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レポート

2007/7/17

日本列島がん対策・現地レポート(1) 〔島根県〕

患者の想いは日本一 -- 「患者サロン」で悩みを受け止め

 日本列島各地で創意工夫に満ちたがん対策が進み始めた。国のがんマスタープランである「がん対策推進基本計画」が策定された後は、各都道府県が主体となって対策を進め、国の計画に盛り込めなかったことも含めて、地域発で発信する段階となる。実際のところ、各地で創意工夫に満ちた多くの試みが始まっている。そうした動きのあるところを訪問して現地リポートをしていきたい。第一弾は「患者の意気込みの強さは日本一」という島根県からお届けする。




 島根県内には、患者が患者と話をするために、患者関係者が運営する「がん患者サロン(以下、サロン)」がすでに13カ所ある。島根県庁のホームページにサロンの一覧があるが、そのひとつひとつに個性がある。

 13カ所のうち6カ所は地域がん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院)の中にある。2カ所は地元の病院内にある。5カ所は公民館など病院の外にある。病院内が集まりやすいという利点もあるが、病院内では気が晴れない人もいる。両方あることは患者に選択肢を与える。サロンはだいたい週に1〜2回、2時間程度開かれる。若い乳がんの患者さんが多いサロンもあれば、比較的高齢者が集まるところもある。女性専用日を設けるところもある。基本的に世話人の患者経験者がいて、そこに患者さんが集まって自由に話をして帰るというスタイル。なかにはメディカル・ソーシャル・ワーカーや医師が立ち会うところもある。

サロンで患者さんの話を聞く佐藤愛子氏
写真1●サロンで患者さんの話を聞く佐藤愛子氏

 7月初め、出雲市にあるサロン「ちょっとよって見ませんか」に立ち寄った。サロンを立ち上げたのは佐藤愛子氏(写真1)。2005年6月に亡くなった佐藤均氏の奥さんだ。均氏は、島根県から東京にがん治療に通いながら、抗がん剤の早期承認を訴えて署名活動をし、大臣に陳情をするなどして、広く社会にがん対策の必要性を知らしめた。夫の没後、しばらくは気が抜けたようになっていた愛子氏だが、2006年4月には自宅そばにサロンを立ち上げた。

 愛子氏とサロンに着くと、一人の来客があり、サロン常駐者が話し相手になっていた。進行がんで、医師に「治癒のための治療はもうない」と言われたという若い男性だ。無口でぽつりぽつりと自分のこれまでの治療経過や現在の体調などについて語る。愛子氏はそれをそっと聞いている。そのうち、「こんなサロンってたくさんあるのよ。明日、別のサロンでイベントがあるから行ってみようか」と話題を振る。患者さんは「そうなんですか」と、少しためらっている。「たとえば、奥さんもいっしょに行ってもいいのよ」と愛子氏は語りかける。「とりあえず一人で行こうかと思いますけど」と患者さん。そうこうするうちに、待ち合わせていっしょに出かけることになり、携帯電話の番号も聞いた。患者さんに、少し笑いも出はじめた。愛子氏は患者さんが少しでもいい日を過ごせたらと願っている。

サロンのネットワークで患者を支える
 愛子氏のサロンは、平日の11時から17時まで開いている常設型だ。がんの医療関係者や患者関係者の中では愛子氏は有名人。地元に広いネットワークを持っている。その人脈を活用して、一人ひとりの患者さんに時間や手間を省みず、とことん相談に乗る。自分で解決策を探すだけでなく、先の例のように、他のサロンに顔を出すことも積極的に勧める。あちこちのサロンを訪ねることで、自分と似た状況の患者さん、話しやすくて気が合う人などが見つかる可能性があるからだ。島根では、出雲市内に3カ所、松江市内に4カ所と、たくさんのサロンがある。これだけの密度で配置されていると、患者さんが自分にぴったりくるサロンを選択できる可能性が高まるわけだ。

サロンでおしゃべりする患者さんたちは明るい(島根大病院のサロンで)
写真2●サロンでおしゃべりする患者さんたちは明るい(島根大病院のサロンで)

