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レポート

2006/9/5

患者団体アメリカ訪問記 第9回 −がん診療改革のヒントを探して−

研究費配分に患者が参加するCARRA制度

 日本のがん患者団体一行の米国視察旅行に密着取材した。狙いは、米国から日本への教訓を得ること。今回は、米国がん研究所編の最終回。専門度が高い研究を市民が監視する「研究分野・消費者参加協力制度」(CARRA)について学ぶ。



ジェーン・ジェイコブズ氏は、患者メンバーへの研修を重視する。
患者メンバーへの研修の重視性を強調するジェーン・ジェイコブズ氏

 米国がん研究所(National Cancer Institute=NCI)は、2001年から「研究分野・消費者参加協力制度」(Consumer Advocates in Research and Related Activities)を開始した(下の表1)。通常、CARRA(キャラと発音)という略称で呼ばれている。前回、連載8で紹介した所長・消費者連携グループ(Director’s Consumer Liaison Group=DCLG)と同様に、NCIと社会の協調を進める仕掛けのひとつだ。

 CARRAの狙いは、米国がん研究所の活動を患者、消費者、市民一般の目で監視すること。しかも、対象は、臨床研究に関連した研究助成金の交付に関するピア・レビュー(同僚相互評価による審査)など、高度に専門的な案件が多い(ただし、基礎研究については現在、対象となっていない)。NCIは巨額の研究費を配分する強力な権限を付与されている。その分、しっかりとしたチェック機構が必要なのだ。

 CARRAのメンバーは、患者やその家族で、公募を経て選定される。現在、約200人が登録されている。がんの種類、居住地区、人種的背景などが偏らないように配慮されている。女性が3分の2を占める。任期は3年だ。多くのメンバーは患者団体に所属するが、CARRAには個人として参加する。CARRAメンバーは国立機関であるNCIの委員会などの正式メンバーになるので、公務員のロビイング禁止規定により、任期中は患者団体として連邦議会議員への陳情活動などをすることはできない。

 CARRAは一種のマッチング制度だ。すなわち、各委員会の事務局などから患者代表委員選定のリクエストがCARRA事務局に届く。事務局がメンバーリストの中から適任と思える人を選んで、参加依頼を行い、受諾されると成立するという流れだ。具体的な活動は、研究費配分審査の委員会が主だが、それだけにはとどまらない。下の表2にあるように施設訪問、冊子やウエブサイトの消費者の目でのチェックなど多岐にわたる。CARRA開発担当者のジェーン・ジェイコブズ氏(写真右上)は、「NCIのメンバーからは、患者メンバーの声は新しい視点をもたらせてくれて、大いに役に立つとの評価がある」と語る。

専門家と患者代表はうまくやっていけるか
 患者が専門家の中に入って、大いに活躍する機会を与えられているCARRA制度に、がん患者団体ツアー一行リーダーの山崎文昭氏(日本がん患者団体協議会理事長)は大きな関心を示した。同時に、その高邁とも言える趣旨のCARRAが本当に機能しているのか興味がある。山崎氏は「実際のところ、専門家と患者代表はうまくやっていけるのか。うまくいかないこともあるのではないか」と質問した。

 ジェイコブズ氏によると、問題は、「ピア・レビュー委員会の専門家メンバーたちが、患者代表をピア(同僚)として受容するか」だ。そこで、CARRAメンバーにはしっかりとした導入教育が行われる。NCIの概要はもちろん、ピア・レビューのプロセスへの理解を深めるための研修がある。また、メンバーには下の表3のような心得が開始前に周知される。特に強調されるのは、患者全体を代表する立場ということだ。自分の個人的体験、あるいは特定のがんの種類や治療法の観点から発言しないように釘を刺される。

 CARRAコーディネーターのブルック・ハミルトン氏(写真右下)は、CARRAを専門委員と患者委員の相互学習プロセスと捉える。「かつては、患者代表に冷淡な専門家もいた。患者代表で不適切な発言をする人もいた。だが、患者代表はピア・レビューという専門的な場での貢献の仕方を覚え、科学者は患者代表が参加することの重要性に気づいていく。私たち事務局の役割は、こうした両サイドの継続的な学習機会を提供していくこと」。

