もっと知る腎がん

「もっと知る腎がん」診療動向調査

腎がん診療に関する全国調査2013の読み方

 日経BP社では、患者さんの受診ガイドの一助として、腎がん診療に関する全国調査を行いました(調査期間は2012年2月〜2012年7月)。調査対象は、泌尿器科専門医が在籍されている医療機関です。全国1197施設を対象に郵送による記入式のアンケート調査を実施し、400施設から回答を得ました。

 ご協力いただきました医療機関の皆様には、膨大なアンケートに快くご回答いただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

 本調査の質問項目については2012年の1年間について聞いています。なお、あくまでこの調査はアンケート方式により回答をいただいた施設の結果をまとめているもので、日本全体の腎がん患者数などの数値がまとまっているものではありません。


 400施設において、腎細胞がん診療にあたっている医師は合計1918人。また日本泌尿器科内視鏡学会の泌尿器腹腔鏡認定医がいると回答したのは231施設(57.8%)です。

 回答した400施設において、2012年1月から12月末までの1年間に診た新規腎細胞がん患者数は合計9171人でした。

 腎がん治療における第一選択は、外科的切除術です。腎がんの外科的切除術の術式は大きく分けて2つあり、がんがある腎臓を全て取り除く「根治的腎摘除術」と、腎がんがある部分だけを取り除く「腎部分切除術(腎機能温存手術)」です。どちらの術式を選択するかは、腫瘍の大きさや位置、対側の腎機能などを考慮して決定します。

 がんが比較的小さく、腫瘍が腎臓の外側に飛び出すように存在している場合は、術後の腎機能を保持する観点から、通常がんのある部分だけを切除する腎部分切除術(腎機能温存手術)が選択されます。一方、対側腎機能が大きな問題がなく、腫瘍が4cm以上と比較的大きい場合、もしくは腫瘍が比較的小さくても腎臓内に埋没しているような場合には、通常安全性の観点から腫瘍のある腎臓を全て取り除く根治的腎摘除術が選択されます。

 腎がんの根治的腎摘除術の実施体制が整っていると回答した施設は382施設(95.5%)、腎部分切除術については338施設(84.5%)でした。2012年の1年間の手術件数はは、根治的腎摘除術が5101人、腎部分切除術が2623人です。


腹腔鏡による手術体制が整っている施設は5〜7割

 手術方法では、腹部を大きく切開する術式(開放手術)と、腹部に内視鏡と操作器具を挿入して行う術式(腹腔鏡手術)の2つがあります。

 腹腔鏡手術は、従来法の開放手術と比べて、手術による傷が小さく、術後の回復が早いという特徴があり、近年では、腹腔鏡手術件数が増加傾向にあります。

 一般に、腹腔鏡下根治的腎摘除術は腫瘍の大きさにかかわらず選択可能ですが、腫瘍塞栓を伴う場合や周囲臓器に浸潤があるような場合は、安全性を担保するため開放手術が推奨されます。腫瘍が比較的小さい場合は腹腔鏡下腎部分切除術が選択可能ですが、腫瘍が腎臓に埋没しているようなタイプで、腎機能温存を目指す場合は、通常開放腎部分切除術が選択されます。

 腹腔鏡による根治的腎摘除術の実施体制が整っていると回答した施設は311施設(77.8%)、腹腔鏡による腎部分切除術については197施設(49.3%)でした。また、2012年の新規手術患者数は、腹腔鏡下根治的腎摘除術が3040人、腹腔鏡下腎部分切除術が1092人でした。

 日本では、腎摘除術後のフォローアップ体制が充実しているため、転移巣が早期に発見されるケースが多いと言われています。また、診断時にすでに転移があるような場合でも、原発巣(原発腎)を摘除した方が予後が良好であることが示されています。日本では術後、転移巣を早期に発見するケースが多く、転移があっても原発巣(原発腎)の摘除を行うという治療方針が普及しているため、海外と比べて転移性腎がん患者の予後が良いといわれています。転移巣を外科的切除することが有効かという点についてはいまだ議論されていますが、患者の身体状態が良く、切除可能な場合は外科的切除が推奨されています。
 
 転移のある患者に対し、転移巣切除術を実施する体制が整っていると回答した施設は220施設(55.0%)で、2012年に転移巣切除術を行った新規患者数は235人でした。


保険収載された凍結療法で治療した患者は78人

 患者の身体的負担が少ない新しい治療法として注目されるのが凍結療法です。MRI 画像をもとに体の外から、もしくは内視鏡下で腎がん部位に針を刺し、がんの塊を凍結させてがん細胞を殺します。凍結療法は、日本においては2011年に小径腎がんに対する治療法のひとつとして保険収載されました。凍結療法を実施する体制があると回答した施設は6施設(1.5%)で、2012年に治療した新規患者数は78人でした。

 まだ保険適応されていませんが、新しい治療法のひとつとして注目されるのがラジオ波焼灼術です。超音波やCTガイド下に体の外から、腎がん部位に針を刺し、高温状態にすることでがんを焼灼する治療です。ラジオ波焼灼術を実施する体制があると回答した施設は40施設(10.0%)で2012年に治療した新規患者数は29人でした。


4割の施設で術前の分子標的治療薬による治療が可能

 腎がん治療において、初診時または腎臓摘出後に腎臓以外の臓器に転移を認めた患者に対しては薬物療法を検討します。以前はサイトカイン療法しか治療選択肢がありませんでしたが、2008年に分子標的治療薬が登場したことで治療の選択肢が増えています。現在、使用できる分子標的治療薬は5剤あります。

