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レポート

2007/7/10

「がん対策推進基本計画」で、がん対策が変わる

がん患者の意見が随所に…今後の実践が課題

 日本のがん対策のマスタープランである「がん対策推進基本計画(以下、基本計画)」が閣議決定されて1カ月がたったが、まだその内容は十分に浸透していないようだ。そこで、基本計画の意義と要点をここで整理しておこう。基本計画策定のプロセスでは、がん患者・家族の声が尊重され、原案から内容が大きく進歩した。また、患者や市民の役割も随所に書き込まれた。これから主たる舞台は、各地での「都道府県がん対策推進計画(以下、県計画)」の策定の場に移る。基本計画で描かれたビジョンを県計画で実践に移せるか、ここでも患者関係者の動きがカギを握っている。




 「がん対策推進基本計画(以下、基本計画)」の内容は「予想以下」だったか、「予想以上」であったか――。がん患者団体の関係者約20人が集まった勉強会の席上で尋ねてみた。すると、大方の人が「予想以上」だったと基本計画をおおむね評価していた。一方で、「具体策が書いていない」「絵に描いた餅だ」といった厳しい声も多い。いったい基本計画の内容をどのように評価すればいいのだろうか。そして、今後はどこに注目するべきなのだろうか。

 それを考える前に、まず基本計画の概略を押さえておこう。基本計画の骨格は、全体目標と個別目標からできている。全体目標1は、「がんによる死亡者数(年齢調整済、75歳以下)を2割削減する」で、全体目標2は、「すべてのがん患者と家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持や向上」だ。そしてこれらの全体目標を達成するために、「放射線療法・化学療法の推進と医療従事者の育成」「相談支援と情報提供」など、10分野の個別目標が設定されている(本文末尾の表2)。

 基本計画全文は、厚生労働省のホームページに掲載されている。これから5年間のがん対策の枠組みを示しており、自分たちが受けるがん診療がどのように変化するかのイメージも与えてくれる。がん対策やがん診療に関心があるすべての患者関係者に必読の資料といえる。約40ページとかなりのボリュームがあるが、一読をお勧めしたい。なお、最初に断っておかなければならないのは、筆者も基本計画を審議した「がん対策推進協議会(以下、協議会)」のメンバーであったことだ。できるだけ内容が充実するように努めたつもりだが、基本計画が不十分な点に関しては相応の責任を負わなければならないことを申し上げておく。

原案と成案の比較で見えること
 さて、上記のような内容が盛り込まれた基本計画だが、それをどう採点・評価すればいいのか。それには、原案から成案への変化をたどってみるといい。協議会では、まず、4月17日の第2回会議で「がん対策推進基本計画イメージ(たたき台)」が出され、5月18日の第4回会議で「がん対策推進基本計画(事務局案)」となり、5月30日の第5回会議で「がん対策推進基本計画(案)」となり、若干の修正を経て成案となって6月15日に閣議決定された。この間、特に4月17日のたたき台から5月18日の事務局案には、大きな進歩があった。この経過は、協議会の議事録(7月10日現在、5回のうち2回までが掲載済)をたどれば詳細が確認できる。ここでは、原案と成案を比較対照し、主な相違点を見ておこう。

 まず、基本認識に変化があった。たたき台では、「がん対策はこれまでうまくいっていたが、高齢化もありがん患者が増えるので、さらに対策を強化しよう」といったスタンスだった。しかし、がん対策基本計画が制定され、基本計画が策定されるようになったのは、がん治療の施設格差や地域格差が指摘され、適切な治療が受けられずに施設を探し回る"がん難民"が社会問題化したからだった。

 そこで、成案では"反省"を示す次のような記述が入った。「がん患者を含めた国民は、がんに関する様々な情報に触れ、がん医療に対して期待や希望を寄せ、また、がん医療に参加したいという希望を高める一方で、がん医療の水準に地域間格差や施設間格差が見られ、標準的治療や進行・再発といった様々ながんの病態に応じたがん医療を受けられないなど、実際に提供されるサービスに必ずしも満足できず、がん患者を含めた国民の立場に立って、こうした現状を改善していくことを強く求めている」(基本計画2ページ18行〜)。

