このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2007/3/20

厚労省・意見交換会が提言を取りまとめ

「新しいがん対策の時代」を示す

 厚生労働省が開催していた「がん対策の推進に関する意見交換会」が、がん対策に関する提言をとりまとめた。これまで5回の会議を開催し、参考人39人からヒアリング、パブリックコメント(一般からの意見公募)も行い、幅広い意見を取り入れてまとめた。「全ての国民にとって希望を託すことができる、“新しいがん対策の時代”への道作りを行っていく」と、うたっている。



 3月19日に開催された第5回「がん対策の推進に関する意見交換会」(座長:国立がんセンター総長、垣添忠生氏)(写真右下)が、がん対策に関する提言をとりまとめた。会議で出た委員からの意見を踏まえて最終版とし、月内に厚労省健康局長に提出される。

提言書をまとめた「がん対策の推進に関する意見交換会」
提言書をまとめた「がん対策の推進に関する意見交換会」

 4月1日には、がん対策基本法が施行されるが、この提言は、今後のがん対策に大きな影響を与えることになると予想される。法の施行に伴って「がん対策推進協議会」が召集され、この協議会で日本のがん対策の方向を規定する「がん対策推進基本計画」が策定されることになる。そして、その後は、国の基本計画に基づいて都道府県別の「県がん対策推進計画」が策定される。今回の提言は、がん対策推進協議会に提出され、重要な参考資料となる。また、県がん対策推進計画の下で、この提言に書かれたようなことが具体的に実行され、各現場のがん診療を経て患者が受けるケアに波及することになる。

 つまり、この提言は、これから1、2年のがん対策の方向を占うための最も重要な資料のひとつとなるのだ。提言は、(1)がんの予防・早期発見(2)がん医療(3)医療機関の整備(4)がん医療に関する相談支援および情報提供(5)がん登録(6)がん研究――の6つの項目に関して、現状を描写したうえで具体的な提言を示した。提言は合計55項目にのぼる。少し長くなるが、重要な項目が多いため、以下に主な項目を紹介しよう。

 まず、がんの予防・早期発見に関しては、7項目が挙げられた。「たばこ対策の推進」「がん予防対策の広報強化」「がん検診未受診者を無くすことに重点を置いた検診推進」などである。

 2つ目のがん医療に関しては22項目。放射線療法・化学療法の推進と医療従事者の育成、診療ガイドライン、緩和ケア、在宅医療の4分野に分けて提言が並んだ。放射線療法・化学療法の推進と医療従事者の育成の分野では、「チーム医療の推進」「専門的にがん治療を行う医療者の育成のための大学講座などの設置」「医師のコミュニケーション技術の向上」などが、診療ガイドラインの分野では、「ガイドライン作成の促進と患者用版の作成推進」「作成委員への患者参加奨励」などが盛り込まれた。

 緩和ケアの分野では、「切れ目のない緩和ケアの実施や緩和ケア外来の設置」「医師への緩和ケアに関する研修の実施」「緩和ケアチームへの心のケアも含めた教育」などが、在宅医療の分野については、「在宅医療のための体制整備」「地域連携クリニカルパス(実施されるケアを医療機関の枠を超えて時系列に図示した治療計画書)の整備などによる地域で在宅医療が実施できる体制の整備」「訪問看護師の確保」「痛みのケアや医療用麻薬に詳しい在宅緩和ケア関係者の育成」などが入った。

「がん患者が医療を変える責任と自覚を持つべき」とも
 3つ目の医療機関の整備に関しては5項目。「医療機能の分化・連携の推進」「地域連携クリニカルパスの整備による切れ目のない医療の提供」「がん拠点病院のさらなる機能強化に向けた検討」国立がんセンターがん対策情報センターの機能強化」などが明記された。

 4つ目の相談支援・情報提供に関しては12項目。「がん経験者による相談の重視」「がん患者や患者団体ががん医療を変えるとの責任や自覚を持って活動すべきこと」「社会全体が患者団体の支援をすべきこと」「患者と家族への心のケアを実施する体制の整備」「がん拠点病院に設置された相談支援センターの人員増強や訓練強化」「相談支援センターでの患者団体の相談員との連携」「国立がんセンターによるインターネットを通じた情報提供強化と共にインターネットを使わない人への情報提供経路の確保」などの事項がある。

 5つ目のがん登録に関しては5項目。「がん登録の意義と内容の周知」「患者追跡調査の労力軽減策の検討」「地域がん登録に関する法律整備の検討」などが記述された。最後のがん研究に関しては4項目。「臨床研究グループへの支援や人材の育成など基盤の強化」「情報の提供や公開による国民の理解促進」「患者から期待が大きい患者の生活の質(QOL)向上などを含む臨床研究の重視」「研究成果を患者代表も参加した会議などで報告するなどの透明性の確保」などが盛り込まれた。

