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レポート

2006/12/26

患者団体アメリカ訪問記 最終回 −がん診療改革のヒントを探して−

日本のがん改革を左右する患者団体

 日本のがん患者団体一行の米国視察旅行に密着取材した。狙いは米国から日本への教訓を得ること。今回は、連載の最終回。旅行から半年間、参加メンバーや日本のがん患者団体にどのような変化が起ころうとしているかを探る。2006年6月に成立した「がん対策基本法」が2007年4月に施行されるという新しい流れを背景に、日本の患者団体が着実に変化しようとしていることがうかがえる。


2006年11月20日、第1回「がん対策推進に関する意見交換会」に出席する海辺陽子氏
2006年11月20日、第1回「がん対策推進に関する意見交換会」に出席する海辺陽子氏(あいさつするのは、厚生労働省健康局長の外口崇氏)

 2006年12月13日、厚生労働省が主催する第2回の「がん対策の推進に関する意見交換会(以下、意見交換会)」が開かれた。ここで、19のがん患者団体と患者支援団体が、「どうすればがん診療が向上するか」について意見を述べた。がん患者団体の米国視察旅行に参加していた海辺陽子氏(癌と共に生きる会事務局長)は、この意見交換会の10人のメンバーの1人に選ばれた(がん患者団体代表は合計2人)。委員席で一連の発表を聞いた後、意見を求められた海辺氏は「患者団体のみなさんのレベルの高い発表を大変誇りに思いました」と、感動した面持ちで語った。政府の会議で本格的に、多くのがん患者団体の意見が公式に聴取されたという、歴史的な瞬間だった。

 この意見交換会は、2007年4月1日に施行される「がん対策基本法」の準備として開催されるもの。がん対策基本法が施行されると「がん対策推進協議会」が設置され、日本のがん戦略のグランドデザインともいえる「がん対策基本計画」が策定される。20人のメンバーから構成されるがん対策推進協議会には、がん患者と患者家族か遺族の少なくとも2人がメンバーに入ることが決まっている。がん対策基本計画は、急には作れない。そこで、厚労省は、「広く意見を聴取すると同時に、斬新なアイデアがあったら集めたい」(健康局長の外口崇氏)として、この意見交換会を始めたのだ。

 海辺氏は、それまでの国会議員への陳情や厚労省との折衝の実績と、論客ぶりが買われて委員に選ばれた。数ある患者団体の中から、乳がん患者団体の「あけぼの会」の富樫美佐子氏とともに選ばれた。海辺氏は、「がん患者のみなさんの意見をよく聞いて、それを届ける役目を果たしたい」と、自分の役割を認識している。

2006年10月30日の「全国がん患者ロビイングデー」で趣旨説明をする山崎文昭氏
2006年10月30日の「全国がん患者ロビイングデー」で趣旨説明をする山崎文昭氏

 この意見交換会の患者団体意見陳述では、米国ツアーの"団長"であった「日本がん患者団体協議会(JCPC)」の理事長である山崎文昭氏と、視察旅行メンバーだった乳がん患者団体「ブーゲンビリア」の創設者で代表の内田絵子氏(がん患者団体支援機構副理事長)も、発表を行った。

 山崎氏は発表者全員を総括するかのように、がん戦略の全体図を鳥かんしてみせた。「がん医療の質の向上に向けて、患者の視点によって課題を整理することが大切。重要度、優先度、コスト、達成時間をものさしとしてグランドデザインを示したい」と述べた。前回(連載18)触れたポーラ・キム氏の戦略マップのように、まさに全体像を示すことを狙ったのだ。

 内田氏は乳がん経験者として、また、乳がんの患者さんに常日頃、支援を提供している立場から、意見を述べた。がん経験者が、がん患者や家族の相談に乗る「がん体験者コーディネーター」を育成していくことを提案。国、医療提供者とがん患者団体が共にそれに取り組むというビジョンだ。

