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レポート

2006/11/14

患者団体アメリカ訪問記 第16回 −がん診療改革のヒントを探して−

政治を動かす米国がん協会の巨大パワー

 日本のがん患者団体一行の米国視察旅行に密着取材した。狙いは米国から日本への教訓を得ること。米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術会議の会場で、米国のがん患者団体と交流した。今回は、米国がん協会(American Cancer Society:ACS)の、患者仲間紹介から大統領選挙投票ガイドまでの、圧倒的な活動実績を紹介する。


米国がん協会(ACS)のブースで記念撮影(右から2人目が国際担当副部長のネイサン・グレイ氏)
写真1:米国がん協会(ACS)のブースで記念撮影(右から2人目が国際担当副部長のネイサン・グレイ氏)

 米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術会議の展示場で、米国がん協会(American Cancer Society:ACS)は、抗がん剤メーカーに伍して大きな展示ブースを構えていた。日本からのがん患者団体一行3人は、国際担当副部長で最高経営責任者特別補佐のネイサン・グレイ氏を訪問した(写真1)。

 ACSの本部は、今回ASCOが開催されたジョージア州アトランタにある。全米に13カ所の支部と、3400カ所の地域事務所があり、年間事業費は1000億円以上で、職員は約7000人。ボランティアは約350万人おり、うち50万人程度が患者本人だ。1913年に設立され100年近い歴史を持つ。創業者は医師やビジネスマンで、半ば公的なイメージもあり、“がん患者団体”というよりは“対がん活動団体”あるいは“がん患者支援団体”といった方がいいかも知れない。連邦政府のNCI(米国がん研究所)と民間のACS、両方の活躍が米国のがん対策の大きな推進力となっている。

 日本がん患者団体協議会(JCPC)理事長の山崎文昭氏は、グレイ氏に(1)がん患者向けサービス (2)がん患者団体支援サービス (3)ロビイング活動の展開――の3点について主に質問した。

 まずは、(1)の患者向けサービスの代表例である、患者や家族などからのがんの悩み相談を受け付けるコールセンター(電話相談窓口)について。山崎氏の関心事は、「医療相談はしているのか」「相談応答マニュアルがあるのか」だった。グレイ氏によると、ACSのコールセンターは、テキサス州オースチンなど2カ所にあり、年間120万件の電話を受け付けている。24時間365日全国どこからでも、電話料金も相談料金も無料で、気軽に電話で相談できるようになっている。

 電話を受けるのは、キャンサー・インフォメーション・スペシャリスト(CIS)と呼ばれるオペレーター。医療職ではなく、大卒の人材を6週間程度の初期研修と、2〜3カ月の実地研修(OJT)を経て、1人前に育てる。医学的な質問があった場合には、CISが答えることはせず、待機しているオンコロジーナース(がん専門看護師)に電話を転送する。教育プログラムや応対マニュアルが整備されているほか、CISの味方として、コンピューター相談支援システムがあり、パソコンの画面で回答用の情報源のデータベースを検索して必要な情報を呼び出し、速やかに回答することができる。

 グレイ氏によると、ACSは「問合せ電話に○秒以内に応答する」といった内規を持っており、問い合わせ電話が増えると電話回線やCISを増強する。現在2カ所にあるコールセンターを統合し体制を強化する作業の最中だ。グレイ氏は日本のがん患者団体に対し、「ぜひ、コールセンターの見学に来てください」と繰り返した。

 日本のがん患者団体一行のひとり、ブーゲンビリア代表の内田絵子氏は、数十の患者団体が加盟するがん患者団体支援機構の副理事長でもある。内田氏はこの米国ツアーで、日本の患者や家族が求めているのは、このコールセンターだという確信を抱いた。がん患者団体支援機構では、コールセンターの迅速な設置を厚生労働大臣と国立がんセンターに要望することにしている。

 ACSは、インターネットサイトでのがん関連情報の提供、多くの種類のがん情報冊子を配布するなど、多様な患者サービスを実施している。インターネットのコンテンツは1万2000ページにも及び、月間200万の閲覧がある。冊子は各地の病院で容易に入手できるし、電話で取り寄せもできる。グレイ氏が個人的に特にお気に入りでお薦めのサービスは、がん経験者ネットワーク(Cancer Survivors Network)だ。がん患者たちが自分のウエブサイトを作成して、患者同士の情報交換や交流ができる。ここに、実に6万2000人のがん患者のコミュニティーが形成されているのだという。

