もっと知る腎がん

「もっと知る腎がん」診療動向調査

腎がん診療に関する全国調査2014の読み方

 日経BP社では、患者さんの受診ガイドの一助として、腎がん診療に関する全国調査を行いました(調査期間は2014年6月〜10月)。調査対象は、泌尿器科専門医が在籍されている医療機関です。全国1229施設を対象に郵送による記入式のアンケート調査を実施し、372施設から回答を得ました。

 ご協力いただきました医療機関の皆様には、膨大なアンケートに快くご回答いただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

 本調査の質問項目については2013年の1年間について聞いています。なお、あくまでこの調査はアンケート方式により回答をいただいた施設の結果をまとめているもので、日本全体の腎がん患者数などの数値がまとまっているものではありません。



 372施設において、腎細胞がん診療にあたっている医師は合計1876人でした。また日本泌尿器科内視鏡学会の泌尿器腹腔鏡技術認定医がいると回答したのは238施設(64.0%)です。回答した372施設において、2013年1月から12月末までの1年間に診た新規腎細胞がん患者数は合計9012人でした。

 腎がん治療における第一選択は、外科的切除術です。腎がんの外科的切除術の術式は大きく分けて2つあり、がんがある腎臓を副腎、周囲脂肪織を含めて全て取り除く「根治的腎摘除術」と、腎がんがある部分だけを取り除く「腎部分切除術(腎機能温存手術)」です。どちらの術式を選択するかは、腫瘍の大きさや位置、対側の腎機能などを考慮して決定します。

 がんが比較的小さく、腫瘍が腎臓の外側に飛び出すように存在している場合は、術後の腎機能を保持する観点から、通常がんのある部分だけを切除する腎部分切除術(腎機能温存手術)が選択されます。一方、対側腎機能が大きな問題がなく、腫瘍が4cm以上と比較的大きい場合、もしくは腫瘍が比較的小さくても腎臓内に埋没しているような場合には、通常安全性の観点から腫瘍のある腎臓を全て取り除く根治的腎摘除術が選択されます。

 腎がんの根治的腎摘除術の実施体制が整っていると回答した施設は354施設(95.2%)、腎部分切除術については330施設(88.7%)でした。2013年の1年間の手術件数は、根治的腎摘除術が4932人、腎部分切除術が2856人です。

5〜8割の施設が腹腔鏡による手術体制を整備
 手術方法では、腹部を大きく切開する術式(開放手術)と、腹部に内視鏡と操作器具を挿入して行う術式(腹腔鏡手術)の2つがあります。

 腹腔鏡手術は、従来法の開放手術と比べて、手術による傷が小さく、術後の回復が早いという特徴があり、近年では、腹腔鏡手術件数が増加傾向にあります。

 一般に、腹腔鏡下根治的腎摘除術は腫瘍の大きさにかかわらず選択可能ですが、腫瘍塞栓を伴う場合や周囲臓器に浸潤があるような場合は、安全性を担保するため開放手術が推奨されます。腫瘍が比較的小さい場合は腹腔鏡下腎部分切除術が選択可能ですが、腫瘍が腎臓に埋没しているようなタイプで、腎機能温存を目指す場合、通常は開放腎部分切除術が選択されます。

 腹腔鏡による根治的腎摘除術の実施体制が整っていると回答した施設は291施設(78.2%)、腹腔鏡による腎部分切除術については208施設(55.9%)でした。また、2013年の新規手術患者数は、腹腔鏡下根治的腎摘除術が3052人、腹腔鏡下腎部分切除術が1359人です。

 日本では、腎摘除術後のフォローアップ体制が充実しているため、転移巣が早期に発見されるケースが多いと言われています。また、診断時にすでに転移があるような場合でも、原発巣(原発腎)を摘除した方が予後が良好であることが示されています。また日本では術後、転移巣を早期に発見するケースが多く、転移があっても原発巣(原発腎)の摘除を行うという治療方針が普及しているため、海外と比べて転移性腎がん患者の予後が良いといわれています。転移巣を外科的切除することが有効かという点については、患者の身体状態が良く、切除可能な場合は外科的切除が推奨されています。
 
 転移のある患者に対し、転移巣切除術を実施する体制が整っていると回答した施設は217施設(58.3%)で、2013年に転移巣切除術を行った新規患者数は267人でした。

ロボット支援の腎部分切除術で治療した患者は149人
 患者の身体的負担が少ない新しい治療法として注目されるのが凍結療法です。MRI画像をもとに体の外から、もしくは内視鏡下で腎がん部位に針を刺し、がんの塊を凍結させてがん細胞を殺します。凍結療法は、日本においては2011年に小径腎がんに対する治療法のひとつとして保険適用されました。凍結療法を実施する体制があると回答した施設は11施設(3.0%)で、2013年に治療した新規患者数は119人でした。