日本でもロビイングテー始まる

患者団体のフォーラムで尾辻秀久前厚生労働大臣と記念撮影する内田絵子さん
患者団体のフォーラムで尾辻秀久前厚生労働大臣と記念撮影する内田絵子さん

 2006年10月30日、JCPCの山崎氏の呼びかけで、第1回の「全国がん患者団体ロビイングデー」が千代田区永田町の国会議員会館で繰り広げられた。高知県、島根県、和歌山県、大阪府など各地から20団体28人が参加、がん対策の推進を国会議員に陳情した。山崎氏は、このイベントの狙いを「各地の患者会のメンバーが地元の問題を伝えることで、国会議員にがん対策が自分に関係した問題であると認識してもらうこと」と述べた。

 会場には5人の国会議員が訪れ、順次、スピーチをしたあと参加者と意見交換を行った。民主党の仙谷由人氏は、2007年4月の統一地方選挙と7月の参議院選挙を踏まえ、「がん対策を推進できない政党は票を失うことになろう。県議会は数人の議員がその気になれば政策が動く。患者団体が地元で声をあげて地元の診療体制を強化するチャンス」と述べた。

 こうした会場への議員訪問を受けながら、患者団体メンバーは議員会館内の地元選出議員の事務所巡りをして、がん対策の強化を訴えた。初回であったため、まだどのようにロビイングをするかという学習の段階という側面が強かったが、山崎氏は「参加したメンバーは、国を動かす仕組みを着実に理解した。また、県レベルで議会を動かして身近な医療の向上に参画しようという意識も高まった」と、このイベントの成果を説明した。

 米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology=ASCO)年次学術会議の会場では、米国乳がん連合のブースを訪問し、米国がん協会(American Cancer Society=ACS)の話を聞いた。帰国後、ACSの「セレブレーション・オン・ザ・ヒル」というイベントのビデオを観て、全米各地から草の根運動に関わっている人たちがワシントンDCに集まって、地元選出議員にロビイングする様子を学んだ。米国のがん患者団体、患者支援団体が行っているロビイングデー方式が日本でも始まったわけで、山崎氏は、全国がん患者団体ロビイングデーを恒例化したいと考えている。

 2006年10月11日、国立がんセンターで「がん対策情報センター運営評議会」が初めて開催されていた。10月1日にオープンした「がん対策情報センター」の運営に関して意見を述べる会議だ。山崎氏は10人のメンバーの中の、患者代表2人のうちの1人として委員に選ばれた。山崎氏はかねてから、「がん診療を向上させるためには、情報がカギ」を持論としてきた。会議の席上では、「情報提供の目的と到達点をはっきりして進めてほしい」と要望を述べた。

 米国のがん病院を訪問して冊子など多くの情報が患者さんの目に触れるところに置いてあることを目の当たりにした。米国がん研究所(National Cancer Institute=NCI)では、その提供する情報の幅と広さを勉強した。それもあって山崎氏は、世界的な水準がまだまだ先であるということを実感している。年に4回開催予定の運営評議会では十分な検討が不可能として、「ワーキンググループ」の設置を提案し、その考えが採用された。このワーキンググループには、患者団体から患者支援の経験者や論客が多数入ることになった。

米国で「アジア乳がん患者大会」を発想
 シンガポールで1994年に乳がんの手術を受けた内田氏はもともと国際派だが、今回の米国ツアーで乳がん患者団体の連合体について学び、国際交流にも目覚めたことから、滞在中に「私は乳がん患者団体が連帯した国際会議を開く」と宣言した。有言実行で、帰国後さっそく走り回り、すでに企画書をまとめ、後援者やスポンサー集めを進めている。「第1回アジア乳がん患者大会」は2007年10月7日にパレスホテル立川の350人を収容するホールで行われる。

