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レポート

2007/6/26

アメリカ乳がん事情レポート:連載5 (最終回)〔ボランティアサービス〕

がん経験者が心を込めて患者支援

ジョンズ・ホプキンス乳がんセンター

乳がん患者支援団体「ねむの会」代表 金井弘子氏

 4月下旬から1週間、「ブーゲンビリア」の代表である内田絵子さんと一緒に、米国の乳がん患者団体などの視察旅行をする機会があった。米国乳がん連合(NBCC)の年次総会参加に先立って、メリーランド州ボルチモア市にあるジョンズ・ホプキンス大学病院の乳がんセンターを訪問した。ここには乳がんサバイバー(経験者)による乳がん患者支援ボランティア制度がある。その成り立ちや支援システム、ボランティア教育などに関して、直接担当者にお話を聞くことができた。(乳がん患者支援団体「ねむの会」代表:金井 弘子)




ジョンズ・ホプキンス乳がんセンターでボランティアプログラムを担当するデボラ・スチュアートさん
ジョンズ・ホプキンス乳がんセンターでボランティアプログラムを担当するデボラ・スチュアートさん

 ジョンズ・ホプキンス大学病院は全米の病院ランキングで例年、もっとも評価の高い病院の一つに選ばれている。その中にある乳がんセンターには、乳がんサバイバー(経験者)と患者を1対1でマッチングさせる、「サバイバー相互支援プログラム」と呼ばれるボランティア制度がある。今では米国の主要な病院で実施されるようになった制度であるが、このプログラムを最初に立ち上げたのはこのジョンズ・ホプキンス大学病院だという。創始者は、自身も乳がん体験者で看護師でもあるリリー・ショックニーさん。私たちが訪問した日はあいにく講演のため州外へ出張中でお会いできなかった。しかし、リリーさんとともにボランティアプログラムにかかわっているデボラ・スチュワートさん(写真)に、お話を聞くことができた。

 がん経験者によるボランティアの制度を説明してくださったスチュワートさんは28年前、25歳のときに乳がんと診断された。米国でも当時は乳がんについて語ることがタブー視されていた時代で、自身の体験を語るような環境ではなかった。ところが46歳のとき再発をした。この頃には多くの乳がん体験者が闘病記を出版したり、メディアで話す時代になっていた。また、患者やサバイバーが問題を提起し、医療従事者が話を聞いたり研究者がそれに答えるべく研究開発をする時代にもなっていた。「私自身、乳がんになったこと自体は不幸なできごとだったが、その体験をもとに社会貢献することで、乳がんサバイバーという事実を幸運に転じることができた」と話す。主な仕事は、ボランティアのコーディネートやボランティアの採用と教育だ。

 創始者のショックニーさんは、乳がん手術の前や後に患者さんが大きな不安を感じることを実感していた。また、乳がんと診断される前のがんの疑いがあるという段階でも、患者さんが不安と戦っていることを分かっていた。こうした患者さんの心理面を支えることの重要性を感じて、この制度を創設したのだという。当初は5人のボランティアでスタート。現在登録しているのは38人で、そのうち32人は乳がん経験者だ。他の6人は、家族や友人が乳がん経験者であったり、このプログラムそのものに関心があるという理由で参加している。

 ボランティアの採用にあたっては以下の点を考慮している。人間関係構築の能力、居住地域(あまり遠いとボランティアを継続するのが難しいため)、治療が終わっていること(治療中の人は治療に専念すべきと考えて、治療終了後1年以上経過した人としている)。治療終了が原則とはいえ、ボランティア期間中に病気が進行したり再発した場合は、やめるようにとは言わず、本人の意思を尊重するようにしている。ボランティアとして採用された人は、まず「オリエンテーション(導入教育)パッケージ」によるレクチャーを受ける。その後、先輩ボランティアに付いて実地訓練を受け、自身もボランティアとして活躍するようになっていく。

細やかに作られたボランティア教育ツール
 このオリエンテーションパッケージを紹介しよう。5部から構成されている。このようにしっかりした初期教育を施し、情報提供も行い、相互の約束事も明確にしておくことが、安定的な運営の秘訣なのだろう。

○第1部:ショックニーさんからのメッセージ、乳がんについての基礎的情報、ボランティア活動のミッションとビジョン、目的などが記載されている。ボランティアチームの組織図もある。患者中心のサービスであることを示す説明図や、これから出会うセンター内の医療関係者の名前も書いてある。なお、ボランティアは医療チームの傘下に置かれる形になっている。