 出雲市にある島根大病院の「ほっとサロン」(写真2)も訪問した。患者さんの希望を受けて愛子氏が病院長に要望して実現した。世話人のがん経験者2人がいる。患者さんが三々五々集まってきて、とても賑やかだ。世間話に花が咲き、笑いが絶えない。代表の多久和和子さんはがん経験者。「自分が闘病しているとき、他の患者さんと話をしたいと思った。そんな場所が実現してうれしい。先日は温泉旅行をし、みんなで傷をみせあうなど、楽しく過ごしました」と語る。

 出雲市から東に約1時間、松江市に移動して松江市立病院の「ハートフルサロン松江」(写真3)も訪ねた。ここの代表は、すい臓がんと闘っている三成一琅氏だ。三成氏は病院との連携を重視する運営方針をとっている。毎週火曜日の午後1時から3時まで開かれるサロンには、メディカル・ソーシャル・ワーカーの原敬氏も参加する。また3時から4時までは運営会議が行われる。三成氏ら患者側と病院側の原氏などの担当者も出席し、患者ニーズのチェックや病院の改善事項なども検討する。三成氏は、病院とのコミュニケーションを欠かさないように心がけている。

松江市立病院のサロンではソーシャルワーカーも参加する(左は代表の三成一琅氏、右はソーシャルワーカーの原敬氏)
写真3●松江市立病院のサロンではソーシャルワーカーも参加する(左は代表の三成一琅氏、右はソーシャルワーカーの原敬氏)

 県もサロンの後押しをしている。今年度の県予算で、「がん患者団体を支える人材育成支援事業」として166万円が確保してある。県庁健康福祉部医療対策課の村下伯氏は、「今年の秋ごろに、サロンの代表者が集まる勉強会をしたい」とする。サロンの間のノウハウの交換をおこなう一方、サービスの質のチェックなども進め、サロンの機能をより高めていく考えだ。

 サロンの新しい可能性も見えてきている。まず、医療者の教育に活用され始めた。島根県立短期大学看護学科准教授の平野文子氏は、看護学生をサロンに行かせて、患者の話を聞かせる。患者会のイベントでは、看護学生のボランティアがお揃いのTシャツを着て会場運営を協力する光景が見られる。また、初期臨床研修の医師が出雲保健所で研修する際に、島根大病院のサロンを見学するようになった。また、医師がサロンで医療講演を行うことも増えている。サロンを介して医療者と患者の交流が深まる兆しが見られるのだ。さらに、地元の中学生が「いのちの授業」をサロンで受け、患者さんの話を聞くという例も生まれ、地域コミュニティーの中でサロンが多様な役割を果たすようになってきた。地域としてがんを受け止め、がんやいのちのことを学ぶためにも、サロンは有効かもしれない。

政治家も意欲的に取り組む

7月1日に開催された「がんをいっしょに考える集い」(左から医師の平岩正樹氏、県議の佐々木雄三氏、出雲市議の寺田昌弘氏)
写真4●7月1日に開催された「がんをいっしょに考える集い」(左から医師の平岩正樹氏、県議の佐々木雄三氏、出雲市議の寺田昌弘氏)

 島根県では地元の政治家も熱い。7月1日に出雲市で開かれた「がんをいっしょに考える集い」(写真4)で挨拶に立った島根県議会の佐々木雄三氏は、「命の重さに格差があってはならない。東京で治って、島根で治らないということがあってはならない」と訴えた。「県議会のがん対策議員連盟を立ち上げた。佐藤均さんとの出会いで多くのことを教えられた。彼が生きている間に実現できなかったことを、彼の遺志を継いで進めていきたい」とも語った。島根県では昨年9月に全国地方自治体ではじめて「がん対策推進条例」を成立させている。これが高知県の「がん対策推進条例」の制定につながり、いま北海道の条例制定運動にもつながっている。

