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レポート

2007/4/3

「がん対策・国家プラン」の作り方

基本計画の質が、万人単位の生命を左右

 4月1日に「がん対策基本法」が施行された。同法のもと、4、5月にわが国の対がん戦略における国家プランである「がん対策推進基本計画」が作られる。この計画の出来・不出来が、これから長期にわたって日本のがんの罹患率、生存率、死亡率を左右する。そこで、対がん戦略を上手に策定するコツを世界の教訓から学んでみよう。米国は、多様性と創意工夫を活かして対がん対策を発展させてきた。英国は計画的に整然とプランを推進している。いずれも国が強いリーダーシップを発揮している。
 日本のがん基本計画が備えなければならないのは、(1)戦略性(2)包括性(3)数値目標(4)進捗管理(5)協力体制(6)地域連携(7)財源・資源確保−−など。実効性のある計画としたいものだ。



 これから60日間は、日本の対がん戦略のマスタープランである「がん対策推進基本計画」を策定するという正念場となる。同計画は、6月ごろには閣議決定により正式採用され、これに基づき、全国47都道府県がそれぞれの「がん対策推進計画」を策定していくことになる。


表1●WHOが示すがん対策基本計画の枠組み(一部抜粋)
すべての国
高資源国
国家がん対策計画 ○国家がん基本計画策定○結果とプロセスを計測するサーベイランスシステムの構築○医療従事者への継続的教育体制の確立 ○有効性、効率性、アクセスを保証できるエビデンスに基づいた戦略の全国的全般的導入○全がん種の対策と結果をモニターする包括的サーベイランスシステムの実施
予防 ○総合的な健康促進、予防戦略を実施○タバコ規制を行い、大量飲酒などに注意喚起○職業がん削減策を促進○皮膚がん高リスク者の日光暴露削減 ○エビデンスに基づいた健康促進策、予防強化策の包括的強化と他セクターとの連携による全国的展開の強化
早期発見 ○早期検出や治癒可能ながんの早期発見を促進○診断精度と治療レベルの向上○啓蒙対象者への教育 ○早期発見可能ながんの早期診断に、包括的全国的戦略を適用
検診 ○有効性が確認された検診の実施 ○30歳以上女性への子宮頸がん細胞診、50歳以上女性へのマンモグラフィー乳がん検診の実施
治療 ○有効な診断や治療へのアクセスの強化○病期分類と治療の標準設定の強化○治療、基本治療薬、継続的教育に関するガイドラインの確立○治癒不可能ながんに治癒を目指した治療をせず終末期医療を提供する ○教育、研究、国内・海外支援の機能を果たす包括的がん治療センターのネットワークの再強化
疼痛管理・終末期医療 ○疼痛管理、症状緩和、心のケアを含む包括的終末期医療の実施○疼痛管理、終末期医療ガイドラインの設定○モルヒネ系除痛薬使用の確保○介護者や一般への教育 ○すべての治療段階で全国的に疼痛管理と終末期医療のガイドラインが実施され、在宅医療を含めた多様な選択肢により、広く提供されていることを再確認

 基本となる計画が優れていれば日本のがん対策の総合力が格段に向上し、そうでなければ、日本のがん戦略は多くの問題点が指摘されているままで停滞しかねない。

 良いシナリオは次のようだろう――。国の計画をベースに、各都道府県単位で、「地域特性に合った」「地元の各関係者の活力を引き出す」実効性の高い計画が作られていく。その結果、がんの検診率が高まってがんの早期発見が進み、医療機関の治療水準も均てん化(どこでも高い水準の医療が受けられること)され、がんの生存率が目に見えて高くなる。そして、がん患者への情報提供、痛みのケア、心のケアなども進展し、患者の生活の質(QOL)も高まる。対策の効果が目に見えることで、医療従事者や行政などのやる気が引き出され、さらに効果があがっていく……。

 悪いシナリオもある――。国の計画が断片的な対策の寄せ集めで、各当事者の協力関係を有機的に描けない。計画は作られても都道府県はしらけ、形ばかりの地域計画が作られる。それぞれの対策がばらばらと打たれるが、医療現場には"押し付けられた"という意識が強く、実際に患者の生命の救済やQOL向上にはつながらない……。

