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レポート

2007/7/3

治療前の選択肢

がん治療後の妊娠・出産のために

 がん治療の副作用として、治療終了後の不妊や子供への悪影響を危惧する若い女性患者は多い。どのような影響が残り、どのような対策があるのだろうか。今ある選択肢についてレポートする。




 がん治療と妊娠・出産の関係をひと言で表現すると、『がんが治り生理もあれば、妊娠・出産は普通にできる』となる。がん治療は終了してしまえば、将来の胎児に悪影響が残ることはなく、また、妊娠・出産ががんの再発リスクを高めることもない。

 ただし、妊娠・出産が普通にできるためには、『生理もあれば』という条件が付いてくるのだ。これは、抗がん剤や放射線治療に閉経を引き起こす副作用があるため。抗がん剤の投与開始と共に生理が止まることはよくあることで、なかには抗がん剤の投与が終了しても生理が戻らず、そのまま早期閉経してしまうことがある。また、卵巣に放射線が照射された場合、卵巣の機能が著しく低下し閉経してしまうこともある。

 早期閉経が生じる可能性は、抗がん剤の種類や量、治療を受ける年齢によって決まることが知られている。白血病の治療として骨髄移植を受けるような場合が最も高く、早期閉経の生じる可能性は約8割。一方、乳がんの抗がん剤治療で現在、最も一般的なアンスラサイクリン系抗がん剤では、30歳代で1割、40歳代の3〜4割に早期閉経が生じる。

 早期閉経した場合の最大にして唯一の問題は、卵子が作れなくなること。卵子さえあれば、現在の医療技術では、閉経後の子宮でも人工的に受精卵を着床させることは可能であり、妊娠、出産できる。

 そのため、現在、がん女性患者のための生殖機能温存の選択肢には、抗がん剤による卵巣への副作用を予防する方法と、抗がん剤や放射線にさらされる前に卵子(未受精卵)や卵巣の一部を採取し、凍結保存するという方法がある。

 「乳がんのように早期閉経のリスクがそれほど高くない場合の最初の選択肢となり得るのは、抗がん剤にLH-RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アゴニスト製剤を併用し、抗がん剤による卵巣への副作用を予防する方法」というのは聖路加国際病院女性総合診療部の塩田恭子氏。塩田氏は、癌治療者のためのリプロダクション外来(リプロ外来)を担当している。性腺刺激ホルモン放出ホルモンとは、乳がんや子宮筋腫などの治療に用いられる薬剤だ。

 LH-RHアゴニスト製剤による抗がん剤治療後早期閉経の予防効果は、海外の研究成果として1996年に初めて報告され、国内でも抗がん剤と併用する医師が増え始めている。ただし、早期閉経の予防効果がどれだけあるかについては、まだ十分なエビデンスがない。そのため、早期閉経予防を目的としたLH-RHアゴニスト製剤の併用を臨床研究の枠組みのなかで行っている医療機関もある。

 「この治療法は簡単なものなので、特別な医療機関を受診する必要はない」と塩田氏。興味がある場合は、主治医に相談するといいという。

 実は、ホルモン感受性乳がんにおいては、抗がん剤にLH-RHアゴニスト製剤を併用することで再発予防効果が高まるという報告もある。ホルモン感受性乳がんにおいて、化学療法とLH-RHアゴニスト製剤を併用することは、再発抑制と早期閉経予防の2つの効果が期待できる可能性もあるわけだ。

 ただしLH-RHアゴニスト製剤を併用しても、必ず早期閉経を予防できるというわけではない。加えて、日本乳癌学会の最新の診療ガイドライン(薬物療法、2007年版)では、閉経前のホルモン非感受性乳がんに対して、LH-RHアゴニストを化学療法と併用することに関する安全性のエビデンスは不十分であるとしており、推奨グレードはC(エビデンスは十分とはいえないので、日常診療で実施する際には十分な注意を必要とする)となっている。すなわち、効果に加えて、安全性も十分に保証されていない方法であることを十分理解する必要があるわけだ。

