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レポート

2006/12/5

患者団体アメリカ訪問記 第17回 −がん診療改革のヒントを探して−

“がん患者大連合”と患者代表の作り方

 日本のがん患者団体一行の米国視察旅行に密着取材した。狙いは米国から日本への教訓を得ること。米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術会議の会場で、米国のがん患者団体と交流した。今回は、すべてのがん患者の利益を考えて行動する「全米がん経験者連合(NCCS)」と、「がんリーダーシップ協議会(CLC)」の活動から、日本の患者団体の将来を展望する。


米国臨床腫瘍学会の記者会見で話をする全米がん経験者連合(NCCS)代表のエレン・ストーバル氏
写真1:米国臨床腫瘍学会の記者会見で話をする全米がん経験者連合(NCCS)代表のエレン・ストーバル氏(写真提供:ASCO/Todd Buchanan 2006)

 米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology、ASCO)の年次大会には数多くのがん患者団体関係者が参加しているが、全米がん経験者連合(National Coalition for Cancer Survivorship)の最高経営責任者(CEO)であるエレン・ストーバル氏(写真1)はひときわ目立つ存在だ。ストーバル氏は、1971年、ニクソン大統領のリーダーシップで「米国がん法」が制定されたまさにその日に悪性リンパ腫を宣告された、がんの経験者である。

 ASCOが設定した「サバイバーシップ(がん経験者のケアや生活上の悩みへの対処)の強化」をテーマとする記者会見では、ストーバル氏は、NCCSとASCOが共同で取り組んでいる「サバイバー・ケア・プラン」などについて説明。これは、がん治療後の晩期障害などの問題が医師などからあまり意識が払われていないため、治療や対処の計画書を作成することを広め、がん経験者の生活の質(QOL)を向上させようというものだ。NCCSが長年、訴えてきたことを、学会も真剣に取り組み始めたわけだ。

 また、この会見には学術団体である米国医学研究所(Institute of Medicine、IOM)による報告書『がん患者からがん生存者へ---移行で迷子になって』(From Cancer Patient to Cancer Survivor:Lost in Transition)も紹介され、その中で推奨されているサバイバーシップ向上のための方策を進めていく必要性が確認された。ストーバル氏はこの報告書をまとめたIOMの「がん経験者のケアと生活の質を向上する委員会」の副委員長も務めている。

 ストーバル氏はその他にも、数多くの華々しい役職をこれまでに得てきた。クリントン政権時代の「全米がん諮問委員会(National Cancer Advisory Board)」の委員、IOMの先の委員会より広いテーマを扱う「全米がん政策委員会(National Cancer Policy Board)」の副委員長、医療機関や医療保険の評価などを行う「全米医療品質保証委員会(National Committee for Quality Assurance)」の理事、大企業による医療の質計測向上活動である「リープフロッグ(Leapfrog)」の理事、医療の質向上のために計測する臨床指標を決める「全米医療品質フォーラム(National Quality Forum)」の運営委員会メンバー――などだ。米国がん研究協会やASCOなど、学会の委員も務める。

 つまり、ストーバル氏はがん患者全体の代表者と見なされている。米国などでは、医療に関する政策や方針を議論したり決定したりする際、多くの立場の当事者が参加して決めることが重要とされており、医療従事者や学会のみならず、患者の立場からの代表も入ることが常識化している。

 ただ、その際、患者の立場を代表する者とはいったい誰なのかという「代表性」の問題が生じる。医師の代表は医師会から、看護師の代表は看護協会から、病院界の代表は病院協会から、腫瘍内科医の代表は臨床腫瘍学会からといった風に、職能団体や業界団体の代表を選ぶことはたやすい。しかし、がん患者団体はたくさんあるし、ライバル関係もある。代表を選ぶことが簡単ではない場合も考えられる。

 その点、ストーバル氏は、すべてのがんを対象とする最も古いがん患者団体であるNCCSのトップであり、がん患者団体を文句なしに代表する人物の1人であるという定評を獲得している。また、長年の活動実績から、その知見、リーダーシップ、人柄などに関して、信頼と信用も得ているのだ。

 現在、日本では厚生労働省や国立がんセンターが、患者団体の代表選びに迷ったり悩んだりしている姿が見られる。患者の代表性がある人物がだれかという定評がまだ形成されていないからだ。そんな中で、このほど厚労省の「がん対策の推進に関する意見交換会」と国立がんセンターの「がん対策情報センター運営評議会」に、それぞれ2人の患者代表が選ばれた。この米国ツアーに参加している海辺陽子氏(癌と共に生きる会事務局長)は前者に、山崎文昭氏(日本がん患者団体協議会、JCPC理事長)は後者に入った。来年4月には、「がん対策基本法」に基づく「がん対策基本計画」を策定する任務を負う「がん対策推進協議会」が設置され、がん患者と家族・遺族の2人以上のメンバーが選ばれることになっている。厚労省が、だれを代表性のある人と考えるか、その結果が注目される。日本でも試行錯誤を経て、ストーバル氏のような役割を担う人が出てくるのだろう。

