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レポート

2006/8/1

患者団体アメリカ訪問記 第6回 −がん診療改革のヒントを探して−

米国の「がん情報センター」の中枢を知る

 5月30日から6月4日まで、日本のがん患者団体の一行3人が米国を旅行した。狙いは、米国から日本への教訓を得ること。今回は、米国がん研究所(NCI)がどのような「がん情報サービス」を提供しているかを見て、日本で今年10月に国立がんセンターに開設される「がん対策情報センター」の内容を考えるうえでの参考にする。


リチャード・マンロー氏
米国がん研究所でがん情報サービスのコンテンツ制作の責任者であるリチャード・マンロー氏

 米国がん研究所(NCI)のホームページには膨大ながんに関するコンテンツが詰まっている。その中核となるのが、PDQ(Physician Data Query=医師データ検索)と呼ばれる有名なデータベースだ。月間60万件を上回る閲覧(ページビュー)がある。

 NCIのPDQコンテンツ制作の責任者リチャード・マンロー氏(写真)が、その概要を解説してくれた。PDQでは、各解説を「患者向け」と「医療従事者向け」の2つのレベルで記述するという配慮がなされている。患者はやさしく書かれた患者向けを読むことができるし、医療従事者向けにチャレンジしてもいい。医療従事者向けでは記述が詳しい上に参考文献もついている。実際、医療従事者向けを読んだうえで医師に質問する患者も少なくない。現在、PDQには患者向け情報が156本、医療従事者向け情報が174本ある。

 こうしたPDQの情報のかなりの部分が、医師向け情報も含めて、日本の「がん情報サイト」において日本語で読めるようになっている。このサイトの主な資金源は文部科学省とメーカーなどからの寄付。がん患者団体である「日本がん患者団体協議会(JCPC)」も立ち上げ初期に、このための募金集めをした。マンロー氏がPDQ日本語版の説明をした際に、今回の患者ツアー団長であるJCPC理事長の山崎文昭氏がそのことを披露すると、マンロー氏は感激していた。

 PDQをもう少し深く見てみよう。その「がん関連情報コーナー」は、治療法、支持療法、検診、予防、遺伝学、補完・代替療法の6つの分野に分かれている。治療法に関しては、疾病別に肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がんなどの解説が100本以上ある。支持療法についても、吐き気、不安、落ち込み、疲労感などへの対処法が多数用意されている。

 検診分野では、検診一般の考え方の他に15種類のがん検診についてメリット・デメリットなどがエビデンス(科学的証拠)に基づいて記述されている。予防についても同様に、全体論とがん別の各論13本がある。

 遺伝学に関しては、がんのリスクファクター(がんになりやすい原因)やがんの治療成績と遺伝子変異との関係などが、総論とがん別各論5種類に分けて掲載されている。補完・代替療法のセクションでは、鍼(はり)療法、アロマセラピー(芳香療法)、さめ軟骨、コエンザイムなど15のテーマについて、科学的アプローチでその効用の有無や臨床試験の進行状況などが解説されている。
 
  PDQは、こうした6分野のがん情報サービスだけではない。もうひとつの大きな柱が、臨床試験情報だ。約3000本の進行中の臨床試験のデータベースがあり、がん種別、試験タイプ別、実施機関の地域別に検索することができる。

 データベースに掲載されている臨床試験のうち3割は、米国外(日本を含む69カ国)で実施されているものだ。連載4で、ロンバルディ包括がんセンターの電話相談窓口「キャンサー・ライン」のジェーン・ハンナ氏が、相談者のためにブルガリアで実施されている臨床試験を発見したというトピックを紹介したのをご記憶だろうか。あのときハンナ氏が使ったのがこの検索サイトだ。このサイトでは、実に月間約15万件の検索が行われている。

 また、約1万5000本の終了済臨床試験のデータもある。うち4500本については結果が発表された論文へのリンクがある。日本語のがん情報サイトでも、PDQの臨床試験情報を日本語のキーワードで検索することが可能となっている。ただし、臨床試験名までは日本語だが、それぞれの内容説明は英語だ。

