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2007/1/9

国立がんセンターは必要か

国立がんセンターは“がん難民”を生んだ張本人?

 国立がんセンターの存在理由はいったい何だろう。どの機能が不可欠で、何が不要なのか─―。2007年4月のがん対策基本法施行と、2010年度の独立行政法人化を控え、そのあり方を考える議論が高まろうとしている。国立がんセンターが置かれている環境と、現在の業務を吟味してみると、他の病院でもできるような臨床部門は極力縮小し、国立がんセンターならではの情報収集・発信機能を強化する――そんな「がん対策の司令塔」としての将来像も浮かびあがる。国立がんセンターが「他に代えがたい機能」を示せるか、正念場がやってきた。




 東京都中央区築地にそびえる国立がんセンター中央病院。がん治療のブランド病院としてその名声をほしいままにしている。多くの患者がここで治療を受けたり、セカンドオピニオンを取ったりしたいと思うのも無理はない。だがトータルにみて、ここで治療を受けることが本当に患者にとってハッピーなのか、考え直してみることも大切だ。

 というのも、「国立がんセンターに見放された」と、結果的に受け止める人が決して少なくないからだ。国立がんセンターで治療を受けていた肝臓がん患者のN.Oさん(62歳)は次のように語る。

 「いきなり『もう来なくていいですよ』と言われました。『うちは、治る患者さんに施術するところなのです』と。『そう言わずに、続けて診てください』という気持ちでした。治らないものは仕方がないし、諦めなければならないのかもしれません。でも、4年間も治療してもらって、最高のお医者さんだと思っていた人から、あんなにスパッと切り出されるのは、本当にきついものです。何とか見つけた今のお医者さんは、他の先生を紹介してくださるときは、目の前で先方に電話を入れてくださいます。患者にとっては、こういうことが安心なのです」

 2006年11月20日に開催された第1回の「がん対策の推進に関する意見交換会」で、メンバーの本田麻由美氏(読売新聞記者)は、「国立がんセンターが“がん難民”を生んでいるのではないか」と、問いかけた。“がん難民”とは、適切な治療を受ける病院が見付からない患者のこと。特に、再発後や終末期にそうした状態になる患者のことを指すことが多い。


●表1 主ながんセンターの患者院内死亡比率

表1 主ながんセンターの患者院内死亡比率

 この意見交換会は、2007年4月に「がん対策基本法」が施行される準備として開催された。厚生労働省健康局長の外口崇氏は、「事前に広く意見を聞いて、問題点を整理しておきたい」と語る。つまり、今後の日本のがん診療体制を議論する場であり、国立がんセンターのあり方にも当然、影響を与える。座長を務める国立がんセンター総長の垣添忠生氏は、本田氏の指摘に、「厳しいご意見をちょうだいしました」と苦笑した。

 表1をご覧いただきたい。国立がんセンター中央病院の、入院患者数と比べた院内死亡数は、他のがんセンターと比べて著しく少ない。治療成績も関係する可能性はあるが、再発したり終末期になったりして治癒の見込みがなくなった患者、あるいは積極的治療ができなくなった患者は、あまり診ないのだ。

「がん診療を行う資格がない」
 国立がんセンターで手術をした患者を受け入れることがある東京の私大病院の幹部(外科医)は語る。「“がん難民”を一番たくさん出しているのが、国立がんセンター。再発したら『自分で病院を見つけてください』と冷たく伝える。混雑しているのは分かるが、もっと自分の施設で対処する努力をすべき。再発患者を診ることができないならば、がん治療を行う資格はない」。

 同様に、国立がんセンターの再発患者を診療することがある国立大学病院の医師(放射線科)は、「国立がんセンターは、ずっと緩和医療や心のケアというがん診療で重要な領域を軽視してきた。つまり、がん治療の間違ったモデルを実践してきた。だから、それが日本中に浸透してしまった」と、手厳しい。

 現在、がん診療の領域では、先端医療もさることながら、「均てん化」(全国的に質が高い診療を浸透させる)や、終末期の疼痛緩和や心のケアの重要性が強調されている。国立がんセンターは、こうした点で早くから模範を示すべきだった、との考えだ。

 ところが国立がんセンターはこのところ、新薬の効果を試す臨床試験を増やすことに力を入れてきた。臨床試験や参加患者の数が少ない日本の中で、それを拡大することが国立がんセンターの責務ととらえて、多くの医師が取り組んでいる。また、常に混雑しており、医師はとても忙しい。根治を断念せざるを得ない患者をゆっくりケアしたり、他の病院に転院した患者のフォローをしたりするような時間や心の余裕がない。

