このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2006/10/31

患者団体アメリカ訪問記 第15回 −がん診療改革のヒントを探して−

「米国乳がん連合」の整然とした強力なロビイング活動

 日本のがん患者団体一行の米国視察旅行に密着取材した。狙いは米国から日本への教訓を得ること。米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術会議の会場で、米国のがん患者団体と交流した。今回は、米国乳がん連合(National Breast Cancer Coalition)の強力なロビイング(陳情)活動を紹介しよう。



 ASCO会場の広い展示ホールで、米国乳がん連合(National Breast Cancer Coalition、NBCC)のブースを訪ねた。NBCCは、連邦政府議会議員とその関係者を対象にアンケートした「医療政策にもっとも影響がある組織ベスト25ランキング」で、20位に入ったことがある。これは、米国看護協会とほぼ同じ順位。患者団体でありながら、いかに政治に影響があるかがうかがえる。NBCCがロビイング(陳情活動)を行い、NBCCF(National Breast Cancer Coalition Fund)が患者団体幹部養成教育、患者支援などを分担している(ここでは両者を合わせてNBCCと呼ぶ)。

表1:NBCCの主な実績
・創立15周年
・国防総省から年間200万ドルの乳がん研究調査費を獲得(累積2億ドル)
・同研究費では、ピア・レビューの仕組みに患者代表が参加
・クリントン政権に「米国乳がん対策実行プラン策定」を働きかけ。副議長の地位を獲得
・大統領がん諮問委員会の委員を獲得
・乳がん・子宮がん治療法の制定を働きかけ
・無保険者が公費健診でがんと分かった場合、治療費もメディケイド(経済的困窮者への公的保険)で治療が受けられる制度を獲得
・乳がん・環境問題研究調査費を要望中
・「医療政策にもっとも影響がある組織ベスト25ランキング」で20位
・多くの連邦政府、地方レベルの審議会・委員会にメンバーを送る
・年2回ほど議会参考人陳述
・草の根ロビイング連携システムのモデルを構築

 その実績(表1)には華々しいものがある。これを背景に連邦政府、米国がん研究所(NCI)、州政府などの、さまざまな審議会や検討会などにもメンバーを送り出している。その中には、専門的な研究費の配分に関するものも少なくない。NBCC創設者の一人で代表のフラン・ビスコ氏は、「私たちが獲得したお金だから、その使い方に口を出すのも当然。当初は研究者や医療者が戸惑っていたが、今ではお互いにそうしたやり方にも慣れてきた」と語る。

 患者団体であるNBCCが自他共に認める強力なロビイング団体となっているのは、背景に組織的な運営があるからだ。毎年1度開催される「年次ロビイング研修大会(以下ロビイング大会)」が、それをよく示している。これは、がん診療を取り巻く様々な知識の吸収、がん政策・がん対策の学習、幹部の育成、連邦政府議員へのいっせいロビイング――を兼ねたイベントだ。4日間の概要は表2のとおりだ。

 1日目には、最終日にあるロビイングデーのオリエンテーション(導入教育)がある。現在NBCCが掲げている政策的要望項目と、その理由を学習する。今年は、(1)すべての人への質の高い医療の提供(2)既存の乳がん研究予算(1億5000万ドル)の維持(3)乳がんと環境要因に関する大規模研究プロジェクトの新規開始――などだ。

 NBCCは下院・上院議員の“通信簿”をつけている。NBCCが成立を要望した法案に対し、どの議員がこれまでどのような姿勢を示したか、すべての議員の投票履歴をウエブサイトに掲載しているのだ。オリエンテーションではこの記録に基づき、だれが賛成派でだれが反対派であるかを確認する。反対派である議員に何とか賛同してもらったり、強硬な反対をさせないようにしたりするのが重要だ。

展示ブースを訪問して歓談
展示ブースを訪問して歓談
 

 また、議員陳情をするときのルールやコツについてもレクチャーがある。例えば、「要望項目にあった個人的体験がある人が自分の体験談として切実に訴えると効果が高い」といったようなこと。また、NBCCとしてのロビイングの際には個別団体の要望や個人的な主張はせず、あくまでNBCCが組織決定した事項についてだけ語るよう、はっきりと釘を刺す。日ごろは別々の団体に所属している場合も多い寄り合い所帯だが、ロビイング活動の際には統制を大切にしている。

 2日目は、主に共通学習セッションやテーマ別ワークショップによる知識の獲得が進められる。共通セッションでは、乳がん治療の最前線情報や医薬品承認システムの最近の話題などが、ワークショップでは臨床試験からがん患者の生活術、あるいはロビイングのテクニックまで広いテーマが扱われる。

すべての下院・上院議員を手分けして網羅

表2:年次大会の概要
・1日目
 展示場開場
 ロビイングデーのオリエンテーション
 初参加者対象のオリエンテーション
 共通学習セッション
・2日目
 幹部教育プログラム修了生の朝食会
 共通学習セッション
 テーマ別ワークショップ
・3日目
 共通学習セッション
 テーマ別ワークショップ
 州別ロビイング作戦会議
 懇親会
・4日目
 ロビイングデー事前打ち合わせ
 議員陳情
 議員表彰
 

 3日目にも、同様の学習プログラムが多数開催されるが、翌日のロビイングデーに備えて「州別のロビイング作戦会議」の時間がある。ここでは、初日のオリエンテーションを踏まえ、州別のチームリーダーの下に、各州から集まった10人ほどが実際の詳細な作戦を練る。どの議員とどの時間に面談の約束が取れているか確認した後、州内の上院・下院議員ひとりひとりについて、何をどのように話すかを話し合うのだ。

 4日目は丸ごとロビイングデーだ。早朝、ホテルからバスでキャピトル・ヒル(米連邦政府議会)の横にある議員会館に移動する。上院議員会館に大きな部屋を確保し、そこで食事、打ち合わせ、休憩などができるようになっている。ここを“ベースキャンプ”にして、各州のメンバーがすべての下院議員・上院議員事務所を回る。2割程度は議員本人が面談し、その他は厚生担当の議員秘書が対応するという。夕方にはNBCCの政策を強く支援した議員への功労表彰がこの部屋で行われる。また、多くの議員が三々五々、挨拶とミニスピーチをやりに来る。政治家にとっても地元選挙民を大切にしているという姿勢をアピールする絶好の機会なのだ。

 NBCCは、ロビイング活動に大きな実績を持つリーダーを持つ。また、同時に20人もいるしっかりとした事務局スタッフが政策立案、メンバー教育資料作成、議員への面談日程調整などを行い、整然と強力なロビイングを遂行している。日本でも、がん患者団体によるロビイングデーが始まったが、今後、こうした組み立てに関して米国の患者団体から学ぶことは少なくない。

●表3:NBCCの概要
・事務局20人
・年間収入438万ドル 年間支出488万ドル 約5億円規模
・収入 寄付68.0%、イベント収入30.0%
・支出 教育24.7%、年次大会17.8%、事務管理費8.7%、ネットワーク維持8.4%、公共政策7.4%、広報7.3%・・・

 NBCCの来年のロビイング大会は、4月28日から5月1日まで開催される。NBCCでは日本のがん患者団体の参加を歓迎している。

(埴岡 健一)


※「がんナビ通信」(週刊:購読無料)を配信中。 購読申込はこちらです。


この記事を友達に伝える印刷用ページ