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レポート

2007/5/15

イレッサの効果は高くない?

分子標的薬を正確に理解しよう

 ゲフィチニブ(商品名「イレッサ」)は効果が少ない薬じゃないのか?──そんな疑問を指摘する声が一部に出始めたようだ。でも、ちょっと待って欲しい。少なくとも、「イレッサ」の特性を正確に理解してから判断すべきではないだろうか。


 効果が少ない薬じゃないかという疑問が生まれたきっかけの1つは、2007年2月1日開催の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会での報告だ。調査会では、非小細胞肺がん治療薬であるゲフィチニブとドセタキセル(商品名「タキソテール」)の効果を比較したフェーズIII臨床試験(市販後調査の1つ)の結果から、非小細胞肺がん患者の2次治療、3次治療でゲフィチニブを最初に用いるのは慎重であるべきという意見がまとめられた。

 投与初期における生存率はドセタキセル投与群がゲフィチニブ投与群よりも優れていることが示唆されたこと、全生存期間についてゲフィチニブがドセタキセルに比べて非劣性であることが証明できなかったこと、などが示されたからだ。ドセタキセルは、ゲフィチニブの登場以前から肺がん治療に用いられている。

 ゲフィチニブは、がん細胞に大量に存在するたんぱく質をターゲットとして生み出された分子標的薬として、海外での臨床試験データとブリッジングスタディ(海外で実施された臨床試験結果を日本に当てはめるために実施される試験)の結果を基に、2002年に世界に先駆けて日本で発売された。分子標的薬とは、がんの発生や増殖に関係しているある特定の分子に対して作用する医薬品。ゲフィチニブの場合は、EGFR(上皮成長因子受容体)というたんぱく質がターゲットだ。正常細胞にも悪影響を及ぼす可能性がある従来の抗がん剤と異なり、"ピンポイント"でがん細胞を攻撃するため、有効で副作用も少ないと期待された。

 しかし、02年の発売以降、ゲフィチニブの投与によって劇的な改善を示した患者がいる一方で、間質性肺炎や急性肺障害など、場合によっては死亡につながる副作用が多く発生し、社会問題にまでなった経緯がある。

学会のメインテーマの1つに
 一方、専門家の間では、ゲフィチニブの特性を正確に評価するための研究が進んできた。

 2007年5月10日から12日まで、東京・千代田区で開催された第47回日本呼吸器学会学術講演会のメインテーマの1つもゲフィチニブだった。この学術講演会で、「ゲフィチニブ(イレッサ)を使った非小細胞肺がんの治療戦略」を講演した熊本大学医学部付属病院がん診療センターセンター長の佐々木治一郎氏は、「もし、ゲフィチニブのたどった経緯を例に挙げて分子標的薬は高い効果が得られない薬だ、というのであればそれは間違いだ。ゲフィチニブは当初、正確に理解されていなかった」と指摘する。

 佐々木氏の講演をまとめると、1)さまざまな研究の結果、ゲフィチニブは、当初想定したEGFR(上皮細胞成長因子受容体)がターゲットではなく、EGFRの一部に変異が入った変異型EGFRがターゲットであることがわかった。2)この変異を持つ患者だけに投与した場合、奏効率は70〜75%で、一般的な抗がん剤の倍以上の成績である──。つまり、ゲフィチニブは広く誰にでも投与する医薬品ではなく、投与対象には条件が付き、しかし条件が合えば高い効果が期待できる可能性があるということになる。

 佐々木氏は、「EGFRは肺がん以外のがんでも多く発現しており、(変異が見つかる前である)2003年まではゲフィチニブはEGFRに対して効いているわけではないとさえ考えられたぐらいだ。しかし、重要なことは、現在は研究が進み、非小細胞肺がんでEGFRに変異が起こり、この変異ががんにがんとしての特質を持たせている事例があること。そして、この変異型EGFRを阻害することで効果が期待できる例があるということが分かってきたことだ」と語る。本記事冒頭のフェーズIII臨床試験は、参加した490例のうち100例について遺伝子変異に関して解析を進めているが、2月1日に報告された結果は遺伝子変異に関してのデータは反映されていない。

 最近の研究で明らかになってきているのは、肺がん患者において、EGFRの一部(チロシンキナーゼ領域と呼ばれる部位)に変異がある場合があり、治療効果を左右する変異はEGFR遺伝子のうち、エクソン19、エクソン21と呼ばれる領域にある事例が多いことだ。そして、この変異がある患者を対象にした試験では、ゲフィチニブの奏効率は高い。この変異は「腺がん」「女性」「日本人」「非喫煙者」に多いが、非腺がんや男性でも、同じようにEGFRに変異があれば、ゲフィチニブが奏効する例も見られているという。

