このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2007/2/13

期待の放射線技術だが……

粒子線治療は高コストに見合う夢の技術なのか?

 高額な治療費にも関わらず粒子線(重粒子線、陽子線)治療を受けるがん患者は多い。高度先進医療費の8割弱を占めていることも明らかになった。今後、粒子線治療は、保険診療として利用できるようになるのだろうか。そもそも高額な治療費に見合う治療技術なのだろうか。



 「重粒子線治療を保険診療とするためには、重粒子線治療装置を全国的に普及させることが必要。群馬大学では、全国展開のための実証機として小型化した重粒子線治療装置を設置する」と言うのは群馬大学大学院腫瘍放射線学教授の中野隆史氏。群馬大学は、この2月に装置を導入するための建屋を着工する。


重粒子線治療と陽子線治療

 重粒子線、陽子線とも粒子線と呼ばれる。粒子線は、体表面から一定の深さでエネルギーを出す性質があるため、通常の放射線治療に用いられるX線に比べて、腫瘍に集中して放射線を照射できる。また、酸素濃度の低い部位のがんは、通常の放射線治療に抵抗性を示しやすいが、そのようながんにも粒子線は効果があるといわれている。

 現在、日本で重粒子線治療装置を有するのは、千葉県の放射線総合医科学研究所(放医研)と兵庫県立粒子線医療センターの2施設のみ。群馬大学に続いて、神奈川県も重粒子線装置の導入計画を打ち出しているが、まだ予算を確保できておらず、治療開始は2014年の計画。実現するかどうかはまだ不確定な段階だ。

 一方、重粒子線と同様、腫瘍組織に集中的に放射線を当てることができる陽子線治療。群馬大学の重粒子線治療装置が約130億円である一方で、陽子線治療装置は70億円程度。重粒子線治療に比べて陽子線治療は、装置が安いことも手伝ってか、普及し始めている。現在、陽子線治療装置を用いて治療を行っているのは3施設(国立がんセンター東病院、兵庫粒子線センター、静岡県立静岡がんセンター)。加えて、総合南東北病院(福島県)が来年、福井県立病院が再来年(2009年)に治療を開始する計画だ。

 兵庫県立粒子線医療センター院長の菱川良夫氏は、「臨床的に見ると、陽子線と重粒子線の治療効果に大差は無い」と語る。効果は見劣りせず、装置が比較的安いことから、陽子線が重粒子線よりも一歩進んで普及し始めたようだ。

 「様々な工夫により、年間500人前後の治療を行うことが可能になった。この患者数が維持できれば費用的にやっていけるので、陽子線に限れば、一般医療として普及の可能性が出てきた」とも菱川氏は言う。

保険収載はめど立たず
 これらの粒子線治療は、現在、先進医療の枠組みの中で行われている。そのため、患者は粒子線治療だけで約300万円を自己負担する必要がある。この治療費は、先進医療の対象となっている技術の中でトップ3に入る高額だ。今後、患者の経済的な負担が軽減するためには、粒子線治療が保険診療として認められる必要がある。

 しかし、厚生労働省の担当官は「現在のところ、粒子線治療を保険診療として認めるかどうかという議論には至っていない。引き続き当分は、先進医療の枠組みの中にとどまるだろう」という。保険診療として認められるには、他の治療方法と比較した上での有効性が示される必要があるが、粒子線治療ではまだそのような研究データが少ないと、この担当官は言う。

 放射線腫瘍学会総務理事で札幌医科大学放射線医学講座教授の晴山雅人氏も、「肺がん、肝がん、前立腺がんとも、既に保険適応となっている通常の放射線治療でそれなりの治療成績が出ている。通常の放射線治療に比べて、粒子線治療がどれほど有効なのか、また、どのような患者に効果的であるのかなどは、まだ研究されていない段階」と話す。

 他の治療法と比較した上で、粒子線治療の有効性や副作用の少なさが証明されなければ、粒子線治療が保険診療の枠に入ることは難しそうだ。また、このような研究成果が出そろうまでは、まだまだ時間が必要だろう。

治療効果は多くのがんで研究待ち、ただし頭頸部がんには福音
 現状では、「粒子線治療は、他の放射線治療に比べて105パーセントぐらいの効果。一方でコストは10倍」という放射線腫瘍認定医もいる。専門家の中では、粒子線治療の効果をある程度は認めるものの、コストと釣り合わないとの意見も少なくないようだ。

 「前立腺がんなど、他の治療法があるがんを対象に粒子線治療が保険適応になるのは難しいのでは」と菱川氏も本音をのぞかせる。

 ただし、菱川氏、晴山氏とも、通常の治療法で効果が期待できないがん、例えば頭頸部がんなどに限っては粒子線治療を保険収載すべきとの意見だ。頭頸部がんの多くは、手術不能であり、かつ、従来型の放射線治療に抵抗性を示す。また、化学療法も効きにくい。

 「より良い薬や治療装置の開発がもっともっと進むべきで、100年後には、こんな巨大な治療装置は博物館入りすべきだ」と菱川氏。粒子線治療は夢のがん治療技術ではなく、夢のがん治療の実現までの過渡期を埋める一技術に過ぎないというわけだ。

 まだまだ未知数が多い粒子線治療。粒子線治療を受ける前には、他に選択肢は本当に無いのか、何をこの治療法に期待するのかなど、十分に検討する必要がありそうだ。

(小板橋 律子)


---[重粒子線、陽子線の治療施設リスト]---

放射線医学総合研究所の重粒子医科学センター

・重粒子線治療費は314万円
・治療対象:脳腫瘍、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がん、子宮がん、直腸がん、前立腺がん、骨・軟部腫瘍、眼球腫瘍、涙腺がんなど
・一般患者に対する相談窓口
電話相談(TEL:043-284-8852)月曜日9:30〜15:15
重粒子治療に関する相談外来 月曜日、木曜日9:00〜11:00
・治療成績などをHPに掲載

兵庫県立粒子線医療センター

・陽子線、重粒子線治療費とも288万3000円
・治療対象:頭頸部がん、頭蓋底腫瘍、非小細胞肺がん、肝細胞がん、前立腺がん、直腸がん術後局所再発、単発性転移性腫瘍、骨軟部腫瘍
・治療成績、受診の方法などをHPに掲載
・兵庫県民を対象とした貸付制度有り(所得制限あり)

国立がんセンター東病院

・陽子線治療費は288万3000円
・相談窓口:セカンドオピニオン外来
・治療対象:脳腫瘍、頭頸部がん、食道がん、肺がん(早期)、前立腺がん、肝がん、直腸がん(一部)、胆嚢がん(一部)、舌ガン(一部)、甲状腺がん(一部)

静岡県立静岡がんセンター

・静岡がんセンターのHPの左側にある受診案内・診療科案内をクリックした後、診療科の一覧のなかから陽子線治療科をクリック
・基本料金240万円(基本料金+照射料金の上限額280万円)
・治療対象:頭頸部がん、非小細胞肺がん、肝細胞がん、前立腺がんなど
・民間金融機関による陽子線治療ローンや県による利子補給などの支援制度有り



※「がんナビ通信」(週刊:購読無料)を配信中。 購読申込はこちらです。

この記事を友達に伝える印刷用ページ