 出雲市の市議会も2007年2月20日に「がん撲滅条例」を制定した。7月1日のイベントで挨拶をした出雲市議会議員の寺田昌弘氏は、「島根県下のすべての市町村に同様の条例を制定してほしい」と述べた。形だけの条例というのではない。出雲市は2007年度の予算で島根大病院を支援するための資金、2900万円を確保した。腫瘍学講座の設置を支援するのだ。

 7月3日には、県議会議員や地元医療関係者などが中心となって、「がん基金」を設置することになった。島根難病研究所が事務局になり、3年間で7億円を目標に募金を集める。県内6カ所の拠点病院の医療機器整備に役立てようというもので、財界、政界、行政、県民が一丸となってがん医療の充実を目指す。県知事も賛同人に名を連ねる。

行政と患者が良好な関係を維持
 島根県では患者と行政が良好な関係を維持している。2年間、地元のがん対策運動をウォッチしてきた毎日新聞社松江支局出雲駐在記者の細川貴代氏は、「島根の特色は、患者、医療者、行政、研究者などがよい関係を維持していること。お互いのプライドを尊重しつつ進めている。患者も要求を突きつけるというより、うまく自分たちの活動の中に医療者や行政を巻き込んでいる」と解説してくれる。これも患者リーダーの姿勢によるものだろう。

行政や医療者との信頼関係を重視しながらがん対策を訴え続ける三成氏
写真5●行政や医療者との信頼関係を重視しながらがん対策を訴え続ける三成氏

 県庁もがん対策に意欲的だ。もっとも、これは一朝一夕にできたものではない。三成氏(写真5)は、月に3回ほどのペースで県庁を訪れる。時間の約束をとって行くときもあれば、ふらりと現れることもある。もちろん県庁担当者も歓迎する。情報交換、意見交換などを密接に行っている。三成氏は「敵対関係にならない。いっしょにやっていくというスタンスを大切にしている」とそのモットーを語る。ただ、ソフトなだけではなく、粘り強く要望を語り続ける。同時に行政の事情も聞き、折り合い点を探すこともする。

 県庁もうでを始めた最初のころは、「何をしにきたのか、といった雰囲気だった」と三成氏。それが、今ではみんながにこやかに迎えてくれる。行政担当者もスタンスがガラリと変わった。「意気に感じて、喜んでやってくださっているのが分かる。互いの役割分担も相談する。たくさん知恵も付けてくださる。いっしょに作っていきましょうという姿勢を感じる」と喜ぶ。一方で、「がん対策基本法とがん対策推進基本計画ができて、行政担当者もそれを実行していく責任が生じて、どうしたらいいのか悩み、患者会を頼ってきているわけだ。もちろん、できるだけ協力していく」と、冷徹な見方も失わない。信頼関係に基づいた、相互利益の関係構築が進んでいる。

島根モデルを示せるか
 三成氏は国のがん対策を審議するがん対策推進協議会の委員だ。がん患者関係者から4人選ばれたうちの一人だが、唯一、地方から選ばれた。島根県の実績と患者と行政などの関係作りが評価され、国から島根県が一つのモデルとして見られていると考えられる。

 7月11日、「がん対策推進基本計画に関する都道府県説明会」が東京で開催され、47都道府県すべての幹部が集まった。厚生労働省から計画の趣旨、委員意見集の内容、当面のスケジュール、医療計画とがん計画の関係などの説明があった。その場で、島根県の行政と患者代表の良好な関係を示すシーンがあった。

 島根県から出席した村下氏が、厚労省の説明の後の質疑の時間に挙手をして尋ねた。「がん対策推進協議会には当県からは三成委員が参加した。その三成委員らが作成して提出した資料の中に、対策とそれぞれの当事者の役割を示した表(資料の5〜7ページ)がある。こうした計画の立案は大変有効だと考えるが、厚労省はどのようにお考えか」。それに対して、厚労省がん対策推進室長の武田康久氏は、「そうした方法も有効である可能性があり、参考にしていただければと考えて、資料集に入れてある」と答えた。村下氏は、「島根県は、この表のような形で県の対策をまとめたい。三成氏が参加して作ったよい提案を、他の県も参考にすればいいと思って質問した」と語る。

