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レポート

2006/10/17

薬剤費の財源確保が課題に

分子標的薬が変えた慢性骨髄性白血病の治療

 分子標的薬「グリベック」は、慢性骨髄性白血病の治療に革命を起こした。薬を服用し続ければ5年後でも9割の患者が生きられる。しかし、薬剤費がかかるのが悩みのタネ。分子標的薬時代を迎え、財源の確保の検討が急務となっている。


 慢性骨髄性白血病(CML)の治療は、薬剤で行うのが当たり前となった。欧州白血病ネットワークの専門部会がこのほどまとめた包括的なCML治療ガイドラインでも、分子標的薬「グリベック」(一般名イマチニブ)を毎日400mg服用することが初期治療として推奨された。10月に開催された日本血液学会・日本臨床血液学会合同総会で、このガイドラインの紹介を行った東京大学研究所医科学研究所先端医療研究センター分子療法分野教授の東條有伸氏は、「現実的には、イマチニブに対する反応性を見た上で、唯一の根治療法である移植を検討するのが妥当だろう」とグリベックが第一選択薬という位置づけであることを指摘した。

 白血病とは、赤血球、白血球、血小板を作る造血幹細胞ががんとなる病気。成熟していない白血病細胞が異常に増え、正常な細胞が作られなくなる。10万人のうち5人から7人が白血病になるとされており、そのうちの2割強をCMLが占めている。CMLでは、特定の染色体の一部が他の染色体に融合することでbcr-abl遺伝子が生じ、その遺伝子から作られるチロシンキナーゼという酵素が白血病細胞を増殖させる。グリベックはbcr-abl遺伝子が作るチロシンキナーゼを、特異的に阻害することで効果を発揮する飲み薬だ。

 グリベックは、2001年に初めて臨床現場で使用が始まった。今年6月に開催された米国臨床腫瘍学会では、グリベックを5年間服用した結果が初めて発表され、大きな注目を集めた。グリベックのCMLに対する治療効果は5年後も継続し、生存率は89%に上ることが明らかとなったためだ。しかも全ての死亡と効果喪失を含むイベント発生率は、治療2年目をピークに減少していた。グリベックの登場までCMLの治療として行われてきた化学療法やインターフェロンによる治療、骨髄移植の5年生存率は40%から70%程度で、グリベックの成績は実に画期的なものだった。

 グリベックに耐性のCMLに対する治療薬の開発も進んできている。ダサチニブとニロチニブという化合物で、ダサチニブは既に米国でグリベック耐性CMLに対する治療薬として認可されている(商品名「SPRAYCEL」)。bcr-abl遺伝子に突然変異が起きるとグリベックが効かなくなることがあるが、これらの薬は、グリベックが効かなくなったCMLのほとんどに効果がある。唯一これらの新薬でも効き目がない突然変異があるが、それにも有効な薬が開発され、米国で臨床試験が始まっている。

グリベックが買えずに病院に来なくなる例も
 画期的な治療薬であるグリベック。だが今、新たな問題が出てきている。飲み続けなければいけないために起こる医療費の問題だ。10月に日本血液学会・日本臨床血液学会総会で開かれた白血病シンポジウムのパネルディスカッションは、「血液疾患治療に関わる医療費」というテーマだった。

 このパネルディスカッションでは、血液疾患全般の医療費、日本の医療費制度など幅広いテーマが取り上げられたが、中でも注目を集めたのはグリベックの話題だった。「私の患者の中で、グリベックの薬剤費が払えないために止めざるを得なかった患者が2名いた」という生々しい話が披露された。きちんと服用すれば高い効果を発揮するのに、薬剤費のために患者が量を減らしているという話もある。

 グリベックは、月に40万円弱の薬剤費がかかる。健康保険で3割負担に減り、収入に応じて一定額以上は戻ってくる高額療養費還付の制度を使用しても、毎月4万円から8万円程度の個人負担が発生する。パネルディスカッションでは、そのままでは毎月一定額を負担しなければならないのを、3カ月分まとめてグリベックを処方することで、年間の個人負担額を軽減している例が報告された。患者が個人負担を重く感じるために、病院のソーシャルワーカーへの費用に関する相談も増えているようだ。

 個人負担を軽減したとしても、結局は限りがある国の医療費を使っていることに変わりはない。しかもグリベックに限らず、今後、画期的な抗がん剤が数多く登場する。そうなれば、さらに薬剤費の問題がクローズアップされるのは間違いない。

 「どうやって財源を確保して配分していくのか、国民全員が真剣に考える段階に来ているのではないか」。パネルディスカッションは、こう問題提起して幕を閉じた。


(横山 勇生)

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