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8割が検査を希望、根強い「早期発見神話」

吉野裕司さん
石川県立中央病院
乳腺・内分泌外科診療部長
金沢大学医学部卒業。石川県立中央病院一般消化器外科などを経て2009年から現職。乳がん検診受診を啓発する「かなざわピンクリボンプロジェクト」の実行委員長を務める。

 これらのデメリットが考えられるにも関らず、実際は、多くの施設で初期治療後の定期検査が行われています。それはなぜでしょうか。

 石川県立中央病院では2009年、乳がん術後の患者111人を対象にアンケート調査を行いました。「術後の定期検査によって再発を早く発見しても治療成績は向上しない」と文書で説明したうえで、定期検査を希望するかを聞いたところ、90人(81・1%)が検査を希望しました。その理由は、「再発が不安、検査を受けると安心する」が30人、「再発早期発見」が15人、「第2がん早期発見」が12人などでした。

 調査を実施した同院乳腺・内分泌外科診療部長の吉野裕司さんは、「“そうはいっても早く見つけたほうがいいに決まっている”という早期発見神話がある」と分析します。

定期検査は有効か?日本で比較試験がスタート

 再発の早期発見に意味があるかどうかについては、医師の間でも議論があるようです。乳がんの治療は日進月歩。イタリアで前述の比較試験が行われた1990年代は、「乳がんにはいくつかのタイプがあり、タイプに応じた治療を行わなくてはならない」ということすらよく分かっておらず、使える抗がん薬も数剤しかありませんでした。

 岩田さんは「そのころと今とでは、時代背景も、使える“武器”も違う。定期検査に意味がないとはいいきれないと思っている医師も多い」と話します。しかし、イタリアでの試験以降、「定期検査の有用性を検討した試験はありません」(岩田さん)。そこで日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は、国内数千人の患者を対象にした比較試験を2012年度から行う予定です。「5年後くらいには結果が見えてくるのではないか」と試験の代表も務める岩田さん。

 ただし現在のところ「術後の定期検査は生存率の向上に寄与しない」というのが世界の共通認識であることに変わりはありません。

再発の症状を知り、気になったら医師に相談

 初発と再発では、治療の目的が異なります。初発治療の目的は、がん細胞を徹底的にたたいて治癒を目指すことですが、再発治療の目的は、症状を緩和して質の高い生活が続けられるようにすること。ですから乳がん体験者は、乳がんの再発を疑えるだけの知識を身に付けておくことが大切です。

 「腰が痛いので整骨院でマッサージをしてもらっているけれど、なかなか治らない」と思っていたら乳がんの骨転移だった、「ものがぼやけて見えるようになってきたけど、もう年だし」と思っていたら脳転移だった、ということもあります。原因が乳がんの再発と分かれば、治療によって速やかに症状を和らげることが可能です。

 乳がんは、脳、骨、肝臓、肺に転移しやすいがんです。転移による主な症状は下図の通りですが、これ以外にも「いつもと違う症状があれば、何でも主治医に伝えてほしい」と岩田さんは話します。

(2013年2月8日更新)