ブルック・ハミルトン氏は、「CARRAは相互学習の場」と説明する。
「CARRAは相互学習の場」と語るブルック・ハミルトン氏

 同行してツアーガイド役を果たしてくれた、「すい臓がん行動ネットワーク」(Pancreatic Cancer Action Network=PanCAN)の創設者であるポーラ・キム氏は、日本の患者団体に、「専門家集団に入ったときには、専門家の“コトバ”を覚えることが何よりも大切」とアドバイスする。コトバとは、用語や知識のみならず、様々な約束ごとや文化まで含む。

 いきなり激しい自己主張をしても、意見が聞かれない。ピア・レビューの仕組みや専門的内容を理解しなければ、敬意を払われないし、議論がかみ合わない。そうしたことに意識を払いマナーも守る。その上で患者の視点から、正々堂々と意見を述べる。キム氏は、「専門家の土俵を覚えて、その土俵の上に乗って自己主張をすること。そうすれば大きな貢献ができるし、患者全体のための成果も得られる」と語る。

 NCIは巨額の研究助成金を持っている。その源泉は税金だ。そして、NCIの研究助成金が1995年から10年ほどの間に急増したのは、患者団体による連邦政府への要望活動がその大きな要因だった。米国では、「患者団体が協力して集めた資金だから、患者団体が使途の決定にも参加することが当然」という意識が強い。また、研究資金の配分については透明性が未だ不十分との批判も少なくない。NCIはこうしたことを背景に、CARRAのような具体的な患者参画の仕組みを発展させてきた。

 日本では2006年度から、厚生労働省第3次対がん総合戦略研究事業の資金配分業務が、同省健康局総務課生活習慣病対策室から国立がんセンターへ移管され、国立がんセンターの資金配分力が大幅に強化された。税金の配分の中立性を増すため、政府から外部機関に移したものだが、国立がんセンターの資金配分業務の透明性を高めたり、CARRAのような仕組みを作ることは進んでいない。国立がんセンターに権限だけが集まり、チェック機構が強化されないというアンバランスが続いている。

 患者の声を受けて議員立法でがん対策基本法が6月に成立し来年4月から施行される。がん対策基本法ができたこともあって、2007年度のがん対策戦略費は、厚労省が政府に要望する概算要求の段階で、2006年度のほぼ2倍となった。今後とも国立がんセンターの資金配分力が増える可能性が大きいわけだが、だからこそ、日本でもそれと平行してCARRAのような仕組みの創設を考える必要があるだろう。

 次回は、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration=FDA)の医薬品審査における患者参加制度について、担当者から話を聞くこととしよう。

(埴岡 健一)


●表1 研究分野・消費者参加協力制度(CARRA)に関連した動き
活動内容
1996 連携活動室設置(Office of Liason Activities=OLA)設置
1997 所長・消費者連携グループ(Director’s Consumer Liaison Group=DCLG)スタート。翌年正式設置。
2000 研究分野・消費者参加協力ワークショップ実施
2001 研究分野・消費者参加協力制度(CARRA)メンバー募集
2002 CARRA初年度参加要請件数101件
2003 CARRA制度最終評価
2004 CARRAメンバー追加募集、CARRAピアレビュー研修実施、CARRA2期開始


●表2 研究分野・消費者参加協力制度(CARRA)メンバーの活動内容
ピア・レビュー
委員会委員
会議(単発)
施設訪問
13
226
55
ピア・レビュー以外
委員会委員
編集委員会
冊子開発
会議(単発)
がん種別成果進捗審査委員
研究ツール開発
ウエブサイトのチェック
ワークショップ参加
その他
37
4
54
17
6
2
21
18
15
合計  
468

*NCI事務局からの参加要請件数ベース。1活動は1メンバーとは限らない。また、1活動は1回とは限らない。


●表3 研究分野・消費者参加協力制度(CARRA)メンバーの心得
1 ピア・レビューの投票権を持つメンバーなので欠席しないこと
2 ピア・レビューのプロセスを理解すること
3 助成金応募申請書類をよく読むこと
4 申請書類に対する講評を書くこと
5 患者全体の視点から意見を示すこと
6 研究活動における人権保護に関する論点を理解すること
7 患者の視点と研究の成果の観点に力点をおくこと
8 特定の立場の利害関係者にならないこと
9 任期中も以後も守秘義務を守ること
10 率直な態度を心がけ、専門委員メンバーの自覚をもち、社交的であること
11 助成金審査事務局担当者とよくコミュニケーションすること

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