●ここ半年の動き
2006年6月2日〜6日 米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術会議
2006年6月22日 がん対策基本法成立
2006年10月1日 国立がんセンター、がん対策情報センター開設。
がん情報サービス開始
2006年10月11日 がん対策情報センター運営評議会開催
2006年10月30日 第1回 全国がん患者ロビイングデー開催
2006年11月20日 第1回 がん対策推進に関する意見交換会開催
(2007年4月1日) がん対策基本法施行
(2007年4月1日以降) がん対策推進協議会開催

 従来はブーゲンビリアで患者さんへの支援の提供を中心に据えてきた内田氏だが、2005年夏ごろから山崎氏が幹事となった患者団体の集まり「がん患者ネット」によって、厚労省との意見交換会に参加するにつれ、ロビイングや政治・政策に目が開かれていった。米国ツアーの後には、さらに医療政策への関心が高まり、東京大学医療政策人材養成講座に応募して受講生になった。医療改革を進めたいという同じ志をもつ医療従事者、行政担当者、ジャーナリストなどといっしょに勉強を進め、具体的行動として受講生チームで東京都のがん拠点病院すべての訪問調査を行う予定だ。患者団体のネットワークによって、これが全国各地に広がりそうな兆しも見える。

 内田氏は、全国約50団体が参加するがん患者団体支援機構の副理事長でもある。米国の患者団体のレベルの高さを間近で見て、まだまだ先が長い道のりを認識すると同時に、持ち前の行動力を活かしてさまざまな新しい取り組みをすることに意欲を燃やしている。

 日本の患者団体がこれから組織力を強化したり団体運営ノウハウを磨くことが求められているのは衆目の一致しているところ。その一助として、米国がん協会(ACS)はACS大学(American Cancer Society University=ACS-U)と呼ばれる患者団体育成講座を、2006年6月2日〜5日に日本で開催した。米国ツアーと日程が重なったため、一行3人はこれには参加できなかった。だが、2007年4月には第2回ACS-Uが開かれる予定。ここには米国ツアー経験者も参加して、日本の患者団体の組織強化に関してさらに知識の共有が進むだろう。

2007年6月1日、シカゴで会いましょう
 連載最終回に当たって、3人に集まってもらい、視察後半年経った現在の活動や心境を尋ねた(以下、敬称略)。

 質問:「米国ツアーで何を得ましたか?」

 海辺:「見ること聞くことすべてが新鮮という感じだったが、ポーラ・キムさんと知り合えたのは特筆すべきことだった。ひとりの患者家族が患者団体を立ち上げて大きくし、米国がん研究所などの中核に入り込んで活躍している。ポーラさんみたいにはとてもなれないかも知れないが、自分にとってのひとつのモデルになった。そして、患者が医療や政策を動かすというアドボカシー活動が、米国では本当に根づいていることをよく実感できた」

 内田:「自分にとって新しかったのは、米国の学会と患者団体がいっしょに取り組んでいる医療の質を計測して向上させるという活動だ。米国の患者団体は、非常に組織力があり戦略的であることが改めて分かって、学ばなければと思った。日本の患者団体は、まだまだ感情的で戦略志向が足りない。このツアーに行って、政治における患者団体の役割の理解が進んだ。常に自分の頭の中で、その構図を描くようになったのが、自分が進歩した点だ」

 山崎:「やはり米国では、患者団体ががん診療を向上させる主役になっていた。学会や医療界が患者団体に働きかけて、患者団体を経由して、自分たちの望む政策を実現するという構図。医療提供者と行政と患者の三者が三角形をなしており、相互の関係と働きかけの中でものごとが決まっていく仕組み。日本は行政と医療提供者の2者の間ですべてが処理されてきた。日本的なところも残ろうが、患者参加が進んでいくのではないか。米国では、政府機関などの意思決定の場に患者が参加する仕組みがきっちり作ってあったのも、印象に残った」

ハードスケジュールをこなした3人。時差からの睡魔のなか、インタビューの予習や復習もした
ハードスケジュールをこなした3人。時差からの睡魔のなか、インタビューの予習や復習もした

