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2007/5/8

重視されるがん患者への精神的ケア

広がれ、「サイコオンコロジスト」の育成と活用

 医師に「がん」だと告知された後、積極的な治療法がないと告げられた後、精神的に落ち込み、抑うつ状態になってしまう患者は少なくない。こうしたがん患者やその家族への心のケアががん医療に不可欠なものであると広く認識されはじめ、サイコオンコロジー(Psychooncology:精神腫瘍学)が注目されている。

 サイコオンコロジーとは、心理学(サイコロジー)と精神医学(サイカイアトリー)と腫瘍学(オンコロジー)を合わせた造語。(1)がんが心や行動にどう影響するのか(2)心や行動ががんにどう影響するのか――という2つの側面から心のケアを研究している分野だ。前者は、どんな方法で心のケアを行えば心の負担を軽くし、より生活の質(QOL)を高めることができるのかなど、患者の悩み解消に深く関わる。

 がん患者の心のケアを行う専門家であるサイコオンコロジスト(精神腫瘍医)によって、病期や患者の状態に合った精神的なサポートが行われることで、がん患者や家族の生活の質を大きく上げることができるとされている。

 日本サイコオンコロジー学会・代表世話人の内富庸介氏(国立がんセンター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部部長)は、「これまではがん医療においては治療が第一で、痛みのケアや精神的なケアは二の次だった。だが、これからは治療と同じ重みで並行して緩和ケアや心の支援を提供していこうという時代になった。がんを抱えていても常に安心して過ごせるようにするため、病院だけでなく地域でも心のケアを行える体制を作ることが重要だ」と話す。

不足する心のケアの専門医

当初予定していた50人の定員を大きく上回り、全国から91人の医師や学生が集まった
当初予定していた50人の定員を大きく上回り、全国から91人の医師や学生が集まった

 だが現時点では、「本当は相談や治療が必要なうつを持つがん患者は多く、対応が必要であるにもかかわらず、体制が整っていない。がん患者の心のケアを専門とするサイコオンコロジストも少なく、まだまだ需要に追いついていないのが現状だ」。国立がんセンター中央病院緩和医療支援チームの清水研氏はこう話す。

 国立がんセンターのがん患者では、10〜30%が適応障害となり、3〜10%がうつ病に陥っている。だが、実際にサイコオンコロジストによる対応を受けているのはたった3%程度。患者の精神状態に医療者もなかなか気付けず、十分なケアがされていないのが現状だ。

 サイコオンコロジーを理解した医師を増やすため、日本サイコオンコロジー学会は今年3月、新たな試みとして国立がんセンター東病院(千葉県柏市)で、若手医師や医学生を対象にサイコオンコロジーついてのセミナーを開催した。どういう学問なのか、どういうトレーニングが必要なのか、実際にどんな手法があるかなどを、講義とグループワークから学ぶという内容だ。

 セミナーの中で内富氏は、「サイコオンコロジーでは、がん患者にできるだけ早く適切に心のケアを提供し、もう一度希望を取り戻して生活を立て直せるような架け橋を築いていく」と、サイコオンコロジーの要点を話した。

同セミナーのグループワークでは、うつ病を発症している肺がん患者のケースに対しどのようなケアができるかを話し合い、グループごとに発表した
同セミナーのグループワークでは、うつ病を発症している肺がん患者のケースに対しどのようなケアができるかを話し合い、グループごとに発表した

 このセミナーには、全国から100人近くの若手医師や医学生が参加。精神科医や精神科を志す医師だけでなく、外科や内科、頭頸部外科、血液内科など幅広い科の医師も参加した。参加した医師からは、「患者の話にどこまで踏み込むべきなのか、距離感が分からない」「ただ話を聞くだけで終わってしまい、何をすればいいのか分からない」など、日々がん患者と向き合う中で感じている悩みが聞かれた。

 ある内科医は、「日頃から、患者の精神面を診ることの重要性を強く感じている。患者の精神状態の変化に気付いていないため、適切な専門科に適切なタイミングで紹介できていないことも多い。精神的な問題の抽出の仕方、気付き方、ヒントがほしい」と話す。

 身体面ばかりに重きをおいてきたこれまでの反省を踏まえ、現在はがん治療の早期から心と体、両方の症状を緩和することの重要性が強調されている。だが、全国286のがん拠点病院の中で、がん患者の心のケアに対応できるスタッフを備えているのはまだ数十施設程度にすぎない。

 現状では、患者がサイコオンコロジストの診療を受けたい時に、すぐ受診することは難しい。「学会としても何らかの情報提供をしたいと思っているが、現時点ではできていない。すべてのがん拠点病院に相談支援センターが設置されているため、そこで相談してみてください。近隣医療機関のがん患者をよく診てくれるサイコオンコロジストか精神科医を教えてもらうのが現時点での最善の方法」。清水氏はこう話す。

 がん患者としては、サイコオンコロジストのことを覚えておき、必要と感じれば積極的に活用をするのも一つの手だ。同セミナーのような試みはまだ動き出したばかりだが、こうした取り組みが全国に波及することが期待される。

(末田 聡美)

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