 PDQにあるがん種別治療法解説は、一種のがん診療ガイドラインのような位置付けとなり、米国のみならず世界各国に対し、標準治療の決定に関して大きな影響を与えている。作成の仕方も体系的に整備されている。分野ごとに編集委員会が設置されており、現在の委員は約100人。無給である。一方、約20人の事務局では医学文献を常時ウォッチして、随時、新しい情報を編集委員に送付する。そして、年に4〜8回の編集委員会が開催される。

 こうしたNCIのがん情報サービスは、1971年の米国対がん法の「世界中のがん研究者のために国際がん研究データバンクを収集し・分析し・広める」という条項と、96年の公衆衛生サービス法の「医師と一般にがんの疾病別治療に関する最上の情報を提供する」「がん治療に関する研究の結果を一般が入手できるように普及させる」という表現に基づいて実施されている。裏づけとなる根拠法もあるのだ。


PDQと日本の国立がんセンターを比べてみる
 日米のがん情報の提供の仕方をNCIと国立がんセンターとで比較すると、格段の差がある。PDQのがん種別解説は、患者向けと医療従事者向けがそれぞれ100本以上あるが、日本の国立がんセンターでは、患者向け62種類、医療従事者向け8種類に過ぎない。

 また、その内容のレベルも大きく異なる。例えば、国立がんセンターの医療従事者向け情報でもっともよく読まれている急性骨髄性白血病の解説と、PDQのそれ(日本語版)を比べてみよう。いずれも印刷をすると30ページ程度だが、異なるのは記述スタイルだ。NCIでは治療方針の解説の随所に、その方針の根拠となる研究の“証拠レベル”が記載されている。また、がん治療の進歩が著しいためNCIのものは高頻度で改訂がなされる。この項目のNCI版の更新日は2006年4月6日だが、国立がんセンターのものは2004年12月1日から更新されていない。

 ところが、国立がんセンターにはこれまで、がんに関する情報のコンテンツを制作する専任者がおらず、編集委員会も確立してなく、国立がんセンター内の医師が手分けして執筆している状況だった。コンテンツ制作と情報提供にもっと力を入れていれば、これほどの日米格差は付かなかったはずだが、こうした活動は優先度が低いこととして扱われてきた。

 PDQの日本語訳が既に存在するので、国立がんセンターのがんに関する解説の内容の弱さが浮き彫りになっている。一方、PDQで標準的治療に位置づけられている薬品が日本では未承認であることもあり、PDQの内容がそのまま日本の現状にそぐわない場合もある。また、国立がんセンターのホームページからPDQ日本語版へのリンクがないため、国立がんセンターのホームページに情報を探しにきた人に十分な情報提供がなされていないという状況も続いている。

 今年10月、国立がんセンターは「がん対策情報センター」を開設する。ここで中核コンテンツとなるがん種別治療法解説をどのように構築するのだろうか。これまでのスローペースの延長線上では、同センターに課せられた使命とがん患者からの高まる期待に到底応えられない。

 マンロー氏は「NCIのPDQは多くの国で国民への情報サービスとして利用されている。その国の環境や実情に応じた一部修正や注記も可能だ。NCIは独占翻訳契約をしていないので、がん情報サイトの日本語版以外にも翻訳ライセンスを供与することは可能。すでに日本語訳があるので、新たに翻訳しなおすのは重複作業だから、連携関係を作るのもいいのではないか」と語る。

 これを聞いたがん患者団体一行は、国立がんセンターが柔軟にスピーディーに患者が本当に望む情報を豊かに構築することを望んだ。国立がんセンターが10月までにどのようなコンテンツを完成させるのかが注目される。

(埴岡 健一)

〔参考サイト〕
米国がん研究所NCI 医師データ検索(PDQ)
同 臨床試験検索入り口
がん情報サイト(NCIのPDFの日本語訳)
国立がんセンター(日本)

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