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2007/1/30

米国M.D.アンダーソンがんセンター、ドクター上野の「がん患者学」(下)

「チーム医療の真髄」と「家族の役割」を知ろう

M.D.アンダーソンがんセンター 上野直人准教授

 米国1、2位といわれるM.D.アンダーソンがんセンターで長年、臨床に携わっている上野直人氏(右写真)。本場の「患者中心のチーム医療」を熟知した上野氏が、日本のがん患者とその家族のために、「がん患者学」を2回にわたって伝授する。今回は、チーム医療の真髄と、家族の果たす役割について考える。



 今日は、私が考えるチーム医療と患者さんのご家族の役割についてお話をしましょう。まず、「チームオンコロジー」(対がんチーム)というチーム医療の考え方を理解してください。

 私は、患者さんを取り巻くチーム医療は、右下の表のように3つのチームから成り立っていると考えています。この3つが協力してこそ、患者さんが納得して満足できる治療を受けられるのです。それぞれのチームが自分の役割をきっちりと把握して、その強みを存分に発揮すると同時に、自分たちの弱点を知り、他のチームを活用したり、他のチームから学ぶという姿勢がとても大切です。

チームAは、答えがない問題への対処は苦手

●チームオンコロジー(対がんチーム)の構成と役割・目標など
【チームA】医学的治療チーム
職種例
医師、看護師、薬剤師、放射線技師、栄養士、リハビリテーション療法士、病理技師など
役割
○問題解決型 ○EBMとコンセンサスに基づく治療 ○EBMの発信
目標
○チームBの役割を知る ○チームA内のコミュニケーションを推進 ●(課題)チームBの技法をスキルとして身につける(批評的でない傾聴を心がける、問題解決を急がない)
【チームB】支援チーム
職種例
臨床心理士、ソーシャルワーカー、音楽療法士、絵画療法士、アロマセラピスト、図書館司書、倫理委員会
役割
○患者のニーズをサポートする ○患者の主観的な考え方への共感、コンプライアンスの実現、生活の質(QOL)の改善と向上 ○自己決定を促すことで、患者の満足度の向上を図る
目標
○チームAの役割を知る ○チームAとの柔軟なコミュニケーションが求められ、チームAと患者のコミュニケーションの連携役となる ●(課題)チームAの基本的医学知識を身につける
【チームC】社会的資源チーム
職種例
家族、友人、基礎研究者、疫学研究者、医薬品メーカー、診断薬メーカー、NPO/NGO(特定非営利活動法人、非政府組織)、マスメディア、財界、政府など
役割
○患者のニーズを間接的にサポートする ○患者およびチームA、Bを包括的にサポートする
目標
○チームAとBの役割を知る ●(課題)断片的ではない、包括的な知識、情報を身につける ●(課題)チームオンコロジーの方向性を提示する

 チームAは、医学的治療チームです。医師、看護師、薬剤師などから成ります。このチームが得意なのは、問題解決型の課題への対処です。抗がん剤の副作用として吐き気があるので、それを抑えるために薬を処方しましょう、といったようなことです。しかし、答えがある問題への対処は上手でも、答えがない問題への対処に関しては決して得意ではありません。

 例えば、患者さんが「死ぬかも知れないと思うと不安が収まらない」といったとき。そんなときは、まず、患者さんの気持ちを傾聴して受け止めることが必要です。でも、チームAは「みんなそうなります」「他の人と比べると大したことはないです」とか、「不安を和らげる薬を処方しましょう」「精神科にかかってみますか」といった風に、短絡的な回答を出そうとしがちです。

 チームAは、何もしないことが苦手で、何かをしなければ治療したと思えないという特徴があるのです。ですから、こうした問題への対処を専門とするチームBの応援を仰がなければなりませんし、チームAも、チームBの考え方の基本は理解し身につけておく必要があります。すなわち、傾聴を心がけたり、問題解決を急がないということです。

チームBは、医学的知識の基礎を知ろう
 チームBは、支援チームです。臨床心理士、ソーシャルワーカー、病院の患者図書館の司書などが、これに当たります。それぞれの専門性を発揮して、患者のニーズをサポートします。患者さんと対話して、心配や不安を取り除いて、患者さんの主体的な姿勢を引き出すのです。患者さんの自己決定を促して、闘病における満足度を高めるために非常に重要な役割を果たしています。この分野は特に日本の病院ではスタッフが不十分なところとなっています。

 チームBは、チームAと密接に情報共有をして、患者さんのがんの状況を把握しておくことも欠かせません。そうでなければ、ときに医学的基礎知識の欠如から、とんでもないアドバイスをしてしまうこともあります。ですから、チームBは、チームAの基本的医学的知識を身につけておくことが大切となってきます。

 以上のチームA、チームBはいわゆる病院のスタッフで、通常これが医療チームと考えられています。しかし、実は患者さんを支えるチームはもっと大きく広がっているものなのです。すなわち、社会的資源という側面のチームCも、患者さんを支えるのに不可欠なチームメンバーです。