「イレッサ」の適応症の表現をよく見ると
 同じく呼吸器学会学術講演会で講演した、東北大学病院遺伝子・呼吸器内科所属で、同大学加齢医学研究所呼吸器腫瘍研究分野助手の井上彰氏も、これまでゲフィチニブが分子標的薬として、今にして考えれば本来適用されるはずの患者を選んで使用されていたわけではないと講演した。

 その一例として、井上氏は、添付文書などに記される医薬品の効能・効果(適応症)を上げる。ゲフィチニブ登場に先だって、同じように分子標的薬として開発、販売されているトラスツズマブ(商品名「ハーセプチン」)の効能・効果は「HER2過剰発現が確認された転移性乳癌」。リツキシマブ(商品名「リツキサン」)は「CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫」。低分子型の抗がん剤であるイマチニブ(商品名「グリベック」)は「慢性骨髄性白血病、KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病」だ。いずれも投与される症例に、特定の分子が関係していること、あるいは染色体検査を実施することなどの条件が付いている形になる(下表参照)。

 しかし、ゲフィチニブ(「イレッサ」)の効果・効能は、「手術不能又は再発非小細胞肺癌」。井上氏は、「本来の分子標的薬としての、選択された患者が対象とされていたわけではない」と語る。

 その上で、井上氏は、「これまでレトロスペクティブ研究(後ろ向き研究)で、EGFRに変異がある患者にゲフィチニブを使用した場合、進行性非小細胞肺がんの予後が伸びるという結果が得られている。少数の患者を対象としたプロスペクティブ研究(前向き研究)でも、変異を持つ患者を対象にすると、RR(奏効率)は75%以上、PFS(無進行生存期間)は7.7カ月から12.9カ月という、従来の抗がん剤では得られない成績が出てきている」と指摘する。そして、現在進められている大規模なプロスペクティブ研究でも同じ結果が得られるだろうと推測する。

 最近では、ゲフィチニブの処方を判断する際に、EGFRの変異を高い感度で検査する方法がいくつか開発されている。検査は全国どこでも可能で、保険請求もできる。欧米人での肺障害の発生は0.数%だが、日本では約5%で発生する可能性がある。井上氏は、「副作用を避けるためにできることはしておくべきで、変異の有無を調べないことのメリットはないだろう」とした。

 実際には、遺伝子変異によって患者を選択してゲフィチニブの効果を調べた試験でも、奏効率は約80%で、20%は効果が得られていない。また、遺伝子変異がない患者でも、10%はゲフィチニブが奏効する例があり、まだまだ未解明な点も多い。今後さらに研究が進められるべきだが、「奏効率80%という高い数字は今、肺がんに直面する患者にとって非常に重要な結果」(井上氏)であることも事実だ。

 そして、これまでに行われた研究を考えると、分子標的薬を評価するには、その性能をきちんと理解し、開発の際のコンセプト通りに効果を発揮しているかどうかを確認することが重要で、それが確認できれば効果の高い医薬品として期待できる、ということは間違いなさそうだ。

(加藤 勇治)

●国内で販売されている主ながん分子標的薬の概要
医薬品名 効能又は効果 効能又は効果に関連する使用上の注意 承認取得日
トラスツズマブ(商品名「ハーセプチン」) HER2過剰発現が確認された転移性乳癌 HER2過剰発現の検査は、十分な経験を有する病理医又は検査施設において実施すること 2001年4月4日
リツキシマブ(商品名「リツキサン」) CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫 本剤投与の適応となる疾患の診断は、病理診断に十分な経験をもつ医師又は施設により行うこと。
CD20抗原は、免疫組織染色法又はフローサイトメトリー法等により検査を行い、陽性であることが確認されている患者のみに投与すること
2001年6月20日
イマチニブ(商品名「グリベック」 慢性骨髄性白血病、KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病 慢性骨髄性白血病については、染色体検査又は遺伝子検査により慢性骨髄性白血病と診断された患者に使用する。
消化管間質腫瘍については、免疫組織学的検査によりKIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍と診断された患者に使用する。なお、KIT(CD117)陽性の確認は、十分な経験を有する病理医又は検査施設において実施すること。
消化管間質腫瘍に対する術前及び術後補助療法における本剤の有効性及び安全性は確立していない。
急性リンパ性白血病については、染色体検査又は遺伝子検査によりフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病と診断された患者に使用する
2001年11月21日
ゲフィチニブ(商品名「イレッサ」) 手術不能又は再発非小細胞肺癌 本剤の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない 2002年7月5日
※各商品の添付文書より。効能又は効果のうち、赤字の部分は編集部で色を付けた

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