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レポート

2007/5/29

アメリカ乳がん事情レポート:連載2 〔リーダーと活動の魅力〕

患者の一体感生み出す“演出とカリスマ性”

「ブーゲンビリア」代表 内田絵子氏

 4月下旬から約1週間、米国の乳がん患者団体などを視察した。米国の乳がん患者団体である「米国乳がん連合 (National Breast Cancer Coalition、以下NBCC)」の年次総大会に出席して、その充実したプログラムの内容に感心し、代表のフラン・ビスコさんの人柄に惚れ込んだ。「また、来年も参加したい」。そう思わせる魅力に満ちていた。(乳がん患者支援団体「ブーゲンビリア」理事長 内田絵子)




 米国乳がん連合(NBCC)の今年の年次総会兼ロビイングデーには、600人を超える参加者が全米から集まった。今年はちょうど創立15週年の節目で、ひときわ盛り上がったようだ。前回はロビイング活動を紹介したが、今回はNBCCの歴史、リーダー、組織文化などについて紹介したい。

 NBCCの現在の会員数は実に約7万3000人にものぼる。もっとも、現在では大きな影響力を誇っている米国最大の乳がん連合も、15年前のスタート時のメンバーはわずか6人の女性だけだった。それが、どのようにして、これほど強力な団体へと成長したのだろうか。その鍵は、会長のフラン・ビスコさんにありそうだ。

 NBCCは早くから大きな目標を掲げていた。それは(1)乳がんを撲滅すること(2)乳がんに関する「解決となる回答」を得るための研究費を獲得すること(3)研究成果である「乳がんへの回答」の恩恵を誰もが受けられるようにすること――である。非常に壮大な目標だが、それに向かって、戦略的かつ着実に取り組むことで成果を上げると共に、組織の求心力を高め、維持してきたといえるのではないか。

米国乳がん連合(NBCC)代表のフラン・ビスコさん(中央)と(右は同行した金井弘子さん)
米国乳がん連合(NBCC)代表のフラン・ビスコさん(中央)と(右は同行した金井弘子さん)

 NBCC代表のビスコさん(写真右の中央)は、「乳がんの問題は、政治問題である」と語る。昨年、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次学術大会の会場でNBCCの展示ブースを訪問した際にこのフレーズを聞いたとき、とても衝撃的な言葉に聞こえたことを記憶している。今年のスピーチでもビスコさんは、「がんは政治」とはっきりと訴えていた。乳がんの研究にどれだけ国家予算を割くかも、その国家予算をいかに適切な臨床試験に振り分けるかも、すべて政治的判断によるからだ。そういう意味で、個々の患者の生命や人生の質がどうなるかも、政治が左右している。だから、がんを政治と捉えて、政策を動かす原動力となることで、がん診療を改善させていく……。「がんは政治である」という言葉は、15年間ゆるぎない信念にもとづいて活動しているNBCCの、まさに根幹を支えている考え方だ。

 ビスコさんが唱えるNBCCの戦略的アプローチのエッセンスは次のようになる――。まずは、「問題の所在を明確に認識すること」が大切だ。次に、「その問題を解決するために、どれくらいの予算が必要か計算する」。その際、金額は多いにこしたことはないが、妥当と思われる仮説を立てて適切と思われる金額を算出するという。その次には、「予算を獲得するための障壁をリストアップし、それぞれを打ち破る方策を考える」。そして、「問題解決につながる法律、通達、通知などの制度を洗い出し、項目ごとに整理分類する」。最後に、「これらを統合し、首尾一貫した戦略へと組み立てていく」。

米国患者団体の戦略性から学ぶ
 非常に論理的で明快な考え方だ。NBCCはこうした戦略を、がん政策の専門家、がん医療のプロ、シンクタンク、有識者などの意見を参考にして練り上げてきた。NBCCの実践の中にある教訓を、日本の風土、文化、慣習に合わせてアレンジし、日本の活動に取り入れられる部分を導入してはどうだろうか。もちろん、成功部分だけでなく、NBCCのことをもっと勉強し、失敗や反省点があれば、そこからも学びたい。

 おりしも、日本では4月にがん対策基本法が施行され、現在、がん対策推進基本計画が策定されているところだ。基本計画に盛り込まれた考えを「画に描いた餅」にしないためには、まさにNBCCのように、「問題認識⇒必要予算の算定⇒障壁認識⇒対策考察⇒戦略策定」と戦略的に考えるアプローチが必要だ。患者団体が要望しながら基本計画に盛り込まれない事項も多そうだが、そうした対策を盛り込んでもらうためには、まさに財源の確保策に関して同時に発言していかなければならない。

 例えば、タバコの増税をして、増えた税収をがん対策に充てるのはどうか。また、国土交通省予算から、医療分野に予算を割り振ることはできないか。交通事故により救急医療がたくさん発生しているから、国土交通予算で救急医療分野を負担するのは理屈としておかしくはない。それが実現すれば医療に関する予算のパイを拡大することができる。また、NBCCのように、環境予算の一部をがん研究に振り分けるという主張はできないか。そもそも最初に着目しなければならないのは、文部科学省の研究費がもっとがん患者の救命と生活の質(QOL)の向上に密接に結びつくようにならないか、ということかも知れない。

 NBCCの今年の優先課題で重要な位置を占める、「乳がんと環境に関する研究のための法案の可決」については、これまでにいろいろな障壁も経験してきた。米国で7人に1人が乳がんに罹患するのには、大気汚染、水質汚染、農薬、その他環境要因が関連しているのではないか、とNBCCでは考える。しかしその考えに対し、批判的な意見も多かったという。しかし、そのような障壁に対しても、粘り強く、理論構築して訴え続けてきた。その結果、前回のリポートで見たように賛成議員が増え、成立間近という今日の状況までこぎつけている。これが成立すれば、がん研究費の財源の種類が多様化し、研究費も増額され、乳がんをはじめとするがんに関する基礎研究や臨床研究に配分される費用が増えて、がんの解明がさらに進むと考えられる。

