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2007/1/23

米国M.D.アンダーソンがんセンター、ドクター上野の「がん患者学」(上)

納得して医療を受けるための「9カ条」

MDアンダーソンがんセンター 上野直人准教授

 米国1、2位といわれるM.D.アンダーソンがんセンターで長年、臨床に携わっている上野直人氏(左写真)。本場の「患者中心のチーム医療」を熟知した上野氏が、日本のがん患者とその家族のために、「がん患者学」を2回にわたって伝授する。今回は、よりよい医療を納得して受けるための「9カ条」を教わろう。



 私は長年、米国でがん患者さんの診療を行ってきました。勤務しているM.D.アンダーソンがんセンター(テキサス州ヒューストン)は、米国で1、2位の評価を受けているがんセンターですが、30年前ぐらいからチーム医療を積極的に進めてきました。チーム医療では、手術、抗がん剤治療、放射線治療などを組み合わせた治療を、各科の専門医や看護師、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカーなどが集まって、議論してコンセンサスをとりながら実施していきます。

M.D.アンダーソンがんセンター
M.D.アンダーソンがんセンター

 米国では、患者さんたちが自分にとって最高の医療を受けるために、自分が主体となってこうしたチーム医療に参加するようになっています。患者さんが医療チームと積極的にコミュニケーションすることで「患者参加型」の医療を行っているのが、M.D.アンダーソンなど先進的な医療機関の特徴なのです。

 あなたが受ける医療の質をすぐに上げることができる方法があります。それは、あなたが主体的に医療に参加すること、つまり、自分の病気についての理解を深め、正しい質問をしっかりと尋ね、チーム医療の一員として行動していくことです。そうすることによって、より良い医療を納得して選択できるようになります。今日は、私が常日頃大切だと考えている「9カ条」をお伝えしましょう。

 第1条は「あせらない」
 がんと言われたら、驚いて頭が真っ白になるでしょう。しかし、決してあせらないでください。治療に一刻を争うがんは、急性白血病とリンパ腫のごく一部で、ほとんどのがんは2週間ほどじっくり考えたからといって治療結果に悪影響を与えることはありません。どっしりと構えましょう。

 まず、本当にがんなのか、はっきりさせることが大切です。ときにはがんでないものをがんと診断する誤診もあるのです。きっちりと確定診断してもらいましょう。また特定の治療を薦められたら、本当にその選択しかないのか、それがベストなのか、立ち止まって考えてみましょう。医師に他の選択肢がないか尋ねて、他の治療法とのメリット・デメリットを比較しましょう。納得がいかない場合にはセカンド・オピニオン(別の医師の意見)を聞くべきです。

 がんは手術で簡単に治癒することもありますが、すでに進行していたり、全身に広がっていたりして、がんが消えないことも多くあります。残念ながら再発することもよくあります。それでも、治療方法が進んでいるので、そうした場合も何年も通常の生活を続けられることが増えています。そういう意味で、がんは慢性疾患のひとつと受け止めることができます。ですから、できるだけ普通の生活を送りながら治療を続けられるようにするのが良いでしょう。闘病は、がんと共に生きる「マラソン」と捉えられます。ペースを上げすぎて後で息切れしないよう、ペース配分が大切です。

 第2条は「医師の話した内容を理解する」
 医師の話した内容を理解できるよう、真剣に取り組みましょう。メモ帳と筆記具を必ず持参して、医師のする話をできるだけメモにとるようにしたいものです。そして、医師に聞いた話を思い出して、理解できないことや疑問点を整理し、次の診察で質問してみるといいでしょう。テープレコーダーを持参することも、お薦めです。いきなりレコーダーを取り出して録音を始めれば医師もびっくりします。「先生のご説明をきっちりと理解したいので、録音してもいいでしょうか」と尋ねれば、「いいですよ」と答える医師が多いと思います。録音しておいて何度も聞き返してみれば、聞き漏らしが防げます。

