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レポート

2006/7/18

患者団体アメリカ訪問記 第4回 −がん診療改革のヒントを探して−

患者のためのナビゲーターへの模索続く

 5月30日から6月4日まで、日本のがん患者団体の一行3人が米国を旅行した。狙いは、米国から日本への教訓を得ること。今回は、ナースが患者を電話でナビゲートする「キャンサーライン」をご紹介する。


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電話窓口担当のジェーン・ハンナ氏

 ロンバルディ包括がんセンター(以下、ロンバルディ)は、ロンバルディを受診していない患者のために、「キャンサーライン」という電話による患者相談窓口を持っている。無料である。患者からの相談の内容は幅広く、自分のがんに関する基礎知識、治療法、病院選択、治療選択、治験の選択、不安感などへの心理的な対処、家族の問題、経済的側面など様々だ。

 窓口担当のジェーン・ハンナ氏(写真右)はがん専門看護師で、米国で最も高名ながんセンターであるM.D.アンダーソンがんセンターなどで、がん患者のケアに25年の経験がある。ハンナ氏は自分の業務を次のように説明する。

  「私は情報のナビゲーター。看護師であるし、この領域で様々な経験を積んできたので、患者さんが何から調べて誰から会うべきかについて順番を知っている。また、患者さんの病歴をゆっくりと聞きだして、頭の整理をさせてあげる。そして、私が知っている情報やロンバルディの中のソーシャルワーカーなどのスタッフと結び付ける」。


ウエブ上のコンテンツが患者をサポート

 とはいえ、ハンナ氏個人の知識や情報には限りがある。そこで、しばしば、米国がん研究所(NCI)のがん情報サービスや、米国がん協会(ACS)のサイトにある資料がん経験者オンライン(Cancer Survivors On Line)といった、ウエブに掲載されている情報を参考にして説明する。また、こうした情報のありかを患者に教えることも多い。

 「心のケアより先にまず信頼できる正確な情報を与えることが大切――と看護学の研究においても言われています」とハンナ氏。公的機関、財団、支援団体などが作成する情報コンテンツが仕事を支えてくれるのだ。これは、ロンバルディ内の患者に、看護師やソーシャルワーカーが、NCIなどが作った冊子などを活用して対処しているのと同じである。

 ハンナ氏は、実際の相談の様子を次のように語る。「臨床試験を探したいという人のために、1時間とか1時間半かけて説明することもザラ。電話の向こうのパソコンをネットにつないでもらい、こちらも同じ画面を見ながら、手取り足取り教える。この電話相談は、一種の患者教育装置だと思う。海外からの相談もある。先日は、ブルガリアに親戚がいる人からブルガリアの臨床試験を調べてほしいという依頼があって、NCIのウエブサイトで検索して見つけることができた」。

 ロンバルディのキャンサーラインは、包括がんセンターが地域の普及啓発を要件としていることもあって、ロンバルディにかかっていない患者や家族を対象にしている。だが、相談に乗った患者が結果的にロンバルディを受診することも多いため、ロンバルディとしては結果的に患者リクルートの装置にもなっている。


ナビゲーターはまだ不十分

  ここまで、3回にわたってロンバルディが提供している各種の患者サービスを概観してきた。その他にも、見学する機会がなかったサービスは多くある。一般に、米国のがんセンターの患者は、図のような多様なサービスに取り囲まれている。患者をサポートする職種の種類が多いし人数も多い。提供している情報の幅も広く質も高く量も多い。そして、看護師やソーシャルワーカーがナビゲート役を果たそうとしている。

がん患者をとりまくサポートと情報サービス(概念図)

 海辺陽子氏は、「日本の患者さんはどうしても病人っぽくなる。ここでは、病院内が明るく、患者さんの表情も明るいことが印象的だった。それは、そうなれる環境が提供されているからだろう」と、ロンバルディを駆け足で回った感想を語った。

 ロンバルディの血液腫瘍科長兼腫瘍科長で臨床研究副部長のジョン・マーシャル氏は、次のように解説する。「がんという病気への医療は診療時間だけで完結するものではない。時間をかけていろんな相談に乗る必要がある。一方で、医師はたくさんの患者を診るプレッシャーもある。だから、看護師などがチームとなって患者の感情や家族のことに対処をする。医療スタッフが重複しながら患者をカバーしている」

臨床腫瘍内科医であるジョン・マーシャル氏の説明を熱心に聞く患者団体一行
臨床腫瘍内科医であるジョン・マーシャル氏の説明を熱心に聞く患者団体一行

 また、「患者の抱えている問題を解決するには、内部の資源だけでは限界がある。そこで、インターネット上のさまざまな情報を活用する。さらには、医薬品メーカーのスポンサーを得て患者の自己学習用のDVDを作るなどもしている」と工夫の必要性を指摘する。

 日本から見ればうらやましいような状況。だが、JCPCの山崎文昭氏が、「米国の患者はこうした患者サービスにさぞ満足しているのでしょうね」と尋ねると、マーシャル氏から意外な答えが返ってきた。「米国の患者は先端の医療が受けられるチャンスがあるという意味で世界一恵まれている。例えて言えば、高級ショッピングセンターでいつもぜいたく品を買うことに慣れている。でも、決して自分が恵まれていることに気づいたり、買い物に満足したりすることはないんだ」。

 マーシャル氏が患者支援に消極的というわけでは決してない。臨床研究副部長としてこれまで100本以上の臨床試験の主任研究者を務めたマーシャル氏は、ロンバルディが提供するものだけでなく、広く臨床試験に詳しい。患者からの、臨床試験に参加すべきか、どの臨床試験に参加すべきか、臨床試験を受けるために病院を転院すべきか、といった相談に乗ることも多い。しかし、患者がインターネットからたくさんの種類の臨床試験の資料をプリントアウトして持参して長時間かけて相談に乗るときには、疑問を禁じえないこともある。

 「ネット検索が患者に選択肢を与えるのはいいことだ。しかし、ワシントンDCの患者にとってカリフォルニア州でしかやっていない臨床試験を発見することは、ときに苦悩を与える。また、患者はたくさんの臨床試験リストを持って相談に来るが、臨床試験には厳格な患者適格性基準がある。ほとんどのものは、そもそも患者が参加する条件を満たしていない臨床試験ということになる。そこまで患者が理解するのは難しいし、多くの場合、患者が落胆することにもなる。患者さんが持ってきた紙の束を前に、そうしたことを一つひとつ噛み砕いて説明するのは根気のいることだ」。

 米国では患者に多くの情報が提供されている。だが、そうした情報も患者にとって、十分に活用し易いものとはなっていない。自分に必要な情報に行き当たるのは難しいし、ワンストップ(一カ所ですべて解決する)となっていないのも事実だ。

 日本では、これから患者サポートの職種を増やすことが望まれているし、国立がんセンターが10月に設置する「がん対策情報センター」などでは、提供する情報の種類、質、量を格段に高めることが求められている。これは後戻りできないし、促進しなければならないことだろう。しかし米国の苦労を見ていると、それと同時平行に、患者のための情報ナビゲート役を全国的に育成・配置することがとても重要なことが分かる。

(埴岡 健一)

 

〔参考サイト〕
ロンバルディ包括がんセンター 電話相談窓口「キャンサーライン」
米国がん研究所(NCI)の臨床試験検索ページ
同:ブルガリアで実施されている臨床試験の検索結果

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