 また、患者中心のがん医療というコンセプトも明確化された。「がん患者の意向を尊重したがん医療の提供体制の整備」(同5ページ8行〜)、「がん対策の恩恵を享受すべきは、がん患者を含めた国民であることは言うまでもない」(同5ページ12行〜)、「国、地方公共団体及び関係者等は、がん患者を含めた国民が、がん対策の中心であるとの認識の下、『がん患者を含めた国民の視点』に立って、がん対策を実施していく必要がある」(同5ページ14行〜)−−などの文言にそれを見て取ることができる。

 “がん難民”になりやすいのは進行・再発がんの患者だった。そこで進行・再発がんの患者のケアを充実させるという観点からの記述が、随所に入れられた。また、こころのケア・全人的ケアについてもしっかりと位置づけられた。その典型例が下記の部分だ。「がん患者の多くは、疼痛等の身体的な苦痛だけでなく、がんと診断された時から不安や抑うつ等の精神心理的な苦痛を抱えている。また、その家族も、がん患者と同様に様々な苦痛を抱えている。さらに、がん患者及びその家族は、療養生活において、こうした苦痛に加えて、安心・納得できる医療を受けられないなど、様々な困難に直面している。こうしたことから、治療の初期段階からの緩和ケアの実施はもとより、がん医療の更なる充実、がん医療に関する相談支援や情報提供等により、『すべてのがん患者及びその家族の苦痛の軽減並びに療養生活の質の維持向上』を実施することを目標とする」(同11ページ16行〜)。

 基本計画については、がん対策を強化するための財政的対応策が不十分であるため、「絵に描いた餅」になりかねないという批判がある。それはその通りなのだが、議論の過程で一歩前進が見られたことも事実だ。地味な表現だが大きな意味があるのが、「放射線療法及び化学療法の推進並びにその専門医等の育成」の項に付け加えられた、「さらに、こうした取組を適切に評価するようなきめ細やかな措置を講じていく必要がある」(同7ページ20行〜)である。この「評価」とは、何らかの放射線療法や化学療法などに対して、健康保険による病院の診療報酬を増やすことを意味しているのである。来年4月に診療報酬の改定があり、その議論が今年の秋から来年初頭にかけて高まる。どのような具体策でどの程度の金額が付けられるかが、注目されるところだ。

 がん対策への政府補助金などの資金配分についは、「必要な財政措置の実施及び予算の効率化・重点化」の項において、「各取組みの着実な実施に向け必要な財政措置を行っていくことが重要である」(同40ページ10行)との文言が入った。たたき台では、効率的な資金利用に重点が置かれた表現だったが、「必要な投資はする」という方に少しだけバランスが移った。政府の来年度予算の策定は現在が山。8月には「概算要求」と呼ばれる厚生労働省としての政府への要求額が示される。この表現の変化によって、来年度予算のみならず基本計画の5年間のがん対策補助金支出額の増額に多少の効果をもたらすはず。また、都道府県の財政スタンスにも少しは影響を与えるだろう。

すべてのがん患者をナビゲートする「がん患者必携」
 個別施策においても多数の進歩点があった。ごく一部だけ、例をあげてみよう。まず、患者への情報提供に関して、「がん患者必携」の作成・配布が盛り込まれた。「がん患者が必要な情報を取りまとめた患者必携を作成し、拠点病院等がん診療を行っている医療機関に提供していく」(同26ページ5行〜)との表現だ。個別目標にも、「患者必携等に含まれる情報をすべてのがん患者及びその家族が入手できるようにすることを目標とする」(同27ページ19行〜)と入れられた。

