もっと知る腎がん

第100回日本泌尿器科学会総会に参加して

転移があっても治療の選択肢はあるのであきらめないでください

分子標的薬に対する期待も高い

 近年、腎がん治療において、分子標的薬が次々と登場し、その高い有効性が注目されています。現時点で国内では5剤が使用可能ですし、さらにまだ開発中の薬剤があります。分子標的薬は当然全身療法なので、原発巣、転移巣の両方に対して効果が期待できます。

 こうした新しい薬剤が使用可能になってくると、「転移がある腎がんの原発巣切除は有効である」ということが今でも言えるのか、という疑問が出てきます。先ほど述べた、転移のある腎がんにおいて原発巣切除を推奨する根拠となった臨床試験は、まだ分子標的薬がない頃のものだからです。従来の薬物療法よりも高い効果が期待できるので、腎摘除術を行わずに分子標的薬を投与すればよいのではないか、と考えるのは当然の成り行きです。

 そのため、現在、転移のある腎がんを対象に、分子標的薬投与だけを行うグループと分子標的薬投与の前に腎摘除術を行うグループに分けて、前向きに評価する臨床試験が進められています。この試験の結果を待たなければ確定的なことは言えませんが、私自身は、この場合でも腎摘除術を行うことは、その後の患者さんの予後を考える上で有効であるだろうと推測しています。

 海外のデータではありますが、分子標的薬で治療を受けた症例について、腎摘除術を受けたグループと腎摘除術を受けなかったグループに分けて、生存期間を比較検討した結果が報告されています。その結果、腎摘除術を行わなかったグループの生存期間(中央値)は9.4カ月だったのに対し、腎摘除術を行ったグループの生存期間(中央値)は19.8カ月という結果でした。この研究は、後向き、つまりいくつかの施設の治療データを集めて後から解析したものですので、確定的な結果とは言えませんが、分子標的薬が多く登場している現在であっても腎摘除術の有効性を予測させる結果です。

 我々は、患者さんの年齢、がんの状態、体調などを総合的に判断し、切除した方が良いと判断した場合、手術をおすすめしています。時に、外科手術を嫌がられる方もいらっしゃいますが、今述べたように切除できたならば予後がよくなるケースが多いこと、手術を受けることで体調が回復するケースが多いことなどを是非知っておいて欲しいと思います。

 ただし、腎がんには、増殖が非常に早いタイプとゆっくりのタイプがあります。増殖が非常に早いタイプの腎がんでは、外科的切除をしても再発する可能性が高いことが分かっています。手術前後のしばらくの期間は薬物療法を行うことが出来ませんから、その間に病勢が進行してしまう可能性もあります。増殖が非常に早いタイプの場合は、いち早く薬物療法を行うことになります。

 また、患者さんの状態が悪い場合やがんが周囲臓器へ浸潤して、残念ながら腎摘除術ができない場合もあります。しかし、分子標的薬が登場し、原発巣に対しても縮小効果が得られることが明らかになりました。原発巣の切除が難しい場合でも治療の選択肢があるのであきらめないでいただきたいと思います(次ページ図参照)。