乳がん百科TOPページ

 乳がんの治療は、日進月歩で進化しています。納得のいく治療を受けるためにまず知っておきたいのが、現時点で最善とされる治療法「標準治療」。標準治療が受けられるかどうかは、医療機関選びもカギを握っています。

 標準治療とは「普通」や「平均的」な治療でもなければ「最先端」の治療でもありません。

 これまでに多くの乳がん患者さんを対象に行われてきた臨床試験(人で有効性と安全性を確かめる試験)の結果をもとに検討がなされ、現時点で最善である、と専門家の間で合意が得られた治療法を「標準治療」と呼びます。

 乳がんの性質や進行度、患者さんの年齢や身体状況によっても、標準治療は異なります。

ガイドラインは標準治療をまとめたもの

 標準治療は「ガイドライン」としてまとめられ、医師はこれを参考に治療方針を立てます。

 乳がんの治療においては、世界的には米NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインが大きな影響力を持ちます。

 日本には日本人向けの標準治療を提示した日本乳癌学会の『乳癌診療ガイドライン』があります。このガイドラインには、エビデンス(科学的根拠)に基づいた“おすすめ度”が「推奨グレード」としてランク付けされています(専門家の合意に基づいて治療内容をA〜Dの4段階、薬物療法はCをC1、C2に分けた5段階で評価したもの)。

A:十分な科学的根拠があり、積極的に実践するよう推奨する。
B:科学的根拠があり、実践するよう推奨する。
C1:十分な科学的根拠はないが、細心の注意の下行うことを考慮してもよい。
C2:科学的根拠は十分とはいえず、実践することは基本的にすすめられない。
D:患者に不利益が及ぶ可能性があるという科学的根拠があるので、実践しないよう推奨する。

 また、世界中の乳がん専門医が2年に1回、スイスに集まって話し合う「ザンクトガレン(St.Gallen)国際会議」における合意事項(コンセンサス)は、乳がんの診療に大きな影響を及ぼしています。

 ただし、国や地域によって、考え方、文化、経済状態も異なりますから、いずれかのガイドライン一辺倒というわけにはいきません。日本の乳がんの専門医は、常に複数のガイドラインやコンセンサスを意識して日常の診療にあたっています。

標準治療が受けられる医療機関選びのコツ

 標準治療は、基本的にどこの医療機関でも受けられることを目指したものです。

 しかし実際には、医療を提供する側に一定以上の基盤がないと標準治療を十分に行うことができません。ですから、治療を受ける側の患者さんにとって、医療機関選びは、非常に大切なのです。

 標準治療を受けるには、担当医が「乳腺専門医」(乳がんの専門医)であることが第一の条件。ただし、これだけでは十分とはいえません。チェックしてほしいポイントは、次の四つです。

・集学的治療が行われているか
・病理検査の体制は十分か
・形成外科との連携はあるか
・薬物療法の専門家はいるか

 乳がんの治療は、乳腺専門医だけでできるものではありません。各分野の専門医が協力して取り組む集学的治療(「集学的治療について」を参照)を行える病院かどうかが、とても重要です。

 診断においては、がん細胞の特性を詳しく調べる病理検査の体制が整っていることが求められます。しかし、病理診断を担当する「病理医」は、非常に人数が限られているのが日本の現状です。また、乳房再建を希望する場合には、形成外科との連携も必要になります。

 さらに、薬物療法の専門家である「腫瘍内科医」や、がん治療に不可欠な知識や医療経験を持つ「がん治療認定医」がいるか、あるいは連携が図れているかも大事なポイントです。

標準治療で思うような効果が得られなかったら?

 標準治療は、個々の患者さんごとの、現時点で最善と考えられる治療法です。しかし、思うように効果が出ないことも少なからずあります。そのような場合は、主治医とよく相談してください。

 標準治療とは、「こういう状況ならこの治療法が効く可能性が最も高い」という判断に基づくもの。必ず効くわけではないことも理解しておきましょう。治療方針を変える際には、他の専門家にセカンドオピニオンを求めるのも手です。

標準治療以外の選択肢を選ぶ場合の注意

 まだ標準治療にはなっていないけれども、臨床試験でよい成績が出れば、数年先、標準治療になる可能性のある治療法もあります。

 このような治療法については、臨床試験がきちんと行われているか、標準治療との違いは何か、これまでにどのような治療成績が出ているのか、どのような副作用が起こり得るか──を意識して、慎重に検討しましょう。

最適な治療法は個人の人生観でも変わる

 医師は、しばしば「%」という言葉を使います。そのデータは、よく似たタイプの患者さんを対象に行われた、大規模な臨床試験の結果に基づいています。ただし、この「%」をどう理解するかは、患者さんの価値観や人生観によっても異なります。

 例えば、再発のリスクが1%でも下がるなら、どんな治療でも受けたいという人もいるでしょう。

 あるいは、再発のリスクが10%減る程度なら、薬の副作用のほうが耐えられない、と考える人もいるはずです。

 最適な治療法は、自身の生き方とも大きくかかわっています。一人ひとりの希望に応じて、よりよい治療の選択が尊重されるべきなのです。

(2011年12月8日更新)