 「がん患者必携」とは何だろう。基本計画には「がん患者が必要な情報をとりまとめたもの」としか書いてない。しかし、もちろん基本計画の理念に沿ったものであることが必要だろう。基本計画には、「『がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会』の実現を目指すこととする」(同3ページ26行〜)、「がん患者を含めた国民が、進行・再発といった様々ながんの病態に応じて、安心・納得できるがん医療を受けられるようにすること等を目指して」(同10ページ19行〜)、「国民が、がんをより身近なものとして捉えるとともに、がん患者となった場合でも適切に対処することができるようにする必要がある」(同25ページ24行〜)、「がん患者及びその家族は、医療従事者と協力して治療を進め、治療内容について、医療従事者と共有できるようにすること」(同39ページ18行〜)といったことが書かれている。

 「がん患者が必要な情報」というからにはかなり広いトピックが網羅されていることは間違いないだろう。また、すべてのがん患者さんに配布することを目指すのだから、がんの種類、病期などにかかわらず、共通的に必要な事項や役立つ情報が主になっているのだろう。がんナビのコンテンツの中の、「がんを生きるガイド」、「がん患者さんと家族のためのQ&A集」、「役立つリンク」、「患者会」、「ネットコミュニティー」などにあるような情報も含まれるようになるだろう。国立がんセンターのがん対策情報センターの「がんとつき合う」コーナーにある「さまざまな症状への対処」「こころのケア」「食生活とがん」といった内容も盛り込まれるだろう。

 また、別冊として、「私のがんダイアリー(日記)」のような冊子を付けるという議論もある。ここに患者さん服薬歴や体調などを自分で書きこんでいく。また、その冒頭ページには、診断や主な治療歴について簡単に主治医が書き込む欄があるといい。患者はこれを転院してもずっと持ち歩くようにすると、自分の治療内容をよく把握できるようになる。

 「がん患者必携」が作成され、実際にすべてのがん患者さんが持っているようになれば、日本のがん医療文化を変えるインパクトがある可能性がある。(1)インターネットが使えないなどで有益な情報の恩恵にあずかれない"情報難民"を減らす(2)情報提供によって"がん難民"が発生することを減らす(3)患者や家族のがん知識を格段に増やす(4)がん患者必携を使いながら話すことで、医師・患者コミュニケーションを向上させる(5)多くの患者・家族・関係者の目に触れることで、国民のがん意識を向上させる――といった面で多大なる効果があるかも知れない。

がん病院ネットワークの傘の下での治療へ
 がん診療体制に関する個別施策の進歩点としては、「地域連携クリティカルパス」の全面導入が盛り込まれたことがあげられる。「すべての拠点病院において、5年以内に5大がんに関する地域連携クリティカルパスを整備することを目標とする」(同24ページ16行〜)と明記された。5大がんは、胃がん、肺がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん。地域連携クリティカルパスとは、手術や抗がん剤治療や放射線治療をする病院とフォローアップや在宅ケアなどをする医療機関(がん拠点病院、患者の自宅の近くの病院、診療所など)が、患者の治療の進展にしたがってどのように役割分担をしつつ連携するかを描いたチャート図。患者を他の医療機関にバトンタッチをするときに医療機関同士が連絡調整をすることになり、"がん難民"が発生しなくなり、患者にとっては切れ目のない治療が受けられることになる。地域連携クリティカルパスが"がん難民"防止の切り札として位置づけられた。

 また、がんサバイバー(長期生存者)への対応も基本計画に盛り込まれた。これまでは日本のがん医療は、「がんを治そうとすることに精一杯」で、がん治療を一段落した治療経験者や長期生存者に対してほとんど意を払っていなかった。しかし、サバイバーは治療からくる晩期障害や2次がん(がん治療が影響して罹患する別のがん)への不安など、様々な身体的、精神的悩みを抱えており、対策が必要となっている。今回、数カ所に明記されたこともあって、サバイバーへの認識が深まることが期待される。

患者の声が対策強化の原動力に
 では、協議会の審議中の短期間にどうしてこのような前進が生まれたのだろうか。その主な要因には、(1)がん患者関係者の委員が積極的な意見を出した(2)がん対策基本法の制定にかかわった国会議員が関心をもって注視した(3)厚労省の事務局が精力的に作業をした――の3点がある。2カ月半の経過をたどりながら振り返ってみよう(表1参照)。

