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レポート

2006/8/8

寄稿:世界のがん情報提供サービス事情(下)

いつでも相談できるコールセンターを日本にも

国立がんセンター 高山智子 氏


 世界各国で、患者や家族からの相談を電話などで受けるコールセンターが発達している。いずれも国や民間が共に取り組み、回答集の蓄積や相談員の育成・教育を進めている。コールセンター利用者の満足度は実に96%と高い。日本の“がん難民”を解消するためにも、日本にも大規模コールセンターの設置が望まれる。



 海外では多くの国で、電話で患者や家族などからの問い合わせに答えるコールセンターが従来から開設され、大きな役割を果たしていることを前回ご紹介した。今回は、それが実際にどのように運営されているかを見ていきたい。

 2006年4月初旬に、米国がん研究所(NCI)と米国がん協会(ACS)が運営するコールセンターを訪問する機会を得た。そのときの様子をご紹介しよう。

 NCIは全国4カ所にコールセンターを持つが、私たちが訪問したのはニューヨーク州ニューヨーク市にある、高名ながんセンターであるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター内に置かれているもの。提供時間は、毎週月曜日から金曜日までの朝9時から夕方4時半までだ。

米国がん研究所(NCI)コールセンターの電話応対の様子

写真1 米国がん研究所(NCI)コールセンターの電話応対の様子

 相談員は、1人ずつ低いパーティション(壁)で区切られた机をもつ(写真1)。ヘッドセット(頭に取り付けるヘッドフォンとマイク)を付け、2つの画面を持つパソコンを使って応答する。パソコンからイントラネット(内部ネットワーク)に入った多様な情報を参照する(写真2)。まず、NCIが作成しているPDQ(Physician Data Query:医師データ検索)などのがん関連コンテンツがある。これは一般にも公開されているが、相談員には、PDQのみならずNCIのホームページに掲載されている内容を熟知し、必要な情報をそこから見つけ出す能力が、まず求められる。

NCIコールセンターは内部ネットワークに膨大な資料を揃えてあり、相談員はそれを参考にして回答する
写真2 NCIコールセンターは内部ネットワークに膨大な資料を揃えてあり、相談員はそれを参考にして回答する

 また、電話応対用にPDQなどから作成されたファクトシート(要点をまとめた資料)が多数作られている。NCIのコールセンターは、第一にNCIが作成した情報を伝える機能を持っているわけだ。もちろん、扱うのはNCIが作成した情報だけではない。外部のACSなどが作成した資料も審査のうえ承認されたものは、利用資料集に入っている。

 米国がん協会(ACS)は全米2カ所にコールセンターを持つ。私たちは、主力センターであるテキサス州オースチン市にあるセンターを訪問した。広いオフィスに100席以上のブースが並んでおり(写真3)、多くの相談員が整然と問合せに応じていた(写真4)。シフト体制を組んで、365日24時間のサービスを提供している。NCIでは利用者の履歴を取らないが、ACSでは利用者の記録を残し(写真5)、再度、問合せがあったときに過去のデータを参照する。

米国がん協会(ACS)コールセンターの風景
写真3 米国がん協会(ACS)コールセンターの風景

 ACSでは、がんの治療や臨床試験に関する情報については、NCIが作成したPDQなどの情報をもとにデータベースが作成されているが、基本的には独自に作成した回答用の情報源のデータベースを利用していた。一方、各地の情報(どこにどのような専門家がいるのかなど)は、全国に3400の支部をもつACSが非常に充実したデータベースを持ち、NCIのコールセンターではACSが作った資料が使われ、ACSへの照会も行われている。

 NCIは、90人の相談員が年間約30万件の電話に応対し、ACSでは、約250人の相談員が年間120万件の問い合わせに答えている。このように、NCIとACSが連携し、膨大な相談ニーズに対応していた。


コールセンター利用者の満足度は96%
ACSコールセンターの相談員
写真4 ACSコールセンターの相談員

  コールセンターに寄せられる質問や相談は、多岐にわたる。7月9日〜12日にワシントンDCで開催された「世界がん会議(World Cancer Congress)」では、コールセンターに関する多数の発表がなされた。