佐藤均氏の霊前にこのところのがん対策の進展を報告する佐藤愛子氏
写真6●佐藤均氏の霊前にこのところのがん対策の進展を報告する佐藤愛子氏

 島根では佐藤均氏の後に均氏の影響を受けた三成氏や、県西部の益田市の納賀良一氏などのリーダーが続々と現れた。そして、均氏の遺志を継ぐ愛子氏を支援する機運も強い(写真6)。島根の患者関係者の間では、しばしば「島根の意気込みは日本一」といわれる。そして、患者を先頭に政治家、行政、医療現場などが連携して動く良い連鎖が生まれている。7月1日のイベントで講演した医師の平岩正樹氏は、「ここまできたら都会並みの医療を目指すというのではなく、他の県から、いや海外からも患者がやってくる病院を創造するというぐらいの気概でやってほしい」とエールを送った。日本全国をすぐに動かすのは難しい。人口が数百万人の都市を変えるのは大仕事だ。だが、むしろ人口の少ない県の方が、まったく新しいがん診療モデルを示せるのではないか。そんな期待が高まる。

 県庁のホームページでは「しまねのがん対策」コーナーを作り、患者サロンの案内や県のがん対策の概況を解説するなど、積極的なPRを繰り広げている。来年度予算策定に向けて、県では各対策の強化に取り組むつもりだ。今秋ごろに県のがん対策推進計画を検討する県のがん対策推進協議会も設置する予定だ。その際は、がん患者関係者の代表もメンバーに入れる。がん対策の先進県として全国から注目される島根県だが、本当にがん診療全体を向上させることができるのか、作成される県計画がその試金石になりそうだ。

(埴岡 健一)

年表●島根県内の主ながん対策活動など
2003年 8月28日 佐藤均氏、県議会に署名を添え請願書提出
9月10日 佐藤氏、要望書を県知事に提出
9月 県は島根大医学部に腫瘍科の設置などを要請
10月2日 県議会、佐藤氏の請願書を採択
10月2日 県議会、意見書を衆参議員議長、内閣総理大臣、厚労大臣などに提出
2004年 1月 佐藤氏が厚労省に要望書提出
4月 島根大病院に診療科として腫瘍科が設置
5月 佐藤氏、文部科学省に要望書
2005年 1月 県内の拠点病院が6カ所に
4月 県ががん診療ネットワーク事業開始
6月 佐藤氏死去
7月 島根大病院腫瘍科に専任医師1人
12月 島根大病院腫瘍科に2人目の専任医師
12月9日 納賀良一氏が「がん患者交流サロン」(益田市)を開設
2006年 2月25日 納賀氏、佐藤愛子氏、三成氏、佐々木県議が県部長に面会。県に提案書
3月15日 松江赤十字病院に「くつろぎサロン」が開設
4月1日 佐藤愛子氏が「がん情報サロン ちょっと寄ってみませんか」(出雲市)を開設
4月12日 佐藤愛子氏らが文部科学大臣に要望書
6月29日 納賀氏、佐藤愛子氏、三成氏、佐々木県議が県部長に面会。2月の提案書への県からの回答書
7月3日 島根大病院に「ほっとサロン」(出雲市)
7月4日 松江市立病院に「ハートフルサロン松江」開設
7月18日 益田赤十字病院に「がん患者サロン」開設
8月4日 県立中央病院に「がん患者サロン」(出雲市)開設
8月23日 がん患者サロン代表、島根県、がん拠点病院の意見交換会開催
8月25日 国立病院機構浜田医療センターに「サロンひまわり」(浜田市)開設
8月30日 邑南町に「がん患者サロン」開設
9月25日 島根県がん対策推進条例が全会一致で可決、29日に交付
2007年 1月 「がんサロンおおだ」(大田市)が市民センター内で開設
1月19日 「がんをいっしょに考える集い」開催
2月20日 出雲市で「がん撲滅条例」制定
7月1日 「がんをいっしょに考える集い」開催

※「日本列島がん対策・現地レポート」は、随時、掲載する予定です。


〔参考サイト〕
島根県(しまねのがん対策)
がん患者サロン一覧

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