チームCは、広い視野を養おう
 チームCには、患者さんのご家族や友人など、患者さんのそばで患者さんの介護やサポートをしている人が含まれます。また、患者さんを支える役割をしているという点では、研究者やメーカーや政府なども、このチームの一員だと考えることができます。チームCは、チームAやチームBの力が及ばないところを担ったり、チームAやチームBが力を発揮できる環境を整えたりしています。

 チームCは、チームAとチームBのしていることをよく理解していることが大切です。また、自分の視点からだけでなく、ものごとを広く総合的に捉えることを常に意識したり練習したりすることが重要です。例えば、患者さんのご家族に、「どうして米国で使われている抗がん剤が使えないの」といった疑問や苦情があったとします。「この薬を使わせてください」と訴えても急には変わりません。そうなっている経緯や制度も勉強しなければなりません。また、それだけが問題でないことも理解しなければなりません。

 チームCメンバーである患者家族は、今、現にがんと闘っている患者さんの闘病環境がベストになるように、患者さんを取り巻くチームA、チームBがどのように構成されているか、うまく機能しているところはどこか、うまくいっていないところはどこかを知らなければなりません。そして、チームAやチームBを補い、サポートするのが自分の役割だという発想が必要だと思います。

 A、B、Cの関係を良く考えてみてください。チームの中心には患者さんが居ます。この3つはどれも不可欠です。そして、チームA、B、Cに境界線はありません。有機的に互いに補い合うようにすることが大切です。主治医には、この3つのチームがうまく協調できる環境を作る責任があります。同時に、患者さんのご家族にもこの3つの役割分担をよく理解し、チーム医療に積極的に参加することが求められます。

 自分ががんになったとき、どういうチームにサポートしてほしいと思いますか。チームBだけあればいいと思う人はいないでしょう。まず、チームAがあることが欠かせません。しかし、再発したようなときはチームBがさらに大切になってきます。このように、がんの状態や進展によって、そのときどきにチームA、チームB、チームCの比重を変えて考えることも大切です。

 患者さんの満足は、病気を治すこと、高い生活の質(QOL)をできるだけ維持すること、理解して納得すること――の3点があります。治すことだけが目標だったら、それがうまくいかなければ“サヨナラ”という風になってしまいます。そうではなく、がんが治らなくても、質の高い時間を過ごすこと、そして、いい人生だったという満足を与えること、それが医療者やチーム全体の務めなのです。

家族のための、患者の気持ち理解のポイント
 患者さんのご家族の役割は何でしょうか。治療をしたり薬を出したりすることはできません。しかし、患者さんを医療の中心にもっていくこと、患者さんが医療従事者と対等なコミュニケーションができるようにすること。そういう風に仕向けていくことが、ご家族にはできるのです。医療でない領域の3つの大切なことを、ご家族はすることができます。それは、問題点を発見すること、患者さんの気持ちを認識すること、解決する問題と解決しない問題を切り分けて、解決しない問題に付き合うこと――です。

 患者さんの悩みは多くの場合、回答がなく解決できない問題です。そんなとき患者さんに寄り添う家族の役割がことに重要です。例えば、患者である夫がいらだっていたら、「いらだつんだね」と受け止めましょう。「それも無理がないよ」などと言い、「どう、思ってるの」などと、話を引き出す助けをします。そして、特に何も言わずに、よく聞くこと。そうすると、患者さんは「ああ、私の気持ちを分かってくれるんだなあ」と、喜びを感じるのです。

 けっして、患者さんと同じ気持ちにならなければダメだと思う必要はありません。夫が泣いたら、妻がいっしょに泣くことが大切なのではありません。夫が医師の悪口言っているとき、妻もいっしょに医師を罵倒することが、患者さんに役立つのではないのです。そんなことしていたら、家族も燃え尽きてしまいます。ただ、患者さんに同意しながら傾聴すればいいのです。それで十分に患者さんのためになります。

 何かを言わなければと、急いで気休めや結論めいたことを語るのは逆効果です。「あなたの気持ち分かりますよ」「とにかく頑張りましょう」などと口にすると、「がんでないあなたに私の気持ちが分かるはずはない」「もう頑張っているじゃない。辛いから話しているのに・・・」といったことになってしまいます。それから、家族では対処できないほど問題が大きいと思ったら、チームBなどに助けを求めるのも、ご家族の大切な役割です。

 患者さんを支えるご家族は、まず、自分がハッピーでいてください。患者さんに振り回される必要はありません。自分のしたいことをすべて我慢したり、犠牲にしたりすることもやめましょう。自分を大切にすることがチームの活力を維持するためにも重要です。「やらなければならないから」ではなく、「やりたいから」サポートしているのだと、気持の切り替えができればいいですね。

 以上が、私の考えるチーム医療の姿です。患者さんもご家族も、このチームに積極的に参加してください。それが患者さんの満足度を高めるし、日本のがん診療をよりよくしていく道だと確信しています。なお、チームオンコロジー.ComのWebサイトでは、一般向け掲示版があり、私やソーシャルワーカーが、患者さんやご家族からのご質問に答えていますので、ご活用ください。

(完)

〔参考サイト〕
M.D.アンダーソンがんセンター
M.D.アンダーソンがんセンター(日本語案内)
メディエゾン
チームオンコロジー.Com

〔参考書籍〕
『最高の医療をうけるための患者学』(上野直人著、講談社刊)

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