 「1人で病院に行かない」ことも大切です。家族や友人についてきてもらいましょう。一緒に医師の話を聞くこともお薦めします。患者さんは、悪いことを聞いたとたんに頭が真っ白になるので、冷静でいれる人がいっしょに話を聞いておくことは大変、重要です。それから、医師が言うことだけを聞いていたらいいのではないのです。患者さんは医師から情報を引き出す力を持っていることを忘れないでください。あらかじめ質問をメモしておいて、診察のときに質問をしてみましょう。

 第3条は「医師の話した内容を分かりやすくする」
 医師が説明するときに図や資料を使ったなら、それをコピーさせてくださいと頼んでみましょう。医師が専門用語を使うなどして言葉が理解できなければ、その意味を教えてくださいと遠慮せずに聞いてみましょう。また、自分でも勉強をすることは良いことです。ただ、自分で探すより、医師に「どんな本を読めばいいですか」「推薦書はありますか」と尋ねればいいのです。おかしな本を買っては、いくら勉強しても逆効果です。いいかげんな本がたくさん売れていることもあるので注意が必要です。すでに買った本があれば、医師にその本のことをどう思うか聞いてみるという方法もあります。

 第4条は「質問上手になりましょう」
 忙しそうな医師に質問するには、コツがあります。まず、質問のタイミングが大切です。いつだったらゆっくりと話せるか、尋ねてください。医師は、3分しか時間がないときに10分掛かる質問をされたり、どれぐらい時間が掛かるか分からないことを聞かれたりすることが大変苦手です。「10分ほどいただきたいのですが、先生、いつならご都合がいいですか」と聞けばいいのです。3分しかないなら、次の週にまた続きを聞くというのでもいいですね。こうしたとき、必ず質問は箇条書きにしておきましょう。事前に質問リストを渡しておくと、医師も事前に目を通して必要な論文検索をしておくなどといったこともできます。

 第5条は「医師の話した内容を、消化する」
 まず、自分が理解したり判断できるようになるための時間を置くことが大切です。理解しないうちに行動をすること(新しい治療を受ける、など)は良くありません。私は、患者さん本人が直面していることを十分に理解しない間は、治療を始めないこともあります。理解してから治療を始める方が、患者さんが前向きになって、治療がうまくいくと考えているからです。

 自分が医師の話す内容を消化できているかどうか試すには、家族や友人の前で医師から説明されたことを、話してみるのがいいでしょう。「たぶん、○○がんだろうとのことだった。抗がん剤を飲むことになり、そうすると髪の毛が抜けるなどの副作用があるらしい」。――そんな程度ではまったく不十分です。練習相手の方は、「○○がんといっても、どのタイプ? 進行度は?」「抗がん剤の名前は? 受ける量は?」などと尋ねてください。うまく説明できなければ、もう一度、医師に聞いてしっかりと理解することが大切です。

 第6条は「標準治療か確かめる」
 あなたが受けようとしている治療が標準治療かどうか、必ず確かめてください。標準治療とは、最大多数の人が確実に延命する治療法です。一番高い確率で、最良の結果を生む可能性がある治療なのです。患者さんが専門書をひっくり返して調べることはありません。医師に「私が受けるのは標準治療ですか」と尋ねてください。「そんなこと聞くな」というようなお医者さんには掛からない方がいいでしょう。標準治療でないなら、標準治療以外の治療を行う理由を尋ねましょう。心臓病の持病があるので、心臓への副作用が少ない薬を使うといった明確な理由が分かれば、ひと安心です。

 第7条は「治療法を決断する」
 納得して決断するためには、自分が選択しようとしている治療が、現在の医療の中でどのような位置づけにあるかを、把握しておくことが大切です。全体像を地図のように描き、自分がどこに立っているのかイメージしましょう。そのためには、先に触れたように、標準治療であるかどうかを知ることは必須です。臨床試験ならばそれを選んだ理由、まだはっきりした科学的根拠がない先進医療を選ぶならば、なおさら、それを受ける理由が明確でなければなりません。

