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圧迫療法は予防にならない?

 リンパ浮腫の予防のためにと、組織にたまったリンパ液の流れをよくするためのマッサージ法である「リンパドレナージ」や、弾性着衣(乳がんの場合は弾性スリーブ)を用いた圧迫療法を指導される場合があります。

 ところが2009年度の厚生労働省委託事業「リンパ浮腫研修委員会」の合意事項では「リンパドレナージと弾性ストッキング・スリーブなどの圧迫療法が予防に有用というエビデンスはない」としています。つまりこれらは、リンパ浮腫の「治療」のために行われるべきことであり、「予防」のために行うべきではない、ということです。

 すべての患者さんにこれらの指導が行われることが、「毎日ちゃんとやらなければ、むくんでしまうのではないか」という気持ちに患者さんを追い込み、かえってストレスになっているのではないかとも考えられるわけです。

 患者さんがまず行うべきことは、先に挙げた日常的なセルフケアと肥満予防です。また、鍼はりや灸きゅう、強い力でのマッサージは、かえって症状を悪化させることがあるので行わないようにしてください。

入院中に説明を受けて

 2008年4月から、リンパ節郭清を伴う手術で入院した場合、“医師あるいは医師の指示を受けた看護師や理学療法士”による、リンパ浮腫についての指導が保険適用になりました。リンパ浮腫の基礎知識や対策法について学べます。入院中に1回指導を受けておけば、退院した月かその翌月にもう一回保険適用で指導が受けられます。生活上の注意点やセルフケアの方法、リンパドレナージや弾性着衣について、詳しい説明を受けておきましょう。

 退院して医療者から離れてしまったあと、リンパ浮腫の症状の発見は患者自身の自覚によるところが大きくなります。また、リンパ浮腫に対する有効な薬物療法はありません。手術を受けた病院ではどのような治療が可能なのか、リンパ浮腫を専門とする医療機関への紹介は可能かなども、よく確認しておきましょう。

治療は複合的理学療法が有効

 リンパ浮腫の基本的な特徴は、皮膚の色の変化がない(左右差のない)、無痛性のむくみです。

 いよいよ治療が必要となれば、「複合的理学療法」が行われます。これは、(1)手で行うリンパドレナージ、(2)弾性着衣や弾性包帯を用いた圧迫療法、(3)圧迫している状態での運動、(4)蜂窩織炎の予防を目的としてのスキンケア、この四つを適宜組み合わせる治療法です。

 ただしこれだけでは不十分で、「ときどき患肢(手術したほうの腕)を上げる」といった日常生活上の注意の重要性を示すために「複合的理学療法を中心とする保存的治療」が標準治療とされます。

 リンパドレナージは、必要以上に圧をかけず、やさしくゆっくりと行います。リンパ液の流れは皮膚の近くから始まっているので、皮膚をやさしくストレッチすることによってリンパの流れが活発になります。あんまや指圧に親しんできた日本では、圧の強いマッサージが好まれる傾向にありますが、リンパ浮腫の治療を目的としたマッサージでは、強い圧をかけるのは禁物です。

リンパドレナージは保険外

 リンパドレナージには保険が適用されません。医療機関がサービスで行っている場合もありますが、それ以外は自由診療で施術する医療機関の受診が必要です。

 圧迫療法では、患部を圧迫して皮下組織にたまったリンパ液をリンパ管に押し戻します。圧迫療法に必要な弾性着衣の購入には保険が適用されます(療養費払い※)。弾性着衣には、サイズ、形、圧迫力など、さまざまなタイプのものがあります。弾性着衣の選択や運動療法については、医療者に相談を。

 リンパ浮腫を起こした部位は、乾燥肌になる傾向にあります。そのため皮膚のバリア機能が低下し、傷つきやすく皮膚炎などのトラブルを起こしやすくなっています。四季を通じて保湿クリームやローションでこまめなケアを。用いる保湿剤は、アルコールや香料といった刺激物を含まないタイプを選ぶのが望ましいでしょう。

治療法が異なる蜂窩織炎

 蚊に刺されたような赤い発疹(ほっしん)や広い範囲に発赤の症状が見られ、熱や痛みを伴うならば、蜂窩織炎を合併している可能性があります。蜂窩織炎によってリンパ浮腫はさらに悪化、するとまた炎症を起こしやすくなるという悪循環に陥るので注意が必要です。

 蜂窩織炎の場合は、リンパ浮腫の治療をいったんすべて中止し、別の処置を行う必要があります。

この記事の監修
廣田 彰男さん
ひろた・あきお/広田内科クリニック(東京都世田谷区)院長。1972年北海道大学医学部卒業。東京専売病院健康管理部長兼循環器部長などを経て2002年、リンパ浮腫の専門クリニックを開業。術後のリンパ浮腫対策など、詳しく解説するホームページはhttp://www.mukumi.com/

(2013年2月8日更新)