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 がん細胞は、正常な細胞よりも放射線によるダメージを受けやすいので、放射線療法を行うことによって効率よく死滅させられます。

 治療には、X線、γ(ガンマ)線、電子線などを用います。通常のX線写真を撮る場合より格段に大きなエネルギーを発生させる装置で、がんに放射線を照射します。

 乳がんは、放射線療法が効きやすいがんです。治療では、乳房温存術や乳房切除術の後に併用するほか、病期(ステージ)がIIIb、IIIcの局所進行の乳がんや、温存した乳房にがんが出現した局所再発、乳房周辺のリンパ節での再発(領域再発)、骨や脳などに遠隔転移した場合にも放射線療法を用います。

乳房温存術後は原則必要、再発を約3分の1に

 放射線療法は、病期がI期、II期の早期乳がんや、0期の非浸潤がんでも、原則として必要な治療です。乳房温存術後に放射線療法を併用することで、乳房内の再発は約3分の1に減らせます。また、ヨーロッパで行われた研究では、生存率そのものが向上する可能性も示されています。

 局所再発や領域再発に加え、遠隔転移も含めた全再発について、1万人超のデータをまとめて解析した2011年の報告では、放射線療法を行わなかった場合の再発は35%、行った場合の再発は19.3%と、放射線療法によって再発を約半分に減らせることも明らかになりました(Lancet;378,1707-1716,2011)。

 現在、乳房温存術後の標準治療は、残した乳房全体に照射する「全乳房照射」ですが、腫瘍があった周囲に追加照射(ブースト照射)することも再発予防に有用とされています。特に、手術で切除した組織の端(断端(だんたん))を検査して、がん細胞が確認されたとき(断端陽性)は、10〜16Gy(グレイ)の追加照射を行うのが一般的です。

乳房切除術後も高リスクなら検討

 わきの下のリンパ節に転移が4個以上あったり、腫瘍の大きさが5cm以上あるような、再発のリスクが高いとされるケースでは、乳房切除術後に放射線療法と薬物療法を併用することが推奨されています。この場合は、胸壁や首の付け根のリンパ節に放射線を照射します。海外の研究では、乳房切除術後の放射線療法には、胸壁における再発率を下げ、生存率を高める効果があると証明されています。

 ただし、国内では乳房切除術後の併用に関する研究は少なく、今後、データの蓄積が必要と考えられています。

手術と放射線療法で、約2カ月の治療期間が必要

 放射線療法は、術後すぐに抗がん薬療法を行なわない場合、手術の傷がよくなったらできるだけ早く始めるほうが望ましく、通常は術後1カ月程度たってから開始します。日本乳癌学会の『乳癌診療ガイドライン』では、術後20週を超えずに始めることがすすめられています。治療期間は、乳房温存術後でも乳房切除術後でもほぼ同じで、通常5〜6週間です。月曜日から金曜日までの毎日(週5日)、最低25回は照射のために通院する必要があります。放射線を照射している時間は1日1分程度。1回に1.8〜2Gy、合計で45〜50Gy程度の放射線の照射を受けます。

 手術のための入院と放射線療法を受ける期間を合わせると、約2カ月は治療に拘束されます。そのため、仕事や家事への影響を考えて、放射線療法をためらう人もいます。

 しかし、再発予防効果は、薬物療法だけよりも放射線療法を併用したほうが高いことが証明されています。放射線療法を受けるかどうかは、医師だけでなく、家族や勤務先ともよく相談したうえで、前向きに検討しましょう。

強く照射して短期で終る、小分割照射の試み始まる

 先に述べた通り、1.8〜2Gyの放射線を25回照射するという治療が最も一般的なスケジュールですが、短期間ですませても効果が変わらないのなら、それに越したことはありません。そのことを検証したカナダMcMaster大学などの研究者らの報告が、医学雑誌のNew England Journal of Medicineに掲載されました(NEJM;362,513-520,2010)。

 この研究によって、1回に照射する線量を増やして照射回数を減らし、短期間で終わらせる「小分割照射」でも、10年間の再発率に差は見られないことが確認されました。

 日本でも、同様のスケジュールで行う放射線療法が広まりつつあります。ただし、皮膚への色素沈着や萎縮・硬化、乳房が硬くなるといった副作用も同様なのかどうかは明らかになっていません。これらの副作用は、1回の照射線量が増えるほど起こりやすくなるからです。現在日本では、小分割照射を行った場合の副作用について検証する取り組みが始まっています。

さまざまな部分照射方法、長期予後はこれから

 また、現在は標準治療として行われる「全乳房照射」を行わずに、腫瘍があった周囲にだけ放射線を照射する「部分照射」の有効性についての検証も進んでいます。その一つが、手術中に行う「術中放射線照射」です。

 全乳房照射に比べて再発のリスクは変わらないとする報告も出ています(Lancet;376,91-102,2010)。ただし、1回に照射する線量が多くなるため、5年、10年先にどのような副作用が起こり得るかを疑問視する声も多いのが現状です。日本では術中照射を行える装置も普及していません。

 部分照射の試みとしてよく行われているのが「小線源治療」です。手術中、線源となる針を患部に何本か入れておき、術直後から朝晩2回放射線を照射し、約1週間で終了します。

 腫瘍を摘出した乳房内に放射線源を含む装置の「マンモサイト」を埋め込む方法もあります。

 放射線による治療は、治療期間が短く、しかも局所への照射のみですむに越したことはありません。時代は部分照射に向かっているともいえますが、術後10年20年たったあとの安全性や有効性についての結論が出るのはこれからです。

大きく切除して、放射線を当てない選択肢

 さらには、「大きめに切除して放射線治療を省略する」という試みも一部で行われています。乳房温存術であっても、断端陰性になるまで追加切除を行う、あるいは腫瘍の大きさにかかわらず乳腺をすべて摘出して再建する─といった方針で手術が行われます。通常の乳房温存術と放射線療法の併用に比べ、再発率にほとんど差がないという報告もあります。

70歳以上では行わないことも

 70歳以上で放射線療法を併用した場合、再発抑制の効果は限定的なため、行うかどうかは、患者さんの意思を尊重することになっています。

 70歳以上でホルモン療法が有効なタイプなら放射線療法の省略も可、という考え方もあります。再発のリスク、寿命、治療で生じる副作用とのバランスなどを考慮して、自分に合った治療法を選択する必要があるといえるでしょう。

(2013年2月8日更新)