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薬物療法

薬物療法

 一般に、他の臓器のがんでは、手術により切除できない場合や他の臓器に転移が見られた場合には、抗がん剤による化学療法が行われます。しかし、腎細胞がんの場合、これまでの抗がん剤ではがんに対する感受性が低く、一般的に化学療法が行われることはありませんでした。

 そうした中、薬物治療として唯一行われてきたのが、インターフェロンα(IFN-α)製剤(商品名オーアイエフ、スミフェロン)やインターロイキン2(IL-2)製剤(商品名イムネース)を用いたサイトカイン療法でした。サイトカイン療法は、肺転移などに有効な場合があるため現在でも行われていますが、その効果は10-20%と満足できるものではなく、より有効な治療薬の登場が期待されてきました。

 近年、チロシンキナーゼ阻害剤やmTOR (エムトール、mammallian Target Of Rapamycin)阻害薬などの分子標的治療薬が、腎細胞がんに対して効果があることが確認され、腎細胞がんに対する治療戦略が劇的に変化しています。

 転移が見られる腎細胞がんに対して、分子標的薬が登場する前までは、主にサイトカイン療法が行われてきました。

 インターフェロンは、リンパ球などの免疫細胞を活性化します。この作用によってリンパ球ががん細胞を破壊すると同時に、インターフェロン自体もがん細胞を直接的に破壊し、がんに対して効果を発揮するとされています。外来通院で、週2〜3回、筋肉または皮下注射で投与します。

 IL-2は、リンパ球の一種であるTリンパ球の活性化により抗がん作用を発揮しますが、インターフェロンのようにがんに対する直接的効果は認められていません。欧米では大用量のIL2を静脈注射、または皮下注射で投与する方法が実施されていますが、日本で承認されているのは低用量を静脈注射で投与する方法です。

 日本での転移のある腎細胞がんに対するサイトカイン療法の成績をまとめた研究では、サイトカイン療法を受けなかった患者の生存期間中央値が11.3カ月であったのに対し、サイトカイン療法を受けた患者の生存期間中央値は24.9カ月だったという結果が示されています。

 また、低用量のIL-2製剤とIFNα製剤を併用する治療も行われています。この併用療法については、肺にのみ転移がある患者で効果が期待できることが示されており、日本で行われた臨床試験において、転移が認められてから2年間生存した患者の割合は82.2%だったことが明らかになっています。

 原発巣である腎臓を摘出した後にサイトカイン療法を行った場合、肺の転移巣では効果が得られやすいことが示されています。ただし、転移が脳、骨、肝臓などに見られる場合は、サイトカイン療法の効果はあまり期待できません。最近、腎細胞がんに対するサイトカイン療法の効果が、日本人と欧米人で異なることも報告されており、転移の状態に応じたサイトカイン療法の選択も行われています。

 分子標的薬とは、がんの増殖に関係する因子を阻害するという考えの下に開発された薬剤で、現在、日本では、チロシンキナーゼ阻害剤であるスニチニブ(商品名スーテント)、ソラフェニブ(商品名ネクサバール)、アキシチニブ(商品名インライタ)、mTOR阻害薬であるテムシロリムス(商品名トーリセル)とエベロリムス(商品名アフィニトール)が認可されています。

 がんは増殖の際、多くの酸素や栄養分を必要とし、血液が多く供給されるように血管をたくさん作らせようとします。そのために放出されるのが血管内皮増殖因子などの増殖因子です。また、がんは活発に増殖するため、細胞内では増殖因子を受け取って増殖シグナルが伝達され、細胞増殖のための準備が進みます。

 こうした増殖因子のシグナルを伝えて行く際には、チロシンキナーゼというたんぱく質が働くことが知られており、スニチニブやソラフェニブはこのチロシンキナーゼを阻害することが明らかになっています。こうしたチロシンキナーゼ阻害薬ががんの進行を抑えることが臨床試験で示され、現在、診療に使われるようになりました。

 スニチニブは、血管新生に関与するVEGF(血管内皮増殖因子)受容体と、腫瘍増殖に関与するPDGF(血小板由来増殖因子)受容体など複数の受容体を阻害します。また、ソラフェニブは、VEGF受容体や細胞増殖にかかわるMAPキナーゼ経路のRafとよばれる因子などを阻害し、アキシチニブは、主にVEGF受容体を阻害することで細胞の増殖を抑えます。

