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レポート

2007/5/22

アメリカ乳がん事情レポート:連載1〔ロビイング〕

「がん政策によって、議員への投票を決める」患者たち

「ブーゲンビリア」代表 内田絵子氏

 4月下旬から1週間ほど、千葉県の乳がん患者団体「ねむの会」の代表である金井弘子さんといっしょに、米国の乳がん患者団体などの視察旅行をする機会があった。

 最大の目的は、米国の乳がん患者団体である「米国乳がん連合 (National Breast Cancer Coalition、以下NBCC)」の年次総会兼ロビイングデーに出席すること。今年で創設15周年を迎えたこの患者団体の組織力と、ロビイングの実際を学び、日本での患者会活動を展開する上でその良いところを取り入れる参考としたい。また、年に1回のこの総会に集まる、連合に所属する主要な米国の乳がん団体関係者と交流し、患者への電話相談を行うコールセンターや患者サポートの実際について意見交換をすることも目的だった。(乳がん患者支援団体「ブーゲンビリア」代表 内田絵子



 米国乳がん連合(NBCC)は、全米でも最も影響力を持つ患者団体のひとつとして高く評価されている。その成果としてまず特筆されるのは、1990年代半ばから国防総省の予算の中で乳がん研究費を獲得することに大きな役割を果たしたこと。この金額はピーク時で年間約2億ドル(約240億円)、これまでの累計で20億ドル(約2400億円)になる。また、その予算が使われる研究について、患者団体の代表が専門家とともに検討の場に入り、意見を反映させてきた。

メイン州選出の連邦政府議会議員の事務所にて(左が内田絵子、右が金井弘子さん。真ん中はメイン州患者リーダーのローレル・ベザンソンさん)
メイン州選出の連邦政府議会議員の事務所にて(左が内田絵子、右が金井弘子さん。真ん中はメイン州患者リーダーのローレル・ベザンソンさん)

 米国では7人に1人が乳がんに罹患するといわれているが、その高い罹患率にどのような環境要因が影響しているのかは大きなテーマだ。NBCCは近年、こうした観点から連邦政府の環境対策予算を乳がんの研究費に割り振る法案を通すための活動に取り組んでいる。

 2000年には、メディケイド(米国の低所得者医療扶助制度)で乳がんと子宮頸がんの検診と治療をカバーする法案を成立させ、現在に至るまでその制度を維持・継続させている。また、このところ、すべての患者が質の高いがん診療を受けることが保証されるための活動を強化している。

効果的なロビイングに、周到な準備
 NBCCの年次総会兼ロビイングデーは4日間。毎年、米国の政治の町であるワシントンD.C.で行われる。最終日の5月1日がロビイングデーである。この日は、NBCCに参加するメンバーが居住する州ごとにチームを編成し、州選出の上院議員・下院議員全員に要望活動を実施する。感銘を受けたのは、周到な準備が体系だって行われていることだ。この日のために、年次総会初日の4月28日にはオリエンテーション(説明会)が実施され、今年のロビイングデーのための「戦略キット」が配布され、講習が行われた。

 まず、NBCCとして要望をしていくがん政策についての解説が行われる。今年の優先課題は、(1)国防総省の乳がん研究費1億5000万ドル(約180億円)の維持(2)乳がんと環境に関する研究のための法案の可決(3)すべての市民に質の高い医療へのアクセスを保証する(4)メディケイドで認められている乳がん・子宮頸がんの予防・治療制度の維持――の4点とされた。

 また、オリエンテーションでは、上院下院の議員ひとり一人に関して、(1)と(2)の法案に賛成か否かを調べたリストが配布され、訪問する議員に合わせたメッセージを作る指導が行われる。まだ賛成でない議員へはどう対応するか、テーブルごとにディススカッションを行い、戦略を練る。ロビイングデー前日には、実際に議員を回る州別のチームに分かれて事前作戦会議が持たれる。ここでは、ロビイング経験者が中心となって、話す内容、話題の順番、誰が何を話すかの役割分担などを決めておく。

米国乳がん連合(NBCC)年次総会の主会場の風景。全国から600人が集まった
米国乳がん連合(NBCC)年次総会の主会場の風景。全国から600人が集まった

 「ロビイングデーは、NBCCの優先課題を訴求する場である。各団体や個人の要望を話す場ではない」と、講師から何度も繰り返し説明がされる。そして、NBCC事務局スタッフが、参加者の個別の質問に関して相談に応じるなどの支援も行い、準備が進められていく。

 NBCC年次大会への参加者は約600人。海外からも私たちを含めて、11カ国からの参加者を迎えたという。600人のうち3分の2が2回目以上の参加、3分の1は初めての人々である。初めての参加者を対象にしたオリエンテーション(説明会)も充実していて、参加者が自分のレベルに応じて勉強を深めていける形になっている。毎年参加することで、ロビイング実践者へとステップアップしていく。また、より高いスキルを身につけたい会員には、「プロジェクト・リード」と呼ばれるリーダー養成研修コースが準備されている。

