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レポート

2007/6/5

アメリカ乳がん事情レポート:連載3 〔患者会の設立〕

より高い活動目指し、スキルアップする患者たち

乳がん患者支援団体「ねむの会」代表 金井弘子氏

 4月下旬から約1週間、「ブーゲンビリア」の代表である内田絵子さんといっしょに、米国の乳がん患者団体などの視察旅行をする機会があった。米国乳がん連合(NBCC)の年次総会では、参加する患者団体メンバーのためにたくさんのワークショップ形式の講座が開催され、知識やノウハウが伝授されていた。私が日本で関わっている患者会活動の参考にし、抱えている問題の解決策を引き出す糸口にしたいと、「地元での患者会立ち上げ方法」などのプログラムに参加してみた。その様子をご紹介したい。(乳がん患者支援団体「ねむの会」代表 金井弘子)




 米国乳がん連合(NBCC)の年次総会は600人が集まって開催されたが、参加者にたくさんの学習機会が提供されていることが素晴らしいと感じた。なかでも、乳がんの治療動向などの基調講演の他に、約20種類のテーマ別ワークショップ(参加型学習会)が用意されているところがとても実用的だった。主なテーマは表1の通りだが、「患者団体支援」「ロビイング」「乳がん治療」などに関するものが多い。ワークショップの時間は3回あり、参加者は全テーマの中から自分が興味のある3つを選ぶ。

表1●米国乳がん連合(NBCC)年次総会の主なワークショップメニュー
【患者団体活動支援関係】
○「地元での患者会立ち上げ方法」
○「地元での患者会の拡大法」
○「メディア対応術」
【ロビイング関係】
○「NBCC今年の優先政策課題」
○「連邦政治の仕組み入門」
○「州政府への陳情活動」
○「立法プロセスを学ぶ」
○「医療改革に関する患者の声の役割」
【乳がん医療関係】
○「乳がんの新治療」
○「食事と乳がんの発症」
○「エビデンスに基づいた代替療法」
○「幹細胞研究と乳がん」

 すべてを受講したいぐらいで、どの3つを選ぶのか迷うところだが、私は、「NBCCの今年の優先課題」「効果的なロビイング方法」「患者会の立ち上げ方法」の3つを受講することにした。前の2つは、「連載1」で内田さんが紹介したロビイングデーのための基礎知識としてとても有効だった。そして、私がワークショップの中でもっとも期待したのは、「地元での患者会立ち上げ方法」だった。

 これを受講したいと思ったのにはワケがある。いま日本の各地で患者会立ち上げが急がれる状況になっていると感じるからだ。例えば、患者側には、各がん拠点病院の患者相談窓口に患者会を活用してほしいという要望がある。一方で、医療者側にも「地元に患者会があれば連携したい」というニーズが高まってきている。双方の思いを実現するためにも、しっかりとした患者会を全国各地に作っていかなければならない。

 がん対策基本法に基づいて作られた「がん対策推進基本計画」においても、そのあたりが明記された。「(相談支援センターの相談員配置について)相談支援に関し十分な経験を有する看護師等の医療従事者や患者団体等との連携について検討する」というくだりには、「患者団体等」という言葉が入り、患者団体が実施している相談支援の役割も重視された。また、「がん患者や家族等が、心の悩みや体験等を語り合うことにより、不安が解消された、安心感につながったという例もあることから、こうした場を自主的に提供している活動を促進していくための検討を行う」と、患者同士の語り合いの場を設定する「ピア・カウンセリング」の重要性も記載された。

 つまり、今後はさらに患者会が全国にたくさん設置される必要がある。そして、そうした患者会の機能のひとつとして、患者相談をしたり、患者同士の語り合いのコーディネートをする人材を育てることも、重要になってくるわけだ。

 私たちの乳がん患者支援団体「ねむの会」では、7月から「がん医療カウンセリングボランティア養成セミナー」を開始する。まさに、こうした相談業務を行う人材を育てていこうというのが趣旨だ。セミナーは12回のレクチャーからなる。私は、米国がん協会(American Cancer Society=ACS)による患者団体リーダー養成講座である「米国がん協会大学(American Cancer Society University=ACSU)に参加したが、ここで得た助成金をこのセミナー開始の資金源にすることができた。

 私たちの会やセミナーだけで日本全国の相談担当者を育成できるわけではない。同様な活動をする患者会がたくさん各地に設置されなければならないだろう。そのためにも、「地元での患者会立ち上げ方法」というワークショップの内容には興味がある。米国は一般に、ノウハウをマニュアル化して普及させることにたけているといわれる。ここで、患者会設立方法を道筋立てて学べるのではないかと期待した。

10カ条にまとめられたノウハウ
 時間は1時間半で、レクチャーのあと、小グループで意見交換をするという構成。やはり米国らしく、下表2のように10のステップにして説明する。どのステップの説明も興味深かったが、私にとって一番役に立つと思ったのは、ステップ3の「リーダーを探す」とステップ9の「方向性の確認」だった。

