もっと知る腎がん

第6回市民公開講座より

腎がんと診断されたら〜よく理解し、最適な治療を選択するために〜

岩手医科大学泌尿器科講師の小原航氏

●どのようなくすりで治療しますか?
―治療中は医師との連絡体制を整えることが重要―
小原 航氏(岩手医科大学泌尿器科 講師)


 腎がん治療の基本は外科的切除だが、手術ができない患者や、初診時または腎臓摘出後にほかの臓器に転移している患者に対しては一般的に薬物療法を行う。ただし、転移していても、健康状態が良く、進行が穏やかで、転移個数が数個であるといった条件がそろえば転移巣の切除を行うこともある。

 腎がんには他のがん治療でよく使われるいわゆる抗がん剤が効かない。そのため、免疫療法または分子標的治療薬による治療が行われる。

 免疫療法には、患者の体の免疫を担当するリンパ球やサイトカインなどの働きを活性化させる薬剤を投与する。使用される薬剤には、約20年前から使われているインターフェロン-α(IFN-α)とインターロイキン-2(IL-2)がある(表5)。

表5 免疫療法の種類と副作用

 IFN-αは、体内にウイルスなどの病原体が侵入したり、腫瘍細胞が発生した場合に白血球が分泌するたんぱく質であり、IL-2は、白血球のうちTリンパ球によって分泌されるたんぱく質で、Tリンパ球の増殖因子として働く。

 IFN-αには天然型の製品(製品名:スミフェロン、オーアイエフ)と遺伝子組み換え型(製品名:イントロンA)がある。筋肉注射または皮下注射のため、患者による自己注射が可能だ。一方、IL-2(製品名:イムネース)は静脈注射のため、病院での治療が必要となる。

 これらの薬剤で治療した際、腫瘍が小さくなる割合(奏効率)は10〜20%。肺やリンパ節にのみ転移している患者で治療効果が得られやすいという特徴がある。この免疫療法により、がんが小さくなったまま長期間経過する症例が存在することが知られている。患者の状態が良好であれば、まず腎がんを摘出した後に免疫療法を行うこともある。

 小原氏は免疫療法時の注意点として、高熱が出ることがあるので体温を測定すること、疲労感を感じたり、体の節々が痛むことがあること、IL-2での治療時にはむくみや息苦しさを感じることがあることから、「主治医との連絡体制を整えておくことが重要。何らかの症状がでたら迷わずに相談しましょう」とアドバイスした。

 続いて、日本では2008年から使用可能となった分子標的治療薬についても解説した。分子標的治療薬は、がん細胞が作り出す特定の分子(たんぱく質)を標的にした薬剤で、その働きを阻害することでがん細胞が増殖、転移できないようにする。腎がんでは、血管内皮成長因子(VEGF)や、細胞の分裂や生存の調節で中心的な役割を果たすmTORというたんぱく質を標的にした分子標的治療薬がある。現在、使用可能な薬剤は合計5剤で、主にVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害作用を持つ3剤(ソラフェニブ[製品名:ネクサバール]、スニチニブ[製品名:スーテント]、アキシチニブ[製品名:インライタ])、mTOR阻害薬としてはテムシロリムス(製品名:トーリセル)、エベロリムス(製品名:アフィニ トール)の2剤(表6)。

表6 分子標的治療薬の種類と副作用

 これら分子標的治療薬による治療指針はガイドラインが参考となり、初めて治療する患者のうち、比較的進行が穏やかな患者(低・中リスク)の場合はスニチニブ、進行が急な患者(高リスク)の場合はテムシロリムスの投与が推奨されている(表7)。また、すでに1回目の治療を行った患者のうち、免疫療法が無効になった場合にはソラフェニブまたはアキシチニブ、チロシンキナーゼ阻害薬が無効になった患者にはエベロリムスまたはアキシチニブ、mTOR阻害薬が無効になった患者には臨床試験への参加を勧めている。

表7 腎がんの分子標的治療薬の使い方の指針

 ここで小原氏は、分子標的治療薬の代表的な治療成績を紹介。転移性腎がんを対象に、IFN-αとスニチニブの有効性を比較した臨床試験では、奏効率はIFN-α群が6%だったのに対し、スニチニブ群が31%、病気が進行してしまうまでの期間はIFN-α群が5カ月だったのに対し、スニチニブ群が11カ月という結果が得られている。

 また、予後が不良なタイプの転移性腎がん患者を対象に、テムシロリムスとIFN-αの有効性を比較した臨床試験では、生存期間(中央値)はIFN-αが7.3カ月だったのに対し、テムシロリムス群は10.9カ月という結果だった。こうした結果から、現在では、免疫療法に比べて分子標的治療薬による治療が推奨されるようになっている。

 分子標的治療薬で見られる副作用には特徴的なものがある。ソラフェニブは手足症候群、下痢、嗄声、疲労感など、スニチニブは皮膚変色、高血圧、甲状腺機能低下、血小板減少、心機能低下など、アキシチニブは高血圧、下痢、手足症候群、疲労、蛋白尿、甲状腺機能低下、発声障害など、テムシロリムスやエベロリムスは口内炎、間質性肺炎、感染症、糖尿病、高脂血症などが見られる。

 小原氏は、分子標的治療薬による治療を受ける際にはこうした副作用に十分に注意した上で、(1)服薬手帳をつけること(2)毎日決まった時間に血圧を測定すること(3)締め付けの強い靴や靴下をはかないこと(4)手足の保湿を行うこと(5)日常生活の変化を記録すること――を勧め、医師との連絡体制を整えることが重要であると強調した(表8)。

表8 分子標的治療薬の副作用と留意点