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2007/1/9

国立がんセンターは必要か

国立がんセンターは“がん難民”を生んだ張本人?

●図3 国立がんセンターを取り巻く環境

図3 国立がんセンターを取り巻く環境

 国立がんセンターを取り巻く環境は図3のように激変している。がん対策基本法が2007年4月に施行されると、「がん対策推進基本計画」を作ることになっている。それは、「がん対策推進協議会」という中央社会保険医療協議会(中医協)クラスの審議会によって検討される。そしてそこには、がん患者とその家族あるいは遺族がメンバーに入ることにもなっている。基本計画を策定するとき、当然、国立がんセンターが果たすべき役割も議論される。

 現在のがん対策強化の潮流は、通常の医療政策のように行政や医療界が主導したものでなく、国会議員とがん患者団体が形成した動きだ。2006年6月に、議員立法で成立したがん対策基本法は、患者団体の働きかけがなければ、成立しなかった。

 この法律が成立したからこそ、がん対策費は厚生労働省管轄分だけでも、2006年度160億円から2007年度230億円へ、大幅な増額となった。これにより、医療界やがん関連学会などが要望していたがん拠点病院の強化、がん専門医教育の充実、在宅緩和ケアの推進などにも、税金が投入されることになる。がん診療への資源配分を増やした原動力が、国会議員や患者団体だから、その発言力も当然強くなる。

 1971年の米国がん法と、2006年の日本のがん対策基本法の大きな違いは何か。それは、米国では米国がん研究所(NCI)に、がん対策の司令塔としての位置付けが与えられているのに、日本では国立がんセンターの基本的な役割に関して何の記載もないことだ。法案が審議されているときも、国立がんセンターを司令塔として明記しようという応援の声は出なかった。


●図4 国立がんセンター各部門に投げかけられる問い

図4 国立がんセンター各部門に投げかけられる問い

 いま国立がんセンターは岐路に立っている。全国の診療レベル向上に不可欠と見られれば、がん対策基本計画の中で、司令塔の位置付けが与えられ、全国のがん病院を束ねて鼓舞する役割を担う可能性もある。ところが一方で、国立がんセンターを含む6つのすべてのナショナル・センター(国立高度専門医療センター)は、2010年度に独立行政法人化することが決まっている。そうなると、国からの資金援助は削減される。そして、全国の戦略より、自分の収益性に目を奪われがちになる。

 だから国立がんセンターの組織(図4)のうち、どの機能が必要で、何が不要かという議論が必然的に高まらざるを得ないわけだ。先に、中央病院について見たように、病院の診療機能を見直す議論が出始めているが、それだけではない。すべての部門が議論の対象になるだろう。

「他にはできない業務」を示せるか
 まず、2006年10月1日に鳴り物入りで誕生した「がん対策情報センター」。主軸となる業務は「がん情報サービス」だ。一般や医師向けに、主にインターネットを介して情報を提供する。患者向けには各がん種別の治療法の解説、全国がん病院の所在地など、医師向けにはガイドラインのリンク集、臨床試験一覧などがある。

 だが、患者団体のがん対策情報センターへの評価は点数が辛い。2006年10月末には、20団体が連名で、現在のままの内容では不十分であるとして、情報提供しているがんの種類を増やす、患者・家族向けのQ&Aを提供するなど、多数の項目を列挙した要望書を提出した。「がん患者団体支援機構」も、12月上旬、電話相談ができるコールセンターを設置する、インターネットができない人も情報を得る仕組みをつくる、などを要望した。今後、大幅な強化や見直しが不可欠だろう。


●図5 研究所の機能
(2段目以降が今後の力点)

図5 研究所の機能

 次に研究所。発がんメカニズムやゲノム(遺伝子)解析を主力に研究をしている。だが、「大学の研究所との違いが分からない」「違いがないなら不要ではないか」といった声もある。2006年11月1日の議連設立総会で、中央病院院長の土屋氏は、研究所を再構築する案を披露した。図5のようなスライドを示しながら、「分子生物学などしかやっていなかった。これでは、社会から批判されても仕方ない。工学、社会学や介護学、医療政策や医療体制への提言などをやるべき」と述べた。土屋氏は「衣替えして、研究所無用論を阻止したい」と語る。

 米国NCIは、研究(資金配分)部門と企画戦略・情報発信部門が大きく、診療はごくわずかしかやっていない。都内の病院の幹部は、「国立がんセンターは日本のNCIを目指すべき。臨床や検診は他に任せて、他ができない研究、情報集約・発信と教育・研修に特化すべき」と強調する。

 がん患者団体支援機構は、2006年12月に厚労大臣と国立がんセンター総長に出した要望書の中で、「国立がんセンターは独立行政法人化すべきでないのではないか」とした。情報発信機能を強化するには、むしろ国立のままの方がいいとの考えだ。

 今後、「国立がんセンターの何が必要で何が不要か」が議論されていく。臨床部門と検診部門は分離するか縮小し、研究部門は社会学、心理学、政策提言分野などにシフトする。情報センター機能は企画立案部門を含めて強化する。全体としては大幅に縮小するものの、がん戦略の司令塔として、国立機関のまま残す─―。例えば、そんな姿も描ける。

 国立がんセンターは、社会を納得させるビジョンを自ら打ち出せるのか。何より、世論を味方に付けられるのか。情報発信能力が試される。

(埴岡 健一)


※この記事は、日経メディカル2006年12月10日号に掲載した「特集:国立がんセンターは必要か?」を、がんナビ向けに一部書き直したものです。

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