対策「リスト」から戦略的「計画」への発展が課題
 この意見交換会がまとめたがん対策に関する提言の意義は大きい。まず、がん対策基本法の施行を待たず、それ以前から検討会を開催して意見集約につとめたこと。4月に設置されるがん対策推進協議会が、それから意見聴取から始めるのであれば、国の計画を策定するのにずいぶん時間と労力がかかってしまう。この提言は、がん対策推進協議会における基本的な参考資料のひとつになるだろう。また、この検討会において19の患者団体からヒアリングを行ったことも注目点だ。20の学会などのがん関連団体からも意見聴取が行われた。パブリックコメントの実施とあいまって、広く意見集約をしようとの姿勢が見られた。

 特記すべきは、がん患者団体代表委員が果たした役割の大きさだ。海辺陽子氏(癌と共に生きる会)と富樫美佐子氏(あけぼの会)が参加したが、しばしば2氏の発言が重く受け止められた。中でも海辺氏は委員の中でもっとも多くの発言をし、そのほとんどの意見が採用された。学会など特定団体を背景にもつ委員は、どうしてもその専門性や団体の利害に関した発言に終始しがちだが、患者代表委員は、患者や医療全体の視点から幅広い領域に関してコメントした。患者代表委員をこうした検討会のメンバーに入れる有効性が示されたといえよう。

 個別の点としては、緩和ケア・在宅ケアについて手厚い記述がなされたこと、患者や患者団体の参加の意義についていくつかの言及があったこと、心のケアの重要性について触れられたこと、などが注目される。

 一方で、この提言が十分にカバーできなかった点もある。まず、意見の羅列の体裁となっていること。対策の優先付けやシナリオなど、戦略的計画立案に欠かせない要素は議題とならなかった。また、がん対策推進協議会の議事運営のあり方や、がん対策推進基本計画の策定プロセスなどについても議論されなかった。さらに、がん対策の数値目標の設置や進捗評価の方法に関してもほとんど話題にならなかった。

 提言の冒頭の基本認識にも甘さがある。がん対策基本法が成立したのは、がん診療格差への不満や、「がん難民(どこで治療を受ければいいか分からない患者さん)」の存在などが社会問題になったからだった。ところが、今回の提言の前文は、「これまでのがん対策は、診断・治療技術ともに目覚しい進歩を遂げてきた、高齢化の進展と共にがんの死亡数や罹患数が増えているために、より一層の発展と推進が必要」と、あたかも弊害や課題がなかったかのような認識だ。今回の提言は、前文を読む限りでは、基本認識からしてずれているのではないかとの疑問がわく。

国家プランが作られる今後2カ月が、がん対策の正念場
 また、やるべきことが羅列されたが、裏づけとなる財源については19日に会議に出された案にはほとんど言及がなかった。せめて「がん対策基本法におけるがん対策強化の精神にかんがみた必要な財源確保の検討」「国庫補助金や診療報酬で可能な対応について検討していく」といった文言は入れられなかったか。財政厳しい折から厚労省の事務局としてこうしたことが書きにくい事情は分かるが、委員からもあまりこの点で意見が出なかったのは残念だ。せっかくの対策リストができただけに、実行可能性の確保という点で物足りなさが感じられる。もっとも、この点について3月19日の会議の席上で、座長の垣添氏から「財政的手当てについてもう一歩踏み込んだ書き方を検討してほしい」との要請が、事務局に向けてなされた。

 さらに、今後のがん対策の「司令塔」の役割をどこが果たすのかという点も触れられなかった。米国では米国がん研究所(NCI)がその役割にある。日本では国立がんセンターがそれに似た立場にあるが、国立がんセンター総長が座長である意見交換会であるにもかかわらず、国立がんセンターの役割・位置づけについては議論がなされなかった。

 各論でも気になる点がある。いくつか具体的にあげてみよう。(1)患者が全国どこからでも電話で相談ができるコールセンターの設置について、明確な言及がされなかった(2)がん医療の成績や質に関するデータの集計・開示によるがん診療の質向上策について、明確な記述がされなかった(3)米国などで重視されている、がんが治癒したと考えられる人の晩期障害や社会適応の問題について、十分な記述がされなかった(4)地域がん登録に関する法律作成の必要性について、抑制された書き方となった(5)医療事故のリスクが高いがん診療において、医療事故の抑止や起こったときの対処などについて触れられなかった――などだ。こうした点は今後の継続的な議論のテーマとして残されたといえよう。

 これから2、3カ月が日本のがん対策の正念場となる。がん対策推進協議会が4、5月で日本のがん対策のグランドデザインである「がん対策推進基本計画」を策定し、6月にも閣議決定が行われる。それに基づいて全国47都道府県が各地の公式計画を作り、各地の医療機関の役割分担や強化などにも反映される。つまり、この基本計画の巧拙が全国の患者の受けるがん診療の質を左右することになる。今回の提言は、基本計画策定時の重要資料であり、がん対策に関心あるすべての人々の必読書類だ。しばらくは、がん戦略立案プロセスから目が離せない。

(埴岡 健一)

〔関連サイト〕
第1回がん対策の推進に関する意見交換会 資料
第2回がん対策の推進に関する意見交換会 資料
第3回がん対策の推進に関する意見交換会 資料
第4回がん対策の推進に関する意見交換会 資料


※「がんナビ通信」(週刊:購読無料)を配信中。購読申込はこちらです。

この記事を友達に伝える印刷用ページ