○第2部:ボランティアの採用基準、役割と職務、活動時間のカウントの仕方の例など。

○第3部:「サバイバー相互支援プログラム」の説明、ボランティアガイドライン、議論の行い方、よくある質問のQ&Aなど。

○第4部、5部:事務局からのお知らせ、申し込み方法、背景情報チェック用紙、秘密保持に関する説明、安全ならびに患者さんのプライバシーに関して受けなければならないテストについてなど。

がんサバイバー(経験者)によるボランティアサービスの利点を詳しく聞くことができた
がんサバイバー(経験者)によるボランティアサービスの利点を詳しく聞くことができた

 乳がんセンターを初めて訪れたすべての新患の患者さんには、「サバイバー相互支援プログラム」の説明をして、パンフレットを渡す。そして、患者さんから要望があれば、年齢や社会的・経済的背景、病期などを考慮して、できるだけ状況が近いボランティアを選び出してマッチングさせる。例えば小さな子供がいる人、再発・転移で感情が不安定な人といった点から、同じような体験をした人を探す。ふさわしいボランティアが決まれば患者さんに連絡先を教え、直接電話でやり取りして適切なサポート方法をお互いが決める。

 患者さんをサポートするボランティアは、「主治医の治療方針を知ったうえで、それを支持するようにアドバイスする」を、基本とするよう配慮している。「なるべくぎこちなく話をするのも、患者に警戒心を抱かせないために必要」というのには、とても感心した。患者ががんといわれてうろたえているところに、冷静沈着にとうとうと話されたのでは、かえって逆効果で患者さんの神経を逆なでするだろう。

 ボランティアは患者さんの様々な要望に対して臨機応変に応じている。乳がんに関することだけでなく、家族に関する相談であったり個人的な雑談のこともある。どんなことでも傾聴することで、患者さんとの距離を縮め、まずは信頼関係を築くことが重要と考えている。信頼関係ができれば治療日にランチを一緒にとったり、家族の代わりに手術日に立ち会うこともある。場合によっては、ボランティアが再建した自分の乳房を見せることもあるという。

経験者ボランティアが、患者さんの検査に付き添い
 特筆すべきは、乳がん検査に訪れた人へのサービスがあることだ。対象は乳がんの患者だけではないのだ。乳がんの可能性があり画像診断やバイオプシー(組織検査)を受けるときも、不安が大きいものだ。検査をする人にも支援ができるよう、乳がんセンターにボランティアが常駐している。診断の際に付き添ったり、待合室での時間を一緒に過ごすことで不安を和らげる。画像診断は午前7時30分くらいから行われることも多く、早朝から詰めるボランティアもいる。立ちっぱなしの仕事のため、はきやすい靴を選ぶことが鉄則だという。日によっては患者さんを優先するあまり、昼食抜きのこともある。

 言葉だけではない。不安に押しつぶされそうな人の手を握ったり、肩に手を置くなどのぬくもりで、心を落ち着かせることもある。こうしたことは事務局スタッフが教えたのではなく、ボランティア自らが先輩ボランティアの行っていることから学び、患者と接する中で自然発生的に生まれてきたらしい。そして、中には触れられることを好まない人もいるので、配慮しているという。

 患者さんには、子供たちからの手紙やローションを詰め合わせた袋が渡される。中身は寄付してもらったもので、患者さんへの愛情とケアを表しているという。手術を受ける患者さんには、快適な枕をプレゼントする。

ボランティアのあり方を考えるワークショップを実施
 ボランティアサービスのあり方の振り返りも行っている。まず、ボランティアサービスに対する患者さんからの評価を計測している。退院時と6カ月後に実施する患者満足度調査の1項目にボランティアに関する設問があるのだ。

 また毎年、病院内で1日のがん経験者ボランティアについてのワークショップが開かれる。ボランティアの価値や強みを話し合い、将来的な目標設定や情報も共有している。日ごろボランティア活動をしていて、日本の患者会について感じることがある。それは、活動に慣れてくると自分流になり勝ちで、何年もボランティアをしている仲間にはなかなか率直な意見が言えないで、足並みが不ぞろいになってくることが多々あるということだ。1年に1度情報を共有し、価値感を話し合い、ボランティア個人の軌道修正もできる機会を持つということは、とても重要なこと。可能ならば1つの患者団体だけでなく、同じような主旨で活動している患者団体が集まって、教育ワークショップを開けないかと以前より思っていたが、この必要性をあらためて強く感じた。

ジョンズ・乳がん経験者のフェイ・ホフマイヤーさんは、「自分が闘病中に受けたサポートのお返しをしたい」とボランティアに励む
乳がん経験者のフェイ・ホフマイヤーさんは、「自分が闘病中に受けたサポートのお返しをしたい」とボランティアに励む