日本のがん患者団体の組織強化を支援
 リレー・フォー・ライフ(RFL)は、ACSの柱となる活動のひとつ。がん患者や家族、ボランティアが24時間交代で陸上競技のトラックを歩き続ける。そして夜になるとルミナリエというセレモニーが開かれる。みんなでロウソクをともし、がんの犠牲者をしのびながら、がんとの闘いに決意を新たにするというものだ。参加者はそれぞれ1万円程度の寄付をする。米国では年間4600回開催され、数百億円の募金を集めている。集まった資金はその地域のがん予防のための活動資金などに使われる。米国外22カ国でも開催されるようになった。

 日本でも今年、9月2日に第1回のリレー・フォー・ライフが開催され、約1000人が参加した。日本対がん協会が主催し、がん患者団体や地元支援組織が実行委員会を作り、運営に参加した。「癌と共に生きる会」事務局長代行の海辺陽子氏は「今後、日本での展開をどう考えているのか」と質問した。グレイ氏は、「多くの回数を開催することが大切。年間100回といった単位で開催できるところと連携していきたい。また、その地域で実際に活動しているボランティアがおり、その地域で尊敬されている団体と共同作業することを重視している」とした。

 患者団体一行が米国ツアーを行っているちょうどそのとき、東京ではACSが主催する「第1回ACS−U Japan(米国がん協会大学・日本編、American Cancer Society University Japan)」が開催されていた。ACS-Uは患者団体の幹部向けの研修で、これまで5年間に22カ国で実施されたが、日本では今回が初めてだった。

 内田氏が主催する患者団体ブーゲンビリアでは、内田氏が米国にいたため代理が出席、海辺氏が所属する癌と共に生きる会からは、会長が参加し、3日間に渡って患者団体運営強化のノウハウなどを学んだ。今後は参加した患者団体を対象に、助成金の募集も行われる。また、来年2月には第2回のACS-U Japan開催も予定されている。

 山崎氏は、「今後、ACS-U Japanの内容をどのように日本の文化や実情に合わせて調整していくのか」と尋ねた。グレイ氏は、「ACSは基本となるプログラムを持っているが、いずれの国でもその実情に合わせて修正して使っている。もっと日本に合った内容にしていきたい」と答えた。グレイ氏と山崎氏は、ACS-U Japanに関しても連携や協力を深めていくことで合意した。10月になって山崎氏はACS-U Japanの企画委員への委員を要請され、受諾した。

選挙戦左右させるがん患者団体の実力
 次に山崎氏は、目下の大きな関心事であるロビイング活動についてACSの取り組みを聞いた。がん対策の強化、がん患者の生活の質の向上に関するACSの組織的なロビイングは、想像以上にパワフルだった。グレイ氏は「ここ10年ロビイング活動を強化している。だから、政治の町であるワシントンDCに60人のスタッフを置いている。また、各州の州都にもロビイング担当者が最低1人はいる。連邦議会・政府と州議会・政府の両方へ、活発に働きかけている」と説明した。

セレブレーション・オン・ザ・ヒルには全国の全選挙区から1万人が参加
写真2:セレブレーション・オン・ザ・ヒルには全国の全選挙区から1万人が参加(写真提供:ACS)

 ACSは、関連団体としてロビイング関連活動を実施する「米国がん協会がん行動ネットワーク(American Cancer Society Cancer Action Network:ACS CAN)を持つ。そして、全国の草の根活動とロビイングをうまく結びつけて巨大なパワーに結実させるノウハウをしっかりと確立していた。

 それを象徴するのが、民主党が圧勝して共和党のブッシュ大統領が苦境に立った11月7日に実施された中間選挙の約40日前の9月20日に開催された、「セレブレーション・オン・ザ・ヒル(Celebration on the Hill) 2006」だ(写真2〜4)。2002年に続いて、4年ぶり2度目の開催だった。ヒルというのは、ワシントンDCの連邦議会議事堂のそばの政治の中心の町、キャピトル・ヒルを指す。日本で言えばさしずめ永田町(国会議事堂や議員会館などがある)だ。セレブレーション・オン・ザ・ヒルを意訳すれば、「永田町ロビイング祭り」といったところか。

 連邦議会議事堂の周りに、全米から1万人のがん患者、がん経験者、その家族がワシントンDCに集まった。また、米国すべての選挙区から選ばれたアンバサダーと呼ばれる地区代表は4000人。このアンバサダーたちは、ロビイングのための特別研修を受けている。この日、アンバサダーたちは、連邦政府の下院議員(435人)、上院議員(100人)に順次面談するため、いっせいに議員会館を回った。そして、500人以上の連邦議会議員に直接面談することに成功した。要望したのは、連邦政府のがん対策関連予算の増額だ。また、この日、300人以上の連邦政府議員が、ACSが作成した「連邦議会対がん政策の約束」にサインした。ここには、がん予防の促進、早期検診の拡大、がん経験者ケアの強化などがうたわれている。