サバイバー対策に目を向けさせた功績

がんリーダーシップ協議会(CLC)の幹部が集まってくれた(左端がエレン・ストーバル氏、2番目がエリザベス・ゴス氏)
写真2:がんリーダーシップ協議会(CLC)の幹部が集まってくれた(左端がエレン・ストーバル氏、2番目がエリザベス・ゴス氏)

 NCCSは1986年に創設され20年の歴史を持つ。「全国民への質の高いがん診療を実現するよう働きかける」のがその目的。充実したホームページを見れば分かるように、特に、がん患者の心のケアや生活上の悩みの解消、そして、晩期障害など生活の質(QOL)の問題に焦点を当ててきた。以下に示すように、その活動の成果は大きい。

・米国がん研究所(NCI)にがん生存者室(Office of Cancer Survivorship)設置:がん経験者の悩みの解消や生活の質向上に関して、研究と啓発活動を行う組織の設置の原動力となった。

・臨床試験保険適用:2000年に連邦政府の高齢者向け医療保険メディケアが臨床試験を保険適用範囲に入れた。それへの働きかけ。

・がん征圧行進キャンペーン:1997年〜98年にかけて、CNNテレビでがん対策政府予算の増額に関するキャンペーンを実施。98年9月25日、26日にはワシントンDCに25万人が集結、全国50州200カ所のイベントに100万人以上が参加。この年、NCI予算は大幅増加となった。

・米国がん経験者学会:1995年に開催。がん経験者、家族、医療従事者、研究者、がん政策立案者、連邦政府担当者など300人が参加。

・がん情報サービス:1995年に患者向け情報サイトを設置。

・キャンサー・サバイバー・ツール・ボックス(がん経験者道具箱):がん患者向けのガイドを、ウェブサイトで提供すると同時に、CD8枚のセットで無料配布。

 現在、力を入れているのが、「がんの包括的ケア改善法」という法律の連邦議会での制定だ。これが成立すれば、がん経験者に対する治療履歴書やケアプランの作成が医療保険でもカバーされ、広く浸透することが期待される。

 NCCSはがん患者団体の患者中心の精神と、プロフェッショナルな組織運営を両立させている。理事メンバーの半分以上はがん患者か経験者とするという規定を持つ。一方で、年間2億円以上の予算があり、事務局員を多数擁し、スタッフも充実している。また、連邦議会議員の元秘書を雇用して、効果的なロビイングを心がける。学会や学術団体などとも数多くの共同プロジェクトを実施する。患者団体であるスタンスは堅持しながら、“野党的”に要望や批判をするだけでなく、“与党的”に政策提言、法案作成、患者支援などにも汗をかく。責任ある参画を果たしていることが、信頼を得ている理由なのだ。

患者団体が共同歩調を取る、ロビイング専門集団
 1993年、NCCSは7つのがん患者団体と共に、「がんリーダーシップ協議会」(Cancer Leadership Council、CLC)と呼ばれるロビイング専門集団を結成した。組織の特徴は、活動目的をロビイングに絞っていること。また、広く患者団体の声を集めるために、既存の患者団体が加盟する協議会の形にしていること。現在、参加団体は33まで増えた。

日米の情報交換に話が弾んだ
写真3:日米の情報交換に話が弾んだ

 日本のがん患者団体が交流したがっているという話を聞いて、ASCOの会場に来ていたストーバル氏を始めとするCLCのメンバー5人が集まってくれた。

 弁護士でCLC事務局のエリザベス・ゴス氏は、「参加している団体は、これまでどおりでいてよい。CLCに入ることで、変わる必要はない、失うものも何もない。一方で、CLCとしていっしょに活動することで、声が大きくなり、政府の予算増額や法律の改正など、共通の利益を得られる。この仕組みを理解してもらうことが大切」と説明する。

 この、米国ツアーの幹事であるJCPC理事長の山崎氏は、JCPCとして積極的に国会議員などにロビイングを行うと同時に、全国のがん患者団体に共同歩調を取ることを呼びかけてきた。それが、“緩やかな連携”である「がん患者ネット」というグループとなり、昨年はじめごろから、10数団体でほぼ毎月のように厚労省と意見交換会などを行ってきた。「集まることで、失うものは何もない。共通の利益を得られる」は、まさに山崎氏が訴え続けてきたことだった。CLCの成り立ちを聞いた山崎氏は、「わが意を得たり」の気持ちだっただろう。

 CLCは、特に、連邦政府のがん対策予算の増額や、がん治療への医療保険適用の拡大などに取り組み、実績をあげている。「輪を広げることは一朝一夕にはできない。一面では団体同士は競争している。また、どうしても関心が自分たちの関係するがんの種類だけに向きがちになる。しかし、常に法律や予算など、全体のパイを大きくすることに意識を向けることが大切」とストーバル氏は語る。

 ゴス氏は、「加盟団体や加盟団体の参加者が、それぞれの地元で、草の根的に、地元選出議員にロビイングすることが有効。やはり、選挙区の選挙民が投票するかどうかが政治家には効く」と指摘する。CLCからの教訓は、今後の、日本のがん患者会の活動の方向性にも大きな示唆を与えてくれるだろう。

(埴岡 健一)

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