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レポート

2007/4/10

あなたの地域のがん診療力を向上させよう

がん対策:県の間で格差が拡大中?

 がん対策強化の機運が高まるなかで、むしろ、県によってがん対策の格差が開いている。がん対策条例の制定、がん戦略検討会議の開催、がん専門職研修会実施などの対策を打つところと、そうでないところが二極化しているのだ。がん診療の「均てん化(どこでも高い水準の医療が受けられる)」を求める声を契機に高まったがん対策だが、がん診療の質向上に関する取り組みの足並みが揃わないことで、むしろ地域格差を広げる可能性さえある。地域の患者や住民が、地元のがん診療の状況や対策をウォッチし、先行事例の実施を地元でも求めていくことが、がん診療の均てん化に大きな力を持つ。



 4月1日にがん対策基本法が施行された。だからといって、その前後であなたの近くの病院のがん診療がガラリと変わったわけではないだろう。しかし、今後、がん対策基本法が各地の診療にじわじわと影響を与えていく。がん対策基本法では、がん患者、遺族、家族を含む「がん対策推進協議会」が、日本のがん対策マスタープランである「がん対策推進基本計画」を策定し、各都道府県が「都道府県がん対策推進計画」を作ることになっている。行政担当者や地元関係者のやる気次第で、作られる計画も実際に打たれる対策やそのやり方も、さらにはそうした対策の実効性も変わってくる。

 全国の都道府県を対象に、長崎県福祉保健部の山崎晋一朗氏が実施した「がん対策に関するアンケート」という調査がある。国立がんセンターがん対策情報センター・運営評議会のメンバーである山崎氏が、各地の実情を把握するための実施したものだ。アンケート結果は、国立がんセンターがん対策情報センターのウエブサイトに掲載されている(第二回 がん対策情報センター 運営評議会会議資料 山崎(晋)委員提出資料 がん対策に関するアンケート調査集計:PDF 365KB)。

「護送船団方式」終わり、県による差が生じる
 47都道府県のうち43都道府県(運営評議会開催時には36道府県)から回答があり、これによってあらためて都道府県による取り組みの違いが浮き彫りになった。山崎氏は「これまでは遅い船にペースを合わせる護送船団方式だったが、これからは都道府県の創意に任される部分が増えてくる。地方自治体によって取り組みに違いが出ているし、対策に格差が出てくるのもある程度仕方がない。各自治体がしっかりと取り組まなければならない時代になった」と指摘する。

県がん拠点病院である宮城県立がんセンターでは、県内のがん拠点病院を対象に緩和ケアに関する研修会を実施している

県がん拠点病院である宮城県立がんセンターでは、県内のがん拠点病院を対象に緩和ケアに関する研修会を実施している

 まず、すでに知られていることであるが、都道府県がん診療連携拠点病院(以下、県がん拠点病院)の指定が終わっていないところが47都道府県中16カ所ある。県がん拠点病院は県内の地域がん診療連携拠点病院のリーダー役となり、研修や教育機能を発揮することが期待されており、すでに緩和ケア実務者研修などを始めているところもある(右写真)。県拠点病院の指定が遅れると、それだけこうした知識や技術の普及が遅れる可能性がある。

 8県からは2007年度中に県がん拠点病院指定の推薦をする意向があった。がん拠点病院が未指定の2次医療圏がまだ100数十カ所あるが、今後のがん拠点病院指定予定数は40病院程度だった。2007年度中に千葉県が7病院、島根県が5病院を追加する意向を持っていた。一方で、未指定医療圏が多い県でも、大分県(未指定9圏)、鹿児島県(未指定9圏)、熊本県(未指定8圏)などは、追加指定の計画が未定と回答した。

 がん診療連携協議会(以下、協議会)についても都道府県の温度差が見られる。協議会は、県がん拠点病院を主催者とし域内のがん拠点病院や関係者が一同に集まり、推進体制や協力体制などを議論して、地域の特性にあった連携や教育研修の仕組みを進めることが期待されている。県がん拠点病院が決まっていなければ、この開催は難しい。2007年2月23日締め切りのこのアンケートで、2006年度(2007年3月末まで)の協議会開催予定回数について回答できたのは17府県のみ。協議会が機能しているのは全国で20県程度にすぎないと推定される。協議会への県庁のかかわり方については、事務局(2県)、委員メンバー(11県)、オブザーバー(5県)とさまざまで、県庁のかかわり方にも違いがあることがうかがえた。