 スチュアートさんと一緒にお話をしてくれた、ボランティアのフェイ・ホフマイヤーさん(写真)は「ジョンズ・ホプキンス大学病院でのボランティアプログラムの成功は、リリー(ショックニーさん)やデボラ(スチュアートさん)といったすぐれたコーディネーターの存在によるところが大きい。この2人の強力なリーダーシップがあるからこそ、これほどの制度に発展した」と語る。日系2世で10年前に乳がんと診断されその後2度の再発を経験した彼女は、「ボランティア活動は金銭的には無償だが、“喜び”を報酬としていただいている」と語る。その顔はいきいきとしており、誇りに満ちていた。ボランティア活動が盛んになるかどうかは、マニュアルを作ったり教育をしっかりするといった組織的な対応も重要だが、魅力的なリーダーが存在するかどうかも大きな要因だということもよく分かった。

病院内ボランティアを広げるための対話を始めよう
 ジョンズ・ホプキンス大学病院の乳がん経験者によるボランティアサービスは、患者がほしい支援を広く網羅しているといえるのではないか。「乳がんと診断される前後の不安感の払拭」の必要性は、私も身をもって体験している。私が乳がんを体験したのは11年前のことだ。父系の叔母に3人も乳がん体験者がいるのに、乳がんのことをよく知らなかった。乳がんを診察するのは外科(乳腺外科)であるのに、婦人科だと疑わずに婦人科を受診して外科に回されたという経験がある。何の準備もないままにがん患者になってしまった。初診を受けてから検査をし告知され、入院するまでの1カ月の間、様々な感情と不安に襲われた。私の様子を家族も友人も呆然と見守ることしかできず、私も孤立感を深めていた。もし、あのとき経験者ボランティアを紹介されていたら、ただそれだけでどれほど不安が軽減しただろうか。実際に相談をしなくても、相談してもいい相手がいることを知るだけで、大きな効果があると思う。

 「退院後」の患者さんへの、がん経験者による患者サポートについては、日本でも患者会が以前より取り組んできている。しかし、診断前後の患者さんへのサポートはほとんどなされていない。

 医療機関では、患者経験者を入れてのがん患者サポートをしているところもあるが、数はまだ少ない。乳がんの疑いで受診した私は、多くの検査やその後の手術から退院まで、ベルトコンベアに乗せられたようにたくさんの初めてのことが進むなかで、無我夢中の状態だった。降りかかる火の粉を払うのに精一杯といった感じだった。

 入院中は入院仲間もいたし医療者に見守られているような安心感があったが、病院の外に出たときには、大海原を小船で一人航海に出るような不安を感じた。この不安や緊張を解きほぐしてくれたのは、主治医でも看護師でも家族でもなかった。同じ病を得た人の中で、心から安らいだのを覚えている。高みにいて導いてくれる医療者も必要だが、患者を支え伴走をしてくれる人を患者が求めていることを、医療者はもっと理解してほしい。

ジョンズ・ホプキンス大学病院の病棟
ジョンズ・ホプキンス大学病院の病棟

 6月15日に決定された「がん対策推進基本計画」では、「すべてのがん患者及びその家族の苦痛の軽減並びに療養生活上の質の維持向上」が全体目標に採用された。取り組むべき施策として、「拠点病院においては、がん患者及びその家族に支援を行っているボランティア等の受け入れを行う」との文言も入った。また、がん拠点病院の相談支援センターに関して、「相談支援に関し十分な経験を有する看護師等の医療従事者や患者団体等との連携について検討する」ともある。さらには、「がん患者や家族等が、心の悩みや体験等を語り合うことにより、不安が解消された、安心感につながったという例もあることから、こうした場を自主的に提供している活動を促進していくための検討を行う」という記述もある。こうした認識が進んできたことは歓迎したい。

 だが、サバイバーやサバイバーを会員とする患者団体が、診断前後、手術前後、退院前後といった患者さんを病院でサポートしたいと考えても、医療者の信頼を得なければ病院に入ることはすぐにはかなわない。日本でも医療者と患者が歩み寄り、患者のためにともに何ができるかを話し合うことが、今まさに必要であると、ジョンズ・ホプキンス大学病院でうまく機能しているボランティアサービスを見て強く思った。

〔アメリカ乳がん事情レポート 了〕

〔参考サイト〕
ジョンズ・ホプキンス乳がんセンター
同センターの、患者サポートサービス・ボランティアサービス
同センターの、乳がんボランティア紹介
がん対策推進基本計画

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