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レポート

2006/9/12

患者団体アメリカ訪問記 第10回 −がん診療改革のヒントを探して−

米国FDAでは新薬審査に患者が参加

 日本のがん患者団体一行の米国視察旅行に密着取材した。狙いは、米国から日本への教訓を得ること。今回は、米国食品医薬品局(FDA)が実施している「医薬品審査への患者参加制度」について、担当者から話を聞く。



 米国食品医薬品局(Food and Drug Administration=FDA)では、医薬品審査のルール作りや、新しい抗がん剤の承認審査に、がん患者関係者の代表を巻き込む仕組みを作っている。

 2001年5月にスタートした、「がん治療薬開発・患者コンサルタント制度(Cancer Drug Development Patient Consultant Program)」が、それだ。当初、20種類のがんに関する109人の候補者から、15種類のがんに関する25人が選定された。こうした患者コンサルタントはこれまで、臨床試験に関する基本設計、エンドポイント(評価項目)の決定、参加患者集めなどに関する50以上の会議に参加した。現在、がんに関して37人のコンサルタントがいる他、エイズとパーキンソン病に関してもそれぞれ4人が活動している。

 こうした患者コンサルタント制度を作ったのは、医薬品承認プロセスに関して患者から意見を述べたい、関与したいという声が高くなっていたから。この制度によって患者関係者が直接、方針策定や意思決定に参加できるようにした。応募資格は、(1)患者本人、家族あるいは友人である(2)特定の疾患に関して患者の立場から要望活動をした経歴がある(3)特定疾患患者全体の利害を代表し、それを述べる能力がある(4)臨床試験の評価を行うのに十分な調査研究に関する知識を持つ――を満たすこと。

 患者コンサルタントには、研修が施される。初期の基本レクチャーの他に、月次の電話レクチャーがある。また、質問があればFDAのスタッフが随時、答えてくれる。さらに、“新人”の患者コンサルタントには、一人ずつ“先輩”の患者コンサルタントが相談役として選ばれる。

 患者代表は、新薬の承認の是非の決定にも参加する。FDAは、抗がん剤諮問委員会(Oncologic Drugs Advisory Committee=ODAC)の見解を基に、抗がん剤の承認を決定する。そのODACに、患者コンサルタントから選ばれた委員が一人参加する「患者代表制度」(Patient Representative Program)という仕組みを実施している。審査する医薬品が対象となる疾患の患者関係者が、その承認の是非を決定する委員会に出るのだ。もちろん、投票権もある。

 通常、開催の5〜6週間前に委員に選定されたという通知が届く。審査資料は会議の2〜3日前に届く。それに目を通すには10時間はかかる。会議は公開で開催されるが、委員には審査資料に関して守秘義務を守ることが求められる。


患者代表の発言で会議の方向が一変
FDAの患者コンサルタントプログラム担当の、ジョアーン・マイナー氏
FDAの患者コンサルタント制度担当の、ジョアーン・マイナー氏

 FDAの患者コンサルタント制度担当の、ジョアーン・マイナー氏(写真右)は、PDAが患者代表に期待しているのは、「患者の視点を取り入れた健全な判断」だと指摘する。「患者にとって、利益に対して副作用が受容可能な範囲か」「リスク情報が十分に開示されているか」といった観点から、意見を述べることが求められる。

 マイナー氏は、患者代表が大きな役割を果たした事例として、2005年9月14日のODACでのレナリドミドの審査を挙げる。レナリドミドは、5q欠損の染色体異常を伴う低リスクまたは中リスクの「骨髄異形成症候群」(MDS)による、輸血依存性の貧血を対象にした抗がん剤。レナリミドは血管新生抑制作用、抗サイトカイン作用を含む多様な免疫修飾作用を持つ分子標的薬だ。

 米国での43例の治験では、輸血が必要だった患者の過半数で輸血が不要となり、さらに半分以上の患者に寛解(がんが見られない状態)をもたらした。ただし、好中球減少や血小板減少などの有害事象があり、一部の患者には深部静脈血栓症と肺塞栓症のリスクがある。また、サリドマイドと類似した薬品なので、先天性欠損を引き起こす催奇形性の恐れに注意する必要がある(これまでのところ催奇形性は確認されていない)。

FDAの患者代表委員を務めた故ロバート・キャロール氏
FDAの患者代表委員を務めた故ロバート・キャロール氏

 マイナー氏は「ODACはレナリドミドを承認しない方向だったが、患者代表の発言で議論の流れが変わった」と指摘する。患者代表で、再生不良性貧血・骨髄異形成症候群国際財団(Aplastic Anemia & MDS International Foundation=AA&MDSIF)の会長であったロバート・キャロール氏(写真右)による発言(下の囲み記事参照)が、承認不可から承認へと委員会の結論を転換させる原動力となった。

