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レポート

2006/10/24

患者団体アメリカ訪問記 第14回 −がん診療改革のヒントを探して−

米国の患者団体に学ぶ「強い組織の作り方」

 日本のがん患者団体一行の米国視察旅行に密着取材した。狙いは米国から日本への教訓を得ること。米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術会議の会場で、米国のがん患者団体と交流した。今回は、すい臓がん行動ネットワーク(PanCAN)の幹部たちから教わった、がん患者団体経営の秘訣をお届けする。




PanCAN最高経営責任者(CEO)のジュリー・フレッシュマン氏(右から2人目)と意見交換

PanCAN最高経営責任者(CEO)のジュリー・フレッシュマン氏(右から2人目)と意見交換

 年間収入100億円の巨大な患者団体もある米国の中では小粒だが、ピリリとした活動をしているのがすい臓がん行動ネットワーク(PanCAN)だ。小粒といっても、年間収入は約3億円もある。

 すい臓がんは難治性のがん。乳がんなどのように罹患者や生存者が多いがんと比べると、患者や家族の声が集まりにくい。だからこそ、PanCANはすい臓がん関係者の要望が達成されるよう、強い使命感をもって焦点を絞った活動をして急成長してきた。その活動と歴史を聞くと、あたかもベンチャー企業の鮮やかな成功ストーリーのようだ。

 PanCANは、1999年に設立されたばかりで歴史は比較的浅い。しかし、その活動内容は充実している。活動のための年間支出は約3億円で、その内訳はグラフ1(下)の通りだ。

PacnCANの支出の内訳

PanCANの支出の内訳

 患者支援では、患者連携サービス(Patient and Liaison Services、PALS)を実施している。これは、患者や家族に対して、すい臓がんに関する情報の提供、悩み相談などを無償で提供するものだ。電話代がかからないコールセンター(電話相談窓口)も用意している。特徴は、すい臓がん経験者やすい臓がん患者の家族に研修をし、ボランティアのPALS係員を養成していること。また、患者一人ずつに担当PALS係員が決められる。患者に共感をもって話ができる担当者が継続的に支援をする仕組みは、患者団体ならではのサービスだ。

 また、PanCANは全国で実施されている臨床試験の情報を集め、現在80種類の臨床試験からなるデータベースを持つ。その中から患者の状況にあった臨床試験を抽出する検索サービスも患者や家族向けに実施している。

 がん研究への助成事業を活発に行っているところも特色のひとつ。これまでに170万ドル(約2億円)をすい臓がん研究者に交付した。PanCANの資金によってこうした研究者が成果を出して、それが評価されて米国がん研究所(NCI)からもっと大きな研究費助成を受けられるようにするのが狙いだ。

 また、全米のすい臓がんに関する各段階の研究と研究者をリストアップした「すい臓がん研究開発マップ」を作成、すい臓がんに関する基礎研究や臨床試験などの進捗が一望できるようにした。こうすることで、すい臓がん領域への関心と認知が高まるわけだ。PanCANメンバーは米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見学も真剣だ。各種の発表に目を通し、マップに付け加えるべき研究はないか、注目すべき新しい動きがないか、常に注意を払っているのだ。

PacnCANの寄付の内訳
PacnCANの寄付の内訳
 

 陳情活動は、設立当初の主目的であったこともあり強力だ。昨年は、150人以上の国会議員にすい臓がん研究の重要性を説明する機会を持った。また、「がんと闘う統一された声(One Voice against Cancer)」というロビイング(陳情)団体の合同陳情活動に、全国から30人のPanCANボランティアが参加した。PanCANでは、NCIのすい臓がん関連予算が1999年の1730万ドル(約20億円)から昨年は6600万ドル(約80億円)まで増えたのは、自分たちの活動があったからこそとしている。