 
表1●がん対策推進基本計画策定の経緯
4月1日
がん対策基本法施行
4月5日
がん対策推進協議会第1回開催
4月17日
がん対策推進協議会第2回開催 がん対策推進基本計画イメージ(たたき台)
4月25日
国会がん患者と家族の会第1回開催
5月1日
がん対策推進協議会委員意見提出
5月7日
がん対策推進協議会第3回開催
5月10日
山本たかし議員国会質問(厚生労働委員会)
5月18日
がん対策推進協議会第4回開催 がん対策推進基本計画(事務局案)
5月23日
国会がん患者と家族の会第2回開催
5月30日
がん対策推進協議会第5回開催
6月12日
山本たかし議員国会質問
6月15日
がん対策推進基本計画閣議決定

 がん対策基本法にある定めに基づき、協議会にはがん患者関係者がメンバーに加わっている。現在、18人のうち4人が患者関係者だ。このうち海辺陽子氏(癌と共に生きる会)、富樫美佐子氏(あけぼの会)、三成一琅氏(島根県がんサロンNETWORK)の有志3人がスクラムを組み、計画案の大幅修正を求めた。5月1日には事務局案とは別に基本計画の対案を提出した。本田麻由美氏(読売新聞記者)と私も共同歩調をとった。患者メンバー有志3人はがん対策を応援する国会議員とも連携をとり、対策の重要性を訴えた。また、行政の担当者とも密なコミュニケーションをとった。

 次に、国会議員も精力的に動いた。患者メンバー有志との連携で、「国会がん患者と家族の会(以下、国会がん患者会)」がタイムリーに開催された。4月25日には、同会の「第1回がん対策基本計画勉強会」が開催された。多数の国会議員、患者団体、マスコミが参加し、厚生労働省からは健康局長の外口崇氏をはじめ、数人が出席した。基本計画の内容を充実させ、患者の視点をさらに強く盛り込むようにという声が出され、NHKでもその模様が放送された。また、参議院議員の山本たかし氏が5月10日の参議院厚生労働委員会で国会質問し、がん対策基本法が、がん患者の声を受けて成立したものであり、その成立の経緯を踏まえた基本計画とすべきであることを訴え、前向きな答弁を引き出した。

 こうした波を受けて、厚生労働省も対応した。当初、2時間ずつ4回の会議(合計8時間)で計画をまとめる予定だったが、会議回数を増やし時間も延長することで、5回の会議で合計14時間を確保した。委員からの資料提出も積極的に受け付け、省内、省外との調整も精力的に行った。基本計画の内容が一歩進んだのは、患者委員の行動が大きな影響力を与えているのだ。委員がチームを組み、具体的な案を出すことで、たたき台の大幅な書き変えを引き出した。

患者の役割もたくさん明記
 患者の声がたくさん反映されたのと同時に、がん患者や患者団体の役割も多く明記された。まず、「がん患者を含めた国民は、その(がん対策の)恩恵を享受するだけではなく、主体的かつ積極的に活動する必要がある」(同39ページ4行〜)という基本認識が示された。そして、「がん患者及びその家族は、がん医療が医療従事者とのより良い人間関係を基盤として成り立っていることを踏まえ、相互に信頼関係を構築することができるように努めること」(同39ページ15行〜)、「がん患者及び患者団体等は、がん対策において担うべき役割として、医療政策決定の場に参加し、行政機関や医療従事者と協力しつつ、がん医療を変えるとの責任や自覚を持って活動していくこと。また、患者団体は必要に応じて議論を重ね、より良い医療体制を実現するために連携して行動すること。なお、そのためには、行政機関をはじめ社会全体で患者団体の支援を行っていく必要がある」(同39ページ22行〜)――など、具体的なことも記載された。

