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 乳がん、と分かったとき、誰もが大きなショックを受けたはず。乳房や命を失うかもしれないということ、家族のこと、仕事のこと―。不安は尽きないものです。そして一通りの初期治療が終わってからは、「再発するかも」という思いで毎日を過ごし、心が折れそうになるかもしれません。そんな心の状態に陥ったときは、どうすればいいのでしょうか。

治る病気は感染症くらい!? がんも慢性疾患の 一 つ

保坂 隆さん
聖路加国際病院
精神腫瘍科医長
慶應義塾大学医学部卒業。カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科に留学、2003年東海大学医学部精神科学教授などを経て2010年から現職。『がんの心の悩み処方箋 精神科医からあなたに』(三省堂)など著書多数。

 不安の原因が「乳がんは再発したら治らないかも」ということにあるとしたら、「逆に治る病気には何があるかを考えてみましょう」と話すのは聖路加国際病院精神腫瘍科医長の保坂隆さん。

 例えば糖尿病も治らない病気です。状態が悪くなれば視力を失ったり、腎臓が弱って透析が必要になることもあります。高血圧になれば、塩分制限や薬物療法を続けていても、あるとき脳卒中に発展する可能性があります。

 「本当に治る病気というのは、もしかしたら風邪や軽い気管支炎や、手術が間に合った虫垂炎などの感染症くらいではないでしょうか。がんも糖尿病や高血圧と同じ慢性疾患。一生うまく付き合っていかなくてはならない病気なのです。ことさらがんの再発のことだけ特別なことのように考える必要はないのではないでしょうか」と保坂さん。

人間死亡率100%、いかに生きるかを考えて

 そうはいっても、再発という言葉の裏に見え隠れする「死」への恐怖をぬぐいきれないという人もいます。今や、日本人の2人に1人はがんになる時代です。がんが死因のトップであることは事実ですが、がんで死ぬのは約3割。つまりがんになった人の半分弱は他の病気や事故などが原因で亡くなるわけです。

 「人間は死亡率100%です。いつかどこかで死ぬのだから、“どういう生き方をしようか”と考えたほうがいい。もし再発しても、“そのうち死んでしまう”とは思わず、病気との“長い付き合いが始まった”くらいに受け止めましょう」(保坂さん)。

がん患者に多いのは適応障害やうつ病

「再発するかもしれない」という精神的ストレスから心の病気になるのは、決して特別なことではありません。多いのは適応障害とうつ病です。

 聖路加国際病院オンコロジーセンターでは、2010年4月、がん患者の心の治療を行うサイコオンコロジー外来(現在は精神腫瘍科)を開設しました。同12月までに外来を受診したがん患者100人(9割以上が乳がん)の内訳を見ると、受診者の7〜8割は初期治療が一段落した人たちで、不眠やうつ症状を主訴に受診しています。100人のうち、55人がうつ病の前段階である適応障害、29人がうつ病と診断されました。

受診者の半分以上は適応障害の段階

 治療は、薬物療法のほか、患者の考え方をよい方向へ修正していく「認知療法」、患者の話に耳を傾け、受け入れ、共感する「支持的精神療法」やリラクセーション法などが行われます。これらの治療によって、約3分の1の人が、2〜3カ月でよくなっていくそうです。

 なお、うつ病の中にはホルモン療法で用いる抗エストロゲン薬が原因で起こる薬剤性のうつ病があります。前述の、うつ病と診断された29人中8人がそうでした。抗エストロゲン薬によるホルモン療法は、再発予防のために大切な治療ですから、うつ病の症状が出るからといって治療を中止するわけにはいきません。ですからホルモン療法は継続したまま、うつ病に対する薬物療法で対処します。「どのような抗うつ薬を選択するかが重要です」(保坂さん)。

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