 また、複数の選択肢の中から、自分の価値観や家族の状況などを大切にして選ぶこともあっていいのです。例えば、乳房を温存したい、仕事を続けやすい抗がん剤にしたい、小さい子どもがいるので長期的な成績より中期的な成績と生活の質(QOL)を重視したいなど、さまざまな観点があるでしょう。こうした判断をするためには、自分の人生で何が大切なのか、自分自身としっかり向き合う過程を経ることが欠かせません。

 旅の途中に天候や体調によって、目的地や日程、ルートを変更することがありますね。がんの治療においても、目的地を変え、地図を書き直さなければならないときがあるのです。例えば、がんは再発したり、治癒が見込めなくなったりすることもあります。

 患者さんにとって満足度の高い医療は、治すだけではないことを覚えておきましょう。治すのが難しい段階になっても、悪化を抑えたり、生活の質を落とさないようにしたり、患者さんが納得して治療に参加するようにしたりすることができます。患者さんが幸せな医療を受けたと感じることが大切です。最近の治療法の進歩によって、がんがあっても長く生きられるようになってきています。がんといっしょに楽しく生活を送ることも大切です。治ることばかりに注目していると、必ずしもいい治療が受けられないかも知れないことを覚えておきましょう。

 第8条は「自分の希望を伝えましょう」
 病気の治療は、あなたのライフスタイルや希望によって個別に選ばれるべきものです。ですから自分の希望を医師にはっきりと伝えましょう。例えば、乳房を残したい、切除した乳房を再建したい、手術はしたくないので薬で対処したいといったことです。大事なことは、治療の前だけでなく、治療の途中に適宜、そのときの希望を医師に伝えることです。

 患者さんが最初に医師に「私は、抗がん剤治療は絶対にイヤです」と伝えたために、医師がそれをずっと守ろうとしていたという、患者さんと医師の間のコミュニケーションがうまく行っていなかった事例をときどき見聞きすることがあります。抗がん剤以外の治療がうまく行かなかったので、今では患者さんも「抗がん剤も仕方がない」と思っているのに、それを伝えない。医師は、ずっと最初の希望を覚えているので、抗がん剤を薦めない。そうこうしているうちに、追い込まれてしまうというわけです。ですから、患者さんはそのときどきの希望をはっきりと医師に伝えるようにしてください。

 第9条は「恐れずに果敢にチャレンジしよう」
 いろいろ医師に尋ねたうえでも納得ができなかったら、セカンド・オピニオン(別の医師の意見)を求めましょう。私は、他に治療法がないと言われた場合でも、積極的にセカンド・オピニオンを取るのがいいと思います。でも、自分の主治医と十分に話をする前にセカンド・オピニオンに走るのはお薦めしません。まず、今の医師の意見をよく確かめましょう。

 それから、口下手でも優れた医師がたくさんいることを覚えておきましょう。セカンド・オピニオンを受け入れる医師はコミュニケーション上手な人が多いので、主治医より良く見えてしまうという効果があることも考慮してください。口下手だけど優れた医師とうまくコミュニケーションしてたくさん情報を引き出せるかどうかは、患者さんの力次第なのです。

 そして、臨床試験という選択肢があることも覚えておいてください。臨床試験は現在の標準治療より優れた治療があるかを調べているのです。優れているという結果が出る場合もありますが、そうでないときもあります。自分が対象となる臨床試験があるか、医師に尋ねてください。臨床試験に参加することを考慮するときは、どの程度の開発段階のものかを確かめ、必ず、リスク(危険性)とベネフィット(利益)を十分に聞いたうえで判断するようにしましょう。

 以上、私が考える闘病のコツ「9カ条」をお話しました。少し難しい点もあったかも知れませんが、よりよい治療を納得して受けるためには、こうしたことがとても大切なのです。この9カ条がみなさんやご家族の闘病に少しでも役立てば幸いです。次回は、私が考えるチーム医療についてお話しすることとします。

(続く)

〔参考サイト〕
M.D.アンダーソンがんセンター
M.D.アンダーソンがんセンター(日本語案内)
メディエゾン
チームオンコロジー.Com

〔参考書籍〕
『最高の医療をうけるための患者学』(上野直人著、講談社刊)



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