もっと知る腎がん

第101回日本泌尿器科学会総会を終えて

転移があっても主治医に「手術で切除できないか」と聞いてみてください

 このように分子標的薬の登場は、転移性腎細胞がん患者の予後を確実に延長していますが、もう1つ日本ならではの治療として、転移巣切除があります。

 海外では、転移が認められると、その治療は薬物療法が中心で、外科的切除はあまり考慮されない傾向があります。しかし、日本の泌尿器科医は、緻密に検査を行うことから早期に転移巣を発見することが多いですし、しかも転移があっても、切除を試みるケースが多い傾向があるのです。

 実際、転移性腎細胞がんで、転移巣切除を行った患者のデータを日本全国から559例集めて、その生存期間を検討した結果、転移巣切除を行ってから残念ながら亡くなってしまうまでの期間の中央値は80カ月という驚くべきデータが最近まとめられました。転移が認められたとしても、その転移巣を切除できれば長期間の生存が期待できるという結果です。

 この研究で明らかになったことは、転移巣を切除できた方の予後は良好だということですが、そうすると次に知りたくなるのは、転移が認められた患者のうち、どのくらいの方が転移巣切除を行うことが可能かという点です。

 この点については現在全国規模で検討が進められているところですが、我々の施設を受診された患者を対象に検討した結果、472例中113例において転移巣切除を行っていることが分かりました(図1参照)。転移が認められた患者のおよそ4分の1は転移巣切除が可能であったという結果です。さらに、転移巣切除を行った患者の生存期間は、何らかの理由で転移巣切除をされなかった患者と比べて延長していることも明らかになったのです。

図1●北海道大学および関連施設における転移性腎細胞がんに対する転移巣切除の有無別の生存期間

 しかもこの結果は、転移がある腎細胞がんの治療の選択肢としてサイトカイン療法しかなかった時代のデータがほとんどを占めるものです。そのため、分子標的薬が数多く登場している現在においては、治療に分子標的薬をうまく組み合わせ、どんな状態の患者が転移巣切除可能か、という点を知りたいと思いますし、まさにこれから検討すべき課題です。

 詳細は今後の検討を待ちたいのですが、私の経験から、転移巣切除といっても、転移が認められたら、即、手術をすればよい、というものではないと思っています。

確かに、単一臓器に1つだけしか転移巣がなくて、その転移巣もあまり急速に大きくなるタイプのものではない、という条件ならば、すぐに切除してしまうというのも選択肢です。

 ただし、単一の臓器に複数の転移巣が認められる場合、あるいは多臓器にわたって転移巣が認められる場合などでは、ひょっとしたら目には見えない病巣がほかにもあるかもしれないと考えられます。こうした場合、転移巣切除すべきかどうか、どのように判断すればよいでしょうか。

 こうした場合、私は、分子標的治療薬などの薬物療法を6カ月間行うという選択肢を検討します。この6カ月間に、転移巣が縮小し、一方で新しい病変が認められなかった場合は、転移巣の切除を考慮します。新しい病変が認められないということは目に見えない病巣が存在する可能性は低くなりますし、薬物療法により転移巣が小さくなるので切除しやすくなるメリットがあります。

そして、転移巣を切除した後、新しい病変が認められなければ、完全奏効(Complete Response:CR)が得られたと考えられるでしょう。“治癒”した、もしくは長期の生存が期待できると言えると思います。

転移巣切除により完全奏効(CR)が得られ、薬物療法をやめた場合、その後残念ながら新しい病変が出現してしまったとしても、6カ月間の投薬期間で新しい病変が認められなかったということはそのとき投与していた薬剤が有効であることの証ですので、その薬剤を投与すれば高い効果が期待できるのです。

 一方、残念ながら6カ月間の投薬期間に新規病変が認められてしまった場合、目に見えない転移がほかにもある可能性があり、転移巣切除の意義があまりないことになります。しかし、今ではほかにも選択肢が多くあるので、他の治療法を行うという判断をいち早く選択することが可能になります。
 
 このように、分子標的薬が登場し、治療の選択肢が増えたことで、残念ながら転移が認められたとしても、新しい治療戦略を組むことができるようになりました。全ての患者さんに適応できるわけではありませんが、転移巣切除によって完全奏効(CR)が得られる患者は少なくないことも明らかになりました。「転移がある」と言われたら、主治医の先生に「この転移巣は手術で切除してしまうことはできませんか?」と是非、一度聞いてみてほしいと思います。