 情報提供に関しては、「拠点病院においては、がん患者及びその家族に支援を行っているボランティア等の受け入れを行う」(同25ページ21行〜)との記述が入った。また、拠点病院で患者相談の窓口となる相談支援センターにおいて、患者団体等との連携も図ることが盛り込まれた(同26ページ13行)。さらに、「がん患者や家族等が、心の悩みや体験等を語りあうことにより、不安が解消された、安心感につながったという例もあることから、こうした場を自主的に提供している活動を促進していくための検討を行う」(同26ページ16行〜)と、がん関係者のピア・サポート(同じ立場の人の相互支援)が重要であるとされた。がん研究においても、「研究を企画・実施する際には国民の意見をより一層反映するように取り組んでいくことに努める」(同35ページ16行〜)と、研究への患者関係者・国民の参画の必要性が強調された。

残された課題を忘れないように
 基本計画に関しては、たくさんの残課題があるのも事実だ。内容が一歩前進したものの、理想にはほど遠い。盛り込まれなかったことが多くあるし、議論の途中で後退したこともある。

 一番大きな問題は、全体目標の水準が下げられたことだ。今回、「がんの年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少」に設定されたが、従来の目標は「がんの5年生存率の20%向上」だった。今回の目標はがん死亡者数(年間約30万人)の2割削減である。従来の健康フロンティア戦略では、がん罹患者(年間約60万人)の5年生存率の20%向上だった。母数が大きく異なるから、今回の目標は従来より大幅に下げられてしまったと考えられる。従来の目標は与党が中心に策定していったものだが、参議院選挙を控えた時期に、反省も変更の理由の明言もなく、目標を下げてしまうのは好ましいことではないだろう。

 基本計画のビジョンは示されたが、欠けているのは、個々の施策に関して、だれがどの部分を担っていつまでに実施するのか、「実施計画」が伴っていないことだ。今後の進行管理がきっちりと行われることを注視する必要がある。また、県計画においては、実施計画の形式で取りまとめられることが望まれる。

 個別目標の設定においても課題が多い。日本ではがんの罹患と治療成績などの実態や診療体制の現状について十分なデータがないため、具体的な個別目標をたくさん設定すること自体が不可能だった。今後は、実態を把握し、目標設定ができる尺度を作ることが必要だ。

 タバコ対策に関しては、協議会の席上では「喫煙率の半減を目標とする」のコンセンサスが取れたが厚生労働省の意向で基本計画には採用されなかった。喫煙率の削減に関しての目標設定、タバコ価格の値上げや増税などの対策について、継続的議論が必要だ。

 残された課題を知るために重要な参考資料が、がん対策基本計画とは別に作成された「がん対策推進協議会委員からの意見集」だ。これは委員から意見が出ながらも、本編に入れられなかった主な意見を37項目列挙したものだ。今後5年間で基本計画を実施する中で、37項目のうち実施が可能になるものが出てくることが期待される。

患者委員の活躍がカギを握る
 一歩前進はしたものの、「絵に描いた餅」になりかねない基本計画。今後は各都道府県で策定される県計画の内容が注目される。国の基本計画の弱点を補って、県単位で「実施計画」が明確な県計画が策定されるかどうか。県計画を策定する際には、各県でがん患者関係者が参加した県版のがん対策推進協議会に該当するものが作られる。千葉県では昨年から検討が始まっている。東京都では患者関係者委員3人が参加して5月28日と7月3日に2回の会議がすでに開催された。大阪府では患者関係者委員2人を含む委員で7月2日に最初の会議が開かれた。