 普及啓発では、全国のボランティアで「希望のチーム(Team Hope)」を結成。昨年度は、120カ所でウォークマラソンなどを実施し、160万ドル(約2億円)を集めた。また、主な医療関係者にすい臓がんに関する資料キット6000部を配布。すい臓がんサポーターを意味する紫色のリボンも8万個配った。

 PanCANの募金収入は約3億円で、その内訳はグラフ2のとおり。グラフ1を見ると、募金にかける費用は全体経費の5%(1500万円)程度。それで3億円の募金を集めるのだから、かなり効率的といえる。

経営の専門家が戦略的に事務局けん引
 現在、最高経営責任者(CEO)であるジュリー・フレッシュマン氏は、経営学修士号(MBA)を持つ。それもあって、民間企業のような経営手法で組織をけん引する。重視しているのは、強い事務局になることだ。「理事会の決定事項や諮問委員会の推奨に基づいて、患者にとって何が大切かを事務局が考えて、事務局主導で遂行していく」とフレッシュマン氏は基本方針を説明する。人材採用と育成にも熱心だ。「一番、神経を使うのは有能な事務局員を採用すること」と語る。また、「能力がないとか、チームワークが取れないといったことが分かれば、他の職場を見つけてもらいたい」と、厳しい。一方、給与・待遇については、一般民間企業に引けを取らない条件を確保している。

 日本がん患者団体協議会理事長の山崎文昭氏が、PanCANの急速な成長の秘訣を尋ねると、フレッシュマン氏は「活動展開の順序がよかった」と答えた。まず、研究費の分配やNCIの仕組みの勉強から始め、次いで「がんと闘う統一された声」によるロビイングに参加した。それから、全国での資金集めに着手。その資金によって、患者支援や研究助成活動へと活動を広げることができるようになったわけだが、すでに従来の活動で一定の知名度を確保していたため、こうしたサービスの提供がスムーズにいった。

 フレッシュマン氏は、「患者団体としては後発だったが、従来の団体で内部対立があったり、戦略がはっきりしないことから混迷する団体もあったことを見るなどして、先輩の失敗から学んだ」と説明する。

 続けて、山崎氏は患者団体の団結の重要性について尋ねた。フレッシュマン氏は、「がん対策へのパイ全体が大きくなってこそ、個別の疾病に配分されるパイの取り分も大きくなる。がん対策予算を拡大すべしという一点ではすべての団体が利害を共にできる。予算拡大のためには、連帯して集まった方が政治家に訴える力が強くなる」と強調した。また、「みんなそれぞれの主張があろうが、統一戦線では要望事項を共通事項に絞ること。そして、患者会連合は乱立させずに数を絞ることが大切」とも付け加えた。

PanCAN事務局スタッフと記念撮影
PanCAN事務局スタッフと記念撮影

 フレッシュマン氏が繰り返し語ったのは、ボランティア教育の重要性だ。PanCANではウエブサイトに会員ボランティアだけが閲覧できる資料集を作っている。チャリティー・イベントをする際の予算の立て方、ポスターの作り方、招待状の書き方、会場運営の仕方など、各種のマニュアルやひな形が揃えられているのだ。

 PanCANでは、ボランティアに対しても、高い業務の達成水準を求める。「ボランティアだから、気持ちだけあればいい」「十分成果が出なくても、ボランティアだから許される」というカルチャーではない。「ボランティアに求められること」や「遂行すべく努力すること」を明記した合意書を交わす。もちろん、そこにはPanCANがボランティアに対してサポートする内容も記述されている。また、ボランティアのやる気を引き出すには、各活動が終わった後に、参加メンバーに「何が達成されたか。どんな頑張りがあったか」を書いて知らせることが大切という。それが、達成感、やりがい、参加意識を育てるのだ。

 日本の患者団体一行は、フレッシュマン氏の話にしきりにうなずきながらメモをとっていた。日米で患者団体が置かれている環境の違いはあるものの、自分たちの参考になる点がたくさんあったようだ。

(埴岡 健一)

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