もっと知る腎がん

ASCO-GUに参加して

腎細胞がん治療でのスニチニブの投与量は必要に応じて適切に減らしても十分に有効です

 泌尿器科領域の癌に関する最新の研究結果が発表されるASCO-GUが2月2日から4日まで開催された。本サイトの監修者の1人である北海道大学泌尿器科・准教授の篠原信雄氏に、今年のASCO-GUのトピックスを聞いた。


 2月2日から4日まで、米国サンフランシスコで開催されたASCO-GU(正式名称:2012 Genitourinary Cancers Symposium)に参加しました。

 ASCO-GUは、腎がん前立腺がん尿路がんなど泌尿器領域のがんについて、メディカルオンコロジスト(腫瘍内科医)をはじめ、泌尿器科医、放射線科医が多く参加し、議論する場です。

 その母体であるASCO(米国臨床腫瘍学会)は、抗がん剤の臨床試験や使い方について腫瘍内科医が中心となって議論する場で、ありとあらゆるがんの薬物療法が話題となります。

 近年、泌尿器科領域に多くの新しい抗がん剤が登場していることもあって、泌尿器科領域のがんについて、泌尿器科医や放射線科医とディスカッションすることを求めています。そして泌尿器科医や放射線科医も、手術などに関する発表や議論をすることはもちろんですが、新しい抗がん剤の情報についてもより詳しく知りたいと思っています。ASCO-GUは、多領域にわたる医師達が一堂に会し、泌尿器科領域のがんの治療について必要な情報を網羅的に入手できる教育的な場です。参加することを毎年楽しみにしています。

スニチニブ治療を長く続けることが重要で、長く続けるには適切な減量も大切

 今回のASCO-GUにおける発表で興味深かったものの1つが、腎細胞がんに対するスニチニブ(製品名「スーテント」)の使い方に関するものでした。

 スニチニブは、分子標的薬という新しいジャンルの抗がん剤で、これまで有効な抗がん剤がほとんどなかった切除不能または転移性の腎細胞がんに対して有効性を示した薬剤の1つです。日本では2008年から使用可能となりました。(分子標的薬やスニチニブに関しての詳細は、「これから手術以外の治療を受ける方へ」を参照)

 スニチニブの投与方法は、添付文書では「通常、成人にはスニチニブとして1日1回50mgを4週間連日経口投与し、その後2週間休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する」となっています。基本的には、1日1回50mgを4週間服用し続けて2週間服用を休むというサイクルを繰り返します。

 今回、4週間連日投与、2週間休薬というスケジュールはそのままにして、一方はスニチニブの投与量を減量したことがある患者のグループ、もう一方はスニチニブを減量しなかった患者のグループに分けて、違いがあるかどうかを検証した研究が報告されました。別の目的で行われたスニチニブに関するフェーズ3臨床試験とフェーズ2臨床試験という2つの試験に参加した患者さんを振り返ってみたものです。

 その結果は、減量をしなかったグループに比べて、必要に応じて適切に減量したグループの方が、無増悪生存期間(PFS)が長いというものでした。無増悪生存期間とは、薬を服用し始めたときから薬が効かなくなってがんが大きくなり始めてしまうまでの期間のことです。これが長いということは、薬剤によってがんを小さくしたり成長を抑えている期間が長いということになります。

 フェーズ3試験だけを振り返って解析した結果、減量しなかったグループのPFSは8.1カ月(95%信頼区間:6.3-10.6カ月)だったのに対し、必要に応じて減量したグループのPFSは14.0カ月(95%信頼区間:13.1-16.2カ月)という結果でした。奏効率という方法で検証しても、減量しなかったグループの奏効率は22.1〜30.0%でしたが、必要に応じて減量したグループの奏効率は51.0〜63.9%と高い結果でした。

 スニチニブを投与できている期間についても比較していますが、減量しなかったグループは5.2カ月だったのに対し、適宜減量したグループは17.7カ月でした。なお、減量しなかったグループも、適宜減量したグループも、最終的にスニチニブの投与を中止することになった理由の半数以上はがんの進行でした。

 今回の結果は、減量しなかったグループは減量したグループに比べてわずかですがもともと予後が悪い可能性がある患者が多かったこと、長く飲み続けた患者さんはそれだけ減量を必要とする場面が多かったという要因がバイアスになって、2つのグループのPFSに差がついた可能性もあります。

 しかし、「絶対に50mgを飲み続ける必要がある」のではなく、1日1回50mgから始めても、必要とあれば減量することをためらう必要はないということ、うまく減量しながら長く服用し続けられれば、これまでに得られている成績と遜色のないPFSが得られる、ということが少なくとも言えるのではないかと思います。

 抗がん剤治療には有害事象がよく見られます。スニチニブの場合は、手足の皮膚症状(手足皮膚症候群)や白血球や好中球、血小板などの減少、口内炎、疲労などが知られていますが、こうした場合には減量して様子を見ます。減量するとがんを抑える効果が減るのではないかと思われるかもしれませんが、適切な減量は問題ないということが今回の検討で明らかになったと考えています。

新しい標的を対象とした新薬の開発も進む

 これとは別に、開発中の薬剤ではありますが、cabozantinibという薬剤の臨床試験の結果は非常に興味深いものでした。cabozantinibは、血管増殖因子受容体2(VEGFR2)と肝細胞増殖因子受容体(MET)を阻害するとされている薬剤です。最近腎細胞がん治療に登場した分子標的薬はVEGFRなどを阻害することが明らかになっていますが、このcabozantinibはMETも阻害するわけです。

 骨転移にはMETの高発現が関与していると考えられており、2011年のASCO学術集会では、骨転移がある患者が8割を占めた去勢抵抗性前立腺癌を対象としたフェーズ2臨床試験の結果が発表されました。その結果、奏効率は高く、PFSもプラセボ群に対して有意に延長することが明らかにされています。

 今回のASCO-GUでは、このcabozantinibの、転移のある腎細胞がんに対する有効性を評価する試験の結果が発表され、効果が期待できるというものでした。腎細胞がんでも骨転移例は多く、また骨転移例は予後が悪いのが現状ですので、治療の選択肢が増えるよう、新薬の開発にも期待しています。

 さらに、日本で開発され、現在では消化器がんや乳がんに使われているS-1(製品名「ティーエスワン」)を、サイトカイン療法や分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)が効かなくなった腎細胞がん患者に投与したフェーズ2臨床試験の結果が発表され、有望な結果でした。

 このように腎細胞がんに対する治療薬の開発は次々と進められています。これまでは、腎細胞がんに対して効果が期待できる薬剤はサイトカインしかありませんでした。近年、分子標的薬がいくつも登場し、治療成績が向上していますが、開発中の薬剤が使えるようになれば、さらに治療成績が向上していくだろうと注目しています。