 4月5日から「がん対策推進協議会」が開催されてがん対策推進基本計画を策定することになるが、その前哨戦として「がん対策の推進に関する意見交換会」が昨年の11月から開かれて、3月28日に提言書をまとめた。これについては2週間前のレポートでご紹介した。多くの意見が盛り込まれはしたが、漏れもある。また、これは計画の体裁とはなっていない。では、優れた対がん計画はどのように立案すればいいのだろうか。

 まず、第一に参考にすべきなのは、世界保健機構(WHO)が策定している「国家がん基本計画〜政策・管理ガイドライン」だろう。2002年5月に発行され、国家がん基本計画の国際標準となる骨格を示している。表1のように、計画の柱となる構成要素を示した上で、その国ががん対策に関しての高資源国か低資源国かによって3つのシナリオを用意している。日本は高資源国としての対策が求められる。日本の現状では、(1)エビデンス(科学的証拠)に基づいた政策立案(2)エビデンスやがん関連統計の集計開示(3)ガイドライン策定による標準的治療の普及(4)包括的緩和ケア・終末期医療の実施――など、まだまだ強化しなければならないことがある。

 先進国はこのWHOの計画策定ガイドラインに準拠して国家がん対策を作成している。日本もこれを尊重すべきなのは言うまでもない。国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部部長の祖父江友孝氏はこのWHOガイドラインに関して、「まず、証拠に基づいた戦略を立てること、そして系統的・公平に実行すること、さらに、限られた資源を効率よく最大限に活用するという3点が基礎にある」と指摘する。

多様なセクターが共同でがん対策を牽引する米国

 36年前の1971年に「米国家がん法」を制定した米国は、その後、がんに関する法律を順次、整備することで連邦政府としてのがん対策を充実させてきた。1998年には米国厚生省疾病管理予防センター(CDC)が「全米包括がん対策基本計画」を策定した。米国の全50州に、「州・包括がん対策基本計画」を策定するためのノウハウ提供などの支援を行うことが大きな目的だ。

表2●包括的がん基本計画の策定方法(米国)
目標
⇒ ⇒ 立案プロセス ⇒ ⇒
結果
ゴール
インフラ強化 必要性と能力の評価 関連当局からの素材確保 スタッフの確保・雇用 立案グループ形成 関連当局スタッフと連携 計画プロセスの策定 立案スタッフ間の調整と監督   ●経営管理構造と手順の開発●計画策定と蓄積 包括的がん基本計画完成
サポートの動員 現有サポートの評価 財源と現物資源の確保 官民から支援を構築 連携を広報宣伝 財源確保戦略の方法を開発 連携内容の再評価     ●既存資源の配分の優先付けのある連携●資源と支援のギャップ
データ・研究の活用 がん登録などデータ源との関連構築 活用できるデータや調査の確認 データや調査の評価 データギャップの評価 必要データの収集 評価基準データの決定     ●対策評価と戦略策定のための、計画と研究データの評価●データギャップの確認
連携の形成 潜在的連携先の確認 連携先の関心と能力を評価 第1回連携会議の準備 目標や意思決定手順を合意 連携リーダーシップを確立 実務的分科会設置 連携先満足度測定 メンバー拡大方法の開発 ●新規メンバーの参加と当初メンバーの活力維持●連携委員会の開催
がんの負担の評価 関心領域により連携組織化 重点項目と高リスク群を決定 既存戦略とのギャップを分析 計測可能な指標と目標を策定 介入戦略案を選択 目標と戦略の優先付け 戦略の実施分担者を選択   ●優先付けされたがん予防対策の重点領域
評価の実施 評価のための資源と人員を確認 計画評価項目の決定 計画プロセスの文書化 計画過程の問題、解決策、成果を抽出 連携者評価の教育を提供 評価計画を策定     ●計画立案過程評価、監督実施、成果計測に関する戦略

 米国CDCは「全米包括がん対策基本計画」を策定すると同時に、各州が計画を立案するための基本プロセスを示し(表2)、さらには、実際に活用できるツールも充実させている。その代表例が「がん対策プラネット(Cancer Control PLANET)」だ。ここでは、表3のように5つのステップで基本計画を策定することを推奨している。


表3●地域における包括的がん基本計画策定の5ステップ(米国)
 