 国のがん対策推進協議会においてがん患者関係者委員がどのような役割を果たすかについては、その結果が注目されていた。山本たかし氏による6月12日の国会質問に対して、厚労大臣の柳澤伯夫氏は患者委員が一定の役割を果たしていると答弁した。厚労省健康局長の外口氏も、5月25日の国会がん患者会の席上で、患者関係者委員の活動に関してプラスの評価を示した。同じ会で、前厚労大臣の尾辻秀久氏は、「がん患者代表委員が積極的に発言され、自分たちの試案も示されたことで、議論が非常に活発になった」とした。がん対策基本法の制定にかかわった自民党議員の鴨下一郎氏は、先日、都内で行われた公開フォーラムで、「がん対策推進協議会で患者委員が果たしている役割は今後のモデルとなる。患者が当事者意識をもって政策立案に参加する、いわば民主主義の実験ともいえる。この新しい動きを注目してほしい」と語った。患者関係者ががん対策策定にかかわることの評価は高まりつつあり、さらに期待もされるようになる。

 これからの県計画の出来栄えに関しても、各地の患者関係者委員の活躍がその成否のカギを握っている。それだけに、患者委員同士の情報交換や連携をどう促進するかが課題となっている。

(埴岡 健一)


表2●基本計画の全体目標と個別目標
 (全体目標)
1.10年以内に「がんによる死亡者数を20%削減(75歳未満)
2.すべてのがん患者と家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上
 (分野別の個別目標)
1.放射線療法・化学療法の推進と医療従事者の育成
 ・すべての拠点病院において放射線療法と外来化学療法を5年以内に可能とする。
 ・少なくとも県拠点病院・特定機能病院では放射線療法部門と化学療法部門をおく。
 ・抗がん剤などの医薬品について、上市(発売)までの時間を2.5年短縮する。
 ・放射線療法・外来化学療法の実施件数を参考資料として用いる。
2.緩和ケア
 ・10年以内にすべてのがん診療に携わる医師が緩和ケアの基礎知識を身につける(その後、5年以内に前倒し実施することとなった)。
 ・すべての2次医療圏において、5年以内に緩和ケアを習得している医師を増加させ、緩和ケアチームを複数カ所に整備する。
 ・医療用麻薬の使用量を参考指標として用いる。
3.在宅医療
 ・住み慣れた家庭や地域での療養を選択できる患者数を増加。
 ・在宅死亡者割合を参考指標として用いる。
4.診療ガイドラインの作成
 ・作成可能なすべてのがんの種類についてガイドラインを作成する。
5.医療機関の整備など
 ・すべての医療圏において3年以内に拠点病院を整備する。
 ・すべての拠点病院において5年以内に5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)に関する地域連携クリティカルパスを整備する。
6.がん医療に関する相談支援と情報提供
 ・すべての2次医療圏において3年以内に相談支援センターを整備し、5年以内に研修を修了した相談員を相談支援センターに配置する。
 ・がんに関するパンフレットの種類を増加させ、それを配布する医療機関の数を増やす。
 ・パンフレットやがん患者が必要な情報を取りまとめた「患者必携」をすべてのがん患者と家族が入手できるようにする。
 ・拠点病院の診療実績、専門医、臨床試験の実施状況などの情報を充実させる。
7.がん登録
 ・すべての拠点病院における院内がん登録の実施状況を把握し、その状況を改善する。
 ・5年以内にすべての拠点病院において登録実務者が研修を受講する。
 ・がん登録に関する国民の認知度調査を行い、がん登録のあり方を検討し、課題と対応策を取りまとめる。
8.がんの予防
 ・すべての国民が喫煙の健康影響に関して十分に認識すること。
 ・受動喫煙防止対策を実施すること
 ・未成年者の喫煙率を3年以内にゼロとすること。
 ・「健康日本21」計画にある食生活の改善を達成すること。
9.がんの早期発見
 ・がん検診の受診率を5年以内に50%以上(乳がん健診、大腸がん検診等)とする。
 ・すべての市町村において、精度管理・事業評価が実施され、科学的根拠に基づくがん検診が実施される。
10.がん研究
 ・全体目標を実現するためのがん対策に資する研究をより一層推進する。

〔参考サイト〕
がん対策推進協議会
国会がん患者と家族の会

[訂正]12月5日に以下の訂正をしました。

・「表2●基本計画の全体目標と個別目標」の(全体目標)の1の項目、(75歳以上)を(75歳未満)に修正しました。

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