予算確保に知恵を絞る積極的な県も
 がん拠点病院に指定されると国と県から公的補助金(機能強化事業費)が交付される。その補助金の事業成果の評価方法に関しても尋ねた。回答は、「病院から県に提出されることが義務付けられている医療機能実態調査データなどを活用し、がん部位別治療状況などを把握」(宮城県、静岡県)、「緩和ケアチームの実施状況や相談支援センター(がん拠点病院に設けられた患者・家族相談窓口)の相談件数」(宮城県、福島県)、「患者満足度」(福島県、長崎県)、「病病(病院と病院の)連携、病診(病院と診療所の)連携の実績」(福島県)、「研修会受講者数」(熊本県)など。使おうとしている尺度はさまざまだが、まだ決め手に欠け、各県が模索していることがうかがえる。

 「がん死亡率の年間伸び率を現在の半分に抑える」(福岡県)、「各病院の機能強化計画を策定し、進捗状況を評価」(長崎県)など、具体性のある目標設定を目指すところもあった。

 地域によっては専門的ながん診療に携わる医師やコメディカル(看護師、薬剤師、放射線技師など)が大きく不足している現状があり、医療従事者の数や質の地域格差も大きな関心事だ。これについてもすでに対策を始めた県と今後の検討課題とするところが2分化している。「現状を把握していない」「何もしていない」「検討を始めた」という段階にとどまっている県もある。一方で、「協議会に化学療法部会をおいて研修会を実施」(宮城県)、「協議会に研修教育専門部会を設置」(熊本県)など、新しい施策を打つところもあった。また、コメディカルに関して、長崎県は専門分野別の連絡会議を設置する意向だ。

 国は「がん対策推進特別事業」という補助金を用意している。がん対策基本法が制定され今後多様な対策が必要となるなかで、地域ニーズに応じた地域発のアイデアを生かそうとの趣旨の補助金枠で、県が国へ申請する。「がん化学療法・がん登録実施指導チーム派遣事業」(宮城県)、「出張型地域緩和ケア事業」(兵庫県)、「地域緩和ケア支援事業」(広島県)、「がん医療水準調査チームによる出張指導」(熊本県)などが申請されている。こうした資金を積極的に活用しようとする県とそうでないところの差も出てきた。

 県の独自予算で取り組みを進めるところもある。地域がん登録(県全体のがん罹患と死亡を調査)や院内がん登録(病院の入院・外来患者に関する治療と成績を調査)に予算を計上する県が多い。「がん医療従事者確保育成事業」(青森県)、「がん関連認定看護師養成事業」(茨城県)、「緩和ケアネットワーク整備事業」(三重県)などの事業例もある。三重県などは、がん拠点病院以外にも院内がん登録を広げる予算を用意している。

「県がん対策条例」制定で機運盛り上げ

●がん対策:地域評価チェックリスト
(あなたが住む地域で実施されているか調べてみよう)
□計画・方針など
1 知事によるがん対策マニフェスト
2 がん対策推進条例
3 がん審議会、がん戦略会議(メンバーに患者関係者参加)
4 地域がん医療計画、がん対策推進計画(数値目標)
5 がん対策に関するタウンミーティング、パブリックコメント
6 2007年度予算でのがん対策予算大幅増額。2008年度予算に県がん対策基本計画を反映(予定)
□病院ネットワークなど
7 県がん拠点病院・がん拠点病院の指定、がん拠点病院協議会開催
8 県内がん拠点病院の役割分担・連携計画
9 緩和医療センター、在宅支援センター
10 大学医学部腫瘍学講座
11 県がん拠点病院による人材育成プログラム
□情報開示、提供体制など
12 がん拠点病院で生存率などを開示
13 市町村がん関連窓口一覧
14 県コールセンター
15 セカンドオピニオン医師リスト
16 「がん患者サロン」「集団セカンドオピニオン」(がん種別の患者向け定期的医療相談)
17 がん患者団体支援、ボランティアセンター(がん経験者による相談支援活用)
18 地域がん登録、がん拠点病院外への院内がん登録拡大
□検診など
19 検診に関する連絡協議会
□研究など
20 地域がん研究所(患者支援、社会学、心理学、介護、医療技術、地元産業連携などの研究)