ステップ
内容
支援材料
1 優先事項の検討 国、州、郡レベルで、がん死亡、罹患、リスク要因、検診受診率などの統計を提示 州別がん統計
2 パートナー決定 州レベルで、がん対策のパートナーを見つける(米国がん協会、各地の連邦政府疾病管理局事務所、米国外科学会がん委員会、米国がん研究所がん情報サービス) 連携先のデータベース
3 施策の有効性確認 種々の介入施策の有効性を調べる(検診受診勧奨、有効性、禁煙支援) 施策・調査研究のデータベース
4 既存ツールの利用 研究の中で用いられた介入方法の具体的ツール(パンフレット、マニュアルなど)を提供 施策実施ツールのデータベース
5 立案と自己評価 自分たちのがん対策を企画し評価する包括的がん基本計画作成マニュアル、各州のがん基本計画を提示 立案評価ガイドのデータベース

 各ステップを示すと同時に、具体的に使える統計、データ、マニュアル、連携相手、資料などを示しているため、各州のがん対策を企画立案・管理する担当者にとっては心強い。「国からの押し付けでなく、各地の担当者が協力者を探しながら自分のこととして立案していくことに意味があり、それが計画の実行の際の推進力にもつながる」と、祖父江氏は指摘する。また米国が提供している統計、データなどには、日本では整備されておらず提供ができないものもある。

 各州は計画の基本的な構成や構造は踏襲しながら、地域性や活用可能な資源を踏まえて州別の計画を策定している。全州のがん対策基本計画はウエブ上で閲覧できるようになっており、各州の計画を比較することが可能だ。

 米国では米国がん研究所(NCI)が、がんに関する研究、調査、がん対策の普及などの司令塔として活躍している。NCIは2006年1月に「NCI戦略計画」を策定した。戦略のビジョンと構造は、大きな矢印の形に表現した図1に端的に示されている。さらに、米国でがん戦略に大きな影響を与えている委員会に大統領が主宰する「大統領がん諮問委員会」がある。毎年、提言中心の年報を発行し、新たに強化されるべき施策を訴えている。また、学術団体でがん戦略を牽引しているのが「米国医学研究所(IOM)」が発行する一連のがん対策に関する報告書である。このように、米国では連邦政府のリードの下、州政府、NCI、IOM、がん関係の各学会など、多くのセクターがそれぞれの役割を果たしながらがん対策を推進している。

精緻な全国計画を実施した英国
 英国は政府が体系的にがん対策を構築している。がん診療に関して1995年に「カルマン-ハイン報告書」(118KB)が出された。このリポートは、欧州各国のなかで英国のがん生存率が低い方であることに触れたうえで、がん治療の待ち時間、格差、質の低さ、心のケアの不足など、多くの問題点を抽出すると共に、それを解決するための大改革の方向を示した。1997年に就任したブレア首相は、低医療費政策を転換し、英国医療の再建を打ち出したが、がん診療に関しても大投資をして強化することに着手した。

 こうして2000年9月には、英国のがん対策推進基本計画とでも言うべき「英国がん基本計画(英国国営保険サービスがん計画〜投資・改革プラン)」が策定された。章立ては、(1)がん問題の基本認識(2)予防(3)検診(4)地域におけるがん診療の改善(5)待ち時間解消(6)治療の改善(7)療養・ケアの改善(8)人材投資(9)機器投資(10)研究投資(11)がん戦略実施計画――。各章には取り組むべき施策だけでなく、その後2、3年に関して時期を明らかにした具体的な実施計画が付けられた。

 例えば、第6章の「治療の改善」では、次のような行動計画だ。
  2000年:各地に地域がん運営グループ設置
  2001年:地域がん診療ネットワークが地域の状況を評価
       各地の政府がん対策事務所が診療現場の訪問監査
       NICE(英国国立医療技術評価機構)の抗がん剤に関するガイドラインに準拠
       4つのがんに関して全国がん登録データ集計
  2002年:家庭医や英国国営保険サービス(NHS)病院がNICEガイドラインに完全準拠
       全国がん登録データ集計の対象がん種を拡大

 また、対策の財源として、2001年度に2億8000万ポンド(650億円)、2002年度に4億0700万ポンド(950億円)、2003年度に5億7000万ポンド(1330億円)の政府予算投入が明記された。

 英国がん基本計画は英国のがん診療を大きく変えた。がん診療は、全国34の「がん診療ネットワーク」によって行われるようになった。このネットワークの典型的な姿は次のようなもの。「住民100万人、家庭医数百人、一般病院16病院、総合病院4病院、がんセンター1センター、乳がん検診サービス2」。この中で、予防や早期発見の普及啓発から、早期診断やチーム医療による治療、さらには終末期医療までが、域内の医療者の連携によって行われるようになっていった。