がん対策に功労があった議員を表彰
 いよいよ5月1日のロビイングデー当日だ。朝8時に滞在ホテルに大型バスが迎えに来た。参加者は、NBCCのロゴ入りカバンを肩にかけて、そのバスで連邦政府議事堂のそばにある議員会館へと向かった。会館内に控え室が設けられ、ここを拠点に、議員(または秘書)との面会予約時間に合わせて、州別チームがロビイングに出陣していく。

 私たちはメイン州のチームに同行させていただくことになった。メイン州の選出議員は、上院議員2人(オリンピア・スノウ氏=共和党、スーザン・コリンズ氏=共和党)、下院議員2人(トーマス・アレン氏=民主党、マイケル・ミショー氏=民主党)の4人。メイン州の場合は、いずれの議員も今年の優先課題として定められた2つの法案には賛成している。そこで、ロビイングの目的は、乳がん関連法案への前向きな取組みに感謝し、次なる課題である医療制度改革について意見交換をし、今後の戦略策定の情報とすることだ。

「効果的なロビイングの仕方」と題したワークショップにも出席し、ノウハウを学んだ
「効果的なロビイングの仕方」と題したワークショップにも出席し、ノウハウを学んだ

 私たちはメイン州のリーダーのローレル・ベザンソンさんと終日共に行動した。 乳がんサバイバーで、看護師さんだ。頼りがいのある、パワフルな女性である。「議員会館は素晴らしい場所だ。リラックスして雰囲気を楽しんでください」と、海外から来た私たちを歓待してくれる。「有権者が議員に声を届ける民主主義の純粋な形を見てほしい。私たちの行動は、議員からも尊敬されている。アメリカは参加型の民主主義の国だ」という彼女の言葉は心に響いた。日ごろ地域に密着して乳がん患者支援をしているボランティアたちが、この日はワシントンD.C.に集まって、地元選挙区選出議員に要望を行う。自分たちの票を背景に議員に要望を行うのは、確かに民主主義そのものだ。

 日本とは、政策参画の度合い、患者団体が集める寄付金の額、ボランティアの存在、患者の自立などが、程度も意識もけた違いである。大きな課題に果敢にチャレンジし、確実に結果を出し、次につなげていく。ロビイングデー当日に向けて用意周到に準備を重ね、練られた4つの優先政策に対して、数年かけて根気良く訴え続けていく組織の緻密さと、地道な草の根運動に感動した。

 患者のニーズを大事にしたこの大規模なロビイングデーも、全米の患者の力を結集した全国組織を作るという第一歩から始まった。日本にも多数の患者団体が存在し、個々に素晴らしい活動を展開しているが、今求められているのは、互いの活動を尊重しつつ、共通の利害に関して結束してロビイングを展開することだ。そう改めて痛感した。

 ロビイングデーの締めくくりは、議員会館での議員表彰。乳がんに関する法案に積極的に取り組んだ議員の方々に感謝の意を伝える場だ。ユタ州上院議員のオリン・ハッチ氏、アラスカ州上院議員のリサ・マーコウスキ氏、カリフォルニア州下院議員のルイス・キャップス氏など5人に感謝状が贈られた。表彰を受けた議員たちは、「乳がん患者さんが本当に必要としている法案の可決に協力できたことは、議員にとっても名誉なことである」といったコメントを述べる。

 患者団体の組織だった活動が、その綿密に練られた戦略と、粘り強いアプローチ、一貫性のある主張などとあいまって、議員にも受け入れられ、尊重されている様子がうかがえる。また、こうした法案の成立に向けた活動が、議員の評価とすなわち再選にもつながるという、相互利益の構図を見ることができた。NBCCの事務局から、今年のロビイングデーの成果が発表された。議員本人あるいは秘書やスタッフと400を超える会合を持ち、優先課題(2)の乳がんと環境に関する研究のための法案に対し、新たに10人の上院議員と49人の下院議員による支持を取り付けたという。

 NBCCロビイングデーに参加して分かったのは、米国では、(1)議員にさらなるがん対策を要望する(2)がん対策を推進した議員に感謝する(3)がん対策に熱心な議員に投票したり、選挙を応援する――というサイクルが回っていることだ。

 日本では、いま、何ができるだろうか。(1)今後の選挙で、政党や議員のマニフェスト(政権公約)を熟読し、がん対策をどのように取り上げているかを確認する(2)議員が、がん対策を推進する議員連盟などで活動しているかどうかを確認する(3)各議員の事務所に連絡して、がん対策に関する要望を行うと同時に、がん対策の推進に関してどの程度熱心か反応を探る(4)患者団体から全国の議員にアンケートをして、さまざまながん対策への賛否を聞く――といった手法も考えられる。

 NBCCのこのような組織だった活動は、どのように創り上げられたのだろうか。次回はその組織と、リーダーであるフラン・ビスコ氏について報告したい。

【参考サイト】
米国乳がん連合

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