 質問:「いまは、何に力を入れて取り組んでいますか?」

 海辺:「やはり、『がん対策推進に関する意見交換会』の委員の役目をきっちりと果たすのが最大関心事。自分の主張もさることながら、患者の代弁者になることが私の仕事だと思う。米国で『患者団体が水を運ぶ』という言い方を覚えた。患者団体が意見を伝えて政府の資金を引き出すという意味だ。日本でも患者団体が同じような役割を担ってくる部分が出てくるだろう。もうひとつは患者団体のレベルアップ。一般組織のように戦略性や能力主義を取り入れないと、社会から期待されている大きな責務をまっとうできない」

 内田:「アジア乳がん患者大会を何としても成功させたい。日本の乳がん団体がお互いを知るきっかけにもなればうれしい。厚労省や国会議員への陳情と並行して、医療現場への働きかけも重要だ。病院訪問で患者の視点から病院評価をして、改善をお願いしていく。患者団体の組織強化については、まず隗より始めよで、ブーゲンビリアで40歳代の幹部候補生5人の育成をスタートさせた。がん患者団体支援機構の副理事長としては、勉強会の開催、イベントの運営、組織力強化などに継続的に取り組まないといけない」

 山崎:「これからは地元発の草の根活動を全国に広げていくことが大切。全国47都道府県すべてにおいて、地元の患者団体主導で、地元の政治家や行政への働きかけと協働作業が広がるというイメージだ。そのための仕組みづくりを進める。具体的には全国ロビイングデーをきっちりと定着させ、深めていくことが重要だと思っている」


 質問:「患者会の現在の課題と将来像は?」

 海辺:「これまでのがん患者団体にとっては、世間の関心を引くこと、社会から注目されることが最大のポイントだった。まず、がん診療の問題を知ってもらう必要性があったから、それも当然だ。しかし、いまは問題点も洗い出され行動プランもできつつある。ポイントは計画を遂行できるか否かになってくる。プランと現実のギャップを埋めるための日常行動をいかに実行できるかが、患者団体にも問いかけられる」

 内田:「米国を見てから、自分の関わる団体を振り返ると、まだまだ頼りない。急いで中身を充実しないと、社会の期待に添えないし、世間に通用しない。そして、患者団体の統一体を形成していくことも大きな課題。力を合わせることでできることもある。社会も患者会の代表や窓口を求めている。ゆるやかな一本化を模索していくべきと思う」

 山崎:「これまでは患者会の第一世代、これからは第二世代。従来は何もないところにレールを敷いてきた。いまはレールの上をいかに走らせるか。機動性が重視された時代から、組織力が決め手になる時期になる。だから、患者団体はきっちりと事務局を整備して、スタッフを集めて、資金を集めて運営していくことが必要になっていく。そして、中央から攻めた段階から、中央と地元の双方向での働きかけのフェーズに進化する。地方発の草の根活動が全国的に盛り上がって、がん対策強化に結集していくだろう」


 ここ半年で日本のがん患者団体の位置づけは大きく変わった。半年後にはまたその存在感はさらに増しているだろう。今回の米国ツアーで日本の患者団体が世界に目を開いた意義は大きい。毎年多くの医師が海外の学会に出かけて行く。新しい薬や新しい手術器具などを日本に導入することには熱心だ。だがこれまで、新しい患者への情報提供の仕方、チームと連携によるケアの方法、新しいがん政策への患者参加のあり方などは、ほとんど持ち込まれなかった。

 日本の患者団体が、米国の患者団体、米国がん研究所などの政府機関、米国の学会などから直接情報を得、交流も深めるようになった。これは、今後、がん診療体制の再構築に関する患者団体の影響力が強まりこそすれ弱まることがない状況のなかで、がん医療の質を高め体制を強化するために、大きな促進剤になるだろう。

 次回のASCO年次学術大会は、2007年6月1日から5日までシカゴで開催される。日本からもっと多くの患者関係者が参加することが予想される。(了)

(埴岡 健一)

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