に生存期間を延長するのではなく、QOL(生活の質)の改善と維持への配慮が必要であることが明言された。

HER2陽性乳がんへのトラスツズマブ術後投与を推奨
 今回の改訂の一つの目玉といえそうなのは、HER2陽性乳がんに対して、トラスツズマブの術後投与は有用とした部分。推奨グレードBで「HER2陽性早期乳がんに対してトラスツズマブ投与は有用」としている。これは、トラスツズマブを術後補助療法に加えることで再発率は有意に減少し、生存期間も改善されることが明らかになった研究成果を受けたものだ。

 ただし、海外においても早期乳がんに対するトラスツズマブ投与の歴史は浅く、長期の安全性は不明としている。トラスツズマブ投与により、心筋障害や不整脈が増加する可能性があることから投与は慎重に行うべきであり、定期的な心機能の観察が必要としている。

 現在国内では、トラスツズマブの投与は、再発・転移性乳がんを対象に保険収載されているのみであり、手術可能な早期乳がんに対する術前・術後投与は、適応拡大の申請が出されているのみで、承認されていない。そのため、今回のガイドラインでは、保険適応外の使用が推奨されたことになる。

 同ガイドラインの作成委員会の委員長を務めた浜松オンコロジーセンターの渡辺亨氏は、「今回のガイドラインは、保険収載の有無は考慮せず、科学的エビデンスを根拠に決めた」ことを理由に挙げている。

 トラスツズマブの術前・術後投与の承認は早くて来夏頃と予測されている。そのため、それまでの期間、今回、改訂されたガイドラインに従い、術前・術後にトラスツズマブの投与を希望する場合は、トラスツズマブの薬剤費は原則的に全額自己負担となる。

 「薬剤費を自己負担した場合、トラスツズマブは半年で300万円、一年間では600万円と高額」と指摘するのは、日本乳癌学会理事長で川崎医科大学乳腺甲状腺外科教授の園尾博司氏。保険収載された後も、トラスツズマブの薬剤費は依然高額だ。

 今回のガイドラインは、『効果も高ければ、値段も高い』トラスツズマブの利用拡大を推進することになり、乳がん患者において、高額治療費という頭の痛い問題がより広がることになりそうだ。

タモキシフェンを超えたアロマターゼ阻害剤
 今回の改訂のもう1つの目玉は、アロマターゼ阻害剤の利用に関するものだろう。

 改訂前では、閉経後のホルモン感受性早期乳がんに対する術後療法の第一選択薬はタモキシフェンであり,アロマターゼ阻害薬はタモキシフェン投与が不適切である症例に限って推奨されていた。

 しかし今回の改訂により、アロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、レトロゾール)の5年投与は、タモキシフェンの5年投与に比べて、無病生存期間を改善することが明記された。ただし、全生存期間に関しては明らかではなく、高度の骨粗鬆症や関節症状、心血管障害がある場合など、アロマターゼ阻害剤が適当でないと判断される場合は、タモキシフェンの5年投与が推奨されるとなっている。

 加えて、タモキシフェン2〜3年投与後にアロマターゼ阻害剤を順次投与すること(推奨グレードA)、タモキシフェン5年投与後にアロマターゼ阻害剤を投与すること(推奨グレードB)も、今回、新しく推奨された。

専門家の意見が割れる項目も
 今回の改訂では、推奨グレードDの項目が増えたことも特記に値しそうだ。しかも、この推奨グレードDに関しては、専門家のなかでも意見が割れる項目がある。

 特に物議をかもしているのは、乳がん肝転移に対する動注化学療法に対する推奨だ。前回の推奨Cから推奨Dに引き下げられ、「行うべきではない」と明記された。その理由として、静注化学療法と比較した試験がなく、明確なエビデンスが無いこと、カテーテルトラブルなどの合併症が多く、医療コストが高いことなどが挙げられている。

 しかし、カテーテルトラブルなどの合併症は、手技に熟練した医師が行うかどうかに依存することが多い。そのため、「ガイドラインで(一律に)やるなと禁止するのはおかしい」と日本乳癌学会評議員の一人は語っていた。

(小板橋 律子)


●推奨グレードの定義
A 十分なエビデンスがあり、推奨内容を日常診療で積極的に実施するよう推奨する。
B エビデンスがあり、推奨内容を日常診療で実践するよう推奨する。
C エビデンスは十分とはいえないので、日常診療で実施する際は十分な注意を必要とする。
D 患者に害悪、不利益が及ぶ可能性があるというエビデンスがあるので、日常診療では実践しないよう推奨する。

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