 これが、患者には「見捨てられ感」を生み、周辺の医療機関には、「楽なところだけやって業績を上げて、しんどいところは人任せにする」という不信感を抱かせる結果となる。ほとんどの医療スタッフは多忙な中で懸命に動いており、悪気があってやっていることではないだろう。しかし、中央病院全体として、見捨てられ感を抱く患者を量産する「構造」になっている恐れがあるのだ。


●図1 期待と現実のギャップを埋める必要がある

図1 期待と現実のギャップを埋める必要がある

 2006年11月20日の意見交換会で、本田委員は図1を示しながら、「“たくさんの患者を診る大病院”か、“標準治療開発などを行う病院”か、はっきりと説明することが必要」と訴えた。でなければ、「最高の病院だと思ったのに、見捨てられた」という思いを抱く患者が減ることはない。

 米国を代表する施設である、M.D.アンダーソンがんセンターに勤務する上野直人氏は、「日本の事情は詳しく知らない」と前置きした上で、米国での考え方を解説する。「再発後・終末期の治療を他の施設にバトンタッチするのはあり得る考え方だし、実際に米国で行われている。だが、連携をきっちりやるのががん治療にかかわる医療従事者の責任。患者は、ちゃんとした連携をしてもらう権利がある。『臨床試験を受けるチャンスがある分、トータルケアは万全ではありません』と、何かを犠牲にするということは、米国では非倫理的とされる」。

「もう、“がん難民”は作らない」
 これまで、こうした「がん難民問題」について自ら積極的に語ることがなかった国立がんセンターだが、その姿勢に変化の兆しが見える。2006年11月1日、超党派の国会議員による「国会がん患者と家族の会」の設立総会が開催された。がん対策基本法の着実な実施を目指すものだ。

 この場で講演をした国立がんセンター中央病院院長の土屋了介氏は、多数の国会議員や患者団体代表、マスコミが見守るなかで、次のように語った。「うちが“がん難民”を量産している側面があった。国民の期待は、見放さないで、がん難民にしないで、ということ。これ以上、がん難民を作らないことが最優先だ」。


●図2 これからは“がん難民”を生まないために
緩和やカウンセリングを重視

図2 これからは“がん難民”を生まないために緩和やカウンセリングを重視

 さらには、「新しい治療法を開発することも重要だが、今闘っている患者の力になれと、現場に掛け声を出している。カウンセリングや対症療法、緩和医療や在宅医療に、真剣に取り組まないといけない」とも付け加えた。患者団体にも「率直で前向き」との印象を与えたようだ。

 中央病院では実際に、これまで以上に他の病院との連携を強める仕組みや、緩和ケアに関する知識を深める勉強会も進めている。「国立がんセンター中央病院との連携強化のための情報交換会」は、3回目が2006年11月20日に開催された。2006年10月には「緩和ケアチームと在宅医療合同検討会」を開始した。

 国立がんセンターは、「臨床試験に注力しながらも、患者を見放さない」というモデルに移行しようとする。だが、議論はそこだけにとどまらず、中央病院の今後のあり方として、現状路線、規模拡大、規模縮小の3つの案が出てきている。

 600床ある国立がんセンターだが、現在の考えは多数の患者を効率よく診て、収支を改善させるというもの。一方、土屋氏は、国立がんセンター中央病院敷地前にある移転予定の築地市場の跡地に、複数の市中大規模総合病院を集合させて総合メディカルセンターを形成し、中央病院をその中にあるがんセンターと位置付ける構想を、先の議員連盟における講演でぶち上げた。

 そして、全く異なるビジョンも存在する。それは、中央病院の徹底縮小案。他の病院でも診ることができる患者を受けることはやめ、稀少がんや難治性のがんの治療と、早期の臨床試験に特化するという姿だ。先の私大病院の幹部は「がんセンターが他の病院と張り合ってはいけない。自分はプレーせずに、リーダーとして教育や研修に力を入れるべき」とする。国立がんセンターのあるベテラン医師も、「今のテーマは、均てん化。がん病院ネットワークとしての診療の質の底上げが主眼。国立がんセンターが実績トップの病院であるべき時代は、終わった」と語る。

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