 保険適用はされていませんが、新しい治療法として注目を集めているのが手術用ロボット「da Vinci(ダヴィンチ)」を使用したロボット支援腎部分切除術です。米国において標準術式となりつつあるロボット支援腎部分切除術ですが、日本では2012年に初めてダヴィンチが前立線がんの全摘除術に対して保険適用となり、腎細胞がんに関しては2014年8月にロボット支援腎部分切除術が先進医療が認められたばかりです。ロボット支援腎部分摘出術の実施体制があると回答した施設は31施設(8.3%)で、2013年の新規治療患者数は149人でした。

 同じく保険適用されていませんが、ラジオ波焼灼術も新しい治療法のひとつとして注目されています。超音波やCTガイド下に体の外から、腎がん部位に針を刺し、高温状態にすることでがんを焼灼する治療です。ラジオ波焼灼術を実施する体制があると回答した施設は43施設(11.6%)で2013年に治療した新規患者数は25人でした。

9割が分子標的治療薬による再発・転移治療体制を整備
 初診時または腎臓摘出後に腎臓以外の臓器に転移を認めた患者に対しては薬物療法を検討します。以前はサイトカイン療法しか治療選択肢がありませんでしたが、2008年に分子標的治療薬が登場したことで治療の選択肢が増えています。現在、使用できる分子標的治療薬は6剤となりました。

 2013年に薬物療法を開始した新規の腎細胞がん患者数は2490人でした。

 再発・転移した腎がん患者に対し、サイトカイン療法の実施体制があると回答した施設は262施設(70.4%)で、2013年にサイトカイン療法を行った新規患者数は326人でした。

 一方、再発・転移性腎がん患者に対して分子標的治療薬による治療を行う体制が整っていると回答した施設は335施設(90.1%)に上り、このうちチロシンキナーゼ阻害薬による治療体制が整っているのが327施設(87.9%)、mTOR阻害薬は287施設(77.2%)でした。

 2013年の新規患者数を見ると、分子標的治療薬によって治療した再発・転移患者数は2236人で、このうちチロシンキナーゼ阻害薬により治療したのが1836人、mTOR阻害薬が519人でした。

 近年では、再発・転移患者だけでなく、外科切除が難しい場合に分子標的治療薬を投与する術前補助療法が注目されています。分子標的薬を投与することで腫瘍を縮小させ、手術不能だった患者を手術できる状態にすることや術後再発のリスクを減らすことを期待して試みられてきましたが、期待したほどの成果は得られていないようです。この分子標的治療薬による術前補助化学療法に取り組んでいると回答した施設は173施設(46.5%)で、2013年の新規患者数は110人でした。

骨転移への放射線治療は7割の施設で実施可能
 脳転移や骨転移がある腎がん患者に対しては、放射線治療を行うことがあります。腎細胞がん放射線治療のうち、脳転移に対する定位放射線治療の実施体制を整えていると回答した施設は156施設(41.9%)、骨転移に対する外照射放射線治療は270施設(72.6%)。2013年に新規に転移性腎がんに対する放射線治療を行った患者数は800人で、脳転移に対する定位放射線治療が155人、骨転移に対する外照射放射線治療は708人でした。

9割でがん認定・専門の薬剤師、看護師を配置
 がん認定・専門の薬剤師や看護師の配置状況について質問したところ、340施設(91.4%)ががん認定・専門の薬剤師や看護師を配置していると回答しています。

 配置している認定・専門看護師の種類を尋ねたところ、最も多かったのが褥瘡などの創傷管理およびストーマ、失禁などの排泄管理、患者・家族の自己管理およびセルフケア支援などを行う「皮膚・排泄ケア認定看護師」で293施設(78.8%)でした。次いで、がん患者の疼痛、呼吸困難、全身倦怠感などの苦痛症状の緩和や、患者・家族の喪失や悲嘆に対するケアを行う「緩和ケア認定看護師」を配置していると回答した施設が282施設(75.8%)、医療関連感染サーベイランスの実践や各施設の状況の評価と感染予防・管理システムを構築を行う「感染管理認定看護師」を配置している施設は274施設(73.7%)、がん化学療法で使用する薬剤の安全な取り扱いや適切な投薬管理、副作用症状へのケアを行う「がん化学療法看護認定看護師」は270施設(72.6%)、痛みを総合的に評価し、薬剤の適切な使用と疼痛緩和を行う「がん性疼痛看護認定看護師」は173施設(46.5%)でした。