 一方、「早期閉経のリスクが高い場合は、卵子や卵巣の一部を保存することも選択肢となる」と塩田氏。

未受精卵の凍結保存という選択肢
 保存しておいた卵子を用いた妊娠・出産は、既に生殖医療として広く行われているものだ。そのためか、「生殖医療を専門とする個人病院で、がん患者の卵子を採取・保存している場合があると聞く」と塩田氏。

 卵子を採取する際には、通常は排卵誘導剤が利用される。しかし、例えばホルモン感受性の乳がんの場合、排卵誘発剤はがんの増殖を促進する危険性がある。白血病で免疫力が下がっている場合には、感染症を引き起こしやすく特別な注意も必要だ。主治医との連携のない状態で、がん治療と関連のない生殖医療機関で卵子を採取・保存することは「リスキーであり、気を付けた方がいい」(塩田氏)のだ。

 実際、聖路加国際病院では、「ホルモン感受性のがんの場合、がんの増殖を刺激しないように、排卵誘発剤の使用は抑えている」と塩田氏。

 せっかく採取・凍結保存した卵子も、使ってしまえばなくなってしまう。排卵誘発剤を用いた場合でも、凍結保存できる卵子の数は最高で15個程度。排卵誘発剤を用いない場合は、数個しか採取できない場合もある。1個の卵子から妊娠できる可能性は約2%しかない。そのため、卵子を保存しておいたからといって妊娠できるとは限らず、妊娠できない可能性の方が高いのだ。

卵巣の一部保存という手段も
 卵子の凍結保存の欠点を補う方法として、実施例は全世界でも非常に限られるものの、卵巣の一部を保存する方法も検討され始めている。実際、海外では凍結保存した卵巣から得た卵子による出産例が数例報告されている。

 卵巣の一部を保存する場合、卵巣の採取には腹腔鏡手術が必要になる。治療終了後、再度、元の場所に戻す場合も手術が必要。そのため、体への負担がとても大きな選択肢といえそうだ。ただし、婦人科系がんでの場合は、がん治療の手術の際に、卵巣も一緒に摘出することは難しいことではなく、体への追加的負担もほとんどない。

 さて、保存しておいた卵巣をその後どうするかというと、がんの治療が終了したところで、解凍し、再度、自分の体に移植する。移植する場所はどこでもよく、元の場所に戻し排卵が回復すれば、自然妊娠も可能になるという。

 卵巣の一部にがん細胞が残っている可能性を危惧する場合は、モニターしやすい腕やお腹の皮下に移植する。腕やお腹の皮下に移植された卵巣中で、卵子は毎月自然に成熟する。成熟した卵子のある場所に針を刺して採取し、その卵子を用いて体外受精した上で、子宮に戻し着床すれば、妊娠が成立だ。

 ちなみに聖路加国際病院における卵子の採取費用は、自由診療で行われており25万円。卵巣の一部の採取と凍結保存は60万円だ。同病院で卵子を凍結保存中の患者は、3〜4人程、卵巣の一部保存はこれまでのところ希望者はいないという。リプロ外来を受診する患者の6〜7割が乳がんで、残りは婦人科系がんや白血病となっている。

(小板橋 律子)


将来の妊娠・出産に備えたがん治療開始前の選択肢
長 所
短 所
抗がん剤とLH-RHアゴニスト製剤の併用 生殖医療の専門医療機関の受診が不要、早期閉経を予防できる可能性ある(エビデンス不十分) 生理が回復しない可能性あり、副作用として更年期障害(ホットフラッシュや多汗など)、抑うつ症状が生じる可能性あり
卵子(未受精卵)の凍結保存 早期閉経のリスクが高い場合でも、妊娠・出産できる可能性が残る 生殖医療の専門機関の受診が必要、採卵に身体的負担有り、保存卵子で妊娠を試みても妊娠できない可能性あり
卵巣の一部の凍結保存 早期閉経のリスクが高い場合でも、妊娠・出産の可能性が残る。妊娠できる可能性は、卵子の凍結保存よりも高い 全世界で前例はほとんどなく、研究的段階。手術が必要なため体への負担が大きく、数日の入院が必要

〔参考サイト〕
日本癌治療学会の悪性腫瘍治療前患者の配偶子凍結保存に関する倫理委員会の見解

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