もっと知る腎がん

「もっと知る腎がん」診療動向調査

腎がん診療に関する全国調査2012の読み方

 日経BP社では、患者さんの受診ガイドの一助として、腎がん診療に関する全国調査を行いました(調査期間2012年2月〜2012年6月)。調査対象は、泌尿器科専門医が在籍されている医療機関です。全国1200施設を対象に郵送による記入式のアンケート調査を実施し、438施設から回答を得ました。

 ご協力いただきました医療機関の皆様には、膨大なアンケートに快くご回答いただき、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

 なお、本調査は2011年の1年間について聞きました。


 回答した全施設にあたる438施設が、日本泌尿器科学会が認定する泌尿器科専門医がいると回答しました。腎細胞がん診療にあたっている医師は合計2029人。2011年1月から12月末までの1年間に診た新規腎細胞がん患者数は合計9461人でした。

 腎がん治療における第一選択は、腎がんのある部分を切除する外科的切除術です。がんが比較的小さく、一部が腎臓から突出している場合は、術後の腎機能を保持する観点から、がんのある部分だけを切除する腎温存手術(部分切除)が選択されます。一方、腫瘍が比較的大きい場合は、腎臓だけでなく、副腎やまわりの脂肪織を一塊として除去する根治的腎摘除術を行います。

 腎がんの各治療法の実施体制の有無について質問したところ、根治的腎摘除術については413施設(94.3%)、腎部分切除術は361施設(82.4%)が実施体制が整っていると回答しました。

泌尿器腹腔鏡認定医がいる施設は5割

 近年では、外科的切除術のうち、腹部を小さく切り、そこから内視鏡を挿入して手術を行う腹腔鏡手術の件数が増加傾向にあります。従来の腹部を大きく切開する開放手術と比べ、手術による傷が小さくて、術後の回復が早いという特徴があります。
 
 腹腔鏡による根治的腎摘除術の実施体制が整っていると回答した施設は309施設(70.5%)、腹腔鏡による腎部分切除術については190施設(43.4%)でした。また、2011年の新規患者数は、腹腔鏡下根治的腎摘除術が3043人、腹腔鏡下腎部分切除術が906人でした。

 およそ5割の施設(227施設)が、日本泌尿器科学会および日本泌尿器科内視鏡学会が認定する泌尿器腹腔鏡技術認定医がいると回答しました。

 日本では、腎摘除術後のフォローアップ体制が充実しているため、転移巣が早期に発見されるケースが多いと言われています。また、診断時から転移がある場合でも原発巣(原発腎)を摘除すると予後が改善することが示されています。日本では術後の転移巣を早期に発見したり、転移があっても原発巣(原発腎)の摘除を行うという治療方針が普及しているため、海外と比べ、転移性腎がん患者の予後が良いことが報告されています。転移巣を外科的に切除することが有効かということについてはいまだ議論されていますが、患者の身体状態が良く、切除可能な場合は外科的切除が推奨されています。
 
 転移のある患者に対し、転移巣切除術を実施する体制が整っていると回答した施設は239施設(54.6%)で、2011年に転移巣切除術を行った新規患者数は320人でした。

 まだ保険適用されていませんが、患者の身体的負担が少ない新しい治療法として注目されるのがラジオ波焼灼術と凍結療法です。これらの技術は、超音波画像やCT画像をもとに体の外から、もしくは内視鏡下で腎がん部位に針を刺し、高温または凍結によってがん細胞を殺します。ラジオ波焼灼術を実施する体制があると回答した施設は49施設(11.2%)、凍結療法については6施設(1.4%)で、2011年に治療した新規患者数はラジオ波焼灼術が41人、凍結療法が17人でした。

術前の分子標的治療薬を実施する体制をもつ施設は4割

 腎がん治療において、手術ができない患者や、初診時または腎臓摘出後に腎臓以外の臓器に転移していた患者に対しては薬物療法を検討します。以前は、サイトカイン療法しか治療選択肢がありませんでしたが、2008年に分子標的治療薬が登場し、治療の選択肢が増えています。

