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レポート

2006/7/25

患者団体アメリカ訪問記 第5回 −がん診療改革のヒントを探して−

世界のがん研究をリードする米国がん研究所

 5月30日から6月4日まで、日本のがん患者団体の一行3人が米国を旅行した。狙いは、米国から日本への教訓を得ること。今回は、世界のがん対策の中心とも言える、米国がん研究所(NCI)を訪問する。


NCIトップのジョン・ニーダーフーバー氏と記念撮影
NCIトップのジョン・ニーダーフーバー氏と記念撮影

 ワシントンDCの中心部から車で約30分、メリーランド州ベセスダという町に米国の国立機関である「米国がん研究所」(National Cancer Institute=NCI)の本部はある。NCIは、日本の厚生労働省に当たる米保健福祉省(Health and Human Services=HHS)の一部である米国衛生研究所(National Institute of Health=NIH)の、さらにその1部門に過ぎないが、年間5000億円の予算と6000人の人員を擁する巨大組織。自ら抗がん剤の開発を実施する一方、5000あまりにおよぶ研究助成も行う。海外からの研修生受け入れや海外への研究助成も行い、まさに世界のがん研究のメッカといえる。

 幸運なことに、新たに就任したばかりのNCI所長、ジョン・ニーダーフーバー氏(写真右下)に会うことができた。ニーダーフーバー氏は、がん研究に力を入れてきた外科医だ。ミシガン大学、ジョンズ・ホプキンズ大学(メリーランド州)、ウィスコンシン大学などを経てNIH入りしたという経歴を持つ。

「患者団体のロビイングは重要」と語るニーダーフーバー氏
「患者団体のロビイングは重要」と語るニーダーフーバー氏

 ニーダーフーバー氏は、「NCIはNIHの17部門のうち最大の組織だ。予算の85%は、外部研究と呼ぶ他の研究所や各地のがんセンターにいる研究者への資金援助などで、NCIはがん研究全体の活性化を使命とする。もちろん内部にも、世界中から優れた研究者が集まっている。NCIにとって教育も大切な機能で、世界中から若い優秀な研修生がやってきている」と語る。その言葉には世界のがん研究を牽引している自信があふれている。

 NCIは、抗がん剤の基礎研究や前臨床研究、臨床研究にも力を入れている。「100種類の新たな抗がん剤があるとしたら、そのうち何種類に関与しているか」と尋ねたら、「多かれ少なかれ、すべてに何らかの関与をしている」との返事が戻ってきた。

 ニーダーフーバー氏は、がん撲滅のためにがん患者団体の役割が大きいとの認識を持っている。「がんを経験した人が、がん対策のために声をあげて支援をすることが、米国では大変重要視されている。みなさんの活動は尊い」。患者団体によってその活動の力点は、相互の癒し、情報交換、提言活動などさまざまだが、政策的な要望活動(ロビイング)も大切な要素だ。患者団体のロビイング活動を、米国ではしばしばペイシェント・アドボカシーと呼ぶ。

 同行してツアーガイド役を果たしてくれた、すい臓がん患者団体「すい臓がん行動ネットワーク(Pancreatic Cancer Action Network=PanCAN)」の創設者であるポーラ・キム氏は、米国の患者団体のロビイング事情に詳しい。「NCIは議会からの質問に答えることはできるが、自分から要望活動はできない。代わって患者団体に声を上げてもらうのだ」と解説してくれる。

 キム氏によると、米国には「丘の上に水を運ぶ」という表現がある。丘というのは米国の連邦議会があるキャピトル・ヒル。水というのはロビイングによって届く患者の声。水を運ぶような地道な作業を繰り返すことで、議会を動かすことができて、お金(連邦政府の予算)が引き出されるというわけだ。


患者団体にがん関連政策の動向を情報提供、ロビイングを触発
 日本では「がん対策基本法」が今年6月に成立した。一方の米国は、35年も前の1971年に「米国がん法」を成立させている。さらにその後、米国は表のようにたくさんの追加的な法律を加えてきた。日本では地域医療計画が来年度から本格的に始まるので、都道府県ごとのがん対策プランも策定されているところだが、米国ではもともと州の独立性が高いので、州ごとに州法によってもがん対策に関する多くの方針が規定されている。

 こうした背景もあって、NCIには政策分析対応室(Office of Policy Analysis and Response)がある。ここでは、連邦政府議会や各州の議会をウォッチしている。既存のがん関連法のデータベースを持ち、現在審議中の法案を掌握し、問題点や課題を分析し、NCIの主張や立場を決める参考にする。がん関連法(法案)のデータベースは、ウエブサイトから一般の人も閲覧することができる。

NCI政策分析対応室のスーザン・エリクソン氏
NCI政策分析対応室のスーザン・エリクソン氏

 政策分析対応室の仕事の幅は広い。同室のスーザン・エリクソン氏(写真右)は、「議会、NCI内部、患者ロビイング団体と、対象は3者ある」と説明する。議会からの資料請求に応え、議会にNCIのニーズが理解されるような資料を提出する。NCI内部に対しては、がん政策の動向からNCIが置かれている環境を理解させ、同時にNCI内部から必要な情報やデータを集める。がん患者ロビイング団体に向けては、がん関連法案、がん関連政策の現状とNCIの主張をPRする。――そんな具合だ。

 「NCIは議会から質問があれば答えられるが、こちらから出かけて行ってカネをくれといった自己主張をすることはできない。患者団体などの利害団体が言ってくれる」とエリクソン氏は語る。NCIには、別途、がん患者団体とのコミュニケーションをする窓口である所長顧客連携室(Director’s Consumer Liaison Group)もある。米国のがん患者団体は、政策分析対応室がウエブで提供している情報によって法案を知ることができ、所長顧客連携室からNCIの状況に関する情報を得て、ペイシェント・アドボカシー活動の参考にする。つまり、丘に水を運んでくれる患者団体への情報提供を行っているわけだ。

 日本の国立がんセンターには、こうした政策分析対応室に当たる部署はない。また、所長連携活動室のような患者団体との交流の仕組みもない。日本ではがん対策基本法が成立し、がん患者メンバーなどを含む「がん対策推進協議会」も設置されることになった。日本の国立がんセンターも、こうした機能を持つことを考慮すべき時機になったと言えるだろう。

                                (埴岡 健一)

表 米国のがん対策関連法の歴史
西暦
事 象
1971
米国がん法(National Cancer Act)を制定(ニクソン大統領が1971年の一般教書演説で「がんの治療法を発見するための集中キャンペーン」を提唱) (がん戦争宣言)
米国がん研究所は大統領直轄、大統領がん委員会、全米がん諮問委員会を設置
1974
基礎研究施設への研究費補助を規定
1978
がんセンター機能に基礎研究と予防を追加
1985
NCIの役割に患者と家族の継続的ケア追加
1988
NCIの役割にリハビリテーション研究を追加
1990
乳がん・子宮がん死亡予防法成立
1992
マンモグラフィ品質標準化法成立、がん登録修正法成立
1993
女性のがんと前立腺がんに対しNIHの対策強化を規定
1997
乳がん・子宮がん検診への経済的援助を規定、NIHが乳がん検診のガイドライン見直しを継続検討、タバコ削減法案(不成立)
1998
マンモグラフィ品質標準化再認定法成立
1999
患者の権利追加法、乳がん・子宮がん治療法案提出
2002
がん対策法の大幅改訂議論

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