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 手術の前に行う「術前薬物療法」は、がんの腫瘍を小さくし、かつ、全身に散らばっている可能性のあるがん細胞を退治するために行われます。

 乳房の温存を希望する患者さんには、特に重要な選択肢となります。最初の診断において、腫瘍が大きすぎるために乳房の温存は難しいと言われた場合でも、術前薬物療法で腫瘍が小さくなれば、乳房を残せる可能性が出てくるからです。

 ただし、広範囲にがんが広がっている場合などは、腫瘍が小さくなったとしても、最初から乳房温存術が可能だった人と同等のメリットが得られるかどうかは明らかではありません。

 術前に用いる薬剤は、基本的には「術後薬物療法」に用いる薬剤と同じです。用いた薬が効きやすいかどうかの判断材料にもなり、術後薬物療法の薬剤選択を検討するうえでも参考になります。しかし一方では、術前薬物療法が効かなかった場合、経過した時間のせいで腫瘍が大きくなってしまうというリスクもあります。

抗がん薬療法は、術前でも術後と同等の効果

 抗がん薬が効くタイプのがんと診断された場合は、術前に抗がん薬療法を行うことで乳房温存率が上がるとともに、再発予防効果は、術後に抗がん薬療法を行う場合と同等であると考えられます。

 術前に抗がん薬療法を行うと、7〜9割で腫瘍の大きさが半減することが知られています。治療を始めてから1カ月程度で効果が表れることも少なくありません。また、4割程度の患者さんでは、触っても分からないくらいまで腫瘍が小さくなります。術後よりも術前に抗がん薬療法を受けたほうが、「体力があるので副作用に耐えられる」といったメリットもあります。

閉経後の乳がんなら、術前ホルモン療法も選択肢

 ホルモン療法薬がよく効くタイプで、抗がん薬は使わなくてもいいような閉経後の乳がんについては、術前ホルモン療法も選択肢の一つです。2011年のザンクトガレン乳がん国際会議では、「効果が続く限り術前ホルモン療法を単独で行うという」という方針に支持が集まりました。米NCCNのガイドラインも、乳房温存を目指すための治療選択肢の一つとしています。

 一方、閉経前の乳がんに対しては、データが十分とはいえないことから基本的にすすめられません。

術前分子標的療法は、HER2陽性に効果

 HER2陽性の人の術前薬物療法は、分子標的薬のトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)と抗がん薬の併用が選択肢に入ります。

 抗がん薬だけを用いた場合に比べ、トラスツズマブを併用すると奏効率(pCR率=病理学的完全奏効率)が上昇します。2011年11月には、トラスツズマブの術前投与に保険適用が認められました。

(2013年2月8日更新)