 再発・転移性腎がん患者に対して分子標的治療薬による治療を行う体制が整っていると回答した施設は374施設(85.4%)、サイトカイン療法については326施設(74.4%)でした。2011年に新規で薬物療法を開始した腎細胞がん患者数は2822人で、そのうち分子標的治療薬による治療を行った再発・転移患者数は2212人、サイトカイン療法を行った再発・転移患者数は605人を占めました。

 近年では、再発・転移患者だけでなく、外科切除が難しい場合に分子標的治療薬を投与してみるプレサージカル治療(pre-surgical therapy)が注目されています。分子標的薬を投与することで、腫瘍を縮小させ、手術不能だった患者を手術できる状態にすることや、腎温存手術ができる状態にすることが期待されているからです。このプレサージカル治療に取り組んでいると回答した施設は180施設(41.1%)で、2011年の新規患者数は135人でした。

 脳転移や骨転移がある腎がん患者に対しては、放射線治療を行うことがあります。腎細胞がん放射線治療のうち、脳転移に対する定位放射線治療の実施体制を整えていると回答した施設は155施設(35.4%)、骨転移に対する外照射放射線治療は292施設(66.7%)。2011年に新規で腎がんの放射線治療を行った腎細胞がん患者数は800人で、このうち脳転移に対する定位放射線治療が175人、骨転移に対する外照射放射線治療は848人でした。

8割の施設でがん認定・専門の薬剤師、看護師を配置

 がん認定・専門の薬剤師、看護師の配置状況について質問したところ、がん認定・専門の薬剤師、看護師を配置していると回答した施設は362施設(82.6%)に上りました。

 がん患者の疼痛、呼吸困難、全身倦怠感などの苦痛症状の緩和や、患者・家族の喪失や悲嘆に対するケアを行う「緩和ケア認定看護師」を配置していると回答した施設が最も多く278施設(63.5%)。次いで、がん化学療法で使用する薬剤の安全な取り扱いや適切な投薬管理、副作用症状へのケアを行う「がん化学療法看護認定看護師」は258施設(58.9%)、痛みを総合的に評価し、薬剤の適切な使用と疼痛緩和を行う「がん性疼痛看護認定看護師」は172施設(39.3%)と続きました。

 また、社団法人日本病院薬剤師会が認定する専門薬剤師の資格で、抗がん剤の安全な取り扱いや調製を行う「がん専門薬剤師」を配置している施設は164施設(37.4%)でした。

 およそ8割の施設(350施設)が、がん治療について患者が相談できる窓口(相談支援センター)を設置していると回答しました。実際に、患者からの相談に対応するスタッフの職種は、看護師が291人と最も多く、ソーシャルワーカー253人、社会福祉士113人、医師97人と続きました。


本サイト「もっと知る腎がん」総監修者である
九州大学泌尿器科学分野教授 内藤誠二先生のコメント

 腹腔鏡下手術の件数が増加しているのは、より低侵襲な手術を患者側はもちろん、医療者側も求めていることの表れでしょう。また、腎臓をすべて摘出する根治的腎切除術ではなく、がんがある部分だけを切除する腎部分切除術の件数も増加しています。これは、腎がんがより小さい段階、つまりより早期の段階で発見されるようになったことが背景にあります。また、できるだけ腎臓を温存し、腎機能を維持していくことが重要であると考えられているためです。

 一般的に、腎細胞がんの危険因子として、喫煙や高血圧、著しい肥満、重金属や有機溶媒への長期接触、長期間の透析などが知られています。こうした腎細胞がんのリスクの高い方は、是非、人間ドックで腹部超音波検査を受けていただきたいと思います。早期に発見することが大切だからです。

 2008年以降、日本でも転移性腎細胞がんに対して分子標的薬が保険適用となり、現在では5剤が使用可能となっています。腎細胞がんでは、転移があっても全身状態が良好で、原発巣(原発腎)が切除可能と判断されれば、積極的に腎摘除術を行って、転移巣に対しては分子標的薬などによる薬物療法を行います。また、術後は患者さんを緻密に経過観察しますので、新たに転移が出現した場合も早期に発見することができ、転移巣を完全に切除できるケースもしばしばあります。このように、現在では再発や転移がある腎細胞がんの治療の選択肢はたくさんあります。再発や転移が見られてもあきらめず、治療に前向きに取り組んでいただきたいと思います。