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 初発乳がん治療の場合、例えば「閉経後のホルモン陽性ならアロマターゼ阻害薬」「HER2陽性ならトラスツズマブ」「乳房温存術後は放射線療法」など、治療の選択肢はある程度絞られます。がんの特性や患者の社会的状況などを加味して医師が提示する選択肢の中から、「患者さん自身が治療法を選び、医師に“この治療法で”と発注をかければいい」と浜松オンコロジーセンター・センター長、渡辺亨さん。しかし再発後の治療は、はるかに複雑です。

効かなくなったら 「次はこれ」、薬剤を順次使っていく

 治療は薬物療法が基本です。再発したがんの特性を細かく調べたうえで、差し迫った生命の危機はないか、初発時にどのような治療を行ったか、副作用に耐えられる状態かなどを考慮のうえ薬剤が選択されます。

 再発後の治療は「この治療法が効かなくなってきたら、次はこれ」というように、順々に薬剤を切り替えて行います。ホルモン陽性の場合、差し迫った生命の危機がなければホルモン療法から行い、1次、2次、3次ホルモン療法を行ったあと、抗がん薬の1次、2次、3次と続きます。ホルモン陰性なら抗がん薬や分子標的薬を次々に使っていきます。

 数々の臨床試験の結果から、1次治療にはこの系統の薬、2次治療は……といった大枠のセオリーはあるものの、選択肢は多岐にわたります。また、単剤がいいか併用がいいかなども、患者の状態ごとに判断されます。単剤よりも併用が優れているかというと、必ずしもそうではありません。例えば抗がん薬を2剤使えばその分毒性も強くなり、患者の体に負担をかけてしまいます。それでいて、生存期間が長くならなかったという臨床試験結果も。特に抗がん薬による2次治療や3次治療では、単剤を順次投与することが有用と考えられています。

専門医は野球の監督、患者の予後も采配次第

 このような状況下で、患者自身が治療法を選ぶのはなかなか難しいといえるでしょう。岩田広治さんと渡辺さんは、「再発後の治療こそ、専門医の腕の見せどころ」と口をそろえます。くしくも二人とも、再発後の患者を診る専門医を野球の監督にたとえました。

 「バッター(がん細胞)の心理を読んで、手持ちのピッチャー(薬剤)を、どんな順番で使うのが最善かを考えていく」と岩田さん。先発、中継ぎ、抑えの投手……と、状況に応じた采配を振るうのが監督の仕事。主治医の采配に委ねられる部分は、初発の治療に比べて大きくなる、というわけです。

全生存期間が3カ月延長する新薬登場

 新薬も次々に登場します。その一つが2011年6月に日本で使えるようになった抗がん薬のエリブリン(商品名ハラベン)です。

 アントラサイクリン系やタキサン系の薬剤を含む治療をすでに受けた再発乳がん患者(つまり、2次治療以降)を対象に行った臨床試験によると、エリブリンを単独で使った場合の全生存期間(OS:死因を問わない生存期間)は13・2カ月、エリブリン以外の薬剤を主治医が選択して治療した場合は同10・5カ月という結果が報告されています。単剤で全生存期間が約3カ月も延びるというのは、これまでの薬剤では得られなかったよい成績です。

 岩田さんは「治療のどこかのタイミングで、一度は使ってみたい選手(薬剤)」と評価します。一方渡辺さんは「エリブリンは、高校野球で活躍してプロ入りした期待の新人という感じ。期待は大きいが、真の力量と欠点については分からないところもある。今のところベンチ入り投手リストの一番下」という評価。監督次第で、起用のタイミングも異なるようです。

 どのように治療が組み立てられるべきか。野球同様、対戦してみなくては分からない面も多々あるのが再発後の治療です。監督は、勝つために最良と思われる戦略を練ります。患者にしてみれば、「この監督の説明には納得がいく。この監督についていきたい」と納得できるかどうかが大切なのではないでしょうか。

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