「地元での患者会立ち上げ方法」に関するワークショップの風景
「地元での患者会立ち上げ方法」に関するワークショップの風景

 「リーダーを探す」。これは、乳がん団体をサポートすることに興味があり、かつ、熱意があり、さらにリーダーシップの取れる人を探し出して活用することだ。「演説だけしたいという人がいるので気をつけましょう」と講師のコメントがあった。どこの国でも、目立ちたがり屋だが実行力や責任感が伴わない人がいるのだと、思わず苦笑した。

 米国では患者団体のリーダーが患者自身でないことも多いと聞いていた。実際このワークショップに参加した者も、がん経験者だけではなく、弁護士、医師、乳がんサポーターなど多彩だった。日本でも、がん患者ではない患者の代表も存在するが、まだ数としては少ない。日本のがん医療の将来を見通して活動していけるようなリーダーを、患者会がもっと探し育てていく必要があると思った。

 「方向性の確認」も重要だと思った。ときどき自分たちの会の活動の当初の目的を振り返る。そして、それが実現できているかを考えるのだ。例えば、協力者との連携を重んじるばかりに、他の方向に引っ張られるなどして、目的が見失われていないか。そんなときは、必要であれば、連携相手に依存するのではなく、独自の活動計画を作ったり、別の組織を立ち上げることも考慮すべきという。いったん活動を立ち上げてしまえば、活動の存続を優先してしまいがちで、当初の目的を思い出すことが少なくなりがちだ。自戒の意味でも大切なポイントだと思った。

 ステップ6の「病院内モデルも考慮」というのは、地元の病院をベースとした患者会を作るという選択肢もあるということだ。これは、病院の方から積極的に設立することは少ないので、患者側が熱意を込めて病院に提案することが大切だとしていた。米国でさえそうなのだから、まだまだ医療者における患者会に関する認識が薄い日本では、患者側から声を上げるようにしたいものだ。

 このように、NBCCのワークショップは「知識は力なり」とうたう。参加者は、より有効な活動をめざし、様々な訓練を受けスキルアップしていくようだ。1年に1度、年次総会に出席することが、参加者の意識と知識を高めることに役立っているに違いない。

 このワークショップに参加して「私が今までやってきたことは、的を得ていたのだ」と思うこともあった。例えば、チーム作りに関して、同じ乳がん患者会同士で講演に講師として来てもらったり、講演会を広く広報しあったりしている。これはこのワークショップで教えられていたことと同じだ。また、財政的には、無駄使いを極力避け、無料で会議室を借りたり、資料印刷もボランテアセンターなどでなるべくお金のかからないようにして、節約と有効活用に努めている。これも、「既存のものをできるだけ活用させてもらおう」というワークショップでの教えに一致する。

 一方、「こうしておけばもっと活動の輪を広げられたのに」など反省することもあった。その例としては、ネットワーク化に関して、「協力連絡網を作り地元の議員などに働きかけをする」という手法だ。私たちは地元の議員に会いにいくことを、ほとんど考えたことがなかった。この10ステップの教訓は、患者会設立時だけでなく、既存の患者会をもう一段成長させるためにも役立つと思った。

 患者会の設立や運営に関しては様々な問題があり、患者会を支援していくためにはたくさんの課題を解決しなければならない。これまでもそう思ってきたが、頭の整理がつかずもやもやとした気持ちがあった。10ステップを聞いたことで、それがすっきり整理された気がした。この10ステップがすべてそのまま日本に適応するわけではなかろうが、かなりの部分は同じようなことが言えると思われる。

 先にも触れたように、今年の7月から私たち「ねむの会」では「がん医療カウンセリングボランティア養成セミナー」を開催する。このセミナーを受けた人が地元に戻って患者会を立ち上げたり、病院の患者相談窓口で活躍するようになることを願っている。米国で学んだ「地元での患者会の立ち上げ方法」も、そのセミナーの内容に反映させたいと思っている。


  表2●「地元での患者会立ち上げの10ステップ」
1
パートナーを見つける(国、地方公共団体、学会、患者団体などから連携相手を探す)
2
チーム作り(既存活動に乳がん問題を取り上げてもらう。自分たちの活動に他の組織から参加をしてもらう)
3
リーダーを探す(活動を牽引してくれるグループやリーダーを見出す)
4
ネットワーク化(協力者連絡網を作り、地元議員に働きかけ、専門医など影響力がある人を巻き込む)
5
相互協力(連携相手の活動を支援すると同時に、自分たちの活動を支援してもらう。ただし、自分たちの独自性は守る)
6
病院内モデルも考慮(地元の乳がんセンターで、病院ベースの患者会の形を考える)
7
計画策定(草の根活動、教育、患者支援、そのすべてか、自分たちの活動領域と目的を明確化し、活動計画を作る)
8
財源確保(会議場所、新聞へのイベント告知記事、資料印刷、会議への医師などの講師派遣などを提供してくれる、財政的支援者を見つける)
9
方向性の確認(活動が当初の優先課題に沿っているか、チーム活動の中に自分たちの関心事が取り入れられているか、継続的に検討する)
10
独自団体の設立(自分で独立団体を立ち上げることも考慮する。ボランティアの弁護士や資金集めに影響がある理事を確保することも重要)

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