 10年以上前から獲得してきた国防総省の乳がん研究費についても、近年、国防予算が厳しくなる中、乳がん研究への配分はピーク時よりは減少したものの高水準を維持することができたという。「乳がんについてはもう十分に研究がなされている」という意見もあったそうだ。しかし、設立当初に掲げた自分たちの目標である「乳がんの撲滅」は、まだ達成されていない。だからこそ予算の維持を訴え続けている。また、予算を獲得できたというだけでは決してそこで手綱を緩めず、その予算がNBCCの設立目的に合った形で使われているかを確認できるよう、患者団体の代表が研究の企画や評価に関する検討会に参加する権利を獲得してきた。

 乳がん患者が専門家を中心とする検討会に入って対等な立場で意見を述べるには、研究や臨床試験についての知識を身につけなければ難しい。NBCCでは、そうした人材を育成するためのリーダー養成研修コース「プロジェクト・リード」を設けているが、この講座の主たる目的は、乳がんに関する医学的な「用語」と「概念」を習得すること。生物学、遺伝子学、疫学や公衆衛生学などを学ぶことで、乳がん研究や臨床試験といったテーマに関しても、科学者や専門家と科学的な基盤に立った議論や支援活動ができるようになる。年々増えていくこの講座の卒業生が、NBCCが着実に成果をあげるためのパワーの源となっているのは間違いなさそうだ。

ダンスパーティーで発見した一体感の秘訣
 上記のような組織力と戦略性だけではない。NBCCの4日間のプログラムすべてを通して出席して実感したのが、全国から集まった会員をやる気にさせるNBCCのカルチャーだ。共通の目的意識を高揚させ、モチベーションを引き出し、参加者一人ひとりに各人が草の根運動の主役であると実感させる。背景には、個人を尊重しつつボランティア精神が強い米国の民主主義の精神が存在しているのだろう。もう23年前になるが、家族とカリフォルニアに住んだことがある。そのとき、自立、独立心、ヒューマニズム精神に溢れた米国の国民性を感じたものだが、それががん患者団体の活動に結晶している。

 NBCCのカルチャーは、乳がんサバイバー(体験者)のビスコさんというリーダー抜きには語れない。彼女自身、19年になる乳がんサバイバーだ。自分が乳がんと闘病する中で抱いた疑問に次々と立ち向かってきた。そのビスコさんの別の一面を、ロビイングデー前夜祭で見た。

 この前夜祭の名物は、みんなが一心に踊るダンスパーティーだ。そこでビスコさんもひとすら踊る。創設者も幹部も、治療が終わった者も闘病中の者も乳がんとの闘いをはじめたばかりの者も、みんな同じホールで熱狂的に踊るのだ。20歳代や30歳代の若々しい乳がん患者のグループもいる、車椅子の再発患者もいる。そして、なんと言っても貫禄がある50歳代、60歳代のメンバーたち。大音響の中で踊る、踊る……。1960年代の懐かしい曲に、片側の乳房を手術した年配の女性たちも、若く元気で、乳房を当たり前に2つ持っていたあの頃を思い出しているのだろうか。

3日目の夜はダンスパーティー。ロビイングデーの前夜にみんなでひたすら踊り、一体感を醸成する

3日目の夜はダンスパーティー。ロビイングデーの前夜にみんなでひたすら踊り、一体感を醸成する

 私はただ圧倒され、気恥ずかしさもあって、壁際でながめていた。でも、ここでこの価値観を共有しなければこの大会に参加した意味がないと、踊りの中に思い切って飛び込んでいった(写真左)。皆でステップをふみ鳴らし、声を上げ、汗をぬぐいもせず、ひたすら踊った。その踊りの熱狂の中で見えてきたのは、連帯感と一体感だった。頭の中で、「乳がんに国境はない」と訴えていたビスコさんのスピーチ、彼女のカリスマ的な言動、綿密で組織的なNBCCの活動――ここにきて学んだ様々なことが去来した。

 年次総会の会場の一角には、NBCCの活動に貢献したが残念ながら亡くなった会員の名前を貼り出す「リメンバー・ボード」(写真右下)が設置されていた。「あなたのことを私たちは決して忘れない」という意味だ。また、いくつかの基調講演の前には、亡くなった会員を追悼する時間が設けられていた。共に活動した仲間が亡くなった方の生前の活動を紹介し、大会場を埋める会員とその功績を共有する時間だ。これも原点を忘れず、推進力を生み出す元になっている。

故人をしのび、活動の原点を思い出すための「リメンバー・ボード」
故人をしのび、活動の原点を思い出すための「リメンバー・ボード」

 大きな目標を達成するためには、多くの同士の団結が必須だ。そして、会員一人ひとりが、NBCCの一員であるという自覚と誇りを持っていることが随所に感じられた。それがあるからこそ、ロビイングデーにおいてもNBCCの一員として、政治家と対等にNBCCの優先課題への支援と賛同を堂々と交渉できるのだろう。NBCCがここまで成功を収められた秘訣を垣間見た気がした。1年に1回開催されるこの年次総会には、その絆を強めるためのプログラムがたっぷりと用意されていた。さまざまなことを学び、情報交換をし、仲間とともにこの期間を存分に楽しみ、すべてのプログラムが終わると、「じゃあまた来年ね」といって別れていく。私も、「来年もここに来たい」「来年、ここに来るまで自分なりの活動に全力を尽くそう」と、強く思った。

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