 カナダがん協会の発表によると、質問・相談内容は、「マンモグラフィはいつ受けたらいいのか」「肺がんにかかったかどうかは、どうしたらわかるのか」「発汗抑制剤を使うと乳がんになるのか」「大腸がんの臨床試験には、どのように参加できるのか」など、まさに多様である。これらを分類すると、「支持療法と精神的な悩み」が約75%で最も多く、それに「治療に関する情報」「病理や病期について」といった分野が続く。

ACSの利用者記録画面
写真5 ACSの利用者記録画面

 では、こうしたコールセンターは果たして患者や家族の利用者に役に立っているのだろうか。その一端を物語る興味深いデータがある。2004年に米国、カナダ、ドイツが共同で行った、コールセンター利用者を対象に、提供されるがん関連情報サービスに対する満足度を尋ねたものだ。

 回答者のうち「サービスに満足した」が96%、「自分の求めているニーズの多くまたはすべてが満たされた」が88%、「もう一度利用したい。友人や家族にすすめる」が97%と、いずれも利用者の高い評価を得ていた。利用者の悩みが深く、情報への希求感が強いだけに、しっかりとした体制をとって丁寧な対応を心がければ、このように100%近く満足度を得られるわけだ。

 コールセンターは満足感を与えるだけでなく、患者や家族の意識や行動の変容ももたらすことができるとの考えが、世界各国のコールセンターや、がん情報提供サービスや研究に取り組む人々の間で広まっている。コールセンターが表1のような効果を生むということが、通説になりつつあるのだ。


表1 コールセンターが利用者にもたらす効果
医師や身近な人と話しやすくなる
・地域のサービスを見つけられる
・がんになったことで生じる症状や生活上の問題などにうまく対処できるようになる
・意思決定できるようになる
・予防行動をとりやすくなる

 オーストラリアのビクトリア州にあるビクトリアがん協議会の幹部であるデイビッド・ヒル氏の研究によると、コールセンターに電話をすることが、「がんの宣告を受けたときに起こりやすい精神的な抑うつ状態などの有病率を下げる」と示唆される。インターネットの普及で、多くの情報がネット上に存在するといっても、そこから必要な情報を探し出すのは時間や手間がかかりストレスにもなる。一方で、コールセンターは生身の相談員がソフトでハイタッチなコミュニケーションをするため、問題解決に至る可能性が高い上に、利用者が精神的な問題を乗り越えて行動できるようになることを助けているというわけだ。

 コールセンター成功の決め手として、先にみたNCIやACSのコールセンターのように回答用のデータベースが蓄積・構築されていることが、まず欠かせない。もうひとつが、相談員の教育と育成だ。海外では相談員は、誇りと敬意を表す意味もあってか情報専門家(Information Specialist)と呼ばれる。

 どんな人が相談員になるのだろうか。コールセンターによって、看護師、ソーシャル・ワーカー、栄養士などの医療経験者を活用することを重視するところと、臨床現場の経験を持たず、社会経験も浅い人を内部で育成することを主流としているところがある。例えばNCIは前者で、ACSは後者である。医療分野のバックグラウンドがなくても、トレーニングを受けることで、一通りの相談、質問には対応できるようになるそうだ。

 相談員の一般的な教育研修課程は、がんの基礎知識、情報の探し方、コミュニケーション・スキルなど。応対の質を保証するために、6〜8週間程度の初期教育と定期的な継続教育が行われている。情報専門家の資質として重要なことは、利用者に共感をもって対応するスキル、利用者の混乱した話の内容を整理する力、複数の作業(電話で話しながら、相談内容を整理し、必要な情報を検索し、やり取りを記録する)を効率的に同時平行にこなせる能力――などだ。


相談員の役割は患者・医療者関係のサポート
 相談員の役割は何か、どんな姿が良い相談員なのか、もう少し突っ込んで考えてみよう。相談員は、医学的な情報や、生活上の問題解決法や、どこでどんなサービスを受けられるかといった社会資源の情報を提供してくれる。この際、証拠に基づいた情報や、信頼のおける情報源からのデータであることが重要な基本とされている。