 一方、エベロリムスやテムシロリムスのようなmTOR阻害薬のmTORとは、mammalian target of rapamycinと呼ばれるセリン・スレオニンキナーゼという因子で、細胞の生存や成長、増殖に関わることが知られています。このmTORを阻害すると、細胞の増殖や血管新生を抑制できることが研究で明らかになりました。現在、エベロリムス(商品名アフィニトール)、テムシロリムス(商品名トーリセル)が認可され、診療に使われています。

 腎細胞がんの治療に用いられる分子標的薬は、まず欧米において臨床試験が実施されました。

 前治療無しの転移性腎細胞がん、つまり転移の発見後、初めて治療しようとする腎細胞がん患者をスニチニブ投与群とIFNα投与群に無作為に振り分けて治療効果を比較検討したところ、スニチニブ投与群のがんが進行しない期間(無増悪生存期間)は11か月で、IFNαを投与した群の5か月と比較して2倍以上になることが示されました。

 また、全生存率もスニチニブ投与群の方がIFNα投与群より高くなりました。臨床試験に登録された患者が、スニチニブあるいはIFNαを投与された結果、対象者の半数が亡くなってしまうまでの期間(生存期間の中央値といいます)は、IFNαを投与された群では21.8カ月であったのに対し、スニチニブを投与された群では26.4カ月でした。この生存期間の中央値は、臨床試験において薬剤の有効性を比較検討する際によく用いられる指標です。

 日本人の転移のある腎細胞がん患者を対象にスニチニブの有効性を評価した臨床試験では、最初の治療としてスニチニブを投与された患者群の生存期間中央値は33.1カ月、サイトカイン療法を受けたことがあってスニチニブを投与された患者群の生存期間中央値は32.5カ月という結果が得られています。

 ソラフェニブは、サイトカイン既治療(サイトカイン療法を受けたことがある)でその効果が期待できなくなってしまった転移のある腎細胞がん患者に対して、プラセボ群(ソラフェニブの代わりに偽薬を投与した群)とソラフェニブを投与した群とを比較した臨床試験が行われており、投薬開始後、病状が進行するまでの期間がプラセボ群に比べてソラフェニブ群で有意に延長することが示されました。ソラフェニブによる無増悪生存期間の中央値は5.5カ月で,プラセボ群2.8カ月と比較して延長することが示されました。この臨床試験ではプラセボ群が対象となっているため、倫理的な観点から、途中からプラセボ群にもソラフェニブを投与しても良いということになり、プラセボ群の約半数がソラフェニブを投与されました。その結果、生存期間中央値はプラセボ群15.2カ月、ソラフェニブ群17.8カ月という結果となっています。

 こうした海外での臨床試験の結果を受け、日本でもスニチニブ、ソラフェニブの安全性を確認する試験が行われました。そして2008年にこれら2剤が承認され、日本で使用可能となりました。

 2012年に登場したアキシチニブは、分子標的薬であるスニチニブやサイトカイン療法を受けて進行してしまった患者さんを対象に、2番目の治療(セカンドライン治療)としてアキシチニブもしくはソラフェニブを投与するという大規模な臨床試験が行われ、有効性が検討されました。その結果、進行までの期間(無増悪生存期間)が、ソラフェニブが4.7カ月だったのに比べてアキシチニブは6.8カ月と有意に長いことが示されました。この結果を受け、現時点ではセカンドライン治療に用いる薬剤として推奨されています。

 エベロリムスは、臨床試験において、スニチニブやソラフェニブなどによる治療を受けていたものの進行してしまった腎細胞がん患者を対象に、プラセボ(偽薬)投与群とエベロリムス投与群に無作為に振り分けて比較した結果、無増悪生存期間は、プラセボ群が1.9カ月だったのに対して、エベロリムス投与群は4.9カ月で、有意に延長することが示されています。この臨床試験には日本人患者も参加しており、日本人患者だけに限って検討したところ、無増悪生存期間は、プラセボ群が3.6カ月だったのに対してエベロリムス投与群は5.8カ月でした。

 テムシロリムスは、予後の悪い高リスクの進行性腎細胞がんでスニチニブやソラフェニブなどの治療を受けていない患者を対象に、テムシロリムス投与群かIFNα投与群に無作為に振り分けて比較した臨床試験が行われました。その結果、IFNα投与群の生存期間中央値が7.3カ月だったのに対して、テムシロリムス投与群の生存期間中央値は10.9カ月と、有意な延長が認められました。

(2014年3月4日更新)