 また、がん基本計画の下で、テーマや疾病ごとに約30種類の診療実施マニュアルが策定された。それぞれが、なすべきことの定義、臨床実績を計測する指標の定義などを詳細に決めている。同時に英国では各種の診療ガイドラインの整備が急速に進んだ。

 2005年には英国会計検査院が、がん基本計画実施から3年間の実績を評価し「がん計画・進捗報告書」(598KB)を作成した。ここでは、過去8年間で75歳以下人口のがん死亡率が16%低下したこと、多くのがん種で生存率が上昇したこと、患者満足度も高まったこと、などが指摘された。また、全国で1500の他職種のがん治療チームが形成され、標準治療がかなり浸透したともされた。英国で最大の問題であった待ち時間の短縮に関しても目標を達成した。以上のように英国では、国家主導で地域を巻き込みながらがん対策が総合的に進められているのが特色だ。

「戦略的な」プランが描けるか
 オーストラリアやカナダのがん基本計画も参考になる。オーストラリアの連邦政府は2003年に「オーストラリアがん医療最適化報告書」を作成した。シドニーがあるニューサウスウェールズ州は2003年6月に州がん研究所法を制定、同法は州の「がん基本計画」を2004年6月までに作成することを規定した。同州の「がん基本計画2004年〜2006年」(609KB)は、2004年7月に発表された。その後2年間の達成度合いが評価されたうえで、2006年11月には「がん基本計画2007年〜2010年」(2.66MB)が策定された。きっちりとした進捗管理がなされている。

 カナダオンタリオ州のがん基本計画(9.34MB)はその精緻な管理が特筆される。がん対策の質を表す25の指標を決めて計測し、がん対策の進捗を評価しているのだ。死亡率(術後院内死亡率、術後30日死亡率)、除痛率、5年生存率、ガイドライン標準治療順守率、医薬品コンピューター処方箋管理率、治験参加率、術後病理検査実施率、がん登録病期判明率、検診率(大腸がん、子宮頸がん、乳がんマンモグラフィーなど)、外科手術待ち時間、化学療法待ち時間、放射線治療待ち時間、在宅ケア実施率、喫煙者率などだ。その推移がモニターされている。


表4●基本計画策定の際のチェックポイント
1
戦略性 目的とそれを達成するための道筋が明確で、施策の優先付け、連関性が十分に考慮されているか
2
包括性 がんの予防から治療まで、医療技術から心のケアまで、国の役割から関係する多数の当事者の役割と相互協力体制まで、計画が有機的に実行されるという観点が十分にあるか
3
数値目標 成果と結びつく指標を幅広く設定できるか
4
進捗管理 毎年、3年程度ごとに計画の進捗度合いを合理的に判定する仕組みを組み込めるか
5
協力体制 国と地方自治体、地域内の各医療関係者、官と民などの協力関係を高める
6
地域連携ネット 地域内での緻密な医療連携ネットワークを形成する
7
財源資源確保 施策を実現するための公的補助金、診療報酬などの裏付けをつくる。新しい資源の投入と、既存資源の活用の両面を考慮する

 模範は海外にあるとは限らない。日本でもすでに従来から立派な「県がん基本計画」を策定しているところがある。これらは今後、国のがん対策推進基本計画などに基づいて書き直しも求められようが、既存の計画にも様々な工夫がみられる。三重県は2005年に「三重県がん対策戦略プラン」を策定した。神奈川県は2005年3月に「がんへの挑戦・10か年戦略」を発表した。茨城県は2003年3月に「茨城県総合がん対策推進計画(第2次計画)」を策定、2004年3月にはアクションプランを作った。5つの施策の柱と具体的な施策を体系付け、50項目の数値目標も設定した。2007年には中間評価も予定している。

 以上、さまざまながん基本計画を見てきた。これから日本の「がん対策基本計画」を策定する際、まず、国のリーダーシップが不可欠だ。そして、各国の経験をまとめると、(1)戦略性(2)包括性(3)数値目標(4)進捗管理(5)協力体制(6)地域連携(7)財源・資源確保−−がかぎになる(表4)。多くの人命を左右するマスタープランとなるだけに、内外のがん計画から学ぶべきことを学び、優秀な計画を練り上げたいものだ。

(埴岡 健一)


〔参考サイト〕
「がん対策の推進に関する意見交換会」提言
第1回がん対策推進協議会の開催について
がん対策基本法(120KB)


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