 同じく薬剤師についても配置している認定・専門薬剤師の種類を質問したところ、最も多かったのは日本病院薬剤師会が認定する専門薬剤師の資格で、抗がん剤の安全な取り扱いや調製を行う「がん薬物療法認定薬剤師」で183施設(49.2%)でした。がん薬物療法認定薬剤師の資格取得が前提で認定される「がん専門薬剤師」を配置しているのは116施設(31.2%)でした。

 医師として専門・認定看護師に期待することは何か尋ねたところ(3つまで選択可能)、最も多かったのが「現場の看護師の指導育成」(317施設)でした。次いで、「患者のセルフケア支援(抗がん剤の副作用、疼痛対策など)」(263施設)、「患者の身体管理(抗がん剤の副作用の早期発見・対処、疼痛コントロールなど)」(215施設)でした。

 約9割の施設で認定・専門看護師または薬剤師を配置していると回答していますが、専門・認定看護師の人数が「充足している」と回答した施設は49施設(13.2%)に止まり、「不十分」と回答した施設が230施設(61.8%)にも上りました。

 がん治療について患者が相談できる窓口(相談支援センター)の設置状況について尋ねたところ、317施設(85.2%)が設置していると回答しています。実際に患者からの相談に対応するスタッフの職種を尋ねたところ(複数回答可)、看護師が最も多く(273施設)、ソーシャルワーカー(238施設)、社会福祉士(108施設)、医師(82施設)と続きました。

本サイト「もっと知る腎がん」総監修者である
九州大学泌尿器科学分野教授 内藤誠二先生のコメント

 この調査は、アンケート方式で行われており、患者数などはあくまで回答を寄せていただいた施設の集計結果であることに留意して見ていただきたいと思います。

 その上で、集計結果を見ると、腎部分切除術、なかでも腹腔鏡下腎部分切除術の件数が増加傾向にあることが見て取れます。近年、人間ドックや健診などで行われるエコー検査で腎臓もチェックされ、腎がんがあればその際に見つけられるため、早期に発見できるケースが増えていることが背景にあります。

 腎がんが小さければ、腎臓を全て切除してしまう必要はなく、がんだけを取り除き、残りの健常な腎臓を残すことができます。腎臓は体内の老廃物などをろ過する重要な役割があり、腎臓がなくなってしまう(腎機能が低下、あるいはなくなってしまう)と慢性腎臓病(CKD)になり、心血管疾患を引き起こしやすくなることが知られるようになりました。そのため、できるだけ腎機能の温存をはかるため、がんの部分のみを切除して、正常部分の腎臓を残す手術が選ばれるようになってきています。ただし、CKDを予防するために腎部分切除術を行い、再発してしまっては意味がありません。我々泌尿器科専門医は術前にがんの大きさや部位、血管の状態などをよく評価し、個々の患者さんに最適の術式を選択し、ご提案していることをご理解いただきたいと思います。

 今年(2014年)は、小径腎がんに対して、ロボット支援腎部分切除術が先進医療として認められました。先進医療になったことで、ロボット支援腎部分切除術そのものは自費診療ですが、それ以外は保険診療として治療を受けることができます。患者さんにとって負担が少ない治療であり、従来の腹腔鏡下腎部分切除術と比べて切除や止血などの鉗子操作がしやすいことから、我々泌尿器科専門医にとっても負担が少ない治療として期待されています。今後は、予定の症例を集積してロボット支援手術のメリットを明確にし、保険収載を目指すことになると思います。

 また、最近では、小径腎がんに対する凍結療法が保険適用となり、実施例が増えてきているようです。今後、長期成績を評価していく必要があると思いますが、一方で、この凍結療法は、合併症があったりして通常の手術が困難と思われるような方や小径腎がんが多発しているような患者さんには向いている可能性があります。 新しい腎がん治療が登場し、患者さんの予後が延長していることもあって骨転移に注意する必要性が高まってきていると思います。骨転移が進行すると骨折や麻痺につながる可能性があるので、何より早期に発見することが重要ですし、適切な治療を受けることが大切です。もともと腎がんは前立腺がんや膀胱がんと同様に骨転移を起こしやすいがんであるため、我々泌尿器科専門医は定期的に骨転移の有無をチェックしていますが、患者さんにおかれましても、徐々に悪化するような痛みがあるときなどは早めに主治医に相談して欲しいと思います。骨転移に起因する痛みは、週単位や月単位で徐々に悪化するケースが多いようです。

 近年、腎がんに対する薬物療法は大きく変化しました。2008年以降に分子標的薬が次々と登場し、現在は6剤が使用可能となっています。また、これらの分子標的薬は、1つが効かなくなってしまっても次の薬剤を投与する逐次療法を行うことによって生存期間の延長が期待できるようになってきています。今後、薬物療法はさらに進歩し、生存期間の延長につながると期待されています。転移がある患者さんもあきらめずに是非、前向きに治療に取り組んでいただきたいと思います。