 個人的に知っている情報を伝えたり、特定の医師や治療法を推奨することをしてはいけない。患者の悩みを解消したいからといって、気休めや不確実なことを伝えるのは、最も好ましくないこととされている。「残念ながらそういった情報はありません」と答えることも必要なのだ。こうしたことは電話による回答に限らず、メールなどで相談に応じる場合も同じだ。

 患者・家族の利用者だけではなく、医療従事者からもコールセンターの情報が信頼されることが大切だ。「世界がん会議」で開催された「国際がん情報サービスグループ(ICISG)」によるワークショップでは、カナダの医師を対象とした調査で、医師が望む相談員の資質として「信頼できる、正確な情報を伝えられること」を挙げていた。

 そうであってこそ、コールセンターが患者と医療者とのコミュニケーションの促進もできる。相談員の大きな役割のひとつは、両者のコミュニケーションを円滑にすることのサポートなのだ。各国の長年の経験から、ICISGは、コールセンターなどのがん情報サービスの重要点を「5つの基準」(表2)としてまとめている。


表2 国際がん情報サービスグループ(ICISG)が定める
「がん情報サービスを提供する組織に求められる5つの基準」
がん情報サービスを提供する組織は、
 1. サービス利用者のニーズ、価値観、文化に敏感であり、それを尊重すること。
 2. サービス利用者が、自分たちが受けるケアに関して情報提供を受けたうえで選択(意思決定)をする権利があることを尊重すること。
 3. すべての人々に対して質の高いサービス提供を普及、促進させ、維持すること。
 4. 個人の秘密を守り、匿名のサービスを提供すること。
 5. 患者・医師・医療者の関係を尊重し、サポートすること。

日本にも必要不可欠なコールセンター
 これまで、主な国のコールセンターの内容と、世界のコールセンターが目指している方向を概観してきた。ひるがえって日本を見ると、日本対がん協会が実施している「がん相談ホットライン」など小規模なものはあるが、まだコールセンターに該当するようなものはない。既存の電話相談では患者・家族のニーズのごく一部しか満たせていないと考えられる。世界で国際標準となっているコールセンターによる患者・家族への情報案内を、日本でもできるだけ早く開始しなければならない。

 日本に必要な規模はどの程度か推定してみよう。米国では2つの主要なコールセンターの相談件数の合計は年間約150万件である。米国並みの相談需要があると仮定し、日米の人口比率で調整すると、日本の予想件数は年間約70万件となる。一方、すでに10年の歴史を持つカナダのコールセンターの相談量は年間7万件だ。日本の人口はカナダの4倍あるから日本に引き当てた相談件数は約30万件となる。70万件と30万件の中間をとって、50万件をひとまず日本の需要予測の目安と考えよう。

 では、その運営費用はどの程度になるのだろうか。これもごくラフな推定をしよう。年間28万件の対応をしている米国がん研究所における費用は800万ドル(約9億円)である。ここから計算すると約16億円(9億円×50万件/28万件)となる。日本国民1人当たり12円。患者1人当たりなら、日本でがんを治療している患者は300万人程度と推定されるから、500円余りとなる。

 一方、32兆円の国民医療費のうちがんに費やされているのは3兆円弱だ。こうした視点からみると、50万件の相談に96%の満足度をもたらすと想定されるコールセンターを設置することは、わずかなお金で国民のために十分に支出するに値するものと考えられないだろうか。

 先進国であるにも関わらず、患者の疑問や悩みがこれほど放置されている国は日本だけではないか――。ワシントンDCの国際会議に出て、各国の積極的な取り組みを目の当たりにみた筆者は一種の危機感を覚えざるを得なかった。日本で海外のコールセンターの活動についての知識が高まり、日本におけるコールセンターのあり方に関する議論が進むことを、切に望みたい。


寄稿:世界のがん情報提供サービス事情(上)

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