 先の県担当者アンケートに表れない施策・対策もたくさん存在する(表参照)。島根県、高知県はがん対策推進条例を制定している。条例があることで、地元のがん対策を進める際、知事、県議会議員の支持が得られやすく、県予算増額などにも有効に働くことが想定される。千葉県は、がん戦略を検討する会議を開始した。国のがん対策推進基本計画が示される前から議論を開始し、速やかな県がん対策推進計画の策定や、県が必要とする事業とその予算についての見極めに役立てようという考え。県がん拠点病院、がん拠点病院、患者関係者、県担当者などが一同に介してコミュニケーションを密にし、意識合わせを進める効果も予想される。

 県内の役割分担の計画を策定し調整を行うことが重要だ。富山県は、がん拠点病院によってどこがどんな種類のがんを中心に診療するかどうか、役割分担と連携の基本構想を策定している。すべてのがん拠点病院が同様にすべてのがんの診療に力を入れると、医療スタッフの奪い合いになりいずれもが中途半端になる。地域医療のレベルを上げるにはこうした役割分担に関する合意形成が欠かせないだろう。島根大学は臨床腫瘍学講座を設置し、がんの専門医を医学部教育の中で育成していくことになった。地域のがん医療スタッフの長期的安定供給のためには、特に地方都市では、地元大学に腫瘍学講座が存在することが重要になってくるだろう。

 患者や一般へのがん関連情報の提供や患者・家族支援サービスについても、地域格差が付いてくる。富山県は、がん拠点病院で5年生存率などのアウトカム(治療成績)データなどの情報開示を進めることを公約している。静岡県では、全市町でがんに関する相談窓口集を作成している。県のコールセンター(電話相談窓口)を計画している県もある。島根県では患者団体と県、がん拠点病院が協力し、がん拠点病院に「がん患者サロン」を設けている。患者、経験者、家族が集まって談話、情報交換、相談などができる。がん患者会の支援活動や、がん相談窓口でのがん経験者の活用を始めたがん拠点病院もある。

好事例の共有と普及の仕組みを
 各地で創意と工夫にあふれる多彩な対策が続々と誕生しているのは好ましいことだ。だが、個々の策を見ると、ほとんどが全国でごく一握りの県でしか実施されていない。好事例を全国にスムーズに広げるには、「事例創造⇒情報共有⇒普及拡大」の良いサイクルを作ることが大切だ。さもなければ、創意工夫が活発化するのはいいことだとしても、むしろ地域格差が拡大してしまう恐れがある。

 好事例拡大のため、比較的小さな労力で大いに役立つかも知れないことが二つある。一つは都道府県が提出する資料によって「都道府県がん対策白書」を毎年、作成発行すること。他の県の施策が参考になるし、白書が公開されるので、各県の担当者などには平均以上の対策をしなければという意識が高まるだろう。ここには、県が主体となって実施する施策のみならず、協議会、がん拠点病院、大学病院、地元ボランティア団体などから生まれたアイデアや、地元での協同プロジェクトなどについても記載されていると、便利で活用効果が大きいだろう。

 もうひとつは患者や患者関係者によるがん対策改善活動への参加だ。まず、上記のような全国の活動や好事例に関して、地元の県や病院の対策がどの程度の水準にあるかを把握しよう。右表をチェックリストとして使うといいだろう。その上で、地元でも実施してほしいことをその実施主体者や当事者、あるいはそれをプッシュできる団体や人に要望してみればいい。例えば、(1)知事への陳情・要望(2)県庁がん対策担当者への提案・要望(3)県議会議員への陳情・要望(4)地元選出国会議員への陳情・要望(5)県がん拠点病院・がん拠点病院の病院長への提案・要望(6)県がん拠点病院・がん拠点病院の幹部医師への提案・要望(7)地元患者団体への提案・要望――などが考えられる。

 がん対策基本法の施行で各県もがん対策強化の必要性に迫られており、患者・一般からの声を求めるようになってきている。島根県、高知県などでは、患者関係者が地元の医療を大きく動かしている。患者が地元の医療改革の原動力になることも期待される。

(埴岡 健一)

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