もっと知る腎がん

手術が難しい場合でも術前の全身療法により手術への道が拓かれるかもしれません

 日本中の泌尿器科医が集まり、議論を交わす日本泌尿器科学会の第102回総会(総会長:香川大学泌尿器科学講座教授 筧善行氏)が、4月24日から27日まで神戸市で開催された。本サイトの監修者の1人である九州大学泌尿器科学分野講師・診療准教授の立神勝則氏に、日本泌尿器科学会で議論された腎がん診療に関する最新動向について聞いた。


 今年の泌尿器科学会総会も多くの腎がんに関する新しい知見の発表や、こうした知見を受けて発生した新しい診療上の疑問を議論する場が設けられました。

 新薬が登場し、その効果が明らかになったことで治療の選択肢が格段に増えたことはとても喜ばしいことですが、治療の選択肢が増えてくると、今度はどのように診療に活かしていくのか、どのように使用していけば目の前の患者さんにとって最も有益なのか、といった疑問がいくつも出てきます。我々、泌尿器科専門医は、こうした選択肢が増えてきた状況を踏まえて、より良い治療戦略を構築していけるよう、今後も議論していく必要があると改めて感じました。

 多くの議論があった中で、注目されたテーマの1つに、術前に行う全身療法についての議論がありました。



がんの切除が難しい場合に分子標的薬を用いて手術できるようにする術前療法

 本サイトでも解説していますが、腎がんの治療において手術はとても重要です。手術によって原発巣を切除してしまえば、完治する可能性がありますし、もし転移があったとしても、原発巣を切除することにより体内で“悪さ”をする因子の発生を抑えられ、小さな肺転移しかない場合などではその転移巣さえも小さくなるケースが認められています。

 しかし、原発巣の切除が重要だからと言っても、いつも必ず切除できるわけではありません。がんが大きく、腎臓から静脈内をがんが大きく成長していき、心臓まで、あるいは心臓近くまで伸びてしまった場合(下大静脈塞栓と言います)やがんから産生される因子によって体調が悪化している場合などでは、手術が難しくなります。本来であれば腎摘除術は腹部の手術ですが、下大静脈塞栓があると開胸手術、つまり胸も切開する術式になることがあります。そうすると患者さんにとっても非常に侵襲性の高い、身体への負担が大きい手術になってしまうのです。特に高齢の方では、侵襲性の高い手術はリスクが高く、手術できないと判断されるケースも少なくありません。

 そのため、全身療法を行って、がんを小さくしてから手術をすれば、もっと手術侵襲を抑えられ、患者さんの身体への負担を減らせられるのではないか、と期待されるようになりました。がんが小さくなれば、身体状態も改善することがあります。手術がしやすくなると考えられるのです。

 また、何らかの事情により既に腎臓が1つしかない患者さん、あるいは2つある腎臓の両方にがんがある患者さんでは、腎摘除術を施行すると、腎臓が全てなくなってしまい、透析となってしまいますから、できるだけ正常な腎臓を残すように腎部分切除術を行いたいと考えます。しかし、がんが大きければ、残すことができる正常な腎臓部分が少なくなり、結局、腎臓を全て切除したときと同じようになってしまう可能性があります。

 そのため、腎臓が1つしかない患者さん、2つの腎臓の両方にがんがある患者さんなどでは、術前に全身療法を行い、できるだけがんを小さくしたいのです。

 今までの標準治療であったサイトカイン療法では、腫瘍が目に見えて小さくなるというケースは少なかったので、術前治療はほとんど行われませんでした。しかし、近年、分子標的薬が多く登場し、腫瘍が小さくなる可能性が高くなったことで、術前治療に対する期待が高まってきたのです。