がん経験者が政府予算の増額や各種がん対策法案の可決を訴える
写真3:がん経験者が政府予算の増額や各種がん対策法案の可決を訴える(写真提供:ACS)

 セレブレーション・オン・ザ・ヒルではリレー・フォー・ライフも開催され、クライマックスには定番のルミナリエ(写真4:右下)が行われた。こうして全国から集まった参加者が、故人を追悼しながら、ロビイング活動への動機付けを高めた。

 クリントン大統領時代(1993年〜2001年)の後半、クリントン政権ががん対策に力を入れたことから、がん対策予算は急増を始めた。1998年から2004年ごろまでに約2倍に拡大したが、その後はブレーキがかかった。イラク戦争の戦費がかさんだこと、ハリケーン・カトリーナの復興費用が膨らんだことなどから、2005年には連邦議会がNIH(米国保健省)予算の35年ぶりの削減と、がん対策予算の10年ぶりの減少を可決した。がんに関心が高い人々にとっては、政策の対立軸は「イラク対策重視か、がん対策再強化か」という構図になっている。

 ACS CANは、がん対策に熱心な議員への投票を促す活動をしている。例えば、今回の中間選挙でもウエブサイト上に「投票ガイド」を掲載。最激戦区とされた13カ所(6下院議員選挙区、7上院議員選挙区)については、共和党、民主党の対立候補に関して6項目のがん対策方針を併記して掲示した。投票者が読み比べて、がん対策にどちらが熱心かを比べられるようにしたのだ。

クライマックスはロウソクをともしたルミナリエ。参加者は、故人をしのび、がんとの闘いへの想いを新たにする
写真4:クライマックスはロウソクをともしたルミナリエ。参加者は、故人をしのび、がんとの闘いへの想いを新たにする(写真提供:ACS)

 また、ウエブサイトには、州、連邦政府の審議中のがん関連法案のリストがある。さらには、政治家の名前とあて先のリストもあり、ここから政治家への陳情電子メールが自動作成できるようになっている。文案ひながたがあるので、相手の政治家の名前と自分の名前を入れてボタンを押すだけでいい。

がん患者はもっと政治に関心を
 ACS CANは大統領選挙でも投票者ガイドを実施する。2004年の大統領選では、当時のジョージ・ブッシュ候補とジョン・ケリー候補を対比した。ACSが推奨する6つの政策に関して、ケリー氏(民主党)は5つについて支援を表明し、ブッシュ氏(共和党)は一つも直接的な支援を表明しなかった。これを読めば、がん対策の強化を願っている人ならばどちらに好感を持ちやすいかは明らかだ。

 グレイ氏はセレブレーション・オン・ザ・ヒルの威力を示すエピソードを語る。「2002年の第1回のとき、下院議長に面談を申し込んだが返事がもらえなかった。だが、開催当日、数千人が集まって議事堂の周りでイベントをしていたら、彼の方から会場に出向いてきて挨拶をさせてほしいと頼まれた」。選挙区から人が集まると次の選挙の票が関係するから、政治家は大きな関心を持つわけだ。こうして、草の根の活動をしている人々が政治の町に集結するこの方式が、大きな効果をもたらすのだ。

 グレイ氏はこの見学ツアーが行われた6月に山崎氏、内田氏、海辺氏に対し「ぜひ9月20日に開催されるセレブレーション・オン・ザ・ヒルを見学に来てください」と語った。残念ながら、今回は各人とも多忙であることなどを理由に実際の訪問はかなわなかった。それでも、3人は帰国後に2002年開催時のビデオを鑑賞し、全国から患者が終結する迫力を実感した。それが、山崎氏が10月30日に「全国がん患者ロビイングデー」を開催するヒントにもなった。すでに、ACS流のロビイングが日本にも芽生え始めたと言えるだろう。

 山崎氏は、「政府にがん対策の強化を求めなければならない。しかし、がん患者ももっと政治に関心を持たなければならない。結局、行政や政治が悪いとしたら、それは国民の意識が低いからだということも知らなければならない」が口癖。そんな山崎氏にとって、草の根ロビイングが日本全国に広がり、民意を受けてがん対策が進展することが、一種の理想の姿に映っていることだろう。

(埴岡 健一)

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