 医薬品のリスク(危険性)はある。リスクだけに着目すると承認に否定的になる。しかし、現在の患者の置かれた状況に照らしあわせてリスクとベネフィット(利益)を見ると、バランスが変わってくる。難治性の病気で生活の質(QOL)の維持も難しい病気に対しては、医薬品の持つ一定のリスクは、疾病がそもそも持つリスクに比べて相対的に小さいと判断されることがありうるわけだ。

 賛否の投票で委員の意見は分かれたが、10対5でレナリミドは承認すべきと答申された。それに基づいて、2005年12月27日にFDAは承認を行った。安全性確保のため、登録された処方者と薬剤師のみが処方・販売する仕組みが条件となった。日本では今年4月28日に開催された厚生労働省の「未承認薬使用問題検討会議」で取り上げられ、「有効性、安全性を十分注意しながら開発を進めるように企業に要請する」ことになった。これも米国で承認されていたからこそである。

 キャロール氏は今年3月に亡くなった。マイナー氏は「リナリドミドの承認は、彼の残した遺産であるともいえる」と語る。

 FDAが患者コンサルタント制度を開始したのは、エイズ患者団体から強い要望があったためで、その起源は1989年にさかのぼる。次いで1993年に、FDAはがん領域担当の職員を2人置いた。そして、冒頭で見たように2001年度に制度が確立された。さらに、エイズやがんの領域での実績が評価され、今ではパーキンソン病や多発性硬化症や糖尿病などの分野でも、この仕組みが採用されるようになった。

ツアー一行はマイナー氏と記念写真(左から海辺陽子氏、山崎文昭氏、ジョアーン・マイナー氏、内田絵子氏)
ツアー一行はマイナー氏と記念写真(左から海辺陽子氏、山崎文昭氏、ジョアーン・マイナー氏、内田絵子氏)

 こうした説明を聞いた患者団体ツアー一行は、日本と比べて米国で患者の声を聞く制度が進んでいることに感銘を受けた。同時に、それが本当に機能するのか疑問もわいてくる。ツアーリーダーの山崎文昭氏(日本がん患者団体協議会理事長)は、「患者代表委員が入って委員会はスムーズに運営されるのか」と尋ねた。

 マイナー氏は、「当初はFDAスタッフや製薬企業のメンバーにはとまどいを感じる人もあったかも知れない。だが、患者委員が真剣な姿勢で、個人的見解でなく、患者の代表として振舞うのを見て、当初は不快感を示した人の気持ちも払拭された。うまくいっているからこそ、対象領域も広げている」と答えた。

 「癌と共に生きる会」事務局長の海辺陽子氏は、「患者委員の意見を聞くといっても建前だけにならないか。本当に意見が尊重されているのか」と質問した。

 これにはマイナー氏は、「他の委員の敬意を勝ち取り、意見も真剣に受け止められるようになるためには、患者委員がFDAの規則や医薬品承認のプロセスをよく勉強することが重要だ。また、最初から結論ありきで決まった主張を振り回すのは問題がある。あくまで、会議に提出されたデータを基に、それを検討するうえで、患者の視点から意見を述べることが求められている」と説明した。

 マイナー氏は、「FDAの患者コンサルタント制度が成功していることをぜひ日本に伝えてください。日本でも同様の仕組みを取り入れるきっかけになればうれしい」と、付け加えた。

 ワシントンDC滞在の2日間で、一行はロンバルディ包括がんセンター、米国がん研究所(NCI)、FDAを精力的に見学した。次はジョージア州アトランタに移動する。米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology=ASCO)の年次大会を見学し、その場で多くの米国患者団体とも交流する予定だ。

(埴岡 健一)

●患者代表、ロバート・キャロール氏の発言内容
 私はMDSで15年間生存しています。これまで700単位以上の輸血を受けました。毎週1単位の輸血をするのです。MDSの患者の輸血を不要にしたり減少させたりする医薬品は、救命効果があるといえます。
  輸血血液には鉄分がありますが、それが鉄過剰症をもたらします。臓器障害を引き起こさないよう、血中鉄分を下げることは、とても困難なことです。また、輸血依存の患者は抗体を作ってしまいます。そのため、適合血液を見つけることがどんどん難しくなります。そして、ついにはまったく適合する血液がなくなり、結果として死に至るのです。ですから、輸血を不要にしたり減少させたりする医薬品は、救命的なのです。
  生命を脅かす病気をもち、多くの場合に予後が2年から4年しかなく、毎週7〜8時間も病院で輸血のために費やすという状況にあるとき、6カ月あるいは1年の間、輸血が必要なくなるということは、単に生活の質を上げるというのでなく、それ以上のことを意味します。
  これまでのところ、骨髄移植が適合で成功するという例外を除いてMDSに根治法はありません。輸血に依存しなくていいようになることは、MDS患者にとって根治に次いでベストなことなのです。これまでMDSのためにFDAで承認され発売されている薬品はひとつだけで、それよりもこの薬品の治験の結果の方が輸血を減らすという点で有効だと考えます。

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