 再発・転移性腎がん患者に対して分子標的治療薬による治療を行う体制が整っていると回答した施設は344施設(86%)、サイトカイン療法については280施設(70%)でした。2012年に新規で薬物療法を開始した腎細胞がん患者数は2437人で、そのうち分子標的治療薬による治療を行った再発・転移患者数は1990人、サイトカイン療法を行った再発・転移患者数は400人でした。

 近年では、再発・転移患者だけでなく、外科切除が難しい場合に分子標的治療薬を投与する術前補助療法が注目されています。分子標的薬を投与することで腫瘍を縮小させ、手術不能だった患者を手術できる状態にすることや術後再発のリスクを減らすことを期待して試みられてきましたが、期待したほどの成果は得られていないようです。この分子標的治療薬による術前補助化学療法に取り組んでいると回答した施設は174施設(43.5%)で、2012年の新規患者数は94人でした。

 脳転移や骨転移がある腎がん患者に対しては、放射線治療を行うことがあります。腎細胞がん放射線治療のうち、脳転移に対する定位放射線治療の実施体制を整えていると回答した施設は156施設(39.0%)、骨転移に対する外照射放射線治療は267施設(66.8%)。2012年に新規に転移性腎がんに対する放射線治療を行った患者数は782人で、脳転移に対する定位放射線治療が185人、骨転移に対する外照射放射線治療は613人でした。


8割強の施設でがん認定・専門の薬剤師、看護師を配置

 がん認定・専門の薬剤師や看護師の配置状況について質問したところ、がん認定・専門の薬剤師や看護師を配置していると回答した施設は348施設(87%)に上りました。

 がん患者の疼痛、呼吸困難、全身倦怠感などの苦痛症状の緩和や、患者・家族の喪失や悲嘆に対するケアを行う「緩和ケア認定看護師」を配置していると回答した施設が最も多く270施設(67.5%)でした。次いで、がん化学療法で使用する薬剤の安全な取り扱いや適切な投薬管理、副作用症状へのケアを行う「がん化学療法看護認定看護師」は262施設(65.5%)、痛みを総合的に評価し、薬剤の適切な使用と疼痛緩和を行う「がん性疼痛看護認定看護師」は170施設(42.5%)、主に、がん患者・家族の悩みや相談の対応、チーム医療におけるスタッフ間の意見調整、院内の看護師からの相談対応や指導などを行う「がん看護専門看護師」が141施設(35.3%)と続きました。

 薬剤師については、日本病院薬剤師会が認定する専門薬剤師の資格である抗がん剤の安全な取り扱いや調製を行う「がん薬物療法認定薬剤師」を配置している施設が190施設(47.5%)と最も多く、がん薬物療法認定薬剤師の資格取得が前提で認定される「がん専門薬剤師」を配置していると回答した施設が112施設(28.0%)でした。

 がん治療について患者が相談できる窓口(相談支援センター)の設置状況について尋ねたところ、349施設(87.3%)が設置していると回答しました。実際に患者からの相談に対応するスタッフの職種を尋ねたところ(複数回答可)、看護師が最も多く(291施設)、ソーシャルワーカー(255施設)、医師(114施設)、社会福祉士(113施設)と続きました。

本サイト「もっと知る腎がん」総監修者である
九州大学泌尿器科学分野教授 内藤誠二先生のコメント


 この調査は、アンケート方式で行われており、患者数などはあくまで回答を寄せてくれた施設の集計結果であることに留意して見ていただきたいと思います。 その上で、集計結果を見ると、腎部分切除術、なかでも腹腔鏡下腎部分切除術の件数が増加傾向にあることが見て取れます。

 これは、近年、人間ドックや健診などで行われるエコー検査で腎臓もチェックされ、腎がんがあればその際に見つけられるため、早期に発見できるケースが増えていることが背景にあります。腎がんが小さければ、腎臓を全て切除してしまう必要はなく、がんだけを取り除き、残りの健常な腎臓を残すことができます。腎臓は体内の老廃物などをろ過する重要な役割があり、腎臓がなくなってしまう(腎機能が低下、あるいはなくなってしまう)と慢性腎臓病(CKD)になり、心血管疾患を引き起こしやすくなることが知られるようになりました。そのため、できるだけ健常な腎機能を残すことができるよう、腎臓を残す手術が選ばれるようになってきています。ただし、CKDを予防するために腎部分切除術を行い、再発してしまっては意味がありません。我々泌尿器科専門医は、腎臓にどのようにがんができているかをよく評価し、その状態に最適の術式を選択し、皆様にご提案していることをご理解いただきたいと思います。

 近年、腎がんに対する薬物療法は大きく変化しました。従来は、インターフェロン-α(IFN-α)やインターロイキン-2(IL-2)といったサイトカインを用いた免疫療法しか効果が期待できる全身療法はありませんでしたが、2008年以降に分子標的薬が次々と登場し、現在は5剤が使用可能となっています。わりました。これらの分子標的薬は、1つが効かなくなってしまっても次の薬剤を投与する逐次療法を行うことによって生存期間の延長が期待できるようになってきました。さらに、がん細胞に身体の免疫機能を抑制して自らが増殖できる仕組みがあることが解明され、最近、このがん細胞が出している免疫抑制の分子を標的とした分子標的薬の開発も進んでいます。今後、薬物療法はさらに進歩し、生存期間の延長につながると期待されています。転移がある患者さんもあきらめずに是非、前向きに治療に取り組んでいただきたいとと思います。